公園
ヒラヒラと広がる金色の帯が、灰色の霧の向こうで滲んで広がっている。
ユウキとリュッ君が、よく確認しようと、目を細めた。立ち込める濃霧が次第に晴れていくと、そこには、まばゆく黄色の光を放つ☆がクルクルと回転していた。
「あったー!リュッ君!あったよ!」
「おお!ユウキ!水の底から引きずりだせたな!やったぞう!」
飛び上がって喜ぶユウキ。周りの霧が徐々に薄くると、ダムのあった場所はポッカリと抉れてしまい。ダムの堤体は完全に押し流され無くなってしまっていた。ダムの麓は、ダムと湖から流れ出た土砂と水が麓をめちゃくちゃに飲み込んで荒らしてしまっていた。
喜びの歓声を上げていたユウキとリュッ君だったが、目の前の惨状がはっきりと見えてくるにつけて、その表情が見る見るうちに陰っていく。
「うわあ…」
「ひでえなこりゃ…。完全にダムがなくなってやがる」
驚いたユウキが目を丸くして、ボソッとつぶやくように「…中の黒い人達も、いなくなっちゃったの?」と聞いた。
「ああ…。一緒に流されてしまったな…」
「ええ~。…大丈夫なの…」
リュッ君は答えることができずに暫く黙っていた。
「…あいつらは、あれで大丈夫なんだ…」
「なんで?ダム壊れちゃったのに?」
「うん、大丈夫なんだ…」
思いを残して、あんな所で彷徨っているよりは…。
「あのダムは、本来元あった姿に戻ったんだ…。ここのダムは…」
そういうと、リュッ君は言葉に詰まって、ダムがあった場所を暫く黙って見つめていた。ユウキは、リュッ君の言っている意味が解らず、「ふーん…」とリュッ君を見た後、再び、金色の光が輝く場所のほうに目を向けた。
黄色の☆が輝くその場所は、水が抜けて、すり鉢状になった湖の底から、一段上がった高台のような場所にあった。薄もやの向こうで広がる黄色の帯は、まるで切り取られたケーキの上にデコレイトされたエクレアのように見えた。その下は、土砂も泥も瓦礫も交じり合い、崩れたダムの下流に行くほど、地面がくすんだ色に変化して隆起が激しくなっていった。下は土砂で覆い尽くされ、降りるのは困難に見える。
光り輝く☆はジャングルジムの中に浮かんでいた。斜めに傾き、黒く変色しているそのジャングルジムは、まるで熱で溶けたかのようにグニャリと曲がって建っていた。そして、その歪んだ格子状の構造の天辺、一つ飛び出た格子の中に、まるで閉じ込められているかのように、黄色の☆がクルクルと光を放って浮かんでいた。
「どうやら、あそこは公園だったようだな」
「公園?」
「ああ、どのくらいの期間、湖に沈んでいたのか分からないが…。見てみろ、あの黄色の☆を捕まえているもの、ありゃ、ジャングルジムだ…」
「ほんとだ、じゃあ、あれは、ブランコだね」
ユウキが指を差して応える。その先にあるブランコは、ポールがひしゃげて、椅子の一つは鎖が外れて地面に落ちている。その他にも、大きな滑り台や回転棟やシーソー等、公園の遊具らしきものが見て取れた。それらは一様に黒ずんで歪み、地面にへばりつくかのようにそこに佇んでいた。
「なんで、湖の下に沈んじゃったのかな?大雨が降ったの?」
「…なんでだろうな…」
リュッ君は変わり果てたダム湖の様子を見つめていた。日はまだ高いが、今は何時だろう。えらく派手に、土砂をぶちまけちまったが、下流は大丈夫なのだろうか?
そもそも、あの下流の向こうは、人間の住む場所なんだろうか?
「ユウキ!」
「何?リュッ君?」
「今何時くらいだ?」
尋ねられたユウキが腕時計を見る。
「えーと、5時くらい?」
「5時の後ろの方か?」
リュッ君が聞いてきたので、頷きながらリュッ君に腕時計を見せるゆうき。腕時計をリュッ君が確認すると、時計の針は5時25分を指していた。
あの黄色の☆を確保して、日が沈むまでに次の☆をゲットするのは無理かな…。とリュッ君は頭の中で考えると、「よし、ユウキ!あの☆がある場所に行けるルートを探そう。ダム付近は危ないから、湖畔を回り込んで、下りれるところを探すんだ」と言った。
「うん!」
「そのまま管理棟のほうから回っていこう」
「ねえ、リュッ君。あそこ、あの坂道繋がってる?よね?」
見ると、コンクリートの広場から、スロープが曲がりくねって下方に続き、黄色の☆が瞬く公園跡地へ続いている。
「あそこからなら行ける?大丈夫かな?」
「そうだな!よし、ユウキ!確かめに行こう」
管理棟の脇を通り抜けて、山沿いに造られた道路を進んで行くユウキとリュッ君。道路の先には、湖のあった方向へと降りる階段が続き、一段下がるかの様に湖のほとりに造られた駐車場と遊歩道に繋がっていた。そして、さらに一段下がったそこからは、水と泥にまみれて濡れており、地面もあまり平らではなくなっていった。
「ユウキ、気をつけろ。足場が悪い。下手なところに行くと、泥にめり込んでしまうぞ」
「う、うん」
ユウキは、遊歩道に足を進めると、慎重に、黄色の☆がある場所に繋がるスロープを下っていった。泥水が堆積している場所を避けつつ、ジャングルジムのある場所まで歩いていく。
ダム近辺の惨状ほど酷くはないが、それでも、長年水に沈んでいた爪痕は強く残っており、湖の水が至るところに溜まったり流れたりしていた。地面の上や建物の周りには水草や藻のような植物が至るところにこびり付くように生えていて、それらにまじって、植物ではない打ち捨てられたゴミの類も絡まっている。網やシートやペットボトル、自転車や三輪車のようなものまであったが、どれも一様に黒ずんで汚れ、酷く歪んでいたりしており、拾って使えそうなものは無さそうだった。
「あ!お魚」
見ると、水溜りの中に取り残された魚がビチビチと跳ねている。流されそびれた魚だろうか、結構な数が水溜りに取り残されて、至る所で細かく飛沫を上げていた。
「あれ、取っておいたほうが良いかなあ?」
「良かったな、☆をゲットした後で捕まえに来ようぜ」
夏日とはいえ、後で1時間くらいで日が陰ってくるはずだ…、あまりぐずぐずはしておれない。リュッ君は頭の中でそう考えながら、次に目指す場所を思い出していた。
ユウキは、足元を注意しながら公園を目指している。公園へ至るスロープはアスファルトがまだ残っていて、そこまで足場は悪くなかった。今はもう見る影もない公園の入り口を超えて、まっすぐひしゃげたジャングルジムに向かっていく。ジャングルジムの格子の中でくるくる回る黄色の☆が、近ずくにつれ、ユウキの両肩で浮かんでいる☆の光の光に応えるかのようにその明滅を強めていった。
「気をつけろよユウキ。長い間水に浸かっていたから、相当痛んでいるんじゃないか?」
「うん。なんかすごくいがんでるもんね…」
応えたユウキが、格子に手をかける。湖の底から現れたばかりのジャングルジムは、まだその表面が濡れてヌメヌメとしていた。ユウキは一瞬躊躇するも、格子を握って登っていった。
ギシっ、と音を上げるジャングルジム。だが、意外と足場のつくりはまだ頑丈そうだった。ただ、濡れてぬめった格子に足が滑らないように、慎重に足を添えて上がって行く。一歩上がるごとに、近付くごとに、光の帯が少しだけ強くなったように見えた。
「うわああ…」
☆のすぐ目の前まで登って行くと、まばゆく光る黄色の☆から美しい光の帯が広がって揺らぎ、ユウキとリュッ君を照らした。先ほどまでダム周辺を覆っていた霧も薄くなり、青く濃い空と、眩しい太陽が戻ってきたが、日中の明るさの中でも、その金色の帯は一際輝いて見えた。
「こりゃ綺麗だ…」
光に照らされて、思わずリュッ君が呟く。ユウキも目を真ん丸くして、その光の帯が広がる中心を覗き込んだ。黄色の☆がもう手の届くところで、くるくる、フワフワと浮かんでいる。
「よし、ユウキ、黄色の☆をゲットだぜ」
「うん、分かった」
ジャングルジムから滑り落ちないように足場を固めたユウキが、ゆっくりと☆に向かって手を差し伸べた。そして、伸ばしたその手の指先が黄色い☆にそっと触れた。
すると、黄色い☆から強い金色の光が放たれて光の帯を周囲に広げた、驚いたユウキが思わず手を引っ込め後ろに体を引くと、足が滑って体が落ちそうになった。
「うわわっ!」
ジャングルジムから落下しそうになるユウキを、お腹のリュッ君がジャングルジムの格子に噛み付いて食いとどめた。慌てたユウキも、急いで手をばたつかせてジャングルジムにしがみ付いた。
「…ふう!」
踏みとどまって安堵したユウキの目の前に、先ほどの黄色い☆がスーッと降りてきた。
すると、ユウキの肩の辺りで浮かんでいた赤と青の☆がふわっとユウキの肩から離れると、ユウキの周りをくるくると回り始めた。そこに、三つ目の黄色い☆も交じり合い、三つの☆がそれぞれの光を輝かせながらユウキの周りを回り始め、ジャングルジムにしがみ付いているユウキとリュッ君の姿を照らしだした。
「わああ…」
「やったな!これで三つ目の☆もゲットしたぞ!」
ユウキは笑顔を浮かべて「うん!」とうなずき、頭の上でくるくる回る赤青黄色の三つの☆のダンスをしばらく見つめていた。




