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幼女と蛇とで戯れる

 お風呂場での一件の後、数日の時が流れた。

 ヨルンは相も変わらず日課のトレーニングに勤しんでいます。


 今日は元素魔法と、構想していた格闘戦を組み合わせた体術の練習である。

 出来る行動は多いに越したことはない訳だからガンガン増やそうという試みも兼ねているのだ。

 そんな中でも面白い移動方法が無いかと模索した結果、

 お風呂騒動の一件での行動を振り返り、きっちりと検証し、試したく思った行動を練習しているのです。


 今はそのお試し項目の一つを実演中といった所で開けた庭にて魔法を使っておりますよ。

 内容は縦横無尽に尻尾のタマゴを乗り物のように活用し、転がる必要もなくスライド移動。

 気分はちょっとしたライダー気分。

 トゥっと地面に衝撃を加えればタマゴは跳ね上がる。

 空中で反転し、回転の勢いを付けて、魔法による壁を作りの、空を叩いてその後に、全力で尻尾を突き出せば~。


 ライダーケェーック!


 むしろタマゴチャージ的な、足が無いですし。尻尾っですし。

 どちらにしろスキルにもなってないし、名前に意味はない。

 破壊力の程はと言えば、練習用の藁人形は爆発四散。

 爆発については何の意味もなく、事が終わった後に爆発させただけですけどね。

 今のヨルンは魔法が使える蛇なのですよ。

 とりあえず爆発が無くとも、当たりさえすれば素晴らしい威力を叩きだしてくれる筈。

 当たればヤれる系の必殺技を目指してみましたし。

 藁人形が跡形もなく消え去っているのを確認して一先ずの形が出来た事に満足はしました。


「相変わらずアンタは元気よね」


 そう声をかけてきたのは今の自分の飼主であるアリエル。

 例のお風呂場での出来事で心身にダメージを受けた幼女です。

 自信に溢れていたあの姿は何処へやら。

 自分の力ではどうにもならない現象を前にしたが故に、精神に甚大なダメージを受けてしまったのです。


 今や何をするにしても無気力で、一日の大半を寝て過ごすなんて事が、ここ数日の生活ですよ。

 しかし、ヨルンさんは知っています。

 この程度でダメになってしまうような飼主ではない事を、別に長くも無い付き合いですがヨルンは知っているのです。


「そろそろ私も考えるのやめにして、アンタと向き合う事にしたわ。ねえ、ヨルン?」

(アリエル! 復活!?)

 という訳でアリエルは腐る事なくヨルンに接してくるのでした。

 腐ると言っても雄同士の絡みに目覚めるとかではありませんよ?

 アレ等の界隈はヨルンにはちょっと分かりません。

 何せ無機物だって対象にしてしまうっていうのだから、説明も出来ません。


 ともあれ、そんな関係の無いお話は彼方へと飛ばしておきましょう。

 ヨルンと向き合うなんてアリエルに言われ、テンションが上がってしまったヨルン。

 ついつい念話の調整が疎かになってしまい…


「その頭に響く声は止めて」

 怒られました。念話で大声を出しちゃった感じですね。

 しかもソレが頭に直接響くというのだからタチが悪い。


(ゴメン。分かった。止めた。このぐらい?)

 カタコトですが謝りましょう。

 アリエルを相手にする場合はこんな対応にして行くとします。

 自分は魔物ですし、アリエルもヨルンが念話で対応すると知ったのも最近ですし。

 初の念話時には恐慌だったが為にヨルンが拒否されてしまったんですよ。

 暫くヨルンは放置されてアリエルは部屋に閉じこもってしまう事数日間。

 その間は何も話せず仕方ないのでヨルンさん道草食って飢えを凌いでました。

 草食系ヨルンです。肉食系となって幼女を襲ったりはしませんよ。

 意味が違うかもしれませんが、アリエルを驚かせない努力はするのです。


「このぐらいなら良いわ。でも本当に喋れるのね、改めて驚いちゃうわ」

(驚け。ヨルンは喋るぞ。念話だぞ。文字も作るぞ)

 ヨルンの知るアリエルの調子が、ほぼアリエル状態まで戻っていると感じ、

 驚いちゃうとまで言われれば、ヨルンもさらに驚かせるべく一芸を披露するべきとスキルを披露する。

 『視覚的呪術』と覚えのあるスキルを使い、自身の頭の上に文字を浮かべたのだ。

 しかし驚かせない努力をすると言った傍から驚かせようと試みるヨルンだった。

 まあ、驚かせるベクトルが違うので良しとしましょう。


「何よこれ。文字が出て来たわ。どういう事よ」

(呪術っ、呪術っ。ヨルンは魔法が使えるぞ)

 空中に字幕のように浮かぶ文字を見て驚くアリエルに満足した所で現在使えるヨルンの魔法をおさらいします。

 一つは『元素魔法』と呼ばれる各種の属性を操れる魔法のスキル。

 炎を出したり、水を操ったり、大地を整地したり、風で吹っ飛んでみたりな感じですな。

 そして『呪術』と呼ばれる精神に干渉をして催眠術から癒しまで何かと便利な危ないスキル。

 アリエルに見せた文字を浮かべる魔法については、文字以外も浮かべられたりもします。

 字幕形式じゃなくて、漫画の吹き出しのようにも出来ますな。エモーションだって出せますぞ。


 とまあ、この辺のスキルをヨルンは扱えるようになりました。

 無論、発動した魔法に応じて相応の消耗はしますから乱用は出来ませんけどね。

 ただ乱用出来ないだけで、相当便利になったのは間違いない。

 そんな魔法を使えるようになったヨルンのテンションは上がる一方。

 恐怖の存在を目の当たりにしたアリエルのテンションは下がる一方。

 ここ数日の出来事を振り返り、今目の前にいるアリエルの状態を見て、ヨルンは嬉しく思うのだが。

 呪術が使えると伝えた途端にアリエルが片手で頭を抑えてうつむいてしまったではありませんか。


「…また頭痛くなってきたわ。魔物が呪術なんて。聞いた事…魔王ぐらいしかないんだけど。

 ああ、いや、言葉が理解できるんだからもしかして魔族…?」

(魔族? ヨルンは魔王っ。ヨルンは蛇の王なのじゃ)

 どうやら、魔物が呪術を使えるという事が異常のようです。

 もしかして、ヨルンさん余計な事しちゃいました?

 後戻りは出来ませんし、誤魔化すしかありませんよね。

 咄嗟に頭に浮かんだ蛇の王という単語を出してみるも、特に意味も無いですし。

 魔族という単語も出て参りました。聞いた事ありませんな。聞く相手も居ませんでしたけど。

 色々と聞いてみるにもアリエルの反応次第なのですが、落ち着かないその様子からまた消沈してしまうのではないかとヨルンさん心配になってきています。

 ここは一つスキンシップを図るべきか、じりじりと幼女にヨルンは接近する。


「とんでもない奴と係わっちゃったわ…。

 もしかしてアスピクの呪いをアナタが持ってる訳?」

(残念。アスピクじゃない。ヨルンの呪いなのじゃ)

 接近は成功、アリエルはヨルンが傍に寄っている事に気が付くと驚きはしたものの逃げる様子もありません。

 この様子は、まだ普段通りのアリエルですね。

 単に考えたり悩んだりしているだけだと思われます。

 アスピクという名前も出てきた事ですし、どうやらヨルンも言葉に気を付けて話さねばならないようですな。

 アスピクといえば、100年ぐらい前に世界を脅かした魔王という存在で討伐されたらしいのだが、

 滅びて尚も今現在まで呪いという形で人間達を陰ながら苦しめていたらしいですし。

 ついでに言えば、実はこのヨルンが現世に復活させちゃったんです。


「残念って言われても、呪いって言ったら。あの…」

(アスピク復活っ。ヨルンはアスピクの子っ)

 という訳でヨルンはアリエルの前ではアスピクは復活していると伝え、自分はそのアスピクの子という設定です。

 設定とはいえ別に間違ってもいないでしょうけど、説明に難しすぎる、複雑な関係ですよね。


「うそ…? え? なんでよ?」

(盗まれたっ。ヨルン盗られたっ)

 驚くアリエルが理由を聞いてますが話を先へ進めてしまいました。

 何に対してのうそ、なんで?なのかも分かりませんし説明求められても困りますしー。

 それより重要そうな事を出して逸らしちゃうですよ。


「…私は違うわよ? 買い取ったのよ?」

(アリエル悪くない。ヨルン知ってる)

 その言葉の攻撃力は絶大ったのか、怯えるアリエルの出来上がり。

 すぐさまフォローに回り安心させる言葉をかけるのです。

 ついでに今なら、ヨルンの前にやってきたあの子の説明も出来そうですから説明しちゃいましょう。


「そう、良い子ね。ヨルンは」

(だからサプ。探しに来た)

「あのプヨプヨした奴ね」

(ヨルン、魔法教わった。念話出来る。サプに話した)

「私も話したけど、ヨルンは何話してたの?」

(ヨルン強くなった。サプ驚かせた。だから)

「だから…」


(アリエル好きって話した)


 ヨルンは恥ずかしくなった。

 片言な子供っぽい演技をするのって疲れません?

 そもそもにヨルンさん、演じれてるのかどうかも分かりません。

 ともあれ、サプについてはヨルンを探しに来た魔物って事で通しましょう。

 サプもアリエルに対しては大したことは喋ってないみたいですし。

 その大したことのない話で、アリエルが数日の間を落ち込んだりしてしまったのだから、

 大した事のない内容自体が怪しいものですけどね。


「は、はは、こいつめ。高かったんだぞオマエ」


 とりあえず恥ずかしい思いをした甲斐もあってアリエルは安心し始め、

 ほぼ普段のアリエルとなってます。

 そして高かったとは、ヨルンを買い取った金額が高かったという事でしょうか?

 ふむ、金額はどうあれ金銭問題で戯れるのもなんですな。


(ヨルンの背は、高いのじゃ)

 ヨルンはタマゴを軸に背伸びした。

「私より低くなれ」

 アリエルは腰に手を当てながら、片手を上げて背伸びをしてヨルンの頭を撫でようとする。

(アリエル小さい)

 そんな様子を見たヨルンは無慈悲な一言を放った。

「こんっのおー!」

 そしてアリエルのケンカキックがヨルンの腹部を抉ったのだった。ぐふぅっ。


 なんていう幼女との戯れも程ほどに。

 あれからサプさんとも話し、現状と今後についてのお話もしていました。

 サプが言うにはヨルン様が楽しんでおられるなら特にこれ以上の干渉は致しません。

 その一言でばっさり切り捨てられました。

 説明を求めても、それを説明する許可は得られてません。

 「誰に言われてんの?」って聞いたらヨルン様自身からのお言葉なので私はそれを守るだけです。

 「何、ヨルン様、他に居るの?」って聞いたらアナタが私のヨルン様です。

 「結局サプは何しに来たの?」って聞いたら少しだけ答えてくれました。


 「予想外な出来事が発生して、行方が分からなくなってしまったので探しに来たんです」との事。


 一度見つけてしまえば後はGPSのような物を付けて位置が分かるのでサプの任務は完了らしい。

 つまり、どこへ逃げてもサプはやってくる。それどころか他の奴等もやってくる可能性がある訳ですね。

 ヨルンはもはや逃げられない。でも逃げられなくても別に敵対している相手じゃないですし。

 見守ってくれている感じらしいです。

 あれから記憶も戻りに戻って掲示板の過去ログを漁り、記憶を発掘できる程度にまでヨルンの記憶は戻って参りましたよ。

 情報ウィキを参照して該当する情報を得られる程度の便利さにまではまだ戻ってませんけどね。

 さてと、現状必要そうで分かったことを纏めましょう。


 

 1.Q:何故自分がこんな姿になったか? A:黙秘

 2.Q:記憶喪失っぽいけど? A:黙秘

 3.Q:何か足りなくて変な気分なんだけど? A:黙秘

 4.Q:目的はなんだったの? A:ヨルンを探してた。

 5.Q:他には? A:話した事以外には特に何も無く終わりました。でもやっぱり折角なので子供を。

 6.Q:ヨルンの印象について? A:愛してます、子供を作りましょう。

 7.Q:変態なの!? A:一生に一度は変態と呼ばれるのも良いものです。

 8.Q:子供が作れなくなる呪いを発動して良いですか? A:やっぱり変態は嫌です。

 9.Q:また来るの? A:呼べば来ます。

 @.Q:お腹すいた。 A:私の体をお食べ。



 以下略で、変な戯れが延々と続きました。

 Q&A形式にしてみたが全然纏まらなかったね。むしろQ&Aにすらなってないと思われる。

 重要な事に関しては殆ど喋らず、スキンシップに対しては積極的にノッてくるサプさんでした。


 一応、アリエルもその時はいたのですが、真面な状態ではなかったから覚えてはないようです。

 サプがやってきたという事については覚えているようですが。

 触手に襲われたという事を、はっきりと覚えているが故に複雑な心境でしょう。

 黄金色に染まったサプの大人な対応も相まって、魔物の印象が分からず

 さらなる深みに嵌ってしまったのも、消沈していた理由の一つかもしれません。


 そんな幼女はヨルンのタマゴの上でくつろいでいます。

 くつろぐだけなら良いのですが、ヨルンの尻尾を引っ張りタマゴから出そうとしてきやがりました。

 ヨルンの尻尾を両手でがっちり掴んで持ち上げる幼女。

 お股の間にヨルンの尻尾を通し、座った姿勢からの引っ張り上げです。

 擦れてます。ヨルンさんの体と幼女のお股がコスコスされてます。

 ああ、言っておきますが幼女はちゃんと服を着ておりますよ。

 しかしそんな事は些細な問題である。

 とんでもない力でヨルンさんがタマゴより引っこ抜かれようとしているではありませんか。


 ミチミチ、何かが千切られるような音が聞こえてきます。

 洒落にならん! 幼女から発揮されるこの力は小さい体のどこに詰まっているというのか。

 少し前に受けたアリエルキックも軽~く、ゴブリンの一撃を超えてましたし。

 ヨルンも抵抗をしていますが、アリエルが籠める力は強まるばかり。

 この力、もしかするとオーク並みかもしれません。


(もうヤメルンダ!)

「そろそろ脱ぎなさい! 進化できないわよ! 強くなれないのよ!」 

(嫌なのじゃ。嫌なのじゃ。タマゴが無いと寒いのじゃ)

「あったまれるものぐらい買ってあげるわよ」

(やなのー、やなのー、なんとなく)

「タマゴがあると進化先がデブって、動けなくなったりするのよ!」

(そうなの? デブはやなの。動けなくなるのもやなの)

「だったらー、早くー、ぬーぐーのーよー!」

(あっ…) 


 プツンッ…と決定的な何かが切れる音がした。

 これは…やられちゃったかな?

 やりきった顔をするアリエルを前にヨルンは思う。

 まあいいか、アリエルに巻き付くにもタマゴは邪魔だったものね。

 そして丁度良く、密着していたのでヨルンは腹いせに幼女をぐるぐる巻きにするのだった。


「重い…」

(抱っこ、抱っこ~)

「抱っこじゃなくて、巻き付いてるでしょコレ」

(じゃあ抱っこして?)

「一旦離れなさい」

(んー、絡まった)

「ちょっと、本気?」

(うそでしたー)

「こんっの、重いのよ!」


 完全復活のアリエルと確認したヨルンは幸せな気分となり、幼女に投げ飛ばされる。

 まきつきが、完全に入ったのに…

 まだまだ甘いわと、ふんぞり返るアリエルを見てヨルンは飛び掛かる。

 幼女と密着しての戯れは始まったばかりだった。



   *   *   *

そろそろ色々と突発イベント発生しそう。

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