表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/196

対戦相手の名前はベヒモスであったが知る事適わず

警告文:お食事中の方にはあまりよろしくない描写を含みます。ご注意ください。今更ですけど。

 ペタンッ…ベタンッ…ペタンッ…ペチャン。



 檻より顔を出す…もとい尻から迫ってくるのが対戦相手の魔物でしょう。

 ゆっくりと這い出てくるソレは先制攻撃のチャンスであるかに思えましたが…まずは情報収集です。

 あんな魔物。ヨルンの記憶にはありませんよ?


 ランクDという話でしたが…

 漂わせる雰囲気はランクCと言われても不思議ではありません。

 とはいえ、ランクがDという情報がありますから。ランクはDなのでしょう。

 +が付いてるか、-が付いてるかは分かりませんけどね。

 どちらにしろ魔物としてランク訳されてる事ですし。

 自分はEで相手がD。となれば普通の方法では敵わない訳です。

 故にヨルンさん。出来うる限りの仕込みは終えてありますぞ。

 まあ本当に出来る限りな程度ですけどね。



 さてと、相手さんも振りむき終えたが故に、対する魔物の全貌が見えて参りました。

 大きいです。ヨルンを丸くして塊を作ったとしたら。

 その出来上がった塊の直径を計算するに、ヨルンの大きさの3倍…いや5倍はありますな?

 詳しくは距離の関係もあり、並んで調べた訳ではないので分かりませんが。大体そんな所です。


 でもなんで、そんな形で計算したかって?

 そりゃあ相手さん。



 まるっこいんですもの。



 アレですよ。一頭身って奴でしょうか?

 頭に何がどうやって全部詰まってるのか謎な体系の。

 可愛げがどことなく………あるかもしれないけれども。

 それは心に余裕が出ている場合に沸いて来るかもしれない感情です。


 今の自分には見るも悍ましい球体が目の前に鎮座しているようにしか思えません。


 そんな球体に、似合わぬつぶらな瞳。

 そして何でも噛み砕いて、食らい尽くせそうなぐらいの大きな口。

 そして海洋生物を思わせる、ヒレのような部位があるようです。

 その他に気になる所は、鱗に覆われているかのような、なんとも硬そうな外皮。

 最初に見た通り、尻尾であろう部位も小さめですが生えています。

 見るからに魔物ですと言わんばかりの容貌ですな。

 うむ、ちょっとばかり可愛げがあるような気がしてきました。


 しかし今はそんな感情を抱いている場合ではありません。

 考えるべきは、相対するこの丸っこい魔物の攻撃方法は一体何がある?


 この体格差、読み間違えれば即死もあり得るでしょう。

 ランクがDともなれば相応のスキルも持っている事でしょうし。

 考えれば考える程、泥沼に入り込みそうな気分ですよ。



 とりあえず、戦闘は開始されています。

 互いに値踏みするように見つめ合い。

 相手がどんなものなのかを観察しあっている状況?


 どうにも相手は何も考えそうにない顔をしていますが…

 そんなデカイ顔の、無表情を見ていた所でなんの情報も得られません。


 さて…どうしてくれようか。

 先手を打つべきか、普段通りに様子見か?

 暫く待つも何の反応もない。

 ぼーっとしているのか、自分を認識してないのか。

 このまま何もしなければ眠ってしまうんじゃないか?

 そう思うぐらいの間抜け面である。



 しかし…何なのだ。この…妙な威圧感は?


 

 危険感知がレッドゾーンを警告し、体中に戦慄が走っていますよ。

 何か…コイツは、恐ろしい攻撃方法を持っている。

 それが何なのか、分からない内は手が出せない。


 考えろ、時間があるうちに考えるのだ。


 あの丸っこい体。

 ヒレっぽいのがあるという事は素早く動き回れない?

 実はランクがDでも陸上では不利な魔物とかいう可能性も?

 重そうですものね。



 見る程に、まんまるである。デブである。




 そんな思考をした瞬間、相手の体が震えた。

 …もしかして変な事を考えたから怒ってしまったのだろうか?


 さらにその次の瞬間。巨体が跳ねた。

 何がきっかけで動いたかは分かりませんが、

 こうして相対している以上はいつ事が始まってもおかしくない状況でしたからね。


 そうこう考える暇もなく巨大なまんまるデブの魔物は驚くべき速度で大地を震動させて打ち上がる。

 跳んで跳ねて着弾地点より加速を繰り返し、軌道修正しながら襲いかかってきた!



 

 ドガンッ、ドガンッ、ガンッガンッ、ズドーンッ!




 大迫力の巨大なボールが跳ねて来ます。

 それはもう、このヨルンを圧し潰すべく、

 逃げても逃げても追ってくるこの光景はどこか記憶にあるような。

 デジャブのような感覚を覚える時間も、戦闘中にゆったりと考える訳にもいきません。


 大地への着弾毎に衝撃波が巻き起こり、体のバランスを崩される付加効果付き。

 この重量差は不味いですよ!

 一心不乱にヨルン側も動きます。潰される訳にはいきませんものね!


 頭上高くに飛び上がった巨顔は蛇の姿を逃さない。

 空中で体を回転させると、そのまま大地へ着弾。

 


 ズシャーン! ドシャーン! ベターン! ペシャンベシャンッ!



 砂埃を巻き上げながら着弾するそれは、戦場に降り注ぐ迫撃砲の如し。

 もしもそれが自身に直撃したとなれば…木っ端微塵に吹き飛んでしまうであろう事の想像は容易だ。


 転がってくるだろうと当たりを付けていた所で、

 スーパーボールのような弾性でガンガン跳ねてくるとは思わなんだぞ…。

 跳ねすぎて天井を粉砕する事は流石にないよねー。

 と思いましたが、ガンガン天井にもぶつかっております。

 勢い余って客席にまで突撃と思いきや、直前で跳ね返されていると所を見るに、何ら中の障壁があるようですね。

 そのお陰で、時折変な軌道を見せてくるビックリボールな魔物の体当たりを避けるのが難しい事この上ない。



 落ちついたかと思えば数秒後には天井に突き刺さらんが勢いで宙を舞い、

 大地に着弾する事の1回2回、3~4~5回。

 少々のインターバルを挟み、一息つくとまたヨルンを対象に跳ねて襲い掛かってくる魔物塊。


 反撃の糸口は…、あのインターバル時であろう。

 それまでに全ての体当たりを避け続けねばならないのだが。

 今のこの状況、まるで良くあるどこかのアクションゲーム的な何かではあるまいか?

 ボス部屋に閉じ込められて、攻撃を避け続ける事を強要されて、特定のタイミングでだけ反撃できるような…あの状況に似ている。


 高速で回転しながら重量感溢れる音を響かせ突撃してくる物体に正面から立ち向かう程、自分は愚かではない。

 今はまだ、相手をゴリ押せるぐらいの強さを自分は持っていませんからね。

 弱者なら弱者らしく、攻略法を見つけてネチネチ攻めてやりますよ。


 ほぉれ、体当たりが1回2回。3~4~5回…っと。

 相手さんの続く体力は大体こんなもん。

 対する自分は相手の質量に押され気味ですが全てを避け切って尚、多少の余裕が残っています。

 つまり、反撃のタイミングは…ここですな!



 テールハンマーですぞー!



 ガゴンッ!命中したのは横っ腹?

 まん丸な体をしてますから腹かどうかは定かではありません。

 ですが、まあ頬っぺたというのも微妙な位置ですし。横っ腹ですな。多分。


 良い音が出たという事は…そこそこにお硬いようです。

 反動もそこそこ。その反動を利用して一旦間合いを離して~の。


 いやっほ~い。相手さんのダメージはといえば。

 まあ、効いてる様子はありませんな。


 ちくしょーめー、体格差がありすぎんよ。


 何か弱点のような部位はありませんかな?

 観察するも。目。口。エラっぽい部位。

 目は攻撃するには少々高い位置であり、

 お口の中は、ヨルンさん噛み砕かれちゃいます。

 エラっぽい部位は、タマゴで叩くに丁度良いかもしれないけれども、

 …もしも、めり込んだりなんてしたら即座に引き抜けるかどうか怪しい所ですな。

 転がってる最中に攻撃をヒットさせる事も考えましたが、

 此方側に被害が出る系の予測結果ばかり脳裏に過ぎります。


 あの重量、そして回転速度…もはや工業用の重機レベルですよ。

 ランクがDともなれば、凡人がどうこう出来るレベルじゃないですね。


 まあ…、まだヨルンも一度叩いただけ。

 とりあえず何度も何度も何度も何度も、ぶっ叩いてやりましょうか。


 馬鹿の一つ覚えのようにジャンプからの体当たりを繰り返す魚面魔物。

 華麗なる横移動にて避けることの計5回。

 念の為に一呼吸おいて、相手が息を整えて始めたその瞬間を見計らい。


 

 テールハンマー!



 ガゴンッ。余裕があるのでもう一丁!

 ガゴンッ。相手さんに動きが見られたので体を捻り、テールハンマーの反動を利用し全速離脱。


 そんな流れを続けるサイクルを7回程続けた所で考える。

 どうやらダメージと言えるダメージは入ってない模様。


 同じ場所を執拗に狙い続けたのだが、内臓にダメージを与えてスタミナを削るような効果すらも現段階では一切見られない。

 これは永久ループパターンか?


 相も変わらず、相手さんも執拗にジャンプからの体当たり攻撃。

 此方のスタミナも無限ではない。

 今の自分はテールハンマーを連続で放っても問題の無いスタミナを有してはいるのだが。

 長期戦になれば疲れが溜まり、いずれ体当たりの直撃を受ける時がやってくるだろう。


 何か、策は無いものか。

 例えば、スキルの中に。何か…

 そう考えた時。ふと、自分って毒持ってんじゃん。


 でも、どうやったら使えるだろうね。

 毒。毒…、毒~?

 蛇だし吐きだせば良いん?

 それとも、牙からガブっとしてから注入とか。


 もしかすると尻尾の先から分泌するのかもしれん。

 その場合はタマゴでぶん殴るついでに毒塗れに出来るんだけど。

 ふむ、こうして意識してみると、なんだか出来そうな気がしてきたね。


 アレですな。出来る事と言えば、後者の尻尾のタマゴに毒液を貯め込む事が可能なようです。

 じわじわとタマゴの中へ溜まっていく毒液。

 力を籠めればある程度狙った方向に飛ばせますね。


 しかしタマゴの中に毒液が溜まるという事は。

 ヨルンさん毒液に浸かっておりますぞ。


 なんだか気の遠くなるような感覚を覚えましたがそれも一瞬。

 自身の毒で、ほんのり酔ってしまったような気分になったのですね。

 しかし、この酔いは危険な酔いです。

 自分自身の毒で自身を殺すとまでは行きませんが、多少の影響は出てしまうって事ね。


 耐性のある自分でもコレなのだ。さぞ強力な毒に違いない。

 タマゴから染み出る毒の液は自分が動く度にたぷんたぷん。

 くちゅりくちゅりと、粘性の液体特有の音が響いてます。


 あー、頭がクラクラするんじゃあー。

 なんて酔っている場合じゃありません。


 毒の確認を終えたヨルンと、魚面の体当たりが迫ってくるのはほぼ同時だった。

 この体当たりを避けた後に、このタマゴに溜めた毒をぶっかけてやるんじゃー。


 シャッハー!


 そんな体当たり当たる訳がないぜー。


 ズガーンッ!?


 横っ側にあたっちまったぜー。グギャワー!

 ぼてんぼてん。ゴロゴロゴロ~ん。


 痛いぜー。跳ね飛ばされたぜー。

 体勢を立て直す暇もなく相手が突っ込んでくるのが見えますぞぉ!


 ガッコーン!


 追撃の体当たりでさらにまた飛ばされたぜー。

 脳が揺さぶられる一撃なんだぜー。ガッコーンと飛ばされたぜー!


 避けようと思ったら尻尾のタマゴがぶつかって宙を舞ってたんだぜー。

 ヨルンさん空飛んでますぜー。

 タマゴは無傷なんだぜー。硬すぎだぜー!



 うシャらほーい!



 うっひゅおー。テンションあがるぜー!

 うおぉぉぉぉーーーー。体中が痛っぇえぇーゼェー!

 直撃じゃなかったにしても、一瞬バラバラに砕け散ったかと思ったぜーい!

 でも体はまだ動くし気合でがんばるんだぜー!


 着地の瞬間には華麗に受け身を取って、転がる移動で間合いを離すんだぜー!

 やるぜー! ゴロゴロゴロゴロ転がるんだぜー!


 ゴロゴロデブの相手も追ってくるぜー!

 なんと、あの魚面…自分の真似して転がってくるんだぜー!


 跳ねてからの回転運動による着地後からの急加速ではないんだぜ!

 でんぐり返しを繰り返して迫ってくるんだぜー!


 うおー。レースなら負けねーぜー!

 毒液撒き散らしながら逃げてやるんだぜー!


 どうせ傷口から体内へ直接なんざ出来ないんだぜー。

 お口の中に毒液ぶちこむか、体中にとにかく塗りたくってやるかの2択なんだぜー。



 シャらシャほーい!



 転がるぜー。目が回りそうで回らないんだぜー!

 ゴロゴロゴロゴロなんだぜー。

 オロロロロロロロ~と…もし吐いたとしてもタマゴの外に出せば問題無いんだぜー。

 実は気持ち悪かったんだぜー!体調不良なんだぜー!


 タマゴの中でシェイクシェイクされるんだぜ!

 揺れる揺れる。体中もビキビキ痛んで、こりゃあ不味いぜー!

 この痛み、集中力を削がれるぐらいに断続的にやってくるんだぜー…

 となれば仕込みの一つを解放する時だぜー。



 うシャらシャほーい!



 プチッ…と良い音がしたぜー。

 舌と牙を使い、牙に結び付けておいた糸を切ったんだぜー。

 ちなみに糸は飼主の…多分アリエルから抜け落ちた髪の毛を使ってるんだぜー。

 あの子のフードを取った姿は見てないから髪型は分からないんだぜー。

 もしかするとこの長髪はサイレン側のモノだったのかもしれないんだぜー。

 そんなモノを目ざとく手に入れて持ってたのは趣味じゃなくて長さが丁度良かったから拾っておいたんだぜー。

 本当なんだぜー! 丁度良い糸が無かったから仕方なかったんだぜー。

 アレなんだぜー。タマゴに髪の毛が運良く引っかかってたのを見てこの仕込みを思いついたという訳なんだぜー。


 それよりも、今は仕込みの話。


 髪の毛…もとい糸には魔石を結び付けておいたんだぜー。

 蛇の体で結ぶのは骨が折れたんだぜー。

 むしろ今現在、もしかすると骨とか折れてるかもしれないんだぜー?

 非常事態なんだぜー。でもこの感覚は上手くいきそうなんだぜー。


 うぐおー。体の途中に結び付けておいた魔石が糸が切れたお陰で進んだぜー。

 無事に胃の腑の中に納まった感覚だぜー。

 即効性ばつぎゅん!ヨルンさんパワーアップなんだぜー!

 レベルアップしてさらに回復するんだぜー!

 ちなみにこの魔石はアートウルフ戦の報酬として貰った魔石なんだぜー。

 でもアートウルフの物じゃなかったんだぜー。別物なんだぜー。

 だけど…物で言えばそれ以上の物を貰えた気もするんだぜー?

 複数戦だったのに単品でしか貰えなかったからそのせいなのか、なんだぜー?


 そんな魔石を呑み込んだお陰か嘘のように痛みが引いて来たぜー。

 ヨルンさんまだまだイケルんだぜー!

 不死身のヨルンさんなんだぜー!

 さあて、これからが本番だぜ!

 


 フシャシャラホーイ!



 痛みも引いて転がるのにも慣れてきたから毒液シュートなんだぜ!

 的がデカいから命中したんだぜー。

 毒液ぶっかけし放題祭りなんだぜー。


 ゴロゴロゴロゴロ転がってても壁なんかにぶつからないんだぜー。

 相手さんは見えない壁でも擦ってるかの如しに轟音立てまくりなんだぜー。

 自分は壁際をゴロゴロゴロゴロしながらオロロロロロロロするのを我慢しつつ走るだけで良いんだぜー!

 気持ち悪いのは相変わらずだったんだぜー…


 速度はそれでも互角っぽいぜー。

 つまり、体力が尽きるまで一方的にぶっかけなんだぜー。

 べっとべっとにしてやんよなんだぜー。


 そうこうしてたら魚面の空いたお口に毒液がゴール!なんだぜ。

 走行中なだけにそうこうしてたらイイ感じに入ったんだぜー。


 シャーッハー! 調子にノッテ減速からのー。密着接射の乱れ打ちなんだぜー!

 心なしか相手さんの動きが鈍ってるよーな気がするんだぜー。


 でも油断はしないんだぜー!

 手負いの魔物は発狂モードで攻撃が激化するのも普通にあるんだぜー。

 まあ、自分だって魔物なんだぜー。

 多少疲れたけど、まだまだいけるんだぜー。

 と思ったら轟音立てて相手がぶったおれやがったぜー。

 こっちも急停止でほんのり距離置くんだぜー。


 開いたお口の中に毒液ブシャーなんだぜ!


 フナッシャー!

 蛇汁ブシャー!


 高速で頭振っちまうぜー!

 うおー。うおー!うおーーーーー!

 うオーロロロロロロ…ゲボハァー!


 何か吐いちまったぜー。スッキリしたんだぜー。サッパリしたぜー!

 お見苦しい所をお見せしたんだぜー。

 酷い戦いなんだぜー。

 酷い体調なんだぜー。


 それに比べて相手さん。まだまだやる気満々なんだぜー?

 脳筋がぁー!近づくんじゃないんだぜー!

 危険地帯を見切ればどうという事はないんだぜー!

 そう…動きが鈍ったと見せかけて…

 お前は次に、力を溜めて突進攻撃を敢行すると分かってるんだぜ!



 ドッズゥーン………。



 予想通りなんだぜー。

 力を溜めてるのがバレバレだったんだぜー。

 弾丸のような速度だったけど前準備からの攻撃へ転じる速度がまだまだなんだぜー。

 念の為タマゴに籠ってのバネ移動で綺麗に避けれたんだぜー。


 ほーれー。まだまだヨルンさん。余裕があるんだぜー?


 振り向いた瞬間に毒液ぶち込んでやるぜー。

 お口を開けた瞬間に毒液ぶち込んでやったぜー。


 ほれほれほーれぇー!


 また体当たりですかーい。

 余裕で避けてやるぜー!

 タマゴに籠ってー。



 ドッズゥーン………。


 ドッズォーン………。


 ドッゴゥーン………。



 避けるまでもないんだぜー?

 こっちが見えてないんだぜー?

 これはヤバイんだぜー?

 なんでって?



 ドッズゥーン………。


 ドッズォーン………。


 ドッゴゥーン………。



 どこに飛んでくるか分からないんだぜー!?



 ドッズゥーン………。


 ドッズォーン………。


 ドッゴゥーン………。



 うおー。やべぇよ…やべぇよ…。

 あれこれ出したお陰で酔いも冷めて来たんだぜい。

 ふいー、ランダム攻撃は読めないし怖いんだぜー…。



 で、どうしたものか。コレ。

 油断はせずに、魚顔面の突進が当たらぬよう細心の注意を払いながら逃げるモノの。

 これは一種の手詰まり状態ですな。

 エンジンが暴走した止まる様子の無い装甲車をどう収めたら良いのか。


 あれだけの毒液を与えたにも関わらず、未だにその勢いは衰える事を知らない魔物の体力はどの程度残っているのか。

 このまま放置で、もし回復をされたら自分の体力はもう続かないだろう。


 体当たりの時に挟んでいたインターバルも今は一切見受けられず。

 狂ったように闘技場内をピンボールのように跳ね回る巨大なコロコロデブは常時無敵状態のようなものだ。


 …ふむ、どうにかアレを一瞬でも良いから止める方法はないものか?

 …あの体当たりを受けた時は骨を砕かれたかと思う程のダメージに感じましたし。

 …直撃を受けたのならば、即死ものだったのは間違いない。

 …しかし2度もあの体当たりを受けて自分は生きている。


 自然と自分の視線は、尻尾のタマゴへと向けられた。

 この異常なまでの硬さを誇る、生まれながらに持っていた鉄球のようなタマゴ。

 自分が格上であるランクがDの魔物相手にすらここまで善戦が出来たのもコイツのお陰だ。

 体当たりを受ける際に盾として使ったこのタマゴは、傷一つも付いていなければ汚れの一つも付いてない。



 覚悟を決めるか。

 信じよう。自分の魔物として感じる、この絶対的な自信を。

 確信めいた勝利の予感を胸にヨルンは闘技場の中心へ移動する。



 ドッズゥーン………。


 ドッズォーン………。


 ドッゴゥーン………。



 2度、3度とヨルンの傍を猛烈な勢いで通り過ぎていく魔物は追い詰めている側とでも思っているのだろうか。

 良いさ、どこからでも掛かって来るが良い。

 身構えるヨルンに向かい、その転がる角度を修正していく魚顔面のデブ野郎。

 もしかすると雌かもしれない。その時はゴメンナサイ。

 まあ…どっちにしろ。これで勝負が決まる。

 この角度はヨルンへの直撃コースと確認した。



 タイミングを合わせ…ヨルンはタマゴに籠る。



 来る衝撃に意識が一瞬彼方へと旅立つ錯覚を覚えるが。

 これは…やはり。タマゴだけなら問題なく耐え抜ける!

 中へ伝わる衝撃も、ヨルンの覚悟が勝り…続く行動を取る事も可能である!


 気合を込めて突き上げてくれるわ!

 テールハンマーならぬ。テールスピアである!



 ズプリッ…



 ん? んん? あれ? どゆこと?


 何かへ突き刺さり、突き刺さったままに体を引っ張られる感覚を覚え…

 物凄い勢いで壁に叩き付けられたであろう魔物の勢いそのままにヨルンもほぼ同時に叩きつけられましたよ。

 でも、クッションがあったお陰でヨルンへのダメージは軽微です。


 一体どういう状況なんです?

 狙いでは転び石的な状態から突進の勢いを狂わせてやろうかと思ったんですけど。

 考える間もなく痛む体を動かして、視線をぐるりと一回転。



 ちょっと待って下さいな。

 これは酷い。


 ヨルンのタマゴが…

 ヨルンのタマゴが…無いです。

 ヨルンのタマゴが…えーと。見えないです。


 うむ。これは臭い。


 まんまるデブな魔物の尻穴にタマゴがすっぽり収まってしまったではないですか。

 しかも現在進行形で奥深くへ埋まってしまっていってるんですが。



 やべぇ…尻に食われる。



 うわおー、マジやばいです!

 すっごい圧迫されながら穴がピクピクしてます!

 アレですよ。重力に引かれてめり込んでいってる感じですね!

 今の衝撃が原因か、当の魔物が尻穴を天に向けながら気絶してるような状況のようで…

 救いはこれ以上動き回られる事がないぐらいでしょうか。


 でも、なんで自分が尻に招き入れられてるんですか。

 もしかして実は起きていて尻から食らい尽くしてくれるわ!

 なんていう魔物だったんですかコイツ!?


 いくらなんでもイヤすぎる!


 もしかして尻尾だと思ってた部分が実は顔部分で。

 つぶらな瞳とあの大きなお口はフェイクでしたっていう事?

 しかし口臭にしては…ちょいと臭すぎます。これはどう考えても尻ですな。


 うぐぅ…苦しすぎる。物理的に圧迫されて。キツキツなお尻ですよ。

 引き抜こうともがけば少しだけ動けるものの、力を抜くとその分だけまた奥に入っていきます。

 なんですかこのプレイ?


 最低な状況である。なんとか脱出せねば…

 もしも相手が先に起きたとしたら…尻の下敷きになるだけでヨルンさんぺっちゃんこです。


 ええと、こういう時は………逆に考えるんだ。

 奥に入っちゃっても良いさと。



 そんな考えが沸き上がった瞬間に魚類っぽい魔物が起き始めやがりました!

 考える暇なんてない!タマゴの中に退避ぃ!


 ぐぽぉー!


 と嫌な音がしたような気がしますが…ヨルンさん無事です。

 ああ、何をどうしてこうなってしまったのか。

 ヨルンさん。タマゴの中です。それでいて巨大な魔物のお尻の中です。相当に臭いです。



 振動音が響いた事から相手さん起きたようですね。

 出口は閉ざされました…って事ですかい。

 体の作りどうなってんのよ…この子?



 まあ考えがあっての事があるので焦る気持ちより、

 上手く行ったぞしてやったぜの気持ちのが大きいんだぜ。



 こんなお話し聞いた事あります。

 お尻から直接お酒を注入すると酔いの効果は数十倍に膨れ上がる事もあるって。

 勿論、酔うとは言っても、尻からだなんてお酒の味は分かりませんし。

 直接入れる訳だから、出血する可能性だってありえます。

 痔になっちゃうんです? 魔物さんも痔…なんていう状態異常あるんですかね?

 まあそんな冗談はさておき。

 耐性なけりゃ急性アルコール中毒だかで死ぬ可能性だって出てくる訳ですよ。



 上手く行かなかったら…ヨルンさん死んじゃうかもしれませんけど。

 ま、後先考えず行動あるのみですな。


 さあて、ヨルンの毒。受けてみなさいなー。

 遠慮なしにドバドバ出しちゃいますぞー!

 お尻の中でどっくんどっくんしちゃいますぞー!

 ぴゅぴゅぴゅのピューですぞー!



 …

 ……

 ………



 こうしてヨルンは排卵されました。

 もうやだ…こんな対戦。二度としたくない。

 自らの毒と名状しがたい黒色な物体に身を包まれたヨルンは闘技場へ帰還する。


 臭いんだぜ。匂うんだぜ。流石のタマゴもベトベトなんだぜ。

 傍にいるデブ魚からも色々と垂れ流しなんだぜ。

 目から口から変な器官から…多分もう動かないと思うんだぜ。



 戦闘開始時の姿とは大きくかけ離れた魔物が二匹。闘技場に佇んでいる。

 念の為、対戦相手の腹を一発タマゴでぶん殴れば、戦闘時の重厚な音はせずにベチャッという液体音。

 うむ。反応無し…なんとも締まらない結果となったが。



 ふぅ…落ち着いた。

 流石にもう勝鬨…上げて良いよね?

 疲れたよアリエッシュ…

 緊張の糸が途切れたヨルンの意識は天を仰いだままに薄れていくのだ。


 最早、観客の歓声等は耳に入らず。

 自力で外に出る事が不可能となった魔物達は暫くの間放置されるのであった。


 

 後で知ったが、その日の闘技場は史上最悪の臭気を放ち、

 試合という試合は全く機能せずに夜中まで掃除が続いたんだそうな。



   *   *   *

長く酷い戦いだった。

対戦相手の名前、ヨルンさん別に知りませんし気にする余裕も無かったですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ