第十二話 屈辱
私はその夜、貝原に抱かれた。
半ば強引に――ほとんどレイプに等しかった。
「そんなことをしたら、警察に全て話すわよ」
貝原から話があると呼び出され同乗した車の中で、私は言った。
その時、車は人気のない空き地に停められ、彼が突然覆いかぶさるように迫ってきた。
「約束したろ。俺の女になるって」
「そんなこと言ってない」
「ふざけるな」
「あなたがあくまで私の身体を求めるなら、警察へ駆け込むまでよ」
私は強気になっていた。
彼から呼び出しを受けた時、この前彼が警察への通報を思いとどまってくれた代償に身体を求められることは覚悟していた。
しかし、やすやすと応じる気はなかった。腹をくくって彼と対決するつもりでいた。よくよく考えてみれば、貝原が私の弱みを握っているのと同様に、私も彼を破滅させる力を持っている。
「駆け込みたければ駆け込めばいいさ。どうぞご自由に」
貝原は余裕たっぷりの表情で言った。
「そうなれば百合亜も同罪だ。なんたって共犯だからな、俺たちは。同じく地獄に落ちることになる」
「私はやっていないのよ。本当の犯人はあなた」
「そんなことが通るものか。致命傷は負わせていなくても、殴打したのは事実だろ。それだけで、もう二度と公の場では歌えなくなる。お前にとっては、死刑より辛いはずだ」
「ねえ、貝原さん」
懇願するように口を開いた。
「お願いだから許して」
「百合亜が俺のものになれば済むことじゃないか」
「できないの。私はそういうことができない質なの」
娼婦の真似ごとのような行為は、プライドが許さない。
「だったら力づくで奪うしかない」
私を掴む手に力を込めた。
「そしたら本当に警察に行くわ。本気よ。劇団明星の舞台監督の地位を棒に振ってもいいの?」
「脅してるつもりかい?」
貝原が小馬鹿にするように言った。
「分かってないな。俺はあんたとは違うんだよ」
「どういう意味?」
「男には二種類あるのさ」
片頬を吊り上げて薄気味悪い笑みを浮かべた。
「惚れた女のためなら破滅しても構わないと考える男と、そうは考えない男さ。俺はあいにく前者でね。こればっかりは自分でもコントロールが利かないんだ」
その瞬間、蛇のように邪悪な目になった。
――貝原は以前、劇団の女の子にストーカー行為を繰り返していたことがあるんです。
以前、琴美から聞いた言葉が蘇ってくる。
「嘘だと思うなら警察でもどこでも行って訴えればいい。道連れにしてやるから。俺は百合亜と一緒に破滅できるなら本望だよ。舞台監督の仕事なんて、好きな女に比べたら取るに足らない、生活のための方便に過ぎない。いつだって棒に振ってやる。俺はそういう人間だ」
開き直ったように言うや、再び物凄い力で覆いかぶさってきた。
私にはそれをはねのけるだけの気力は残っていなかった。自分は貝原とは違う。一緒に破滅するなどまっぴらだ。
この狂人を黙らせる方法は一つしかない。
気付くと諦めたように目を閉じ、彼の執拗な愛撫を受け入れていた。




