↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リュッ君と僕と  作者: 時波彷徨
三日目
PR
34/88

放流

 ゆらゆらと歩くノッポの影。そしてその後ろをリュッ君を抱えたユウキが続いていく。


 水で湿ったコンクリートの床を通り抜けて、室内中央の巨大なシリンダーが建てられた設備に向って歩いて行くと、ノッポの影は、数メートルの高さはあろうその施設の脇に備え付けられた鉄骨の階段を登っていった。


 階段の脇には『形式 ジェットフローゲート 門数一門』と書かれたプレートがしつらえられていた。この放水バルブの形式だろうか?ユウキの階段を登っていくのに任せてながら、リュッ君は横目でそのプレートを見つめていた。


 何段かのフロアーを抜けて、階段を登っていくと、先ほどフロアーの上から挨拶をしてきたノッポの影が、途中途中ですれ違いざまに、ユウキ達の前を歩くノッポの影に向って、頭を下げて二言三言話すような仕草をした。対する案内役のノッポの影も、それを聞きつつ、ふんふんとうなずくような仕草をして、お互いに何か確認をすると、会釈するように一礼して、またぞろ階段とフロアーを上に向って歩いていく。


「リュッ君、あの人達何を話しているの?」


 ユウキに聞かれ、ちょっと困った顔でリュッ君が答える。


「うーん、話の内容が少し専門的なんで俺にもよくわからねえが、とりあえず、何事か準備はできているとかって報告をしているみたいだな」

「準備?」

「放水のだよ」


 リュッ君に言われて、また、ノッポの影に付いて行くユウキ。金網の床と鉄製の階段でくみ上げられたフロアーを登っていく。


「どうやら、管理棟の管制システムが使えなくなったから、手動で水門を開いてほしいそうだ。この部屋のゲートと、もう一つ上のほうにあるゲートを開いて、ダム湖の水量を一気に下げたいらしい。そのためにユウキに手伝ってほしいとさ。願ったり叶ったりだな」


 ノッポの影に付いて行くユウキに向って、リュッ君が説明をすると、「水をさげるの?」とユウキが不思議そうに聞いた。


「まあ、取ってつけたような理由だが、ダム湖の水が許容量を超えつつあるから、今は一刻も早く水を抜きたいらしい。良かったな。これで☆アイテムがゲットだ」


 淡々と説明するリュッ君の言葉を聞きながら、きょとんとして、ノッポの影の後ろを歩くユウキ。


「よくわかんないけど、水を抜いたら、☆を取ることが出来るんだね」

「ああ、そうだ」


 ユウキの問いに、面白くもなさそうに答えるリュッ君。しばらく案内役のノッポの影の後ろについ行く二人。仏頂面のリュッ君を抱えて、ユウキはシリンダー施設のフロアーの天辺に到着した。


「ホッホウ」


 ノッポの影の後ろには二本の巨大なシリンダー状の構造物が、シンメトリーに立っており、それぞれに「主放流ゲート」「副放流ゲート」と大きな文字で書かれていた。ノッポの影が「副放流ゲート」と書かれたシリンダーに設置されたバルブを差し示した。そして「ホッホウ」と言ってユウキを手招きする。


「あのバルブをまわせとよ」

「バルブ?」

「あの影が差している、ぐるぐると回せそうな大きなハンドルみたいなものあるだろう?あれを右回しにまわしてほしいんだとよ」

「ええー…、回るかな…」


 ユウキが、放流ゲートのハンドルに向って近付くと。一旦リュッ君をお腹から外して下に置き、両手でハンドルを握って足を踏ん張った。


「ふんっ!」


 力を入れてハンドルを回すが、ハンドルは思ったよりも硬くなく、意外と軽くくるくると回すことが出来た。


「あととと…」


 バランスを崩したユウキが、くるくると加速するハンドルに手を添えて、体勢を立て直し、勢いよく回るハンドルの動きに手を合わせた。


 その脇で、ノッポの影が、シリンダーに設置された計器をじっと見つめて立っている。しばらくユウキがハンドルが回るのに任せていると、ノッポの影が、「ホホッホウ」とユウキに声を掛けた。すかさずリュッ君が「止めろってよ!ユウキ!」と声を掛けた。


「え?」と反応して、回転するハンドルを止めるユウキ。


 両手でハンドルを握って「これでいいの?」と、声を掛けた。すると、ノッポの影が「オホッホウ」と言って、「副放流ゲート」のシリンダーから離れて、隣の「主放流ゲート」と書かれたシリンダーのほうに向って歩いていく。ノッポの影が移動して行く様子を見つめているユウキ。すると、先ほどと同じように、シリンダーの脇についているハンドルの前に立って、「ホッホウホウ」と鳴いて、ユウキのほうを手招きをした。


「次にこいつを回せば、放流されるようだ」


 ユウキに向って言うリュッ君を拾って、ユウキはもう一方のバルブへ向っていった。


「主砲流ゲート」と書かれたシリンダーの脇にリュッ君を置くと、再び、バルブを両手で握って、右回しに力を入れる。そしてユウキは、さきほどよりは抵抗を感じるそのバルブを右回しに力を入れて回して行く。ノッポの影は、脇の計器を見つめているかのようにじっとしている。しばらくの間、ユウキはハンドルを回していると、低く響く振動が足元から伝わってきた。そして、その振動はやがて大きな轟音となって、屋内に響き渡っていった。


「わああ…リュッ君リュッ君!なんか下から響いてきてるね」

「ふむん。どうやら、放水が始まっているようだな…」


 床を伝わってくるザラザラとした振動が、ユウキとリュッ君の体に伝わってくる。


「ホホッホウ」


 ノッポの影が、ユウキのほうを向いて鳴いた。ユウキはハンドルを回すのを留めると、ザアアアア…、とコンクリートの床を伝って響く音に耳を澄ませた。しばらくじっとして振動を体で感じながら周りを見回していると、ノッポの影がきびすを返して、フロアーの階段を下に下がって行った。


「ユウキ!」とリュッ君が呼ぶと、ユウキが慌ててリュッ君を拾い上げ、ノッポの影の後を付いて行った。


 ノッポの影がフロアーから降りると、そのまま、中央放流ゲートシリンダーから離れて、扉に向って歩いていった。その前に止まって、ゆっくり振り向いて、ユウキが来るのを待つ。


 ユウキが扉に近付いていくと、ノッポの影が扉を指差し、そこを開けるよう促すような仕草をした。ユウキが、隔壁扉の取っ手を掴んで思いきり前に体重を掛けていく。すると、隔壁扉がゆっくりと開いていった。扉の隙間から、生暖かい風と、大きな轟音が伝わってくる。


ゴオオオオオオ…


 開けた隔壁からは狭い通路と欄干が続いている。そして、その向こうは外に繋がって、青い空と下方に広がる山間と川が隙間から見えた。その手前を、激しい水しぶきが雨のように、白く、細かく舞いがってユウキとリュッ君の頬を冷たくぬらしていく。


「うわああああ!すごおおい!」


扉を開け放って通路の欄干に走っていくユウキ。ダムの中腹に張り出した通路から、先ほどまでユウキ達がスリングショットの練習をしていた広場や、発電所などが小さく見えて、その先には、ダムに続く減勢工からずっと伸びた川が山間の緑の合間を縫って続いていく光景がひろがっていた。


 ユウキ達が水しぶきが舞う欄干から身を乗り出して下のほうを覗き込むと、屹立したコンクリートの壁にぽっかりあいた大きな穴から、すごい勢いで白い水しぶきが飛び出して、その川に大量の水を流し込んでいた。巨大な水の流れが大きな放物線を描いてコンクリートの通路を流れていく。


その様子を欄干から身を乗り出して見つめるユウキ。


「こりゃすごいな!」


 欄干の隙間からの水しぶきにあおられながら、お腹に抱えられたリュッ君も思わずつぶやく。


 二人が見つめるダムのふもとは、大量の水しぶきに彩られていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。