9 その後のこと
春の推理2024にエントリーして連載しています。
中学生男子が主人公の推理物です。
語り手は代田弾、中心人物である園山雪人『ユキ』の親友です。
ユキからだけ『DD』と呼ばれています。
後2話で完結です。
最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
校舎に戻り指導室に拓斗先輩を送り届けてから、保健室に行った。
あかねは肩をぶつけていたが、通院が必要なほどではないらしく、念のため保護者に連絡をすると言われて、ベッドで横になっている。
その時、B組担任の田中とD組担任の井上先生、そして1年担任らしい山本先生が来た。
七瀬さんは山本先生と保健室を出て行って、井上先生はあかねのケガとまいの様子を確認してから、話を聞くのは田中に任せることになったようで出て行った。
5時間目の予鈴が鳴った。
5時間目は国語だったっけ。
さぼりでいいのかなとぼんやり考えた。
「さて、話を聞かせてもらえるかな?」と田中が言った。
まいが中心になって話し始めた。
「1年の図書委員の七瀬ちゃ……さんが3時間目が終わった時にクラスに来て、相談したいことがあるから昼休みに体育館の舞台のところまで来て欲しいって言ったんです。
おかしいなとは思ったけれど、七瀬ちゃんの様子が変だったので気になって。
あかねが一緒に付いてきてくれるというので弁当を急いで食べて、体育館に向かいました」
まいがあかねに確認を求めるように見る。あかねが頷き、まいが続ける。
「体育館に行くと扉が少し開いていたので入りました。
でも誰もいなくて、あかねと一緒に舞台の方に行って、舞台に上がって『七瀬ちゃん?』と呼んだ時に舞台の袖から紗枝先輩と拓斗先輩が現れて、捕まって奥の倉庫の方へ連れていかれました。
あかねはその時まだ舞台に上がってなくて、私を助けようとすぐ追いかけてきてくれました。
紗枝先輩はスマホを構えていて笑ってました。
そして、拓斗先輩に指示を出していました。
拓斗先輩は嫌がりながらも従ってたみたいな感じで。
私を助けようと拓斗先輩をつかんだあかねが突き飛ばされて壁にぶつかって。
その時、代田君と園山君が来てくれて、助けてくれました。
そのすぐ後から三上先生と近藤先生と図書委員の圭先輩と七瀬ちゃんも来てくれました」
「なるほど」
田中はメモを取りながらまいの話を聞き、「今井は他にないか?」と言った。
「まいの言った通りです」とあかねも答える。
田中は俺達の方に向いて言った。
「で、なんで体育館に行ったんだ?」
ユキが口を開いた。
「昼休み、DD……えっと弾と近藤先生のところに行きました」
「うん、今朝、代田にメモを渡したから覚えてる」
「はい、それで相談している時に圭先輩と七瀬さんが知らせに来てくれたんです。大場が体育館に紗枝先輩から呼び出されたって」
「どうして、お前たちに知らせるんだ?」
「……棒倒しの丸太のこと覚えてますか?
あれ、実は長縄で倒れるように仕掛けがしてあって、先生に報告に行って戻ってきたら、長縄が無くなっていたんです」
「……なんでその時に言わないんだ」
「だって、証拠が無くなってたし……」
「そうか。それで?」
「弾と一緒に調べてみることにして、D組の今井さんと大場さんが協力してくれることになって、そして図書委員の圭先輩にも話をしました。それで圭先輩が気にしてくれてて。
1年の七瀬さんが紗枝先輩に脅かされて大場を呼び出したことを圭先輩に相談したので知らせに来てくれたんです」
「なるほど……。代田は他にないか?」
「ユキの言う通りです。長縄が無くなってて、驚いたけど、どう説明していいかわからなかったから」
「わかった。近藤先生への相談は?」
「事故のことを調べていた時、近藤先生がDDに何かあったら相談しろよと言ってくれてたから、話を聞いてもらっただけです。昼休みに近藤先生に相談することは圭先輩にも伝えてあったので、すぐ知らせてくれたんです」
ユキが俺の代わりに答えた。
「そうか、3年の方の話も聞いてるから、それと合わせてまた連絡する。内容によっては保護者にも連絡するからな。6時間目から代田と園山は教室に戻れ。
今井さんと大場さんは井上先生と相談して6時間目はどうするか決めなさい。
保護者に連絡して早退してもいいし。
先生、5時間目が終わるまでよろしくお願いします」
田中は最後に保健室の先生にお願いすると出て行った。
俺は小さな声で「脅迫状のことは言わないのか?」とユキに聞いた。
「儂達から言わない方がいい。たぶん、誰も言わないと思う」とユキも小さい声で囁いた。
そうか、脅迫状から始まって、ここまでたどり着いたのに、その脅迫状がないことにされるなんて、なんか変な感じがする。
ユキと俺は教室に戻った。
あかねとまいも、ふたりで相談しすぐ教室に戻った方が変な噂になりにくいだろうと判断したそう。
下校時に田中と井上先生に呼ばれて国語科準備室に寄る様に言われた。
教室の掃除後、行ってみるともうあかねとまいは来ていて井上先生と田中と話していた。
田中が「おっ来たな!」と言って椅子に座る様に促してくる。
「お前達2年の話と1年の話、3年の話が大体あっていることがわかり、今、今回の首謀者というか3年のふたりの保護者を呼んでいるところだ。
スマホの動画データもある程度まで確認でき、お前達が言っていた事故の長縄のことも確認できた。
が、このことは事実がはっきりするまでは口外しないでもらいたい。
こちらで調べて、ちゃんと処分が決まったら報告するから」
最後の方は歯切れが悪い感じで、なんとなく言葉を濁している感じがした。
「親へは連絡行くんですか?」とユキが聞いた。
「今井さんの保護者には3年のトラブルに巻き込まれて肩をぶつけたこと。
大場さんの保護者にも3年のトラブルに巻き込まれて怖い思いをしてしまったこと。
どちらの保護者にも5時間目は大事を取って保健室で過ごしたことは電話で伝えました」
井上先生が言った。
田中が「必要なら代田と園山の保護者にも連絡するがどうする?」と言った。
ユキがちょっとびっくりした顔をした。
「えっ、自分で選べるの?」
「まあ、お前らはケガはしてないし、怖い目にも合ってないだろ?
園山、丸太の事故がお前を狙ったということがはっきりすれば報告することになると思うが、今のところはどちらでも」
「報告なしでいいです!」とユキ。
「俺も報告しないでいいです!」
俺もあわてて言った。
4人で昇降口に向かい、なんとなく一緒に下校する。
「脅迫状のこと話に全く出なかったな」
俺が言うとユキは頷いた。
「うん、たぶん知っている人は誰も言わないんだと思う。
儂達4人も言わないし、圭先輩ももちろん言わないだろうし、紗枝先輩と近藤も……言わないだろな。
拓斗先輩と七瀬は知らないし。知ってる海人の名前は出てないしな」
「でも、なんで俺の所だったのか引っ掛かってる。紗枝先輩なら、ユキの下駄箱の場所ちゃんとわかってそうなのに……」
「私、わかる気がする」とまいが言った。
俺もユキもあかねも、立ち止まり、まいをびっくりした目で見つめる。
「やだなあ。みんなでそんな目で見ないでよ!」
まいはちょっと赤くなりながら説明を続けた。
「たぶんだけど、ユキの所に脅迫状が入っていても、全然騒がなそうだよね。冷静に誰にも言わずにスルーしちゃうと思う。
弾の所に入れれば、ユキに相談するだろうし、ユキも弾のために動くと思ったんじゃない?」
「……確かに最初から儂の所だったら、丸めて捨ててるかもしれん」
ユキが感心したように言った。
「どうせ俺はなんでもユキに相談しますよ」
俺が言うとみんな笑った。
「儂の親友だからな。でも、これからは儂も相談するよ。
これで一応、謎解きは終わったと思うけど……。
儂、今は本当にあかねとまいが仲間になってくれて良かったと思ってる。ありがとう。
……ただ、呼び出されてふたりが体育館に行ったと聞いた時、儂、本当に焦ったかんな。
あんなに焦ったのは今までにない。寿命が縮んだ気がする……」
「あー、ユキの焦った顔見てみたかったな!」
まいが明るく言った。
「あ、まい、おにぎりありがとな。うまかった」
ユキがおにぎりのお礼を伝えているところで、ユキと別れる場所に着いた。
「じゃあ、明日!」と俺が言うと「私、明日は図書委員のカウンター当番!」とまいが言い、「儂部活」とユキが言った。
「私と弾も部活だけど、私は明日は念のため部活休んで図書室にいようかな」とあかね。
「じゃあ、明日もみんなで一緒に合流して帰ろうか!」とユキが言った。
ユキを見送ってから、まいが言った。
「謎解きは終わっちゃったけど、このまま友達になれたのかな?」
「うん、いいんじゃね。ユキもふたりに感謝してたし、まいのおにぎり、めっちゃ喜んでた」
「ほんと!! うれしい! 良かった!」
まいと一緒にあかねの家まで行き、送り届けてから、俺とまいは別れてそれぞれ家に帰った。
金曜日の朝、いつもの時間に家を出るとあかねとまいがいた。
3人で歩いて行くとユキの背中が見えた。
俺は「ユキ、おはよー!」と駆け寄る。
ふたりが後ろから一緒に付いてくるのがわかる。
ユキはいつものように立ち止まって待っていてくれる。
こんな感じに登校も下校も4人で一緒ということが、とりあえずしばらくは続くんだろう。
学校に登校すると、俺とユキは田中に呼ばれた。
あかねとまいも井上先生に呼ばれている。
あの後、保護者立ち合いで紗枝先輩のスマホのデータを確認して、今回の丸太の事故が事件だったこととまいとあかねに対する暴行未遂(いや、あかねは突き飛ばされてるけどな)がわかり、紗枝先輩と拓斗先輩は今日は登校せずに家で謹慎ということになったとのこと。
来週からもしばらくは登校しても校長室や指導室で過ごすようにするとのことだった。
「ふたりから謝罪があったら受けてくれるか?」と聞かれた。
「はい」とユキが答える。
「後……このことは口外しないように、頼むぞ」
「学校としては謝罪して、おしまいにするつもりかな?」
ユキが呟いた。
教室に行くとクラスのみんなが「近藤先生が学校辞めるらしいぞ」と話していた。
「やっぱばれたか! 自業自得だよな」とユキがちょっと悪そうな表情でニヤリとした。
「そういや、3人目の口止めした人って、近藤先生?」
「そう、向こうが口止めしておきながら『あのことを誰かに話したら殺してやる』っていうメッセージを儂からだと思うなんて変だよな……」
読んで下さりありがとうございます。
次で完結です!
中編ぐらいの長さでしょうか?
今日、初めて完結したものを息子が読んでくれました。
(いつもの作品はちょっと読ませられない!!)
line→LINEにしろ!と言われましたので、LINE表記に直しました。
最後まで読み終えたら、ぜひ評価ポイントをつけて頂けるとうれしいです。
よろしくお願いします!