開戦の光弾
新人騎士を示す真っ白な騎士服を、威圧するように向かい風が押し返す。
無残に破壊された街並み。不発弾に寄り添ったボロボロのぬいぐるみ。
人気はなく、声もない。
鼓膜を揺らすのは絶え間ない爆発音と、銃声、撃ち上がる大砲の風切り音。
こんなに寂しい景色の先に、ゴドナーはどんな理想を描いているというのか。
皮肉にも透き通るように晴れた空へ、一筋の光が駆け上った。
「作戦開始の合図だっ!! いくよオリジン!」
『頑張ってね~』
僕の役目は、とにかく無傷でゴドナーのもとに辿り着く事。
少し先には光炎が立ち昇り、腹まで響く咆哮と共に白銀の巨体が宙に舞い上がった。
僅かに光る赤と蒼白の光が、天竜の注意を引きながら、アルデラント軍の前線や敵本陣の反対側まで引っ張って行く。
遠目でもハッキリと見える、大きな氷塊や火柱。
パンチ部隊長とティナさんが注意を引いてくれたお陰で、このまま市街地を突っ切れる!
「待ってろゴドナー。今から行くぞ」
踏み出した右足に、あらん限りに力を込めると、体は風を切りながら順調に速度を上げる。
崩れかけた氷の砦が見えてきた辺りだろうか、雲の切れ間に、再び赤い光弾が尾を引いた。
「赤い光……! 風花さんが見つけてくれたんだ!!」
「ジンさん。風花様が敵将を見付けたようです。私が道を繋ぎます」
「アダムス副団長! ありがとうございます!」
並走していた副団長は一歩のアクセルで一気に追い抜き、着地と同時に地面に剣を突き立てた。
走る足に力を込めると、地響きが体に轟く。
次第に地面がせり上がり、赤い光へ伸びる一本道に変わった。
「ご武運を」
「ありがとうございます!!」
その道に飛び乗ると、郊外へ誘導されていく白銀の巨体が再び視界に入った。
改めて思うけど、やっぱりあの天竜は巨大すぎる。
僕がアストピアで初めて見た幼体の天竜の倍、いや、さらにその数倍はあるか。
砂塵をまといながら戦場を闊歩し、眩しく陽の光を弾き返す白い翼。
走りながら横目で天竜討伐戦の様子を見ていると、急に立ち上がり、こちらへとその顔が向いた。
「えっ!? こっち見てるよね、あれ……」
大きな翼を広げ、咆哮と同時に扇ぐと、少し遅れて突風がぶつかった。
距離がある分風が散って多少は堪えられるはず。
「くっ……。止まって、たまるかっ!」
その風は戦場に散らばった瓦礫を巻き込み、強烈な風塵と化す。
「ッ痛!? くっそ! 体が、重――ッ!」
崩れる姿勢に足がもつれた。
まずいッ――!? 飛ばされる……。
なんとか落ちまいと、手を伸ばした時。
本陣への一本道に沿うように、氷の壁が立ち上がった。
「間一髪ね。まったく、楽勝とは言ったけど、あんたのお守できるほど暇とは言ってないわよ」
青く透き通った壁の向こう側では真っ赤な火柱が立ち昇り、一際大きな咆哮が地面に轟く。
若干十二歳とは思えない風格の背中が、吹雪の残滓を引きながら、小さな白い霧と共に消えて行った。
「ティナさん。パンチ部隊長。……ありがとうございます!!」
伸ばした左手で足元を叩きつけ、英雄たちが築いた道を強く踏みしめ、走り続ける。
ようやく市街地を抜け、せり上がった地面が緩やかに下っていく。
「ジン君、あそこに敵将がいます。待機していた敵軍は粗方始末しました、先へ進んでください」
「風花さん!! わかりま――」
天竜の叫びと同時、赤い火の玉が三つ空を駆けた。
「っ!? 緊急……、ブレス!? ジン君伏せて!!」
「ぅえっ!?」
風花さんは、全力で走る僕を地面に押し伏せ、まとった黒い羽織の中に抱き込んだ。
一瞬の静寂の後、景色が揺らぐほどの轟音と爆風に呑み込まる。
激しく揺れる羽織の隙間から見えたのは、街が宙を舞うという奇怪な光景だった。
枯れ葉のように家が丸ごと押し流され、崩れる間もなく消えていく。
ザラザラとした衝撃は、その通り道を別世界に塗り替えた。
「っく……。なんて威力。あれほど距離があるのにっ!」
「こんなのが直撃していたら……」
想像に容易い。見るからに丈夫そうな建物が、いくつも塵になっているんだから。
ようやく過ぎ去った天竜のブレス。僕と風花さんのいた場所を残して更地へと化してしまった。
「……討伐組の皆さんが心配ですね。すみませんが、私は至急そちらに向かいます」
「わかりました」
冗談じゃない。あの天竜からここまでどれだけ距離があると思ってるんだ!?
目の前にあった景色が全て、あの一息で姿を消した。
「あのブレスの中で生き延びるとは、少々見くびっていたか」
「っ!!」
「あまりにも遅いので迎えに来たぞ? クソガキ」
ついに、悠然と待ち構える男の姿を捉えた。
「ずいぶんやるじゃないか。アストピアの害虫共は。大誤算だ、徹底的に駆除してやらねば」
「ゴドナー。……約束通り、因果の取り立てにきました」




