遊園地
入り口前に築かれたバリケート、その端のほうには、すでに何者かの侵入によって何枚かトタン塀が外されてしまっていた。どうやら、そこから遊園地の中に入れるようだ。
一旦、担いでいる荷物とリュッ君を全部下ろして、トタン塀の隙間からユウキが侵入して中の様子を探ってくる。
「どうだ?ユウキ?」
「うん、大丈夫」
その後、もそもそと隙間から這い戻ってくるユウキ。パンパンと服を叩きながらリュッ君に向かって、「ねえ、リュッ君」と声を掛けた。
「なんだ?ユウキ」
「あそこに書いてある、あれって、なんて書いてあるの?」
ユウキが鎖と錠前がかけられたトタン板の方向を指差した。
「ん、あれは“立ち入り禁止”だ。ここには入るなって書いてあるんだ」
「じゃあ、ここにも入っちゃだめなの?」
ユウキがリュッ君のほうに近づいて、リュッ君をお腹に担ぐと、バリケートの隙間に向かう。
「まあ、ホントならな…」
「つかまっちゃう?」
リュッ君を見下ろして、ユウキが聞いた。
「見つかったらな。まあ今の状況だと、警察にでも見つけて欲しいくらいだけどな…」
リュッ君の言葉を聞いて、ユウキがつぶやくように聞いた。
「なんか、僕たち、やっちゃだめなことばっかりやってる?」
ユウキの言葉に、思わずリュッ君が思わず噴出して笑いながら、
「そうだな、でも今は☆をゲットして、ここから脱出するのが先だ。正当防衛だよ」
ユウキが、リュッ君を担いで、バリケートの隙間から遊園地の中に侵入していく。
「それさっきも言ってた。せーとーボーエーって何?」
「あー…」
ユウキの言葉を受けて答えに困るリュッ君。身をかがめてバリケートの隙間に身を滑らせると、ユウキは遊園地のなかに入っていった。園内に入ったユウキは、一旦リュッ君を下ろすと、再びバリケートの向こう側に戻っていった。隙間を抜け、壁の向こうでクーラーボックスと水筒を「よいしょ!」っと持ち上げると、ユウキは再び荷物を抱えて園内に戻って来た。そんなユウキに向ってリュッ君が、「えーと…なんつったかな?急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛する権利…だったかな…、法律にそんなふうに書いてあったかなあ?」
園内に帰って来たユウキがリュッ君の言葉にきょとんとしながら、「わかんない」と言って、クーラーボックスと水筒を脇に置くと、体を叩いて泥を落とす。その脇で、うーんと唸ってリュッ君が言った。
「大変な事態に陥ったら、まずは自分と仲間の命を大事にってことだよ。多分」
ユウキも、ふーん、と答えて、しばし考えた後、「やっぱり難しいや」と言ってリュッ君を担ぎ上げた。お腹に抱えられたリュッ君がちょっと恥ずかしそうな顔をして「そ…そうか…?」と答える。その上に、クーラーボックスと水筒をななめ持ちにするユウキ。そして二人は、チケットブースが並んだアーチ状の入り口をくぐって園内に入り込んだ。
中は意外と寂れておらず、アーチを抜けた直後の通りには、海外の建物を模したレンガ造りの施設が整然と並んでいた。舗装された地面までは、それほど草木に覆われてはいない。ただ、遊具施設との合間や緑地区域、池などの水周り等、未舗装の場所は草木が荒れ放題に生えており、手入れをしなくなってから相当な年月を経てきたことが伺える。施設の脇に設置された自動販売機は、その多くは中の機械もむき出しで、損壊がひどく、中身はまったく期待出来なさそうだった。
通りを挟んだ向こうには、森の隙間から見えた巨大な観覧車が、そのままの時間が止まったかのように動きを止めてたたずんでいた。
口をあけて見つめるユウキ、思わず「うわ~~…」と声を漏らす。その周りにはジェットコースターのレールが、観覧車を大きく回り込んで、園内をぐるりと一周するかのように、長い長いレールをうねらせていた。
「大きいね…」
ユウキが観覧車やコースターのレールを見上げてつぶやく。リュッ君も、「そうだな」と答えると、「あそこに園内マップがあるな、あいつと地図を見比べて、とりあえず☆と神社の位置を確認しよう」とあごでその先を指した。ユウキが見ると、大きな池のほとりに、遊園地の全体の地図が大きく掲げられていた。
近づいて見て見ると、やはりこの地図も、長年風雨に晒されていたらしく、所々さび付き、剥げてしまっている。汚れや書きなどで、文字など判別が付かない状態になっている。しかし、園内施設などのイラストは、まだまだ健在で、一応大まかに、遊具や施設の種類や場所などは把握が出来そうだった。
ユウキはリュッ君の中から地図を取り出した。リュッ君にも見えるように、体の前に大きく広げる。目の前の大きな園内地図と交互に見比べるリュッ君とユウキ。ユウキが取り出した、“落書き地図”にはコースター脇の、園内中心にある迷路のような模様の上に☆マークが描かれている。“園内マップ”を見ると、ちょうどそこにあたる部分に、巨大迷路のアトラクション施設のようなイラストが描かれていた。それを見てリュッ君はユウキに言った。
「どうやら☆は、園内の中心にある巨大迷路にあるようだな」
それを聞いてユウキが、
「じゃあ、はやく行こうよ」
と巨大迷路のあるところに向かおうとする。
「おいおい、ちょっと待て!ウキ。あせるなよ。何事も準備は必要だ。地図を見せてみろ」
リュッ君に止められ、足を止めてもう一度地図を見る。
「一応、脱出経路を確認しないとな。ユウキ、まず神社の方向を確認しよう」
「神社?」
「避難場所だからな…」
改めて、“落書き地図”を取り出し、描かれた次の避難ポイントである神社の場所を確認するユウキ。“落書き地図”には、神社の場所は遊園地の右後ろ側に描かれていた。
「その方向に出口があるか確認しにいこう」
コースターの脇をすり抜け、巨大観覧車に向って、横から道なりに進んでいくユウキとリュッ君。
周りに見える一切の遊具は、完全に停止している。
コースターのレールには何も走らず、周りの遊具も一切動いてはいない。さびて剥げた鉄骨の脇には足高い草木が無造作に生えていた。少し進むと、巨大観覧車は二人の目の前に現れた。完全に動きを停止している観覧車は、時折風に吹かれ、ギイイイ、と重く軋んだ音をあたりに響かせ少しゆれていた。近くで見るとその大きさがいっそう迫ってくるように見える。無人のまま回転しない巨大観覧車を見上げながら、ユウキとリュッ君は、なんともいえない不思議な感覚に包まれた。
そのまま観覧車の脇を通って、道なりに進むと、この遊園地の退園ゲートが見えてきた。ユウキとリュッ君が、現在その場所がどうなっているのか確認に向かう。
ゲートに近付くと、そこには小さなブースが立ち並んでいた。こちらには、表にあったようなバリケートのようなものは作られていなさそうだ。ゲートのブースには、園から出て行くときに押して回転させる、“回転式バーゲート”なるものが張り出していた。錆びて汚れてはいたが、ユウキとリュッ君が近づき、手で押して見ると、難なく回転した。そのまま出て行くことが出来そうだ。
「ユウキ、念のために外に出て、神社までのルートを確認しよう」
バーを押して外に出るユウキとリュッ君。外は、これまた駐車場になっており、今は打ち捨てられて汚れた車が何台か駐まっているだけで、他は何もなくがらんとしていた。その周りは、高い金網に取り囲まれ、金網の上には有刺鉄線が張り巡らされている。幼児に乗り越えさせるのはちょっと困難そうに見える。
金網のその向こうは森で覆われているが、この駐車場は高台にあるのだろうか、木々の向こうには山並みが広がり、丘陵地が盆地のように下に落ち窪んでいるのが見える。しかし、そこには民家の一つ、田畑の一つも見えやしなかった。駐車場のゲートは、遊園地の入り口に立てられていた、“立ち入り禁止”のゲートよりもよほど頑丈そうなバリケートで封鎖されていた。その先は鬱蒼とした木々が続いているようで、昼日中だというのに、先が暗く覆われていた。
「あ、リュッ君、あれ!」
と、何かに気付いたのか、ユウキが指を差す。
ユウキが指差す方向を見ると、坂道から山道に至る道がぽっかりと続いている。その脇には“○○神社 本殿この先”と書かれた看板がかかげられ、ご丁寧に指差しのイラストが、その山道の方向を指している。○○の部分はかすれて読み取ることが出来なくなっていた。
憮然として見つめるリュッ君が、不機嫌そうに、
「ホント…悪趣味だぜ…」
とひとりごちた。




