5傑
雷の魔女ホライは、今日も巡回を続けていた。
空は濁り、雲は低く垂れ込め、雷は絶え間なく大地を打つ。
それはこの街にとって、異常ではない。
むしろ、日常だった。
「……異常なし」
呟きながら、門の上から外を見渡す。
その時だった。
地平の向こうから、複数の影が現れた。
人間。
魔女。
「……あれが」
愛の魔女が語っていた存在。
(人間……?)
ホライは目を細める。
見た目は、ただの青年だ。
魔力の奔流も、圧倒的な覇気もない。
(拍子抜けだな)
そう思いかけて、違和感に気づく。
「……後方の女」
一人、明らかに浮いている存在。
街娘のような装い。
魔力を極限まで抑えた気配。
(一般人……いや)
背筋を、冷たいものが走った。
(……違う)
次の瞬間、ホライは息を呑んだ。
寒気。
本能が、警鐘を鳴らす。
「……あり得ない」
距離は、まだかなりある。
それなのに――感じる。
(この距離から……?)
心臓が、強く脈打つ。
(まさか……)
脳裏に、最悪の名が浮かんだ。
「……愛の魔女、ハレッサ」
喉が、ひくりと鳴る。
(……あの女か?そんな、馬鹿な)
だが、否定できない。
(報告しなければ)
ホライは、即座に踵を返した。
―――――――――――――――――――――――
スパークランド中枢。
雷晶に囲まれた広間で、マレイは静かに資料を読んでいた。
「……」
そこへ、ホライが駆け込む。
「マレイ様!」
息は乱れていない。
だが、声には緊張が滲んでいた。
「人間達が、やって来ました」
マレイは、顔を上げる。
「人間?」
「はい」
「……愛の魔女が言っていた者か」
興味なさげに言う。
「大したことはあるまい」
だが、ホライは首を振った。
「……いえ、それが」
一瞬、言葉を選ぶ。
「愛の魔女が、います」
空気が、凍りついた。
「……何だと?」
マレイの声が、低くなる。
「あの女が……?」
ホライは頷いた。
「間違いありません」
マレイは、ゆっくりと立ち上がった。
「……なるほど」
口元に、僅かな笑み。
「自ら、連れてくるとはな」
「それと――」
ホライは続ける。
「ペレア様、そしてラグナの存在も確認しました」
その瞬間。
「……!」
マレイの表情が、初めて変わった。
「……お姉ちゃんが?」
驚きと、苛立ちと、懐かしさ。
複雑な感情が交錯する。
「それに……ラグナか」
短く、息を吐く。
「……それは」
指を鳴らす。
「私が相手をするしかないな」
その時。
空間が、歪んだ。
五つの影が、同時に現れる。
「マレイ様、何事ですか?」
「緊急招集とは、珍しいですね」
「雷鳴が、騒がしい」
現れたのは、スパークランドが誇る五人。
雷の五傑。
マレイは、彼女たちを見渡した。
「……五傑か」
「愛の魔女と」
一拍置く。
「ペレアお姉ちゃんが、現れた」
空気が、一段重くなる。
「……ペレア様ですか?」
一人が、目を見開く。
「長らく、行方不明だったと聞いていますが」
マレイは、頷いた。
「生きていたようだ。それに……愛の魔女」
五傑の間に、ざわめき。
マレイは、淡々と命じる。
「五傑には、町で応戦してもらう」
「……了解しました」
「ホライ」
マレイは、雷の魔女を見る。
「豪雷地帯で、迎撃だ」
ホライは、即答した。
「分かりました」
一礼。
「直ちに」
ホライが去り、五傑も散っていく。
広間に残ったのは、マレイ一人。
雷鳴が、遠くで轟く。
「……」
マレイは、窓の外を見た。
雷に照らされる街。
「私達は」
静かに、呟く。
「他の魔女と、違う」
誇り。
選別。
断絶。
「変わらない」
過去も。
現在も。
未来も。
「……これからも」
その目に、迷いはなかった。
雷が落ちる。
スパークランドは、戦場となる。
愛と雷、信仰と執着。
そして、人間。
すべてが交わる夜が、始まろうとしていた。




