【蛇の通り道】-4-
【蛇の通り道】系は時間軸が前後しているのでご注意を。
10/2 色々追加。
あれから数年の時が流れました。
世界の情勢は悪くなる一方です。
私は今【アースガルム】領土のとある泉へ住処を移していました。
理由は今の自分の姿を見る者であれば誰もが納得してくれるでしょう。
今の私は、蛇の魔物なのです。
名前は『スネークリング』という種族として過ごしてきたのですが。
あの恐ろしい魔物に対抗する戦力として、このアースガルムへ招集されたのです。
あの少女とは離れ離れになってしまいました。
ですが、もう少女と呼べる年齢でもありませんね。
あの子はもう…れっきとした大人の女性です。
ですが…私としてはまだまだ少女と呼んでしまいます。
魔法都市である【ピュートンティア】が落ちて数年。
なんとか逃げ延びた私達は、おじさんの助けを借りて、
【ケロンカロン】諸島のとある場所へ身を隠しました。
無理矢理にでも旅行気分での旅路を楽しみ、仮初の家族旅行…
初めての船旅であの子も楽しんでくれましたが、それも長くは続かず。
魔物の襲撃にあってしまうのです。
たった一匹の巨大な魔物でした。
多分あの魔物こそが…私達を蛇と変えたあの魔物なのでしょう。
私達は再び逃げ延びました。
おじさんも一緒に逃げ延びた先は【フェニエル共和国】
各国が共同して作りあげた貿易の拠点です。
いかなる理由があってもこの国では国家間の争い事を禁じる。
守れなければ全ての国を敵に回す事になるという条約がある場所です。
いかに魔物の姿である自分でもこの国であれば…と思いやってきました。
深々とフードを被り、少女を傍に、おじさんが交渉役に。
おじさんは…本当何者なのでしょう。
彼がいなければ私達は途方にくれていたかもしれません。
お金の問題はピュートンティアでの魔術師ギルドより
当面の生活には困らない分を貰っていたので心配はなく。
ちょっと意地汚い面もあるおじさんですが管理はしっかりの筈。
特に目立って悪いような事は起きていないので信頼しています。
ですが…既に三つの大きな都市が消えているのです。
物価の高騰。不安定な情勢により
このフェニエル共和国もかなりの影響を受けていたようです。
流石のおじさんも頭を悩ませていました。
すまねえ…住居だけならなんとかなるけど。
それ以外はまだなんともならねえわ…らしいですね。
それでも住む場所を取り付けてくれるおじさんは心強かったです。
となれば…このフェニエル共和国にてなんとか働き口を見つけ、
その他の問題をなんとかする必要があります。
そこであの子が見つけてくれたのは。
彼女がおじいさんと呼んでいたその人でした。
感動のご対面…なのでしょう。
そのおじいさんは私達の事も良く理解してくれ
なんとも生活する上での様々な手助けまでしてくれました。
勿論、そのおじいさんにだけは彼女の言うママではない…
という事は伝えてあります。
見た目もそうですが
そのおじいさんはただモノではない雰囲気を持っており。
私が元はエルフであろう?
そんな事情まで見破ってきたのです。
私はおじいさんと話すうちに込みあげてきたものが爆発し。
ついには胸を借りて泣きじゃくってしまい。
その日はあの子ともおじさんとも顔を合わせる事はありませんでした。
とても大きく…優しい方だったのです。
幸せな日々が続いていましたが数年後。
やはり…あの巨大な魔物が【フェニエル共和国】を襲う時がやってきました。
私も何か力になれないものかと思い、そのおじいさんの下で魔法の修行に明け暮れていましたが。
あの巨大な魔物を目の当たりにすれば…身も竦み。
何も出来ずに逃避行を選ぶ事しかできませんでした。
次なる目的地は防衛国家で名高い【アースガルム】でした。
この時でしょう、私にとある決意が芽生えたのは。
アースガルムにて強者を募り
あの魔物に対抗する為に軍を作ろうという
所謂義勇兵を招集していたのを知ったからです。
少女とおじいさんが会えたことで、別れる決意も固まりました。
この時点でおじさんと、おじいさんで分かり辛いと思いましたが。
今ではもう…あのふくよかなおじさんと私だけなのです。
初めに会った時のあの情けないおじさんの姿はありません。
ちょっぴり男前にも見える顔つきは。…気のせいですね。
あの子とおじいさんには聖都【グレイシア】へ逃げ延びて貰う事になりました。
これまでの経験で確信してしまった事があったからです。
あの魔物は…自分の居る場所へ引き寄せられてやってくると。
きっかけは…おじいさんの言葉でした。
お前さんの頭には何か別の…
あの魔物と同じ力が感じられるモノが埋め込まれておるな。
それが何か分からんが。少なくても大きな魔力が感じられるのう。
私には覚えがありました。
あの時。あの場所で。私が魔物にされた【蛇の通り道】で。
私は確かにあの魔物に何かをされていたのです。
意識を集中すれば。
何者かと繋がっているこの感覚。
考えるまでもなく、あの魔物の呪術…
おじいさんからは分からなかったようですが。
…いえ。もしかすると気付いていたのかもしれません。
私の決意を察したかのように。
少女を諫めて…叱咤してくれました。
おじさんは…私の傍に残ってくれるようです。
なあに、どっちに逃げたって何が起こるか分からねぇんだ。
大変そうな側に付いていってやるぜ。
アンタ一人じゃ何もできないだろ?
おじさん…感謝します。
私に何が出来るか分かりませんが。
この国で、魔物としての自らを鍛えぬき。
少しでもあの魔物と対抗できる武器となれるよう自身を育てるのです!
おじさんの交渉の末。
魔物としての私の力が脅威に役立にたつかもしれない。
国側としても全面的に支援してくれる事になりました。
知り得る限りの情報。
自らの能力がどこまで通用するのかの摸擬戦。
最大の武器になるであろう、魔法の数々を覚え。
あの魔物がやってくるであろう数年間の間にどこまで出来るのか。
そうして今に至ります。
私の姿は大きく変わっています。
お陰様で、体がこんなにも大きくなってしまって。
住める場所が無くなり。
こうして城下町の外。
大きな泉へ私は体を収めているのです。
体長にして10メートルぐらいでしょうか?
普通の大人。3人分ぐらいの高さがあります。
起き上がる為には半分ぐらいは体を地面へ立地しなくてはなりませんし。
この姿になってしまった時には国のみなさんにも驚かれ。
大騒ぎになってしまったのは今でも覚えています。
明らかに…スネークリングとはかけ離れた姿なんですよね。
あんなに綺麗だった羽が今では蝙蝠のような羽です。大きいですけど。
大きいと言えば先に述べた通り体も大きく。
一種の美しさは備わってはいますが。
やはり魔物としての怖さが残っています。
他に特徴といえば、頭にはどうやら。宝石のようなモノがあるようで。
瞳もなんだかキラキラして綺麗なのですが。
どうにも視界が慣れません。見えすぎるというか。
敏感すぎるのです。
ちょっと目を抑えてみると…なんと外れました。
しかも外した状態でも見えます。不思議ですね。魔物の体。
この宝石のような眼は魔力の光を放っているようで。
水の中でもくっきりとした視野が確保できるみたいです。
うーん…見た目的にもすっごく綺麗で。
そのまま宝石としての価値も凄そうです。
この眼…なくしてしまったら大変ですのでちゃんと元に戻しておきましょう。
そんな理由もあってか、水の中に居るとなんとも落ち着きます。
体が重い所為で普段は頭をちょっとだけ出して大半の体は泉に沈めています。
休む時は水の中、体躯がすっぽり収まるのでなんとも安らげるのです。
んー、それにしても今日はちょっとお水が温かいです。
まるで温泉のように、ぬくぬくです。
癒されます…
癒されますけど…
温かい?
ちょっと気になって泉から顔を出し。
辺りの様子を伺ってみました。
誰かいました。
男性のようです。
綺麗な肌色。
正面に居たので思わずじっくり見てしまいました。
裸です。
男の人の。
裸でした。
もう一度言います。
男の人の。
裸でした。
ギ…キィヤアーーーーーーーー!!!
思わず悲鳴を上げて身を捩らせ。
逃げようともがいてその場を離れようとしましたが。
やっぱり体が重く。
もたもたもたもた。
びちびちびちびち。
うねうねうねうね。
男性も男性で、泉の傍にあった剣を取り、威嚇してきます。
裸で剣を持っています。
危険です!
誰か…助けてください!
裸で…裸で剣を持った方に襲われそうです!
自分より遥かに小さな人間ですけれど。
裸の男性が…剣を持って此方に向けてきています。
自分より…小さな?
そうです。ちっちゃいです!
思えば自分は。
蛇の魔物でした。
でも男性の裸なんて心を許した方でないと。
うーん、彼はとてもちっちゃいです。
もっと…なんというか私より大きな方が好みなのですけれど。
なんて思ってる場合ではありませんでした。
どうやら冒険者ご一考の様子。
なんでこんな状況になったのか分かりませんが。
4人です。
男女別れて様子を伺っていました。
念話しかできませんが対話しませんと。
(どちら様ですか?)
「あっ…いや。言葉が分かる?」
(分かりますし。アナタが裸なので…そのー。まずは服着て下さい)
「うっ…すまん。着させて貰う」
やっぱり落ち着いて話すものです。
ちっちゃい人間さんは、いそいそと服を着始めました。
(それで私に何か御用ですか?)
「まあ用事は無くて。なんというか。水浴びに」
(なんというかですか。でもここ、私のお家になっちゃったんです)
(ですから、水浴びなら町の方でお願いします)
「前に来たときは、ええとアナタはいなかったんだが…」
(住むようになったのは最近です 体が大きくなってしまったもので)
(もう町の中だと動きづらくて みんなに迷惑をかけてしまうのです)
「へえ…って。どういう事だ?魔物が?というか魔物なの?」
(話すと長くなるので)
(お城の方に話を聞いてください)
(あ~ でもそろそろ訓練のお時間なので兵士さんが集まってきますね)
(ちゃんとした服装してた方が良いですよ?)
その冒険者さん達は揃いも揃ってぽけーっとしていました。
大分町の人とは馴染んだつもりでしたが。
私を初めて見る冒険者さん達はなんとも奇妙な顔をしていました。
しかし彼等が理解をしていなくても、
お城の兵士さん達がなんとか説明してくれる事でしょう。
どうにも私には分かりやすく説明出来る気がしません。
何より、男の人が裸で一緒に浸かっていたいただなんて…
今思い出しても…思い出しても。
やっぱり、ちっちゃかったです。
そんなまごまごしてる私を見かねてか。
女性の方が話しかけてきました。
「ごめんなさい…アナタもしかして」
(えーと、こう見えても 私…女性です。元エルフです)
「はい? …信じられないけど。どういう事?」
(今世界を騒がせている魔物…いますよね?)
「うんうん。そいつの為に私達冒険者もこの国に逃げてきたリしてるんだけど」
(その魔物に、私こんな姿にされちゃったんです)
「へえ………本当? 本当なら。ん。んん?」
「つまり。じっくりと見られちゃったって事?」
(はい…ちっちゃかったです)
その後、思いっきり笑われてました。
そのちっちゃい男の人。
何はともあれ、その後にやってきた兵士さんの話も聞いて。
信じて貰えたようです。
男の人はなにやら相手がデカすぎただけだ!
等と弁解していますが、一体何がでしょうか?
ともあれ、今後もそういった私の事をしらない冒険者が現れるでしょう。
という事で近場に簡易な兵舎が建てられました。
お陰でもう男の人が裸で入ってくる事なんて…
………肌色です
………複数です
………見覚えのある兵士さんです
………全員男です
………裸でした
ギ…キィヤアーーーーーーーー!!!
もうこんな生活嫌です…
せめて…エルフらしい住居が欲しいです。
厳しい戦闘訓練をする生活よりも心が折れた瞬間でした。
「あっ…そういえば女の子だったんだっけ?」
「そうだった。エルフのお嬢さんらしいぞ?」
「あの鬼のような蛇がお嬢さん?」
「はっはっはっー弱点めっけたぞー!」
(あとで…言いつけときますからね!)
(みーんな…ちっちゃかったって!)
この平和な時も、どのぐらい続くのか。
話によると【マグナス】に登録されている村。
各地の部族達の消息も途絶えているとか。
この【アースガルム】へやってくるのも時間の問題でしょう。
今の私達で抑えきれるかは分かりませんが。
もう逃げるつもりはありません。
守り切れねば…人類に残される場所は聖都のみとなります。
守り切りましょう…でもついでに。
なんで裸で正座してるんですかアナタ達?
おじさん…謝らせるのは良いですけど。
彼らに服は着せてあげてくださいね?
戦う前に風邪ひいてしまいます。
馬鹿らしい事はほどほどにお願いします。
では…改めて決意しましょう。
私達は勝ちます!勝たねばなりません!
兵士さん達も剣を掲げ同意してくれました。
…裸で。
……裸で。
………裸で!
きぃゃあーーーーー!!!
平和です、今日も平和でした。
この平和な日々が続けばうれしいのですが。
その平和な時が崩される時が来るのは遠くない筈です。
今ぐらいは…多少馬鹿らしく笑いあっても良いじゃないですか。
だけどもう。こんな事で笑うのはこれっきりにして貰います。
折角の決意が…音を立てて崩れてしまいますから。
そういえば泉が温かかった理由って。
冒険者がマジックアイテムで温めたらしいのです。
そのアイテムがこの泉に寄与された事により。
つまり、温泉のように使えるようになった訳でして。
という事は。
このような状態になった理由は明白でした。
全ては、このマジックアイテムの所為!
………でも気持ち良い効果なので。憎めません。
堕落しない程度に使わせて頂きます。
兵士さん達にも、せめて下着ぐらいは履いて貰う事にしましょう。
これで万事めでたし。
注意書きもしっかりと。
温かい御飯も用意して。
冒険者さん達を迎え入れる準備を。
………ここは。
……ここは。
…【蛇の通り道】。。。冒険者用の宿泊施設
みはらしが…よくて。
あんぜんは…わたしたちが。
みなさまの…
まいにち…まいにち。たくさんの。
わたしは…
わたしは…
守らなければならないのです。
ふと気が付けば…逸れてしまった意識。
響く地鳴りを気にする者は私を含め、誰もいない。
地鳴り所か、巨大な魔物の影が城下町を覆っても誰一人として反応をしていない。
原因は、私達より強い呪術を扱う魔物が傍にいたから。
なぜ、魔物がこんなにも強力な呪術を使えたのかは分からない。
私は自身より大きな蛇の口に咥えられてしまう。
そして私の頭部以上の大きさの牙で、頭蓋をくり抜かれるその瞬間まで、
私を含め、兵士達も何の警戒心も抱かなかった。
初めに悲鳴を上げたのは誰だったのか。
戦いの狼煙は、建物が崩れる音と、色彩輝く爆発にて挙がる事となる。
だけどそれは戦いと呼ぶには相応しくない、一方的な…
破壊。虐殺。蹂躙。何れの言葉を当てはめても何かが違う。
私達は、巨大な蛇の気の向くままに遊ばれていた。
私達が何かの行動を起こす度に、魔物は良く観察し、控えめな反撃をする。
繰り返される魔物の戯れに、遊ばれるだけで皆が死んでいく。
アレは私達に全力を出させたうえで順々に攻撃しているだけなのだ。
冒険者が一人また一人と触手で払われ、国の兵士達も吐息一つで纏めて吹き飛ばされる。
私自身も起き上がれば、宝石の様に綺麗な魔法弾を飛ばされる。
何も出来ない。何かをしても効果がない。何が出来るかも分からない。
なのに。なんで。みんなは。わたしを。まもるのか?
物言わぬ屍となった、その一つには、今まで助けてくれたおじさんも混ざっている。
私は結局何も、守れなかった。
だからこれ以上、考える事もなく、最期まで戦ったのでした。
* * *




