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名前のない英雄譚【無能の白銀騎士】  作者: 木ノ添 空青
神殺しの少女編

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34/85

任務完了

 教官達と再会した駐屯地を出発してから馬の脚で数時間、僕らは予定通り真夜中に到着した。

 精霊王様の王宮がある【王都シャングヒル】は、アストピア一の都市だけあって夜中でも街全体が輝いている。

 シャングヒルの象徴でもある街中央の時計塔を囲むように、様々な商店や酒場が広がり、離れた峠の上からからでもはっきりと街の規模が見て取れる。


 到着が真夜中になってしまったので、さすがに今日はそのまま宿屋に向かい、朝を待つことになった。

 そして翌日の正午、僕は王宮の軍事会議室を捜し歩いていた。


「うひゃぁ……、どこもかしこも大きいな」


 初めて入った王宮は、印象とは裏腹に派手な装飾もなく、厳かな空気に満ちていた。

 広大な王宮は神王軍の警備が多数巡回しており、すれ違う度に怪訝な顔をされる。


「無名なのが幸いしたなぁ。……いや、悲しいけど。っと、ここか」


 扉には第7会議室と書かれた金色のプレートが貼られ、ドアノブには会議中の札が掛けられていた。

 ……どうしよう、この上なく入り辛い。

 しかし、アルデラントで待つかぐやの事を思い浮かべると、無意識のうちに右手が扉を叩いていた。


「失礼致します。白虎隊所属ジン・テオドフロール。只今到着致しました」


 扉を開け、まだぎこちない敬礼と共に会議室の面々を見渡すと、憧れの騎士であるパンチ部隊長が目に入り、思わず泣き出してしまいそうだった。


「ジン、……ジンじゃねぇか! お前無事だったのか!?」


 目を丸くして立ち上がったパンチ部隊長は、信じられないといった顔でこちらを見ていたが、その数秒後に目があった人物から目が離せなくなってしまっていた。


 その場に膝を突き、深々と頭を下げ、最大の敬意を示す。


「お会いできて光栄です、精霊王陛下」

「はい、ご苦労さん。頭上げてええで」


 その容姿に思わず息を呑んでしまう。こんな近くで拝謁したのは初めてだ。

 長い金色の髪を右肩に集め、ゆったりと頬杖をついていた。

 綺麗な竜胆色の瞳は、何かを見透かしたように微笑んでいる。


「よう来たな。早速やけど、例のお手紙見してくれる?」


 どうやら書状の件は知っているようだった。

 懐にしまっていた博士からの書状を渡すと、開けながら隣の巫女さんに声をかけた。


「ふうちゃん、いつぞやとっ捕まえた奴が持っとったアルデラントの地図があったよな? ちょい貸してくれへん」


 手持ち無沙汰に次の言葉を待っていると、パンチ部隊長の正面に座っていた人物が、怪訝そうな面持ちで声を掛けてきた。


「すまないが、君は何者かな? パンチとは面識があるようだが」


 神王軍のフレッド団長だ。

 青龍騎士団のゴイル団長と並ぶ、アストピアで高名な騎士の一人。

 ゴイル団長が武勇の英雄なら、この人は神王軍という大軍隊を率いる導師としての英雄。

 何度か見たことはあったけど、やっぱり近くで見ると迫力が違う。


「紹介がまだやったな。パンチ、あんたから紹介したり」


 紹介を任されたパンチ部隊長だったが、まだ僕の登場に理解が追い付いていないようで、口が半開きになっていた。

 皆の視線に気が付き、慌てた様子でフレッド団長に紹介を始めてくれた。


「す、すみません。こちら、白虎隊所属のジン・テオドフロールです。私はコイツがガキの頃からの顔見知りなんです。しかし、夏前の任務中に行方不明になってて、……って、まさか!?」


 状況に合点がいったのか、探るような眼差しでこちらを見ていた。


「なるほど。ジン君というのか。改めて君の話をもう少し聞かせてくれるかな?」

「承知しました。拙い説明になるかと思いますが、お許しください」


 その後フレッド団長に話ながら同席した有名騎士の皆さんに、行方不明となっていた間の経緯を説明した。


「――という訳です。つまり、対アストピア決戦兵器の開発、使用を止め、アルデラント政府の暴走に終止符を打つ。以上が、僕が協力している革命軍の最重要項目です」


 出来る限り不信感を感じないように説明しても、理解してもらうのには時間が掛かるかとすら思っていたが、思ったよりすんなり受け入れてくれた。

 というよりも、僕以上に注目が集まっていたのは、精霊王様だった。


「疑っていた訳ではありませんが、この情報の信憑性は高そうですね。そうなるとやはり、その神殺しは何が何でも阻止しなければならなりませんね」


 顎に手を添え、何やら考え事を始めたフレッド団長。

 教官の話や噂で聞いた話では、神王軍はアルデラントの関係者にはかなり厳格だと聞いていたので、多少は警戒していたのだが、フレッド団長はそうでもないのか。


 しかし、皆さんの理解の早さには驚きを隠せない。

 自分が聞く立場だったらば、鼻で笑い飛ばしそうなほどにぶっ飛んだ話だったと思うけど……。


 僕の話や精霊王様の考えを基に、僕以外の全員が今後の動きを話している中、所在のなさに困ってしまった。

 どうしよう、こんな面々が真剣に話し合っている中に、割って入るのも恐れ多いしなぁ……。

 今は声かけられるまで待っていよう。


 そわそわと落ち着きが無いように見られてしまったのか、単純に気を使わせてしまったのか、巫女姿の風花さんがお茶を出してくれた。


「どうぞ、お疲れでしょう。お掛け下さい」


 アストピアの東方でよく見る民族衣装である“着物”を身に纏う華奢な容姿。

 ツヤのある黒髪を後ろで束ね、小さな眼鏡をかけている。

 一見身体も細くひ弱そうな印象だが、この人もアストピア最強の部隊天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)の一員だ。


 ぎこちない手付きで差し出されたグラスを受け取り、小さく頭を下げる。


「あ、ありがとうございます。皆さん、結構冷静なんですね。結構信じられない話だったと思うんですけど」

「そうですね。ジンさんから聞いたのが初めてだったら疑っていたかもしれませんね。ですが、今しがた陛下から同じ話を伺ったばかりだったんですよ」


 そうだったのか。スムーズに話が通って良かったぁ。とてもじゃないけど、僕だったらこの方々を説得できていたとは思えない。


 ――そういえば、精霊王様はなんでこの話を……。

 直後、脳裏に浮かんだのは、したり顔の白衣の男だった。


「……まさかね」


 ないない、ありえません。だいたいなんで精霊王様と知り合いなのさ。アストピアの人であっても、面識がある人を探す方が難しい。

 脳内でふてぶてしい笑顔を浮かべる博士を冷えたお茶と一緒に流し込むと、不意に震えが走った。


 なんとかここまで辿り着いた。

 もう少しだけ待ってて。

 もうすぐ助けてあげられるから。


 飲み込んだふてぶてしい男に変わって頭に浮かんだ少女は、ひどくやつれていた。


「――ジン。おいジン。聞こえてるか?」

「はっ、はいぃ!! ごめんなさい。な、なんですか?」

「この書状に書いてある立地の確認なんやけど……。なんや、えらい疲れとるみたいやな、休んどいた方がええんちゃう?」


 どうやら、油断して酷い顔になっていたらしい。呼び掛けたパンチ部隊長ですら不安気な顔をしていた。


「いえ、申し訳御座いません。ですが、作戦開始前までにはアルデラントへ戻らなければなりませんので。昨夜も宿で十分休ませていただいたので、大丈夫です」


 アルデラントへ戻るという言葉を聞いたフレッド団長は、ややしかめた顔をしていたが、その後精霊王様に宥められ、渋々納得してくれたようだった。


 その後に立地の確認を終えると、精霊王様が僕へ作戦当日に合流する部隊の動きを説明してくれた。

 とは言っても、神殺しがあった零番研究棟までの突入経路や、警備の状況については、博士の資料で全て確認が済んでしまった。


 僕の役目は、とにかく生きて帰ることだ。

 いよいよ僕の作戦は後半戦。できるだけ急いで戻りたい。

 みんなが繋いでくれる未来を、僕のせいで壊さないようにしなきゃ。


 会議が終わり、各々が席を離れだした。

 帰り支度をしながら、またあの転移装置にお世話になるのか、と憂鬱になっていた時だ。


「あぁ、せや。少年、ちょいこっち来てみ」


 突然背後から声をかけられ、思わず身体が縮こまる。

 恐る恐るそちらへ振り返ると、精霊王様がニコニコと手招きしていた。

 何事かと近付くと、僕の心臓辺りにそっと白い手が添えられた。


「……ええ加減シャキッとせぇ。……ちゃんと助けたってな」


 小さな声で呟いた直後、体の奥から何かが湧き上がる感覚を味わった。


「え? あの、これは、一体……」

「今晩はうちの家に泊まりやで。呪いを解かなあかんからな。今夜は寝られへんで。ほんならまた」


 突然撃ち込まれた意外性の暴力とも言うべきウインク。思考が一瞬で凍結した。


「……え? えぇ!?」


 なに今の!? めっちゃいい匂い!! めっちゃ美人!! めっちゃ女神様!! 綺麗な人やぁ……。

 なんてったって、精霊の王様だ。

 迂闊に触れようもんなら……。

 相変わらず異性に耐性のない僕は、あっという間に石像のようになってしまった。


「あぁ、せやせや。あの堅物眼鏡に、わざわざ夜中に来んなボケって伝えといてや」

「……あ、はい」


 やっぱりあの人知り合いなのか……。本当に何者なんだろう。

 というかご迷惑をおかけして本当に申し訳御座いません。帰ったらしっかり伝えておきます。


 しかし、初めてお話しさせてもらったけど、意外と気さくな方なんだなぁ。

 ほぼ初対面の僕にも妙にフレンドリーだし、どこかふわふわしてるというか。


「……なんか、この絶妙に雑な感じ。どこぞの博士と似た雰囲気」


 という事は……。お付き巫女の風花さんも振り回されていたりするのだろうか……。

 開け放たれた扉から、風花さんの怒号が聞こえてきた。あながち間違いでもないらしい。


 心より同情致します。

 この手の人は、本当に大変ですからね。頑張って下さい。

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