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同じ花

 部屋に落ちた静けさは、まだ解けていなかった。

 ルーファスは動かない。

 視線は紙の上に落ちたまま、何かを追っている。

「……外的要因」

 ぽつりと呟く。

 その言葉に、アイリスは顔を上げた。

 ルーファスの指先が、記録の上をなぞる。

「体質でも、年齢でもない」

「外から受けた何かで、発症している」

 淡々とした声。

 だが、そこには確かな手応えがあった。

 紙を一枚、引き寄せる。

「……その花」

 視線は上げないまま、問う。

「どんなもの?」

 アイリスは一瞬だけ言葉を探す。

「……蔓があって」

「丈夫で、編みやすいの」

 指先を軽く動かしながら、思い出す。

「母の故郷の花で」

「祭りのときは、みんなそれを使ってた」

 一度、言葉が止まる。

「……でも」

 少しだけ眉を寄せる。

「前から使ってたはずなのに」

「こんなこと、なかった」


 ルーファスの手が、わずかに止まる。

「……けど」

 短く落ちる。

 それ以上は続かない。

 紙をめくる音が響く。

 別の記録へ視線が移る。

「王都で使われている香りの材料」

 書き留められた項目を、指でなぞる。

「似た特徴のものがある」

 静かに言う。

「同じ系統の植物が使われている可能性がある」


 その言葉に、空気がわずかに変わる。

 アイリスの指先が、かすかに震えた。

「……それって」

 声が揺れる。

「私が……?」

 言い切れない。

 けれど、その先ははっきりしていた。

 ルーファスは顔を上げない。

「まだ仮説だ」

 短く言う。

 否定もしない。

 肯定もしない。

 ただ、事実だけを置く。

 紙をめくる音が、再び響く。


「それに……」

 その手が止まる。

「説明が足りない」

 低く呟く。

「全身に出ている症例がある」

「年齢の偏りもない」

 視線が記録の上をさまよう。

「花だけでは、説明できない」

 思考が、そこで引っかかる。

 沈黙が落ちる。


 アイリスは何も言えなかった。

 胸の奥に、重いものが沈む。

 もし、それが原因なら。

 母の故郷の花が——

 自分が編んだ腕輪が——

 考えたくもない想像が浮かぶ。


「……もう一つ」

 ルーファスが静かに言う。

「要因があるはずだ」

 視線は紙の上のまま。

 まだ届かない。

 けれど、確実に近づいていた。

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