- 蛇のお勉強 -
割り込み投稿で追加のお話。
矛盾等の不都合が発生すればその都度修正します。
「おまえさん、暇さえあれば本を見てるのう?」
高見より見下ろす、種族的に普通の人間であろう?
魔法使い風のおっちゃんは何となく、背がヨルンの知る人間の中ではとても高い気がする。
並べて比べる相手がいないので何ともだが、体はがっちりしていて、
お年寄りにしては足腰も背筋も、細かな所が色々と安定してるので見た目以上にデカく感じる。
もしかすると、人間ではない何か、別の種族の可能性もあるか?
そう思ってしまうのも今の自分は蛇だし、人間という枠組みが、
耳が変な形だとか、獣耳だとか尻尾が付いているだとかを見てしまっているので、
人間像が崩壊してしまっている蛇の頭では、これ以上は何とも言えないのでした。
そんな多分人間なおっちゃんは、蛇の様子を良く気にかけてくれる存在となっている。
言葉はほぼ一方通行でも、対する蛇が身振り頭振り尻尾振り。
体を振ってのコミュニケーションで、そこそこに通じてます。
そんなコミュニケーションの一つは、やっぱり本を見る事。
自分なりに大事に本を使っている様子は評価されているらしく、
机の上に本を並べてみれば、簡単な説明をしてくれたり、読み聞かせてくれたり等と至れり尽くせり。
本の虫となっても面倒くさがられず、好き放題な生活を送っている。
しかし本ばかり見ていても何だろう?
室内散歩ぐらいしか他にする事がなく、外に出て森を散策しようとすると何だか怒られる。
仕方がないので、覚えた魔法スキルをレベルアップするべく、
覚えた知識と練度を高める意味合いで、その魔法を使い続ける蛇のレベルは上昇を続けている。
「なんじゃい、本が終われば今度は飯かい?」
魔法でかまどに火を焚き、魔法で作ったお鍋の中に、
魔法で作り出したお水を注ぎ、魔法で風を起こして火加減を調整する事の、
つまりは魔法の修行である。お料理である。お料理は魔法なのだと聞いた事もある。
何かが間違っている気がするが、蛇は蛇の感覚で魔法の世界なファンタジーを満喫しております。
そしてお料理をしているのだから、肝心の食材はと言えば…。
各種山菜にキノコも混ぜて、お肉は鶏肉。調味料は塩。その他は胡椒とか唐辛子とか、その程度。
全てを切り分け適量に鍋で煮るだけだが、先に述べた通りに、これ等は魔法で調理する必要がある。
細かな調整が必要な、これ等の作業は魔法技術の向上に役に立つ筈だと信じて早数年。
触手が狂えば火は別の物を燃やし、調整をミスれば弱火強火所の火力ではない。
それはもう、焼却レベルとなる恐れもあるので、蛇はしっかりと平静を保って調理をしている。
一歩間違えれば事故を起こしてしまう、そんな緊張感は全然持っていない。
なにせ蛇にとっては数千とこなし、失敗だって幾度も経験している行為なのだから。
とりあえずの所で調理モードとなった蛇は、背後から声をかけられようが、
虫に飛びつかれようが動じることなく、調理は自分なりに満足の行く結果となる。
こうして出来上がった料理のお味は多少薄い気がするが、問題の無いレベルである。
まあ鍋なのだからハズレを作る方が難しいかと、蛇は一匹納得しつつ器にお鍋の具材を取り分ける。
勿論取り分けた物はおっちゃんの分なのだが、おっちゃんもおっちゃんで良く食べる事。
評価は上々であり、もうちょっとお肉が欲しいのぅ、等と今回は呟かれましたね。
ちなみに今回は鍋を作ったが、蛇の出来る調理方法は、煮たり焼いたりするだけである。
そして蛇はそれだけ出来れば十分だと、ソレ以上の事を考える事はしていない。
そこそこ美味しく食べられれば良いだけだ。不味く無ければ良し。
不味くても、そんなモノには慣れているし、舌が肥えてしまうのも何だろうか?
先を見据えてみるも、整った環境で、高級な食材や、調味料をふんだんに使った料理。
出来ない事は無いだろうが、現時点での興味は沸き上がらず、楽しむにしても当分先の話にはなるだろう。
今は魔法と言うモノを、自由自在に操れるようになった喜びと、
触手を組み合わせての、簡単な料理を楽しめる幸せを噛みしめるのみだ。
という訳で、程よく冷めたお鍋の中に、頭ごと突っ込んで全てを頬張り尽くす蛇は考える。
元素魔法とやらの枠組みの魔法だが、このように調理に使える程に使いこなす事が出来ている。
勿論、本来の用途でいば間違った使い方なのだが、物騒な使い方としても相当なレベルに達した蛇は、
元素魔法の基本はマスターしていると言っても過言ではない。
そして元素魔法とは別の枠組である呪術とやらも、そこそこに理解を深めている。
というのも、この魔法使いのおっちゃんの住処は本棚を見れば魔法の本。
作業机を覗けば、魔法の実験結果だと思われる書類の山。
寝床でもやっぱりあるのは、日記風に付けられた蛇の観察や評価の数冊にも及ぶ本と、予備の本の山。
魔法に関する情報の多さが凄まじいの一言で、調べるに困らず、聞くに困らず。
今までの野生生活との知識を比べてみるに、レベルが0.1から100になってしまった訳だ。
基礎と感覚さえ分かってしまえば、後は色々と試して覚えてマイペースに進むのみ。
「さてと、腹も膨れた事だし、今日は何をするかのう?」
今日は何をするかと蛇が考えていれば、おっちゃんの方も同じように考え始める2名にとってはいつもの流れ。
誰が見ている訳でもなく、このままぼーっと本を眺め続ける一日を終えても良し。
錬金術と呼ばれる、お金になる薬や物作りを勉強する事もあれば、
時には激しく忙しく、魔法対戦が始まる事もしばしばあり得る流れなので、
いつもの流れと言っても、ソレは平和に過ごせているという意味でのいつもの流れ。
そして今日の平和なイベントは何だろね思っていたら、
蛇の予想の範疇外なイベントが発生したようだ。
おっちゃんに来るよう言われ、蛇が連れられ向かった先は、古ぼけた家の裏手の物置小屋。
使い道も無さそうなガラクタが兎に角多い、この物置小屋は、
何となく宝の山にも見えて、偶に漁ってみているが、ゴミ以外の物が手に入る率は稀である。
おっちゃん曰く単なる素材じゃよ、との事だが今回は、その物置に向かうのではなく、
その手前でおっちゃんの足が止まり、突然気合の声を一喝。
地面を殴りつけるおっちゃんが発生したではないか。
風圧で吹き飛ぶ砂塵の下から、ひょっこりと現れる金属製の取っ手。
これは、下に何かがあるという事か?
魔法的な力を一切感じない、単純に土砂の下に埋もれているという隠され方をしていた取っ手は一体何なのか。
おっちゃんは、おもむろに取っ手を掴み、さらに気合を一声。
ふぐぅ! その一声と共に、赤黒い液体を垂らすおっちゃんの姿が印象的だった。
コレは偶に良くあるアレだな!
気合を入れ過ぎたおっちゃんは、その度合いに応じて吐血をする時があるのだ。
やっぱり見た目通りに年なんだろうなぁ、そう思いながら蛇は、その吐血をしてしまったおっちゃんの傍に寄り、
地面に倒れぬように、蛇の体を杖代わりに支えとなってあげるのだった。
この吐血については初めて見た時には驚いたが、2度3度と驚き、
10回以上見てしまった今となっては慣れたもの。
蛇の覚えた呪術による簡単な蘇生措置をしつつに感覚を共感する事によって、
どの程度の痛みを持っているかの調査も行ってみたところ、
少し休めば余裕で回復程度のダメージであるとの蛇流診断結果が出ました。
単に気合を入れ過ぎてダメージを受けただけだったようです。
おっちゃん自身も、若い頃のようにはいかんもんだと、その辺は自覚しているようだし何も言うまい。
という訳で、おっちゃんの回復を待った所でテイク2。
今度は蛇が尻尾を使って、取っ手を持ち上げる事にしました。
力を込めて持ち上げてみれば、確かにこりゃ重い。
持ち上げ終えてみれば、何となくマンホールとも似た鉄製の蓋でしたもの。
しかも厚いしデカイし、軽く100kgとか超えてるんじゃないんですかね。
そりゃあ、力みすぎておっちゃんも血を吐く訳だ。
ズシンッと穴の隣にその鉄蓋を置いて、穴の中を覗いてみる事の、また蓋があった。
不意に、そりゃっと掛け声を出したおっちゃんが、その蓋の窪みに杖を差し込む。
魔法的な光が淡く光ったかと思うと、次の瞬間にその蓋は、光と共に消えてしまう。
何ともまあ分かり易い、魔法的な鍵を一振りしたおっちゃんは得意げな顔で鼻を鳴らす。
物理と魔法のダブルなセキュリティが施されていたこの穴の底。
一体何があるのか気になりますが、どうせ直にでも行けるのだから?
そう思った所で問題発生だ。どうやって降りるんだコレ?
真の勇者とか、洋ゲーな主人公が落ちたら死亡してしまう系の穴にしか見えないこの大穴。
おっちゃんも中を覗きながら、蛇と大穴を交互に見比べている。
「のう蛇よ。ちょっと降りて階段を動かしてきてくれんか?
こんな形の穴に入ってる魔石が外れたか、壊れたか、分からんが、
どうにかすれば動く筈だよ。良くある事なので大丈夫かと思うが、一応予備も持ってくと良い」
どうやら問題が発生したようで、階段でもせり上がってくる仕掛けが動かなくなっていたらしい。
事情を理解した蛇は、魔石を預けられ、壁を這いながら地下を目指す。
深さにして建物2階層分ぐらいかな?
何となくな感覚で降りていけば、間もなく教えられた形をした穴を発見した蛇は、
預けられた魔石ではなく、地面に転がっていた魔石も発見した。
先ずはこの、転がっている魔石を嵌め込んでみる。
サイズが合っていない穴に小さい魔石を転がしてみただけだが、成程。
地震か何か、ちょっとした揺れでもあれば転がり落ちそうな、中途半端な作りだわコレ。
穴の下で上に昇る術が無くなったら、そのまま一生を終えるとかもありそうだもの。
そう思うと、あれこれ補強でもしたい気分にはなるが、魔法な道具の事等、何も知らないに等しい蛇は何もしないのが吉。
魔石が置かれた事により、起動を始めた階段は、重厚な音を立てて一段一段とせり上がっていく。
やがて、全ての階段が出現し終えたのだろう。
蛇が頃合いを見て、ゆっくりと階段を上って行けば、おっちゃんも降りられるようになったら動き出したらしく、
情報として、地面を伝わる振動で位置を把握したので踏まれぬように脇に寄りつつ合流です。
ついでに新品の魔石を返しつつ、方向転換をする事の、一緒に地下まで降りていき、
辿り着いたこの場所は、位置的には物置小屋の真下なのだろう?
天井をぶち抜けば、ガラクタの山が降ってきそうだが、建物の構造的に不可解な点も多く、
魔法的な力も働いている事は確認したが、先の階段もあるし無駄は多そうだ。
とりあえずの所で無駄が多い分、頑丈そうではあるから、崩落の危険は無いにしても、
物置小屋の中の数十トンにも及びそうなガラクタの山の真下に、この部屋があると言う事が頭にあった訳で、
おっちゃんが声をかけてくるまで部屋の中の様子を見る事を忘れていましたよ。
どうやらぼーっと考えていた蛇の姿を、驚いていたものと勘違っていたようです?
鼻を鳴らして胸を張るおっちゃんは、ドヤ顔している気がした。
でもまあ、そんな顔になるのも当然か。
部屋の中を見渡す限りに本一色の、どこかの大図書館の一室のような…というのは言い過ぎか。
とはいえ、家中の壁が本棚というのは普通に凄い。
全てを見るとなればどれだけの時間が必要なのか?
内容にもよるが、魔法関連である事は間違いなし。
首を動かし、大袈裟に周りを見渡した蛇は、部屋の中央にあった怪しげな本を触手に取った。
それを横目に、おっちゃんも棚から本を抜き取り机の上に置いていく。
…ドンッ
……ドカドンッ
………ドンッバサッ
怪しげな本が開けない。
ファンタジーで良くある、何か条件付きの本なのだろうか。
むしろ開いたら精神にダメージを与えて来る系の。
もしかすると魔力を感じますし、生きているとか魔物とか。
悩んでいる内に積み重なっていく本の山。
必死になっていた蛇が落ち着いた頃合いを見てだろう。
おっちゃんが杖で蛇の頭をやんわりポコんと叩き、続けて口を開いた。
「今日から蛇よ、お前さんに呪術の奥義を授ける事にする。
先ずは、基礎の復習として、持っているその本を開けるようにする魔法を教えるとするかな」
先ずは基礎の《感染》からとおっちゃんは言う。
他者との感覚の一部を共有できる、呪術の基礎をこの場でという事は?
本に使えば良いという事かと、さっそく使う。とりあえずは共感だな。
魔法が上手く発動したようで、続けてやってくるは蛇の体が締め付けられるこの感覚。
共感を使った影響として、初めての体験だったが何となく理解した。
生物以外にも共感って使えるんですね。
理解を深めた所で、コレは魔法的な知恵の輪と例えましょう。
触手を一本、本の中心部に置く事の、コマンド入力開始。
下に引っ張り、右に寄せての、上に移動させ、左にスライド。
音がした所で、もうちょい左に移動させれば光が緑色となり、次は下に黄色に変わり、
上に移動させれば青色で、右に移動させれば赤色になった所で、これ以上に何をすれば良いのか?
「ふむ、一発で成功とは驚いたのぅ。
後はほれ、魔力を《呪詛》で確定させれば良いだけじゃ」
ほっほぅ、同じく基礎である《呪詛》で固定とな?
アレは他の呪術と組み合わせて範囲を広げるモノだとばかり思っていたが?
確定と言われたので、つまりはスタートボタンを押すとかそんなイメージになってしまう。
とりあえずの所で魔力を押し込むイメージで、呪詛のカテゴリとしては楽な部類の呪歌として発動。
手ごたえがあったので、触手を離せば見事に本へ固定された魔法の光。
何となくスタートと心で念じて、光のボタンを押せば、弾けた魔力が蛇の周囲で霧散した。
「蛇よ、別に良いが、今のはワシが課題の為にと作った術なのじゃぞ?
早速壊してしまって、全く…、ちなみに今のは何をどうやったのか?
ほれ、コッチでもう一度試してみい」
どうやら変な事をしてしまったらしい。
スイッチの入ったおっちゃんは、蛇に詰め寄り本をもう一冊。
さっきみたいに鍵を開けた後に、魔法を壊してしまえば良いのだろうか?
同じ様に触手を乗せて、同じ様に動かした時だった。
ボンッという音と共に、本が爆発した。
無論、程よい衝撃と共に蛇はダメージを受けた気分になるも、別に何ともない。
どうやらおっちゃんが仕掛けた罠だったようだ。
よくよく見れば、2択か3択程度の選択肢。
《予知》して何かすれば良い程度の罠なら無いも同然。
2度目の挑戦で、嫌な予感をする選択肢を排して鍵を解除する事の、余裕で成功。
おっちゃんも、真顔で頷いた所で、蛇は先と同じように、触手で仕掛けを押してみれば、
多分その仕掛けが壊れたのだろう。魔力が霧散するエフェクトが発生し、首をかしげるおっちゃんが発生する。
その後に、何かを思い立ったのか、本を一冊、蛇と同じように鍵を解除し、指で一押しすれば。
「成程のぅ。ココをこうして、こうすれば、ワシにも出来たわい」
仕掛けを壊したおっちゃんは、満足気な顔をしてメモを取っていた。
何のメモを取っているのかは分からないが、蛇にとっては特に重要な事でもなんでもない事が殆どだ。
なのでおっちゃんメモはスルーする事の、蛇の興味は呪術の奥義とやらだ。
一体どんな事を蛇に教えようとしているのか、期待をしている蛇はおっちゃんを待つ。
両名にとっては普段の流れの待ち時間。
おっちゃんにとって、ちょっとでも不思議な事が起こると、何かをしている最中でもコレだもの。
蛇側は開いた本の内容が気になるが、頭を揺らしてストレッチ。
おっちゃん側のメモが終わる頃には、蛇の頭は椅子を支えに寄り掛かり、
浮かせた体に力を込めて、全身を伸ばすストレッチに移行していた。
そんな様子もいつもの事なので、おっちゃんとしても全く気にした様子はなく、話は始まり。
「さてと、本も開けた事だし、これから教える事じゃが、全部その中に書いてある。
読んだらワシに向かって、試してみると良い。なあに心配はいらん、飽きるまで付き合ってやろう」
胸を張って構えるおっちゃんの言葉通りに、
吐血常習犯のお年寄りを対象とした呪術の訓練がこの日から始まる事になった。
* * *




