戦場を歩く女の子
アルデラントにある名も知らぬ市街地。
街一帯が戦場と化し、僕たちの目の前には、幾度となくアルデラントの軍隊が立ちはだかった。
彼らの主力武器である銃や大砲、爆弾を引っ提げ、吹雪の如き弾幕を浴びせられた。
「撃て撃て撃て!! 弾はありったけくれてやれ!!」
しかし、そんな猛攻をものともせず、僕を担いだパンチ部隊長は颯爽と戦場を駆け抜けて行った。
「そこをどけぇ!!」
「ぐあぁぁ――!?」
重そうな鎧をまとった軍人数人が、爆炎を纏う一振りで弾き飛ばされて行く。
燃える斬撃は、相手の使う火薬をも巻き込み、火柱の間を縫って尚も進む。
さすが天竜の捕食者の現役メンバー。実力の桁が違う。まとまった人数が襲いかかって来ようとも、一向に引け劣らない。それどころか、逆に圧倒的とさえ思えてしまう。
こんな力を引っ提げた騎士が、あと六人も僕らの味方なのは、精神的にもかなり頼もしい。
「なんだパンチか……。まだ生きてたのね~。姿が見えないから屍を探してたのに」
聞き覚えのない声に振り返ると、ちんまりとした女の子が歩いてきた。
背丈は僕の胸の高さ位だろうか。亜麻色の髪を撫でながら歩く、そこはかとなく優美な姿。
その少女の姿は、混沌とした戦場でも一際目立っていた。
一見幼い容姿に、少しだけ違和感すら感じてしまう青龍紋を胸に添える騎士服は、何かの記念にと親に着せられた衣装にさえ思えてしまう。
「ん? なんだチビか。お前何人か討ち漏らしてんぞ」
「うるせぇチリチリ頭!! あんたが抜けた穴を必死こいて塞いでやってたのに、なんのお礼もないわけ!?」
「あぁ、はいはい、あいがと~。あとでおやちゅをあげまちゅからねぇ~」
「相変わらずムカつくわね!! この燃えカスのマッチ棒!!」
「んだとチビ助!? 俺は一応お前の上長だからな!? いい加減口の利き方に気を付けねぇと、白虎隊に飛ばすぞコラ!」
「上等よ木炭! あんたこそあたしに口答えできないように今度こそ――」
「ちょ、ちょっと二人とも!? ここ戦場です!!」
「ぐぬぬ……、ふん! 帰ったら砕いて肥溜めに捨ててやるんだから、憶えてなさいよ!!」
口悪っ……。
この人がティナ先輩か。噂通り強烈な人だな……。
「こんなことで怒っちゃうとか、まだまだだなおチビさん。ってお前に構ってる暇はねぇんだよ! なぁ、団長知らねぇか?」
「団長様はもっと先。もう本陣を見つけたって風花が言ってたから、たぶんその辺じゃない?」
可愛らしくもツンケンとした棘を剥き出しにしているのは、天竜の捕食者のティナ・ルミエール。
こう見えても、正体は“天才天竜殺し”の異名を持つ、天竜討伐のエースらしい。
対天竜の出撃数、討伐数はダントツの数字で、あのゴイル団長より多くの天竜を討伐している騎士だ。それでいながら、まだ年端もいかぬ若干十二歳。年下の彼女の方が戦場慣れしてるなんて、驚くやら、情けないやら……。
「なぁチビ、頼みがあるんだが。その本陣まで道を作ってくれねぇか? こいつを敵の大将のとこまで連れてってやりてぇんだが」
「……誰よそいつ」
首をかしげ、僕の顔を確認しながら、眉間を寄せて目を細めた。
ごめんなさい。あなたの眼中にも入らない人間です。
「あの、僕は白虎隊所属のジン・テオドフロールです。お目にかかれて光栄です。ティナさん」
「あら、誰かさんと違って礼節は弁えてるみたいね! でもやだ。あたし疲れたし~。勝手にどうぞ~」
「ったくこのガキャ……!」
十二歳の少女の翻弄に、割と本気で青筋を浮かべているパンチ部隊長。
一方で、そんな上長を尻目に、明後日の方向へ体を向け、ひらひらと手をなびかせているティナさん。
あぁ、こういう育ち方しちゃったんだ……。
きっと大変な子育てだったに違いない。深く同情いたします、親御さん。
「いたぞ! あそこだ!!」
「――ッ!?」
「ん??」
「はぁ、また新手かよ」
またアルデラント軍だ。ここに来るまでにもかなりの部隊との戦闘になったけど、さすがに数が多すぎる。当たり前だが、落ち着く暇もない。
「おい、ガキがいるぞ!?」
「いや、このガキも騎士だ、かまわん! ガキから狙え!!」
「戦場にガキを連れてくるとか、どんな神経してんだこいつらは」
「……おい、呼ばれてんぞ? あ、もうおねむの時間なんだったか?」
どうしてパンチ部隊長まで一緒に煽っているんですか!?
「前・言・撤・回。……うふふ、御機嫌よう、馬鹿そうなおっさんたち。あんたたち、そのガキっていうのと少し遊んで行きなさいよ。そうねぇ、雪合戦とかどうかしら?」
漆黒の笑顔を浮かべながら、右手を頭上に振りかざす。
直後、詠唱もなしに、彼女の背後に無数の氷塊が形を成した。
「ーー噂には聞いていたけど、これが……、ティナさんの精霊術!?」
まだ幼げに見える彼女こそ、数少ない希少種、“氷霊フラウ”を宿す騎士。
そして、彼女が真に天才たる所以は、その精霊術にある。
氷塊が現れる速度も、規模も、込められた霊力も、今まで見た誰とも桁が違った。
白虎隊の過程を短期間で卒業し、青龍騎士団に引き抜かれた神童。
「よーい……、ドーン!!」
張り付いたように微動だにしない笑顔で、愉快そうに手を振り下ろす。
いつの間にか巨大になった氷塊が、今まさに跳びかからんとしていた軍人たちを、その影下に飲み込んでいく。
「あ……、あ、ぁ」
初めて見るであろう戦場の少女に、初めて見るであろう未知の技で、初めて見るほど巨大な氷塊を落とされる。今、あの真下にいる人たちは、悲鳴も上げれないくらい混乱しているようだ。
「「「うわぁぁッーー!?」」」
怖っ、今時のちびっ子怖っ!? よかったぁ、相手にされていなくて……。
「はい、あたしの勝ち~。まったく、これに懲りたら口の利き方には気を付けなさい? あ~ぁ、疲れた~。もう帰る~。つまんない~」
「あぁもう、うるせぇ! もう先行くからな。くれぐれもここ突破されんじゃねぇぞ?」
「え~、めんどくさいなぁ~」
そんなことを言いつつ、遅れて到着したが状況が理解できていない敵の応援部隊へ、二発目の発射準備を完了してる。
ティナ先輩、頼もしすぎる……。




