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やっぱりな

 レオンは確保された。

 研究所で扱われていた改良種と、父の商会を経由した流通経路。

 証拠は揃い、罪は疑いようがなかった。

 国は原因を公表し、回収を命じた。

 しかし、流通したすべてを回収するには至らなかった。


 レオンの取り調べは、すでに始まっていた。

 石壁に囲まれた部屋は静まり返っている。

 中央の椅子に、レオンが座らされている。

 両手は後ろで拘束されているが、表情は変わらない。

「回復薬は作れるのか」

 向かいの男が問う。

「作れますよ」

 あっさりと答える。

「ならば――」

「ただし」

 言葉を遮る。

「与える相手は選びます」

 沈黙。

「……貴様に選ぶ権利はない」

「ありますよ」

 即答だった。

「この国には、最初からあったはずです」

「見て見ぬふりをしていただけで」

 眉が、わずかに寄る。

「……何を言っている」

 低い声。

「……協力する気はない、ということか」

 返答はない。

「……いいだろう」

「方法はいくらでもある」

 一拍。

「その考えが折れるまで、いくらでも」

 レオンは、わずかに笑う。

「では――どちらが先に折れるか」

 誰も、言葉を返さない。

 やがて、扉が閉じられる。


 その影響は、すでに王都へ広がっていた。

 ルーファスは通りの中で足を止める。

 空気が違う。

「……本当なのか」

「異国のやつがやったって」

 視線が、ひとつの方向へ流れる。

 通りの端に立つ男。

 その先にいるのは、細い一重の目の男と、その背に隠れる子供。

「おい」

 呼び止める声。

 足が止まる。

「どこから来た」

 答えない。

「聞いてるのか」

 肩が、わずかに強張る。

 周囲の視線が、重くのしかかる。

「……やめろ」

 別の声が入る。

「まだ決まったわけじゃ――」

 言葉が、途中で止まる。

 誰も、続けない。

「……やっぱりな」

「だから言ったんだ」

「お前たち異人のせいで、こうなった」

 男が、子供の服を掴む。

 誰かが、小さく呟く。

「……出ていけよ」

 誰も、それを否定しない。


 ルーファスは、ただ立っている。

 何も言えない。

 足が、動かない。

 ざわめきが広がる。

 止められない。

 分かっている。

 これは正しくない。

 それでも――何も出来ない。

 ルーファスは目を伏せた。


 通りを抜ける。

 人の流れは乱れていた。

 閉ざされた店。

 外に出るのを避ける気配。


 建物の前に人が集まっている。

 診療所だった。

「頼む、見てくれ」

「家内が……」

 返事はない。

「もう限界なんだ!」

 扉を叩く音。

「無理だ。これ以上は受けられない」

 静かな拒絶。

 誰も動かない。

 ルーファスは視線を逸らす。

 足が動く。


 研究所に戻る。

 中は静かだった。

 整然と並ぶ器具と資料。

 だが――意味はない。

 記録は残されていない。

「……あの男しか、作れない」

 小さく呟く。


 そのとき。 

 ⸻貴方なら

 弱い声が、よぎる。

 ルーファスは首を振る。

「……無理だ」

 吐き出すように言う。

 だが、 

 通りの光景が、離れない。

 閉ざされた扉。

 何も出来なかった自分。

 目を逸らせない。


 ルーファスは息を吸う。

「……それでも」

 指が、動く。

「やるしかない」

 静かな声。

 机の前に立つ。

 器具に手を伸ばす。

 一瞬、止まる。

 だが、引かない。

 そのまま、手に取った。

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