朝露
昨日までの夏日が嘘のように、体にまとわりつく冷えた外気がユウキを包み込んでいた。ユウキはその寒さに震えて目を覚ました。
うっすら降りた朝露が社の境内を白く染めている。ユウキは跳ね起きると、昨日作ったかまどから、湿った薪をどかして、まだ朝露の餌食になってなさそうな薪を探し、それらを円環に配置をして、焚き火の薪をくみ上げていった。濡れた枝葉をどけて、比較的乾いた枝葉を束にして置いていくユウキの手が、ぶるぶる震えている。
「うう…さぶっ!」
「油断したなあ…ユウキ」
ぽっ、と火をつけると、より分けておいた箒型の大きな針葉樹の枝葉を取って、マッチの火をつけていく。そして、燃え移った火を薪の下にくべて、さらにその火を大きくしていった。
燃え移ったことを確認したユウキは、竹林で拾った大きなストロー管のような竹の棒に口をつけると、息を焚き火に吹きかけていく。焚き火の大きさが一定くらいに大きくなったところで、ユウキは、リュッ君を薪の近くに置いて自身の冷えた体と一緒に暖をとり始めた。
「ああー、寒かった!」
「うん、なかなか手際がよくなったな!ユウキ」
「へへへー!」
まんざらでもない顔をリュッ君に向けて、ユウキは腕に巻かれた時計で時間を調べた。時刻は6時を回っていない。
「ずいぶん早くに起きれたな。まだ日も上がったばかりだ」
しばらく焚き火にあたっていたユウキは、クーラーボックスの中に最後に残った魚を取り出し、口に枝を通して、焚き火にくべた。
「これで、お魚おわっちゃったね」
「そうだな」
火にあぶられた魚が、ばちばちと火の粉をあげて、体を焦がしていく。
「僕、水汲んでくる」
ユウキが立ち上がり、参道の脇にある手水舎に向って、水筒を持って走っていった。薄く湿った空気に包まれていた神社の境内は、周りに生える草葉の表面に水滴が滴り、青臭い緑の匂いがいっそうあたりに充満している。白く霞んだ空は、その向こうにうっすら浅く青みがかかってきており、もう日が昇りつつあることは感じられたが、この神社を取り囲む山林の木々の背は高く。朝日自体は確認できなかった。
ユウキが水筒を持って戻ってくると、焚き火の前に座って魚の焼け具合を見つめた。そして火加減を調節するために、薪をくべなおし、魚が焼けるのを待った。
「ここからだと、朝日が見えないね」
ユウキが魚の焼け具合を見ながらリュッ君に話しかけてくる。
「次の☆がある湖って、あっちだっけ?」
「ユウキ、あれはダムって言うんだ。地図に、灰色の壁みたいなものが描かれてたろう?」
「ダム?」
不思議そうな顔でユウキが聞き返した。
「そうだ、大きなコンクリートの壁を作って、町の人が生活で使う水を大量に貯めておくんだ。大雨が降った時には、雨水をせき止めて、川の水があふれるのを防いだりもする。どのくらいの大きさかは分からんが、絵だけで見ると、結構デカいダムかもしれないな」
「へええ、すごいんだね」
感心してみせるユウキだが、その表情が曇っていく。
「でも、昨日の遊園地みたいに、またお化けみたいなのがいたりしないかな…」
「うーん…、そうだな…」
答えに窮するリュッ君が思案にくれながら空を仰いだ。
「日が昇っているうちなら、あいつらは活発には活動しないから、早くに出発して、昼間のうちに☆をゲットしなきゃだな…」
「そうしたら、今日中にゴールにいける?」
ユウキが不安そうな目でリュッ君に問いかける。
「うまくすればな。最後の☆マークとゴールの位置までに、逃げ込めそうな神社も少なそうだし、もし、☆のゲットが、夜遅く。もしくはゲット出来なかった場合は、また、どこかの神社にひきかえさなくちゃならんかもな…」
「引き返すの?」
ユウキが目を丸くしてリュッ君に聞き返す。
「うむ。他にも神社のマークが幾つかあったから、後で地図を確認しよう」
「ふーん…」
「そろそろ、焼けてるんじゃないか?」
ばちばちとその身を焦がして煙を上げる焼き魚のにおいをかいで、ユウキは、火から魚を待避させつつリュッ君に言った。
「じゃあ、またダムの湖でもお魚捕らなくちゃあね?」
焼きあがった魚を取り上げると、口でフーフー冷まして、そのままかぶりついた。
「そいつは難しいかもな…。湖みたいため池だと、さすがにガチン漁みたいなので魚は捕れない…。いや、しかし、困ったな、行く途中で野草でも探せってことか?」
リュッ君は考えあぐねるような顔で押し黙った。
「次の☆を手に入れたら、リュッ君の中から釣竿とか出るといいのにね」
ユウキが焼き魚の枝を持ち上げて、その魚の体を火で炙り始めた。
「ああ、たしかにな…」
その様子を見ながらリュッ君は、これから食料を確保する方法を考えていた。リュッ君の中から出てくるアイテムは、特に自分が望んで出しているわけではない。まったくもって、何故あれが出てくるのか、リュッ君にも判らないのだ。うまく釣竿などが出ればいいが、そんな保障はどこにもない。だいたい今までだって、微妙にしょっぱいものしか出てきていない。そして、それらを期待せずに、この先の道中で食料の確保が出来る方法などもそうそう思いつきもしない。
「まさか、あのパチンコで動物を捕れってんじゃあるまいか?」
「パチンコ?」
焼き魚をほおばりながら、ユウキが聞き返してくる。
「昨日出てきた、お前がスリングショットって呼んでたやつだよ…。しかし、さすがに野生動物を殺して食べるのは、魚を焼いて食うのよりは敷居が高いだろう…」
リュッ君がそんなことをひとりごちる脇で、もしゃもしゃとおいしそうに魚を食べるユウキ。
そんなユウキをじっと見つめながら、リュッ君は、「一週間くらい食うや食わずのサバイバルを続けたら、もしかしたらユウキも、肉を生でバリバリ食うくらいのワイルドさを身に着けるかも…」などと、野生児のようなユウキが、野生動物をハントして骨付き肉にかぶりついている絵を想像したり、「いや、もしくは次、ごついサバイバルナイフみたいな、動物の皮を剥いで、部位を分けられる道具が、次の☆アイテムで出たとして…」などととりとめもないことを黙って考えていた。
「どうしたの?」
と、リュッ君に聞いてきた。リュッ君は「フムン…」と生返事をすると、
「ユウキ…、お前、肉は好きか?」
とおもむろにユウキにたずねてきた。ユウキは素直に、
「うん、好き。ハンバーグとかバーベキューとか」
と返事した。
リュッ君はその言葉を受けて、「そうか」と頷いた後、
「ユウキ、次の目的地に行くときは、俺の中からスリングショットは出しておけ」
とうながした。
ユウキが不思議そうな顔をして、リュッ君のほうを見る。
「ベルトの脇に挟んで、いつでも撃てるようにしておこう」




