表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/196

【蛇の通り道】-2-

 ここは【蛇の通り道】と言います。冒険者用の宿泊施設ですね。


 比較的安全な場所を選び。見通しの良い高台に構えられたこの建物は。

 森の見張り台としての役割も果たしていたりもします。


 故に、他の宿よりは護衛としての人数は多めに配備されていて

 冒険者達も多く、この宿を拠点として構え森の探索へ赴いているようで


 毎日毎日。沢山の冒険者達で溢れています。

 中には、うちの食べ物だけが目当てでやってくる物好きも居るようで。

 見慣れた顔ぶれ。常連客も多いですね。


 簡単な紹介でしたが。

 後はみなさんの目でお確かめください。


 道なりにこの坂を下りて行けば、森の入口となっております。

 裏手には倉庫がありますね。

 冒険者の方々が一時的に物資を補完しておく場所です。


 なるべく貴重品の方はお預けにならないよう、お願い致します。

 人の出入りが多いもので、間違いや盗難の恐れがありまして…ご容赦を。


 他には簡単な武具の手入れ等は、外に簡易な工房もありますので其方を使用しても構いません。

 多少値は張りますが、職人の方もいますので頼んでみるのも良いかもしれませんよ?


 えーと。この辺でこの【蛇の通り道】の紹介は大丈夫でしょうか?

 はい、なんでこんな名前なのかって?




ザッ―――




 …?

 …何か様子がおかしいようです。

 宿の中で何かが起こっているようです。



 ………!

 誰かが争っている気配がします!



 みなさん。見張りをしている方々を呼んで来てください!

 私が様子を見てきます!



 一体何が!?



 シャー!ピシュッ!シュンッ!カツ!カツッ!

 あっ…あふっ…えッ……ああ!


 え…?え…?なんなの?どうしたの?

 あれ…体が動かない…なんで?



 あれ…蛇のような魔物?

 確か…確か。たし…か。『アサシンヴァイパー』?

 ランクにして…C+の。ま。。。魔物? どうして…こんな場所に?


 宿の名前が【蛇の通り道】だから…なんて関係ないよね?


 か…回復しなきゃ。。。

 回復…かいふく………



 みんな…みんなは?

 どうして?どうして動かないの?



 やだ…みんな。。。私が。私が…守らなきゃならないのに。。

 猫耳さんも。どうしてそんなに赤いの?

 一緒にがんばれると思ったのに。


 私だけ。私だけ。動けるのは私だけ!

 あと少し経てば動けるのに!



 で…でも動けた所で。どうしよう。



 …

 ……

 ………

 腕は動く。足も動く。致命的な傷はない?

 ええと、綺麗な切り傷で一瞬だったから、なんとかなったみたい。


 何を受けたのか分からないし。

 みんなの様子は?



 気が付いたら『アサシンヴァイパー』の姿も見えなくて…



 いなくなっちゃった?本当に?

 いないんだけれど?怖い…怖い…みんな生きてる?



 あ…、猫耳さん生きてる。

 他の冒険者さんも生きてる。

 こっちの人。酒呑んで倒れてるだけだ。


 他のエルフは。ええと。やだ。胸が裂けてるけど。

 あれ…止血してある?

 血がこれ以上出てない。

 …これなら助けられるかも。


 回復しなきゃ…回復。。。



 ええと。みんな死んでる人いないみただけど。

 夢じゃないよね?

 実は私、死んでましたとかじゃ…


 死んでるから、みーんな生きてるように見えるとか。

 …そんな訳ないじゃない私!



 気合を入れて、みーんなを助けな………



 『アサシンヴァイパー』だー!!!



 突如目の前にひょこっと顔を出したソレを見つけてしまい。

 声にならない叫びを心の中で上げてしまいました。

 心臓の鼓動が私の中で世界記録を更新しています。



 でも、様子がおかしいです。

 お酒の樽を軽々しく持ち上げて。

 目の前で呑みはじめました。


 気付かれてないようです。

 こっち向いてませんし。


 ええと、今なら不意打ち出来るかもしれません。

 けれど。一撃で倒せる技なんて私には無理そうです。

 なにより。体が動きません。

 蛇に睨まれたカエルの気持ちを理解した気がします。



 何も出来ませんでした。

 何も出来なかったので。

 目の前の魔物が何をしているのかをずーっと見ていました。



 その魔物は、ずーっとお酒を呑んでいました。

 ここ【蛇の通り道】に良く来るお客さんと同じだなあと思いました。


 もしかして目当てがお酒だったとか。

 だとしたら、ちゃんとお金を払って貰いたいです。

 その樽一つで1日分は持つ計算なんですよ?


 …でも、こうまで一方的に警備を叩きのめしてからの樽呑みだなんて。

 ある意味、清清しいです。歓迎できませんけど。


 蛇じゃなかったらイケメンだったかもしれません。

 すらっとした体系ですし。蛇は嫌いな方だと思ってましたけど。

 目の前の蛇は綺麗なので。見ている分には許容範囲です。



 やがて、ふらふらしはじめたので。酔ってきたんだなぁと冷静に見ていました。

 ふと、此方に向かって動き始めた時には死を覚悟しました。

 正座をしながらずーっと見ていた自分にも驚きました。

 足が痺れて動けないという事で成すすべなく。


 押し倒されました。

 私。とんでもなく馬鹿な事をしていると思いましたけれど。


 殺される事はなく、ただ…酔ってふらついてそのまま成り行きで。

 そのまま寝息を立てて、私に寄りかかってきてるではないですか。


 私に理解出来る状況と言えば、意外と重くて。

 私の胸元で眠っている蛇を退けられないなんていう、状態になってしまっています。


 出来る事といえば。


 声を出したらこの子。起きてしまうかもしれませんし。

 無理に動けば。やっぱり起こしてしまうかもしれませんし。

 この魔物が目を覚ます前に息の根を止める…そんな能力は私にはありません。

 下手に敵意を持たれて目覚めさせれば私達全滅ですし。


 みんなを守るために出来る事といえば。



 …撫でてみましょう

 敵意を見せなければなんとかなるかもしれませんし。

 意外と可愛いかもしれません。


 ツルツルしてます。

 魔物はどうか知りませんけど。蛇って頭部の感覚が凄いみたいですし。

 気になります。ほどよく弾力があって触り心地は…良いです。


 恐る恐る、撫でてみる事にしました。

 蛇の頭を撫でこ…撫でこ。胸に挟まれていて撫で辛いですけど。


 キィキィ…


 鳴いてますよこの子。

 今なら…可愛いって言えます。

 でも、この惨状を引き起こしたのがこの子の訳で。


 ええと。ええと。やっぱり撫でていましょう。

 起こしたらマズイです。撫でている分には大丈夫な筈です。


 むぅ…鱗が綺麗です。爪でなぞれば程よく気持ち良いこの感覚…

 癖になりそうかもしれません。

 しかし良く見れば変なうねうね生えてますし。

 やっぱり魔物なんですよね。

 この子がその気になっていたら私達は全滅だったんですよね?


 …どこかの魔物使いの方が言ってました。

 同じ種族の魔物でも個体差があって

 ランクが高い程に変わった行動を取る事が多いって。


 そんな変わった個体の中で友好的な魔物を判別し

 信頼を得られれば、その魔物に襲われる事はなくなるとか。


 だけど魔物使いの人でも一緒に行動できる魔物となれば。

 知っている限り、Dランクが限界とか聞いてますし。


 今目の前のこの子が変わった固体だとしても。

 私ではどうしようもないんですよね。

 言葉は喋りませんし。分かってるかどうかも知りませんし。


 魔物使いの方は、言葉なんかいらないよ。

 なんとなく分かれば良いんだ。魔物って分かりやすいし。基本は単純思考だし。

 流石に一緒に連れていくとなると。タマゴから育てないと無理だと思うね。

 誰かが引き連れてるの見て、野生の魔物とそっくりそのまま仲良くなれるなんて考えない事だよ。

 運が良くて興味を持たれるだけで、ほとんどは襲われるか逃げられるかって所だね。


 興味を持たれたら、襲われない可能性が出来るってだけかな。

 何を考えているかまでは分からないけど、付かず離れずで観察してるんだよね。

 隙を伺ってるのとはちょっと違うんだ。

 本当に危ない奴なら、本能的に危ないって分かるし。

 その辺の判断を誤ると、命を失う事になるもなりえるから、変な様子見はしないようにね。

 そういう類の魔物ってやたら強いんだ。なるべく戦いたくはないよ。


 そんな会話を過去にした事があったのを思い出し。

 これまでの状況と、魔物使いの方の話から推測するに。


 何かに興味があって、この子はここにやってきてしまいました。

 襲われたものの、誰も死んでません。

 となれば、やっぱり目当てはお酒だったのでしょうか?

 それでこんな状況なら。とんでもなく、馬鹿らしいです。


 これがランクC+の魔物なんでしょうか。

 そう考えると、私の中で可愛いと無理やりにでも。そう思う事にします。


 …えーと。可愛い。可愛い。

 鱗も固めですし。ちょと強めに撫で撫でしてみましょう…



 キィキィ……キューキュー……クルルルルルー………



 あ…あ……ああ………。。。

 蛇は嫌いでしたけど。


 むしろ怖いですけれど。

 怖い分、感覚がおかしくなってるのです。

 蛇って………可愛いんですね。可愛いんですよ。可愛いんですよね?


 どのぐらい時間が経ったか分かりませんけど。

 もう足の感覚がありません。


 蛇さんも誰一人として死者は出していないというのもあって

 襲い掛かってきたりはしましたが、本当に危ない魔物なんでしょうか。

 あれから考えましたが。襲った後に治療していた気がしますし。

 お酒臭いのが冒険者の方と同じなので、なんだか緊張が緩むというのもあります。



 宿の皆さんが起きるのが先か。

 蛇さんが起きるのが先か。



 考えているうちに、猫耳さんが起きたようです。

 驚いた顔をして震えています。

 私も恐怖と痺れで足が動きません。


 エルフの男性も起きたようです。

 男前の胸傷が出来上がっていましたが、元気そうで良かったです。

 でも、やっぱりこの様子をみて驚いています。

 他の冒険者の方も意識を取り戻し始めているようです。


 やっと他の方の助けが借りられるようです。

 安心したら眠くなってきました。


 ごめんなさい。意識飛びそうです…

 でも最後に一言だけ。


 そんなにジロジロ見ないで下さい!


 …はぁ、こんな状況だというのに、男性陣の目が。なんだかやらしかったです。

 あとはお願いしますね…猫耳さん。バトンタッチです。



   *   *   *



 あれから色々と調べました。

 皆様の安全を守るため。


 冒険者ギルドへと連絡も取りました。

 しかし帰ってきた答えは。


 馬鹿らしい。その報告が本当ならその宿はもう無くなっている。


 それでも確認の為になのか少し、人間の兵士さんが2名増員です。

 運が良いのか悪いのか。数日後にあの蛇の魔物が再び現れました。


 まごうことなく、ランクC+の魔物『アサシンヴァイパー』でした。

 それが、宿の上でとぐろを巻きながら此方の様子を伺っているのです。


 どうやって進入してきたのか分かりませんが。

 私達を観察しているように思えました。


 勿論兵士さん達にも教えましたが引き腰です。

 こうまで堂々と姿を見せて余裕の態度。私達、舐められてますね!


 分かっています。

 兵士さん達。みんな倒されちゃいましたし。

 警備を二人増員したのですが、物理的な手段で勝てる相手ではありませんでした。

 魔法も効いた素振りを見せません。


 『アサシンヴァイパー』の能力について調べた通りでした。

 鱗が熱に強いらしく、基本的な身体能力も高く、飛び道具まで備えている。

 さらには隠密行動が上手く、魔法による探知も効き辛いらしいと。


 厄介な相手に目を付けられてしまったようです。

 私も痛い目をみるかと思いましたが顔を舐められた程度で済みました。


 やっぱり…この魔物は何か違います。

 猫耳さんも意を決して、不意を打ちましたがそれも空しくあっさり、まきつかれてしまいました。

 『アサシンヴァイパー』の本気での締め付けは岩をも砕くらしいので、青ざめました。

 さらに頭を近づけているものだから、食べられてしまうのではないかと気が気でなかったです。


 杞憂でした。軽くキスをされた猫耳さんはあっさり開放され。

 私の元に投げ渡されました。気絶していますが怪我はありません。


 少なくても、殺される心配はないようです。

 何が目的かは分かりませんが、少なくても前のように暴れたりするような素振りもありません。

 常連さんの客離れが起きなかったのが不思議なぐらいの惨状だったのですが。

 随分とタフなお客さん達をもって私は幸せです。

 私は、この魔物が何を考えているのか見極めなくてはならないと。

 使命感を持って挑む事としました。


 その後もずーっと。

 『アサシンヴァイパー』は天井から中の様子を伺っているようでした。

 私もずーっと。『アサシンヴァイパー』を見張っていましたが

 特に目立った行動もありませんでした。

 話をかけてもみましたが、理解している様子はありません。


 余りにも進展がないので、コミュニケーションを図るべく

 自腹を持ってお酒と料理を振るまいました。

 普通に飲まれて食べられました。私じゃなく、持ち込んだ物がですよ?

 好感度は上がったようですが、いまいち釈然としません。


 それが2度、3度と続いた辺りで、流石に証言が数多くなり

 本当にランクC+の魔物が【蛇の通り道】に現れていると信じてもらえたようです。

 教会からの討伐依頼をするか、しないかで結構揉めているようでした。

 冒険者ギルドを通じて、その情報も広がっているようです。


 依然と死者は出ていません。怪我人も特に目立った人も出ず。

 それどころか『アサシンヴァイパー』を見たい等という

 冒険者で宿が賑わうという、かつてない事態となってしまいました。

 誰が予想したでしょう。今後どうなるかも想像出来ません。


 でも今は大忙しです。

 冒険者も『アサシンヴァイパー』に挑むものがちらほら出ています。

 軽くあしらわれて、冒険者の証であるアクセサリーが奪われたりしているようです。


 どうやら、あの蛇の魔物は光物も好きなようですね。

 結構な額、するんですよねアレ。

 奪われた人にはご愁傷様ですとしか…

 私達ではどうしようもないんです…。申し訳ありません。

 せめて注意書きの看板と説明を徹底させて頂きます。



 こうして『アサシンヴァイパー』は【蛇の通り道】に文字通りやってくる事になり。

 お酒と余った料理を分け与えるだけで、満足してくれてはいるようです。

 たまに腕試しに挑む冒険者も迷惑がることもなく相手にしてくれていますし。

 もはやこの宿の名物となっているようで。



 結果でいえば、宿の収益が伸び。

 冒険者のレベルの向上にも繋がっているので。

 それ等の代金以上の働きはしてくれています。

 代金といえば、冒険者の落し物やら

 魔物の素材等をその『アサシンヴァイパー』が持ち込む事もあり

 妙な知恵もつけてきたようです。



 そんな効果もあり、上の人達の決定では教会は関わらせずに

 冒険者ギルドのみで対処する。そういった流れになったようです。

 密かに送りつけている観察記録のお陰もあるかもしれません。



 私としても。あの自由奔放な『アサシンヴァイパー』をどうにかする術もありませんし。

 他の冒険者も理解している上で【蛇の通り道】を利用するようになっています。

 良い流れなのですが。


 猫耳さんが『アサシンヴァイパー』相手に拳一つで叩きのめしている現場を目撃した時は肝が冷えました。

 その大げさなリアクションで、すぐに演技と分かりましたが。猫耳さんは得意気な顔をしています。



 …どうやら『アサシンヴァイパー』が暴れて【蛇の通り道】を壊しつくしてしまう。

 なんて心配はいらないようです。

 久しぶりに撫でてあげました。

 クルクル…鳴いて可愛いものです。



ザッ―――



 …どうやら『アサシンヴァイパー』が暴れて【蛇の通り道】を壊しつくしてしまう。

 なんて心配はいらないようです。久しぶりに撫でてあげました。

 クルクル…鳴いて可愛いものです。



ザッ―――



 …どうやら『アサシンヴァイパー』が暴れて【蛇の通り道】を壊しつくしてしまう。

 なんて心配はいらないようです。久しぶりに撫でてあげました。

 クルクル…鳴いて可愛いものです。



ザッ―――



 …あれ?なんだか変な感じがした気がします。

 蛇さんも訝しげに首を傾げています…気のせいですかね?

 それにしても。撫でていると良い顔をしていますね。気持ち良さそうにしています。

 このまま、こういう関係が続くのであれば良いのですけど。

 私達を簡単に一蹴出来る強さを持つ魔物というのはやっぱり怖いです。

 せめて分かりやすく意思が通じればと思うこの頃でした。



ザッ―――



- NowLoading -



   *   *   *

ザッ―――


癒しを求めた主人公は安息の場所を手に入れていた。


ザッ―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ