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名前のない英雄譚【無能の白銀騎士】  作者: 木ノ添 空青
神殺しの少女編

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僕も戦います

「さて、決め台詞も決まったところで、早速だが、お前には革命軍として最初の任務を命ずる」

「えっ? もう初任務ですか。なんかないんですか? 研修みたいな」

「そんなものはない。我が革命軍は年中無休で四六時中任務中。加えて上官である私の命令は絶対厳守だ。キビキビ働け」

「うわぁ……。アホみたいな労働環境ですね」

「取り敢えず、お前は一度アストピアに向かえ。オリジンを覚醒させる為、お前にかけられた呪いを解く必要がある。呪いの程度はわからんが、所詮精霊術の派生だ。精霊王ならば造作もなく解けるだろう。根回しは私がしておく」

「根回しって……、そんな簡単に言いますけど」

「あぁそれと、いくらお前のような切り札を得たとはといえ、お前と小娘を最後まで守りきる為の戦力が圧倒的に足りん。相手は鼻が利くゴドナーだ。自慢の兵器を大量に保有しているアルデラントの軍とぶつかり合うような事があれば、現状の対抗戦力は限り無く皆無に等しい。自慢じゃないが我々革命軍は、陰湿な引きこもりの掃き溜めだからな」

「ほんとに自慢じゃないですね……」


 その後もあれやこれやと矢継ぎ早に早口でべらべらと作戦を解説していった博士。

 感情に任せて身の程以上の責任を負ってしまった気がするけれど、本当に大丈夫だろうか。

 心の隅からずっとこちらを覗く不安感。なにも起こらない事を祈るばかりだ。

 

 でも、博士だってこの国の本当の平和を実現するために動き出そうと決意したはずだ。あの言葉や眼差しに嘘はないと信じたい。

 そして、何よりも嬉しかったんだ。才能もなくてみんなに置いて行かれていたこんな僕に、居場所と目標を与えてくれた。僕だって足を引っ張りたくはないし、期待には応えたい。


 ふと、未体験の感覚に包まれているような気がした。

 なんだろう。ほどよく気が引き締まる緊張感と、例えようの無い高揚感。


 今この瞬間にも、助けを求める誰かがいて、そんな誰かを踏みにじる人間がいる。

 それと時を同じくして僕は今、過去に感じたことがない位、今という時代を、生きてみたいと感じた。


 不思議だ。この感覚はなんなんだろう。この人の言葉には、自分一人じゃ引き出せなかった感情を引っ張り出される。

 たぶんこの人、ガリベニアス博士は、天性の指揮官なんだろうな。


「わかりました。アストピアの騎士団に応援を依頼する任務、僕が引き受けます」

「可能なら動きやすいよう、なるべく小規模で強力な部隊が理想だ。心当たりはあるか?」

「そうですね……、任せてください。やれるだけやってみます。……ただ」

「ただ?」

「一つだけ気掛かりなのは、僕らの作戦が戦争の引き金になってしまう事ですね」

「その可能性は十二分にある。神殺しという兵器の存在がアストピアにも伝われば、黙ってはいないだろう。お互いに折り合いがつかなければ戦争は必ず起こる」


 そういう意味でも、戦争開幕の緩衝材として、革命軍という存在は必要不可欠なんだ。

 この戦いは、あくまでもアルデラントと革命軍の内戦という構図にしなきゃいけない。

 アストピアはその戦いの助っ人で革命軍に参戦する。そうすればあくまでも内乱を仲裁しに入ったという建前ができる。


「これは今のアルデラントが企んでいる、私欲にまみれた陳腐な戦争とは訳が違う。恐怖と暴力が蔓延ってしまった、腐りきったこの国を変える、弱者たちの革命でなければならない」


 前々から感じていたけど、やっぱりこの人は只者じゃない。

 広い分野に深過ぎるほど精通した知識。まるで時を読んでいるように冷静で的確な判断力。なにより、決めた行動や考えが一切揺るがない、覚悟と信念を持っていた。


 どうしてそんなに真っ直ぐ歩き続けられるのだろう。


「……あの、博士って一体何者なんですか?」


「いつかも言ったが、私はアストピアに多少なりとも因縁があるのだ。それ以上はまだ知らなくて良い。今の目的はただ一つ。神殺しの阻止と、アストピアとアルデラントの戦争を阻止することだ」


 もう戦争は目前まで迫っているんだ。

 でも、神殺しに利用された、あの子の旅立ちを開戦の狼煙にするのは絶対にダメだ。それを防ぐ為、今の僕に出来ることを全力で。


「やり遂げましょう。かぐやを助けなきゃいけないんです。」


「……お前、その名は?」


「えっ? あぁ、あの子の呼び名なんです、結局名前を聞きそびれちゃったんで」


 この呼び名も僕が勝手に付けたんだった。

 僕ってあの子の事何も知らなかったんだな。


 だけど、こんなに必死になってでも守りたいって思うのはどうしてなんだろう。


「なるほど、そういう事か。……では、改めて作戦の予定を説明する。お前がアストピアへと出発する日時は明日の晩にしたい。消灯二時間後にいつもの実験室に来い」

「え、明日の晩ですか? ずいぶん急ですね」

「急ぐ理由は二つある。まず一つ目。本来機密事項である小娘とお前の接触を知って、あの豚が黙っているはずがない。推測でしかないが、神殺しに至るまで、もう一刻の猶予もないだろう。


 確かに悠長な事を言える状況ではないな。慌ただしい事になるけど、集中しなきゃ。


「そして二つ目。今作戦最大の障害であるゴドナーが、首都での会議参加の為に明日から二週間不在となる。万一の事を想定するならば、奴が不在の間に戦況を優位にしておきたい」

「それは、同感ですね。……ゴドナー。対峙したら相当厄介そうですもんね」

「あのデブの悪運の強さは意味がわからんからな。とにかくそういう事だ。明日の出発は、助手のバルウィックに頼む。私はもう少し今後の作戦内容を詰めたい」

「わかりました。準備をしておきます」

「一応、後で精霊王に状況を伝える為の書状を渡す。分かっていると思うが、決して失くすなよ」

「不安になるからやめてください」

「では健闘を祈る。お前をこの革命の英雄に選んでやったのだ。……命を賭けて、救ってほしい」


 そう告げると、いつものように眼鏡を押し上げ、静かに部屋を出て行った。


 どうにか繋ぎ止めた一握りの可能性。絶対に無駄にする訳にはいかない。

 外を見ると夕闇が空を覆い尽くし、開けておいた窓から少し肌寒い風が吹き込んでいた。


 そっと窓を閉じると、少し不安げな顔が僕を見つめ返してくる。


「……大丈夫。きっと出来る。かぐやを助けるんだろ」


 震えた声で呟いた半透明な自分の顔は、先ほどより少しだけたくましく見えた。

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