グランビー鉱車
「ランスロットーーー!」
ユウキを乗せたトロッコがスピードを上げて走っていく。トロッコの後ろでは、崩れた架線軌道で戦う仮面の影とランスロット達の姿がどんどん小さくなっていった。
仮面の影達と乱戦になったランスロットが、ユウキ達を乗せたトロッコが坑道の奥に走っていくのに気がつくと、襲いかかる影達を振り払って身を翻し、トロッコが走って行った先に向って、自身も駆け出した。
ランスロットを追う仮面の影達。
スピードを上げていくトロッコがレールを駆け抜けていく。坑道内の岩場が、柱が、枕木、ケーブルやパイプが、車輌のすぐ近くを勢い良く通り過ぎていく。ユウキと、その頭にしがみついている影猿は、前方を凝視して大きく叫び声を上げた。
「うわああああー!」
「キキキキー!」
トロッコ列車を追いかけるランスロットがレールの上に乗り上げると、後方から黒い槍が、ドスドスッ!と突き刺さった。ランスロットは、その槍を横に逸れて避けると、レールの軌道を離れて、坑道の空洞を斜め下に向かって下がっていった。スピードを落とすことなく、上部トンネル内の軌道を見つめながら、それに並走するかのように、脇の岩場とその岩場を支えるやぐらの柱とその他構造物との合間を駆け抜けていく。
ランスロットを追って、仮面の影達が、柱と柱の合間をすり抜け、飛び越し、駈け抜けながら、代わる代わる攻撃を仕掛けてきた。その攻撃を、ユウキ達の乗ったトロッコ列車を視界の端で追いながら、右へ左へ避けていく。
通り過ぎる岩場や柱の向こうで行われる、その激しい攻防に気付いたユウキが、トロッコの端からその身を乗り出した。
ランスロットが、僕達を追いかけて来ている。
どうしようどうしよう…と周りを見回すユウキ。ハッと気がつくと、しがみついている影猿を脇にどけて、コンパスを開いた。コンパスの針はトロッコ列車の進行方向右側を指している。いけない!北のほうから遠ざかっちゃう!
とにかくこのトロッコ止めなきゃ!
ユウキは改めて周りを見回した。とにかくブレーキだ。ブレーキがあるのは、先頭車両だろうか?
見ると、先頭には、長く連結された箱型の貨車車両とは別の機動車が牽引しているのが見えた。先頭車両は、自分たちが乗っている車両の四つ先だ。ユウキはそれを確認すると、積載貨物の枠に足を掛けて、車両を移動し始めた。トロッコの走る振動は激しく、しっかりつかまっていないと、いまにも振り落とされてしまいそうだ。連結器に足を下ろすと、高くて暗い坑道の穴倉と、すり抜けていくやぐらが足元から丸見えになった。ユウキは生唾を飲み込むと、連結器を乗り越え、前方の車両に飛び移った。車両の脇にしがみつき、貨物車の中に身を滑り込ませていく。
どたん、と中に潜り込むと、ユウキは、ハアハア…と激しく息を上げた。そして、再び車両を移動すべく、貨物車両の枠を乗り越え始めた。
一方、ランスロットは、別のレール軌道に沿って走っていた。その後方を、上を、横を仮面の影も走り追って来る。やがて仮面の影はランスロットに向かって槍を投げつけてきた。ランスロットはその槍をかわし、大きく軌道を逸れると、組み上げられたやぐらの柱を伝って影の上に素早く回り込んだ。そして、レール軌道の上から躍りかかって、下を走る仮面の影に食らいついた。組み伏せられ四散する仮面の影。そんなランスロットに、さらに上手から襲いかかる仮面の影が槍をつき立てる。しかしランスロットは間一髪、別の坑道内に逃げ込み槍から逃れた。仮面の影がレールに降り立つと、槍を拾って坑道内に駆け込んだ。
すると、坑道の奥から迫る、明るい照明が影を照らした。
勢い良く走るトロッコ列車が坑道から飛び出し、仮面の影の体を轢いていく。車両に押され、四散して消えていく仮面の影。ランスロットは、トロッコ列車の上部を滑るように飛び越え、レールを抜けた後もスピードを落とさず、鼻を利かせながら坑道内を走り抜けていった。
ユウキは、とうとう先頭車両の一歩手前まで来ていた。目の前には運転席のようなスペースと、大きなレバーのようなものが見えた。ユウキは意を決すると、貨物車両を乗り越えて、最後の連結器の手前に降りたった。
手を伸ばして、先頭車両に乗り移ろうとするユウキ。
その時、走るトロッコ列車の振動とは別の振動がユウキの体に伝わった。
その振動が起こった方向を見ると、貨物車両の最後尾に、あの仮面の影がしゃがみこんでいるが見えた。
金色の四つの目が、じっとユウキの方を見つめている。
驚き後ずさるユウキが、車両のヘリにしがみついた。仮面の影はゆっくり立ち上がると、軽やかに貨物車両を乗り越え、ユウキのいる先頭車両に近づいて来た。ユウキは慌てて、先頭の車両に向かって移動して行く。しかし、仮面の影は、あっという間にユウキの近くまで寄ってきた。驚き振り返るユウキの目の前には、首を傾げてユウキを見つめる仮面の姿が見えた。影の手がゆっくり上がり、ユウキに向かって伸びてくる。
あの時もそうだった、近づいてくる仮面の影の、その姿から目を離せず、自分に手を伸ばす影を見て…、そして…
「ウッキッキー!」
固く目を閉じて身を小さくしたユウキに、影猿のこえが聞こえた。見ると、影猿が仮面の影に取り付いて、その仮面を激しく引っかいて攻撃していた。仮面の影が、手で影猿の攻撃を塞いで後ずさっていく。
ハッ、と気がついたユウキは、運転席に向かって慌てて飛び移り、一番大きく伸びるレバーに取り付いて、力一杯引っ張った。
ギギギギギーー!
カーブに差し掛かった車輌が、激しく火花を散らして停車して行く。
急制動をかけた車両から飛ばされないように必死にレバーにしがみ付くユウキ。驚き貨物車両のヘリに捕まる影猿。仮面の影は車両から飛び出して、先頭車両を超えて、バウンドしながら前方に放り出された。
ガガガガアー!
大きく傾いたトロッコ列車の後方に連なる車両が、組み上げられたやぐらからこぼれ落ちて、空中にぶらんとブラ下がっていく。車輪の下から、大きく軋んだ音が聞こえてくると、車両がガクンと激しく揺れて、後方へ大きく引っ張られた。ギシギシと弛んだ木製の柱が軋みを上げて崩れていく。そして、ガランガランと大きな音が坑内にけたたましく鳴り響いた。
ユウキは顔を上げると体制を整えようとした。しかし、足をかけようとした床に体重が乗らない。天地がわからなくなったユウキが、車体にしがみついたまま周りを見回すと、自分がしがみ付いている車両が、すでにレールから外れて、ぎりぎり軌道レールの柱に引っかかってぶら下がっている状態である事がわかった。トロッコ車両が一方向にずれて引っかかり、荷重がかかったやぐらが大きく傾いて、ギシギシと悲鳴を上げている。
レバーにしがみついてぶら下がっているユウキが、上に向かって顔を上げた。
すると、先頭車両の前方に、一歩、前に踏み出してくる足が見えた。そして、その向こうから、レバーにぶら下がっているユウキを見下げるように、ゆっくりと、あの仮面の影が上体を前に屈めて、ぶら下がっているユウキを上から覗き込んだ。
その仮面が、半分に欠けている。
前方に投げ出された時に割れたのか、その欠けた仮面の向こうから、影の顔が覗いていた。ユウキはその姿から目を離せなかった。
その顔を、僕は知っている。
だって、その顔は、僕とそっくりなんだもの。




