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- 蛇のお勉強 2 -

割り込み投稿したお話

矛盾点が湧いて出てきたら、その都度修正します

 こうして激しくもなく、長々と安定した訓練の末、蛇の学んだ呪術は実に便利な夢広がる魔法であった。

 それは《催眠》と分類される、対象の意識を操作してしまう類の呪術であり、視覚的な効果は特に無い。

 眠らせる、呆けさせる、何でもレベルで言う事を聞かせる等々。

 危険な香りが漂うこのスキルだが、使い方を間違ってはいかんぞと、ありきたりに蛇は諭された。

 しっかりと覚えましたし、間違わずに有効活用させて頂きます。

 胸を張って答える蛇だが、そもそもに間違った使い方は思いついていない。

 蛇が感じる限りに、おっちゃんの言う間違った使い方は、人の道を外れるなとか道徳心がどうとか、一切感じていない。

 慢心せずに不必要に使いすぎるなとか、効率を考え最適な使い方をするのだとか、そっちの意味に感じていたりします。

 だって自分蛇だし、そもそもにおっちゃんの教え方が徹底的にヤッチマエなスタイルですし。


 そして今回に限らずだが、おっちゃんの魔法技術の高さには驚かされる。


 蛇が放つ不完全な魔法をしっかりと分析し、的確なアドバイスをしてくれるのは勿論の事。

 魔法を放つのだから危ない事もある訳で、事故が起こった場合のアフターケアもばっちり。

 自然災害レベルで巻き起こる、魔法の暴走を止めた回数は何十とあり、

 同じ事をしないように蛇の知識や技術を高めてくれる事に時間は惜しまない。

 さらには暴走を起こしてしまった場合の、蛇自身に出来る対処までしっかりと教えてくれるおっちゃんは、まさに師匠の鏡。

 たまに血を吐く事があるのが難だが、少し休めば元通りな体力を持ち、

 精神に影響を及ぼす呪術を、その身に受けながらもアドバイスをしてくれるとは恐れ入った。


 数にしては何千とおっちゃんを対象に呪術を放った気がするが、問題が起きた様子は一切無かったし、

 今になって思えば、事故っぽい事故は特に起こらず、本当に呪術が効いているのか怪しい所だったが、

 おっちゃん自身の蛇の魔法の評価は、ちゃんと出来ているから安心せいとの事だ。

 こうして蛇は、呪術の免許皆伝を頂いた訳で、覚えた全てを披露してみた所。

 想像以上の出来だったのか、おっちゃんを年甲斐もなく、はしゃがせてしまう結果になったのが唯一の事故か。


 思い出を掘り返す蛇は、事故と呼べる出来事を脳内より発掘してみた。

 分かり易く危ない、火を放てる魔法を使った時、森の木々を見渡す限りに一面を灰塵と化してしまった事があった。

 これはおっちゃんが杖の一振りで、炎は無かった事にされ、被害は最小限に抑えられた。

 岩石すらも巻き込み吹き飛ばす、蛇が魔法を構築している際のくしゃみにより巻き起こした竜巻は、

 おっちゃんが珍しく気合を入れて放った声からの、杖を向けられただけで掻き消える。

 ついでに軽くトンを超えた重さの岩石が、宙を舞ってしまったりもしたが何も問題は無い。

 落下時の衝撃は、おっちゃんの念力により無かったものとされ、その後に綺麗にカットされて石材と化しますし。

 あとは、ちょいと張り切ってしまった蛇が、精霊さんにお願いした所での事故だったか?

 川が作れる程の水の量を、あっさりと生み出してしまい、危うく全てが流されてしまいそうになった時もあったっけ。

 そのお陰で水源が家の傍で、ダムの様に出来上がり、いつでも温泉に入れるようになりました。

 そんな災害を平気で巻き起こす、蛇の魔力をふんだんに使った魔法による攻撃も、おっちゃんの指先一つで掻き消える。

 魔法での直接攻撃はまだまだ効かぬと判断した蛇の、物理を交えた攻撃すらも、

 蛇の頭に振り下ろす杖が主の、物理的な対処で跳ねのけるおっちゃんは異常の一言である。


 でもまあ、異常と表現してしまったが、片手で身の丈以上の蛇を投げ飛ばす少女とか。

 冒険者を相手に無双をしていた蛇の頭を100回ぐらい切り飛ばした剣士とか。

 そんなレベルではなくても筋肉を光らせて、鋼鉄以上の肉体となるマッチョ軍団も知っている。

 色々見てきているので、おっちゃんみたいな魔法が凄い人間がいても、別に不思議でもなんでもないなと蛇は納得してしまう。


 しかし何故、蛇はこんなにも大事にされているのだろう?

 単なる暇潰しとか、好奇心を満たす為だとか、大した理由は無さそうな気もするが、何か企みがあったりする?

 疑うつもりはないが、教えられている内容が、呪術というちょっと危ない類の魔法で、そして自分は蛇である。

 おっちゃんは言っていた。外の世界は危ないと。

 単純な所で、この種族の蛇を狙う輩がいるらしく、この姿では危ないとかなんとか。

 人間と関わるには良い姿だと思ってはいたのだが、どうにも人間が集まる町中に繰り出す等となると、ソレは難しいようだ。


 とりあえず、町やら国やらはちゃんとあるのだと知れたのだから、その内なんとかしよう。

 今は無理でも、様子を見る事ぐらいは可能の筈だ。何なら潜入して催眠しても良い。

 何とかする方法が簡単に思いつくのだから、もっと良い方法もあるだろう。

 人間界に繰り出したいかもという、膨らむ思いに身を震わせる蛇は、

 前準備はしっかりと、覚えられるものは全て覚えておこう精神で、本を読みつつ勉強を続ける。


 そうして、ソレ以外にする事もない蛇が、読める本の全てを頭に叩き込んだ頃。

 おっちゃんは街中に繰り出す事が多くなり、家を空ける日も増えてきた。

 理由はちょっと本持ってくる。珍しい物も見つけたら買ってくるとか、おっちゃん一人で長距離のお買い物。

 一緒に行くのはダメとの事で、蛇は蛇で好き放題に森の中を散策する事も増えてきた。

 飼い蛇でも家を空けて一匹にさせたら、蛇は何処にでも這い出して動き回ってしまうものなのだよ。

 野生を思い出した蛇の行動範囲は程良く広がるが、その行動はきまぐれでマイペース。

 自分の知る飼い蛇は、人慣れはしている蛇で、ソレしか知らないが、思い出してみよう。


 その飼い蛇に、餌を上げようとして指を噛まれたりした思い出。

 ハンドリングをしていたら、何故か離してくれなくなって、腕をぐるぐる巻きにされた事もあった。

 ケージから出して観察してみたら、もこもこしているカーペットが気に入ったのか、離れなくなった覚えもある。

 移動を開始すれば、壁に向かって頭を押し付けては、そのまま登ろうとして、諦めたのか元来た道を戻って、

 名残惜し気に高みを見ては、再チャレンジを繰り返して、ついには不貞腐れる。

 物陰は幾つも用意していたが、隠れる様子はなく端っこを通りたがっていたなぁ。

 水浴びついでにシャワーを向ければ、自分から水を浴びに来てたりもしたっけ。

 餌を全く食べずに半年を過ごしたアイツは何を思っていたのか。

 繊細で、臆病で、食べる物は偏ってしまう蛇を飼うのは結構難しい。


 蛇は自然界において、自らを脅かすモノから逃げる為、地中に潜っていた時期もあるという。

 その所為で、目は退化し、熱源を感知する器官を得たとか何とか。

 そんな蛇の視界に広がるは、眼下を見渡せば森。頭上を見れば空。

 広大過ぎる世界が見える限りに続いているが、ソレを感じられるという事は、自分の視力はそこそこ高い。

 問題なく見える目が退化しているとは思えず、集中すれば、空飛ぶ虫の一匹だって捉える事は可能だ。

 それにサーモグラフィー的に、視界をサポートするなり、切り替えたりして熱を感じられますし。

 蛇に見える世界は魔物である所為か、結構な高スペックだったりするようだ。


 そして自分は魔物ではあるが、蛇な姿をしているだけあって、臆病であり、慎重に行動する派だ。

 蛇は常に警戒していた。蛇を狙う者とやらの遭遇を。

 だけど結局何もなく、素材集めに精を出す蛇は一応考えていた。

 風呂敷を首に巻き付け、背負ったその姿はなんとも表現に難しい。

 例えるならば、世を捨てた魔法使い風か、それとも何か重要な任務を帯びた暗殺者か、もしくは単なる泥棒か、

 考えた所でそもそもに、そんな蛇の姿を見つけた者はいるのだろうか?


 人間の姿は無し。魔物はそこそこに。

 魔物といえば、空にはそこそこにデカく、いかつい蜂が飛んではいるが、干渉は無し。

 ギリギリに感じられる感情は、何だアレ? でっかいモノが動いてる?

 その程度だったので自分が蛇という事はバレてなく、荷物しか見えていないのだろう。

 なるべく戦闘は避けるべし。向こうから寄って来る事が無いのは良い事だ。

 森の中には蜂の巣地帯もある事ですし、迂闊に突っついて大量で襲って来られても困りますし。

 多分ですがあのサイズだと万単位で、巨大な蜂が住みついていそうですし。


 いずれ巨大な蜂の巣のような、そういう類の特殊な地域には、

 準備万端な状態で探索はするだろうけれど、蛇の目的は別にある。

 今の環境で覚えられる魔法は全部覚えて、錬金術とやらも使えるようにする。

 その為にも、森の中で材料を集める。気分転換に秘境探し。

 そんな繰り返しが続いたのは、その外に何のイベントも発生しなかったからだ。


 実は結構、期待していたのになあ。

 蛇を狙っているという、勢力との遭遇をね。

 まあ…、これも一種の物欲センサーとでも言うべきだったのか。

 それもこれも、イベントに対する準備や対策が過剰だった所為かもしれない。


 少しぐらいは隙を見せてみても良かったかもしれないな。

 そう反省をするだけしてみた蛇は、自家製の温泉に浸かりながら考える。

 蛇の全身が浸かるに丁度良い大きさに岩を重ね並べて作ったこの湯船。


 対話可能な精霊さんから許しを貰い、泉の水を分けて貰ったこの温泉は、温めずとも癒しの効果がある。

 無論、温めた方が気持ち良く、疲労回復、健康増進、切り傷や皮膚の異常なんかも治るとかなんとか。

 温め方も楽なもので、蛇の覚えた元素魔法で一晩中でも温め続ける事が可能だ。

 何れ来る、温泉回の為に磨いたこのスキルだが、使う機会は来るのだろうか?

 さらに考える蛇は、楽し気に喚き散らす精霊達の声に意識を引き戻される。


 すっごーい! あったかーい! おんせーん!

 つっこめー! ウヒャヒャー! かいふくだー!


 泉の傍に居る限りに、湧いて出て来る精霊たちは一体何なのか。

 ほんの少しだけ疑問に思ったが、ノリが良かったので、そのうちどうでも良くなった。

 蛇が見ている今のこの世界は、平和である。

 それだけを感じられれば、今は幸せなのだから。



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