10 ラストシーン(圭視点) 《完》
春の推理2024にエントリーして連載していましたが、これで完結です。
中学2年生男子が主人公の推理物でした。
最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
美術室で絵を描いているオレに1年の海人が声をかけてきた。
「圭先輩まだやっていきますか?」
「ああ、もう少し描いてく」
「じゃあ、俺はこれで上がります。失礼します」
俺は美術室を出て行く海人に軽く手を振って見送った。
ひとりきりになると、自然にあの出来事の後のことが頭に浮かんできた。
近藤は紗枝との交際がばれ、懲戒免職。
紗枝はあの後、一度も登校せず、結局、転校していった。
拓斗はしばらく指導室登校をしていたが、2年の4人に謝罪して、今は普通に登校してきている。
紗枝にそそのかされて脅かされてたということも考慮されたんだろう。
さて、もう少し描きこみをと思った時、美術室に人が入ってくる気配がして出入り口を見る。
ユキが立っていた。
ユキは2年の4人のうちのひとり、一番中心にいた図書委員の男子だ。
オレと紗枝が一時期付き合っていたことも、その後、近藤と紗枝が付き合っていたことも、そしてオレが近藤にいたずらで脅迫状めいたメッセージを作って送ったことも知っている。
ユキはオレと目が合うと微笑んで美術室に入ってきた。
しかし、少し離れた場所で立ち止まった。
こいつ、オレの全身を観察している。
オレの感覚が注意信号を出しているがそれを気取られないように、いつもの『いい人の圭先輩』を意識して声をかける。
「ユキ、どうした?」
「圭先輩、いろいろあったけど……、結局、圭先輩の思い通りになって良かったっすね」
「思い通りって……なんだよ?」
「思い通りじゃないですか。
圭先輩は、近藤と紗枝先輩が付き合っていることを、自分の手を使わずにばらしたかったんでしょ?」
「何を……」
「『あのことを誰かに話したら殺してやる』というメッセージ。
変だと思ってたんですよ。
あれ、最初から圭先輩が疑われないように、もしばれても、いたずらだったで済ませられるように考えられた文面だったんですね。近藤に対してなら、圭先輩の立場と全く逆の言葉です。
儂と海人に自分が作ったとすぐ認めたことも違和感があったし……。
素直にカミングアウトすることで、いい人の圭先輩を、後輩が守ってくれることも想定内だったんでしょ?」
オレはユキをじっと見た。
これは俺を試しているのか?
それとも、もう知っている?
オレはもう少し知らないふりをすることにする。
「何のことだ?」
「脅迫状を受け取った近藤が紗枝先輩に見せることを想定して、紗枝先輩に接触してミスリードさせたんですね」
「……紗枝と話したのか?」
思わずそう言ってしまっていた。
紗枝がユキに執着していることに、オレは気が付いていたからだ。
ユキがその気になれば紗枝と会うことは可能だろう。
「いえ……、これは儂の妄想です。でも、合ってたみたいですね。
近藤が脅迫状を儂が作って送り付けたと思っていたこと、紗枝先輩に説明を求めたらわけがわからないことを言い出したから別れたと言っていたこと。……誰かが何かを吹き込んだんじゃないかと。
どう考えても圭先輩しかいない。
圭先輩も知ってるじゃないですか。儂が紗枝先輩を本当に嫌がっていたこと。
儂の周囲から紗枝先輩を排除する結果になったことは感謝してるんです。
でも、圭先輩が裏で動いていることに気が付かず、まんまと巻き込まれて、儂だけじゃなく、大切な友達を危ない目に合わせたことはまだ許せません……」
オレはちょっと笑った。
「友達? 周囲の奴らなんてお互いを利用し合うことしか考えてないだろ?」
ユキは一瞬目を見開きオレをじっと見て言った。
「だから、先輩には本当に親しい友達がいないんですね……」
「ひでえな。本人に向かって言う言葉じゃねえぞ。
ただ、そうだな。それは合ってる。でもひとりは本当に楽だぞ。お前にもわかると思うけど」
「はい、それはわかります……」
「……やっぱりオレ達は似た者同士だな」
「いや、儂は先輩とは違う! ……!」
ユキが何かを言いかけて、黙る。両手をぎゅっと握りしめている。
何の言葉を飲み込んだんだろう。
「なんだ?」
オレは問いかける。
ユキは決意したようにオレを見ると言った。
「今回の脅迫状のことは誰にも言いません。
儂以外に知っている人も、儂が言わない限り、口にしないと思います。
だから、もし、その人達に何か起きたら、儂は先輩を疑って、……戦いますよ」
「……さあねえ。先はどうなるかわからないけど。
あと半年、卒業するまでお互い無事でいたいもんだな……」
ユキは頷いて美術室を出て行った。
オレはもう一度、絵に向き合おうとしたが、どうしても描き続ける気になれず、頭を振って立ち上がり、片付け始めた。
美術室の窓から、校庭が見え、2年の4人が仲良さそうに校門へ歩いて行くのが見えた。
ユキの表情が、オレと話していた時と同じように微笑んでいるのに、オレの前とは違って、安心しているように見えた。
「『あのことを誰かに話したら殺してやる』か。
心当たりがありすぎる奴なら、近藤のようにひとりで疑心暗鬼になって自滅していくんだけどね。
お前の性格を深読みしすぎたか……。
代田じゃなくて、お前の下駄箱に直接入れた方が本当は効果があったかもしれないな……」
オレはそう呟いてから、カバンを持つと美術室を後にした。
《完》
無事に完結しました!
初めての推理物でしたが、中学生の楽しい、かわいい、わちゃわちゃな会話が書けて楽しかったです。
最後は圭先輩とユキのふたりきりの対決を書きたくて。
でも、ユキ視点は違うなと思い……。
結局、圭先輩視点になりました。この後、卒業まで圭先輩が何もしてこないのを祈ります。
最後まで読み終えた時、評価をつけて頂けたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします!




