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謀婚  作者: 樫本 紗樹
四章 恋心と陰謀
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現状把握講座

「隊長、目を通して頂きたい書類をお持ち致しました」

 カイルは手に持っていた箱を机の上に置いた。その中には書類が山と積まれている。ジョージは嫌そうな顔をした。

「もうそんな時期か」

「秋ですからそのような時期ですよ。王宮に戻る前に出来るだけ片付けて頂けると助かります」

「何?」

 ライラは箱の中を覗かずに尋ねた。

「査定書類」

「査定? まさか赤鷲隊隊員全ての査定をジョージが一人でするの?」

「流石に俺一人で全員は査定しないよ。少佐がまとめたのを確認するだけ」

「だけと言える量ではないわよね?」

 箱の中を覗いていなくとも、カイルが置いた時の音で書類が多そうなのは予想出来た。

「少佐は俺が見るし、黒鷲軍も入ってるから。あとから青鷲と海軍も来る。最終決定権は俺が持ってるから」

「そう、大変なのね。頑張ってね」

 ライラはにっこり微笑んだ。それをジョージは冷めた表情で受け止める。

「心がこもってない応援をありがとう」

「仕方がないでしょう? 私は手伝えないもの。肩もみくらいなら出来るけど」

「ライラ様には別の事をして頂きますから」

 ライラはカイルの方を見た。彼は微笑を浮かべている。

「難しい事ではありません。ライラ様の理解力が高いとはいえ、私達の話だけで全てを理解するのは難しいと思うので、一度頭の中を整理して頂きたいのです」

「確かに俺達には当たり前の話でも、ライラにとっては知らない事ばかりだからな」

 口を挟んできたジョージにカイルは冷たい眼差しを向けた。

「隊長はこちらに構わず書類に目を通して下さい。邪魔なようでしたら別の部屋に移動致しますけれども」

「ここでいいよ。流石に横だとやり難いから椅子は移動して」

 ライラは立ち上がると椅子を持ち上げて入口の方に置いて腰掛けた。カイルもその前に椅子を移動させて腰掛ける。

「それで、どうしたらいいの?」

「現状ライラ様の理解している事を教えて下さい。隊長は端折る話し方をされますので、時に矛盾を感じる事もあるでしょうから」

 ライラは頭の中の今まで聞いてきた話を思い出していた。ジョージに小出しにされた話は確かに上手く一本になっていないかもしれない。

「順序立てて話を聞いたわけではないから、どこから始めていいのかわからないのだけど」

「今がどのような状況か、それで結構です。そこに至るまでの背景までは求めていません」

「つまり帝国とレヴィの関係、レヴィ内の構図、その辺り?」

「えぇ」

「レヴィは帝国と戦争はしたくない。でも親交を深める気もない。帝国も戦争はしたくない。しかしレヴィが欲しい。この帝国の真意はわからないわ」

「ガレスと帝国は国交がありますよね? 貿易の内容は御存知ですか?」

「えぇ。帝国は自給率が低くてガレスは小麦を輸出していたわ。そうか。帝国の南西部にある公国が独立して帝国内の農地が少ないから、農地が欲しいのね?」

 ライラはジョージと青鷲隊隊長の会話を思い出していた。小麦の収穫を確認していたのだから公国には小麦畑があるはずだ。

「えぇ。公国の亡命者の話から想像するに、帝国では小麦の収穫がない可能性があります」

「そう言えば帝国の使者がガレスに来ていたわ。人口が増えて賄えなくなったから輸入量を増やしたいと。人口が増えたというのは嘘だったのね?」

「実際人口の増減までは把握出来ていません。ただ小麦が少ないのは間違いないでしょう。ガレスは輸出量を増やしたのですか?」

「確か据え置きだったはず。休戦協定締結前の話だもの。いつ戦争が悪化して畑が焼かれるかもしれないのに、いくら積まれても他国へ余分に出すわけがないでしょう?」

「その辺は帝国の考えが少し浅はかなのですよね。お金を出せば買えると思っているのでしょうが、毎年収穫出来る保証はありませんから。戦争がなくとも天候には抗えませんし」

「帝国は国内に宝石鉱山があるからお金には困らないでしょうけど、確かに帝国へ行った時に麦畑はあまり見かけなかったわね。放牧や野菜畑は見かけたけど」

「帝国は北方に加え標高も高いのです。ですから小麦が育つ地域が限られているのです。大麦は麦酒用のようで主食としては育てていないようです」

「そう言えば帝国でエールを振る舞われたわ。あの苦いのは好めなかったわね」

「帝国では葡萄も育ちません。ですから葡萄酒は作れないのですよ」

「山脈一つ越えるだけで随分と違うのね」

「あの山脈があるのでレヴィやガレスは雪が少ないのです。帝国の冬は厳しいようですよ」

 淡々と答えるカイルにライラは感心した。

「そうなの。カイルは何でも知っているのね」

「ライラ様がルイ皇太子殿下に求婚されていた事は知りませんでしたけれど」

「その話は忘れて」

 ライラが不機嫌をあらわにしたのでカイルは頭を下げた。

「失礼致しました。もし宜しければ帝国での食事を教えて頂けませんか? 豪華絢爛だったのではと想像致しますけれども」

「晩餐会の時、表面に火を通したお肉の塊がテーブルの中央に置いてあって、それを目の前で切って野菜が添えられていた皿に取り分けてくれたのだけれど、最初から切って焼いたのを配ればいいと思ったわ」

「それは国の違いが分かって面白いですね。大きな肉の塊を用意出来るというのが権力の誇示なのでしょう。レヴィで同じ事をすれば下衆扱いですが」

「ガレスの参加者も内心皆呆れていたと思うわ。ソースも深みがなくて、全体的に味が濃いだけだったの。正直美味しいかと言われると困るものばかりだったわ」

「公国の味付けがあれなので、帝国もそうかもしれないとは思っていたのですが」

「舞踏会で食べたのはもっと薄味だったわ。料理としては別だけど、どちらも出汁がないのよ。だから美味しいと感じないの。不味くない、その程度」

「はっきり仰いますね。しかし公国の味付けには慣れて頂く必要があります」

 カイルの言葉にライラが顔を歪める。

「料理長はジョージに帯同するから、焼き菓子がなくなるだけでなく食事も不味くなるのね?」

「言葉は選んで下さい。王宮内で作っているのですから」

「王宮内の料理長はそれでいいと思っているの? 信念はないの?」

「王妃殿下の命令に背けるほど王宮料理長の立場は強くありませんから」

「美食大国が聞いて呆れるわ。外国の要人が来たらどうするのよ?」

「その時はレヴィの料理が振る舞われますよ」

 カイルの言葉にライラは驚きの表情を向ける。

「私の料理が最初からレヴィの料理だったのは要人扱いをしてくれていたという事?」

「それは最初から赤鷲隊料理長の料理です。勿論ライラ様が要人である事に違いありませんが」

「カイルの指示という事?」

「俺の指示だよ。王宮の料理は不味いってサマンサから聞いてたから、印象悪くしないようにね。食事が不味いと気分も下がるだろ?」

 ジョージが書類に目を通しながら口を挟んだ。結婚に前向きではなかったジョージではあったが、流石に見知らぬ王宮に嫁ぐ女性に美味しくない食事を提供する事には抵抗があり、これだけは指示していたのだ。

「サマンサは王宮の食事を不味いと言いながら食べているの?」

「いや、貴族達の晩餐会に出席してそこで食べてる。ライラもそうしたら?」

「無茶を言わないでよ。それなら帰り道で調味料を買って帰るわ。薄味なのだから何かかければ、ましになるはず」

「それなら皿も別に買った方がいいよ。ソースがかかってると王妃の侍女に見つかったら面倒になるかもしれないし」

 ジョージの話にライラはため息を吐いた。

「王宮に帰るのが憂鬱になってきたわ」

「ここに残すわけにはいかないから絶対に連れて帰るからね?」

「わかっているわよ。料理長の料理を今夜からより味わって食べるわ」

「隊長は口を挟まないで下さい、進まないではありませんか」

 ジョージは元々脱線したのはカイルの方だろと言わんばかりの視線だったが、カイルはそれを冷たい視線で返した。

「とりあえず帝国は小麦が欲しい。それで独立した公国を取り戻したいわけね?」

「えぇ。公国は小麦の産地です。独立後でも小麦を納めていたらしいのですが、その量で揉めて今は納めていないようで、奪わないと手に入らないという状況ですね」

「だけど農民が亡命しているから次の小麦を植えられないのではないの?」

「そこも大きな問題です。農地は一度放置されると戻すのが大変です。早く帝国との争いを片付けて公国で小麦を作ってもらわないと、今度は公国から小麦の要請が入るでしょう。こちらは王妃殿下の出身国とあって無下には出来ません」

「レヴィには小麦がたくさんありそうな気がするけど」

 焼き菓子が低価格で庶民でも手に入るのだ。それに必要な小麦や砂糖などは安く入手出来なければおかしいとライラは判断していた。

「えぇ、ありますよ。しかし小麦が値上がりするのは避けられなくなります。国民の生活に響く状況になる事は避けなければいけないのです」

「ジョージとカイルはそこまで考えて、帝国と公国の揉め事を見ていたのね。他国だからと傍観は出来ないのね」

 ライラは真剣な表情で頷いた。ガレスにいた時に外交官をしていたと言えども、他国の内情まで彼女は考えた事がなかったのだ。

「ガレスでしたら傍観も出来るでしょう。レヴィには王妃殿下とナタリー様がいらっしゃいますので、傍観は難しいのです。亡命者が出始めてしまった事で口を出せる立場にはなりましたが、それも慎重に対応しないと帝国と争う事になりかねませんし」

「そういう事に王妃殿下やナタリー様が働きかける事はあるの?」

「戦争に関してはないと思います。輸出量を増やせと言う事に関しては口を挟むかもしれませんが」

 カイルの言葉にライラは首を傾げた。

「そうなの? 戦争に発展しそうになったとしても嫁いでいるから言い難いという事?」

「いいえ。貴婦人は戦争など興味を持ちません。王宮内でライラ様がその話をされたら、皆様変わり者の姫が何か言っているくらいにしか思いません」

「そう。立場があっても興味を持たないのね。国が傾くかもしれないのに気にならないなんて、私には不思議だわ」

「それは男の仕事だと割り切っているのでしょう」

「やはり私に施されている教育はおかしいのね。王宮での振る舞いを考えないと」

 ライラは幼い頃より語学だけでなく政治経済など多岐にわたる教育を施されてきた。そして彼女はそれが当たり前なのだと思って受け入れていたのだが、どうやら特殊な環境だったようだと思い始めていた。

「別にそのままでも宜しいですよ。隊長も変わった人で通っていますから、その妻も変わっていても仕方がない、くらいで済むと思います」

「ジョージは変わった人扱いなの?」

「貴族が隊長の仕事をわかるはずがありません。王宮にいない王族らしくない王子という認識です」

「それでも赤鷲隊隊長と知っているのでしょう? その役割はレヴィ国軍総司令官だと私は思っていたのだけれど、違うの?」

「いいえ、それであっていますよ。しかし王宮で戦争の件を把握しているのは国王陛下とエドワード殿下、そして一部の政治家のみです。王都から出た事もない貴族達にとって、私達が何をしているかなど興味はないのですよ。しかしそれこそが隊長の狙いなのでこれでいいのです」

 ライラはジョージの方を見た。彼は相変わらず信じられない速さで書類に目を通している。集中しているのか、こちらの話は聞こえていないようだ。

「ジョージはわざと軽んじられているの? 動きやすいように?」

「国の事を考えない人達にはどう思われてもいいそうです。レヴィの為に働く気がある人には、隊長が何をしているのかわかりますし」

「それで軍事関係でない書類が届いたりするわけね?」

「そうですね。地方役人からしてみれば王族なんて会う事のない人達です。しかし隊長は必要と思えば自ら会いに行かれますから」

 地方役人なら王族が来ると言うだけでどう対応していいかわからないだろう。しかしジョージは見た目が王族らしくない。それが却っていいのかもしれない。立場上の振舞いはするだろうが偉そうな雰囲気は出しそうもない。

「赤鷲隊隊長はなかなか奥が深いわね。ジョージには適任かもしれないわ」

「えぇ。ですからライラ様も是非赤鷲隊隊長夫人として振る舞って下さい」

「わかったわよ。小麦の件で戦争が起こるかもという話よね?」

「かもではなく、近日中に動く必要性が出てくると思います」

 ライラはカイルを見た。彼は真剣そのものだ。帝国は戦争したくないのだと思っていたが、したくなくてもしなければいけない程食糧難なのかと彼女は思った。

「冬は戦争に適していません。動くなら秋のうちです。そうなると時間がないのです」

「帝国が一気に攻めて公国側の小麦畑を占領した場合、レヴィはどう動くの?」

「公国の要請がない場合進軍は出来ません。しかし青鷲隊砦の国境付近を帝国が占領するような事になれば、国境を侵さないよう対応に迫られるでしょう」

「そこから帝国がレヴィに進軍する可能性は低いのではないの?」

「しかし可能性が少しでもあるのならば防衛をしなければなりません。青鷲隊だけでは到底足りません。赤鷲隊だけでなく黒鷲軍からも引き連れていく必要があります」

 ライラはジョージとここまで来る道を思い出していた。もしかして黒鷲軍団基地から青鷲隊砦への道を確認していたのかもしれない。

「レヴィ国軍は赤青黒の三隊なの?」

「陸軍はそうです。他に海軍があります」

「何故黒鷲だけ軍なの? 青鷲は隊でしょう?」

 軍と言えば何万という兵士がいるはずだ。隊だと多くても千人ほど。陸軍で何故黒鷲だけ軍なのがライラにはわからなかった。

「元々は赤鷲隊と黒鷲軍しかなかったのです。公国が出来て帝国と揉めだしてから、砦に張り付く隊が必要だろという事で青鷲隊を創設したのです」

「では黒鷲軍は国内の至る所にいるの?」

「えぇ。帝国との国境の山脈の方にも詰めていますよ。定期的に隊員は異動しています。ちなみに各町を守っているのは赤鷲隊と黒鷲軍の混成です」

「そういう事。ありがとう。隊なら千人くらいでしょうから、帝国と対峙するには確かに足りないわね。もし必要ならガレスに釘をさすわよ。まず攻めてこないでしょうけど」

 ライラの提案にカイルは首を横に振った。カイルはブラッドリーが報告した、ガレスは自ら攻めてこないというのを受け入れていた。歴史を振り返れば確かにガレスから攻めてきた事がない。それなら余計な事はしたくなかった。

「攻めてこないというのでしたらそれで結構です。余計な書簡はない方が宜しいですから。それにガレスの軍隊が引き揚げているのは確認出来ていますし」

「そういえばガレスの総司令官は私を王都で見送りしてくれたわ」

「総司令官と面識があるのですか?」

 カイルは怪訝そうな顔をした。総司令官は騎士階級であるはずなので、公爵家の人間と接点を持つとは思えなかった。

「父の古い友人なの。家族ぐるみで仲良くしていたわ」

「その関係で軍関係の話を聞く事もあり興味を持たれたと?」

「実家で三人はよく話していたから聞こえてはいたわね」

「三人?」

 カイルの質問にライラは笑う。

「えぇ。母を含めて三人。母は表に出ないだけで、父をずっと支えていたわ。だから夫婦はそういうものだと思っていたのだけど、これがそもそも一般的ではないのよね?」

「そうですね。普通は女子供の前で政治的な話はしないでしょう」

「でも父はよく議会で保留にして、母と相談してから答えを出していたの。母がいなければ外務大臣なんて役職には就けなかったと思うわ」

「それはさぞかし優秀なお母様なのでしょうね」

「母は女性でなければ立派な政治家になれたと思うわ。だから私が父の仕事を手伝う事になった時も、一番喜んでくれたの。その時に指輪印章をくれて、今でも大切なお守り」

「ちなみにそれは百合ではないですよね?」

「オリーブの花だけど、百合だといけないの?」

「それでしたら今後も使っていただいて結構です。百合はレヴィ王家女性の封印になりますから、今はサマンサ殿下しか使用が認められておりませんので」

「それなら王妃殿下やナタリー様は何を使用されているの?」

「これが偶然なのかわざとなのか、お二人とも薔薇なのです。模様は違いますが」

「薔薇はよくあるから仕方がないわね。男性は皆鷲なの?」

「えぇ。そちらも個々に模様が違いますが全て鷲です。レヴィの象徴ですから。軍関係者も鷲を使いますから一見しただけでは誰のものなのか、わかり難いのですけれどね」

 ライラはその言葉にある事を思い出し立ち上がった。

「カイル、見て欲しいものがあるから取ってきてもいい?」

「えぇ」

 ライラは寝室の扉を開け、自分の荷物の中から手紙を一通手に取ると部屋に戻り、カイルにその手紙を渡した。

「その印章、誰のものかわかる?」

「これは?」

「中の手紙も見ていいわ。私が誘拐されそうになった時、男が持ってきたものよ」

 カイルは中の手紙を検めた。カイルの字そっくりに真似てある。そして封印も入念に見た。

「これは隊長の封印に似せた偽物ですね。ライラ様、隊長の文字を御存知だったのですか?」

「えぇ、癖字は知っていたわ。もし知らなくてもそのような内容には引っかからないけどね」

「比較的妥当な内容に思えますけれど」

「本当に手が離せない用が出来たのなら、待機しろと言うわよ。ジョージが知らない男を迎えに寄越すなんて考えられない」

 ライラの言葉にカイルは納得する。確かにジョージが他者を迎えに行かせるとは思えない。王宮を出る前ならまだしも、今のジョージならむしろ閉じ込めておくに違いない。

「あの時、軍団基地内では噂が流れていまして。それを真に受けての手紙かもしれません」

「噂?」

「えぇ。隊長と離れたくないガレスの姫が軍団基地までついてくるという噂です」

 ライラは不機嫌そうな顔をした。確かに離れたくないとは思っているけれど、そのような事を他人に噂される事が彼女には嫌だった。

「誰よ、そのような事を言いだしたのは」

「さぁ? 私は新婚旅行ですとしか言ってなかったのですけれど、どこかで話が変わっていたのですよ。多分隊長が女性を連れ歩く姿を想像出来なくての事なのでしょうけど」

「青鷲隊砦に行った事を言えなかったとはいえ、新婚旅行以外の理由は思いつかなかったの?」

「それ以外で女性が王宮の外に出る理由があるなら是非教えて頂きたいですね」

 カイルの問いにライラは答えに詰まった。そもそも外出許可が下りた事が異例なのである。

「カイルの発言の妥当性はわかったわ。だけどそのような恥ずかしい噂は先に知りたかったわよ。もうどうやって振る舞ったらいいかわからないわ」

「所詮噂は噂です。ライラ様の御好きなように振る舞って頂いて結構ですよ。ウルリヒ殿下だけが混乱しているだけですし」

「その噂を聞いていて私のあの態度を見たから、あのように不満そうだったという事ね?」

 ライラは昨夜のウルリヒの態度を思い出した。彼女の言葉が望むものではないのだろうというのは気付いていたが、あまりにも噂と違いすぎたのが不満だったという事かと納得した。

「そうだと思います。しかしあれはウルリヒ殿下が悪いので気になさらなくて結構です」

「そうね。ところでウルリヒの扱いはどうなの? その帝国側の防衛に連れて行くの?」

「ウルリヒ殿下はあくまで預かっている方ですから、戦場に連れてはいけません。朝練には強制参加となっていますが、実戦はまだ早いかと」

「カイルでもわかるの?」

「わかりません、隊長の受け売りです」

 きっぱりと言うカイルにライラは笑いそうになるのを抑えた。この二人は得意分野ではない事は相手に任せているのだろう。その信頼関係が少し羨ましかった。

「そう。でももし公国と手を組んで戦うのならウルリヒは役に立つのではないの? 彼は公国語を話せるわよね? 青鷲隊には言葉がわかる者がいないと言っていたわよ」

「それでしたら私に公国語を教えて下さい。使う言葉はある程度決まってくるでしょうし、もし私が公国語を話し出したとしても、軍関係者は多分不自然に思いませんから」

「そうなの? 公国語を話す人なんて滅多にいないのでしょう?」

「ハリスン家の人間は何を考えているかわからないと有名ですから。何をしてもハリスン家だからありだろうとなるわけです」

「厄介なのに便利な家門なのね」

 ライラの言葉にカイルは微笑んだ。

「色々と脱線をしてしまいましたね。整理は出来ました?」

「大丈夫。帝国は小麦を狙って公国に戦を仕掛けようとしている。休戦協定はレヴィが公国側に軍を動かす為のもの。帝国が公国を攻めてレヴィとの国境を侵すような事態になった時、赤鷲隊と黒鷲軍は移動する。公国の要請次第では領土奪還協力も視野に入れる」

「対外的にはそうです。次に内部問題ですね」

 カイルは微笑んだ。ライラはまだ続くのかと内心思ったが、これを押さえておかないとジョージを理解出来ないので仕方がないと割り切った。

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