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またまた  作者: よだか
第二章
50/73

9.

お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


 二人でだらだらと取り留めのない事を話していれば、自然と夜は更けていく。




「学校楽しい?」

「ん、今更小学生と勉強なんて、って思ってたけど、同年代の子と一緒にいるのは楽しい。やっぱ、精神年齢的にはおっさんなはずだけど、でも精神的にはまだまだ子どもなんだよなぁ」

「なんとなく、わかる、それ。

 あたしも、学校楽しみ」



 あたしは湊の記憶があるけど、湊ではない。

 精神年齢で見れば、その分の積み重ねがある分あたしたちは他の同年代の子よりも大人だけど、身体とともに心だってまだまだ未熟な子どもなのだ。


 実際親なんて湊とそんなに変わらないし、()の歳も足したあたしは、それこそ両親よりも年上みたいなものだ。

 それでも両親はあたしの親だし、アッシュ(あたし)が二人の子どもである事は間違いない。

 その事実は、この世界とあたしを繋ぎとめる大事な命綱のようなものだ。



「お前本当に凄かったな」

「ありがとう」

「仲良くなった獣人仕込みの体術か」

「そうだね。父からも基礎とは思えないレベルまで叩き込まれたけど、獣人の相手してたから、もう普通の女の子の域は越えちゃったかも。まぁ、ナンサも同じ位だし、問題は無いでしょ」

「今日フィルには見られちゃったから、体術特化型だとでも思わせとけ」

「そうだねぇ、魔法は控えめな感じで頑張るよ。ウルの失敗を生かすためにもね」



 本気で頑張っている人からすれば、なんともふざけた態度だろう。

 だが湊以上に長く平和に生きるためには、周囲との余計な軋轢など作らないに越した事はない。

 この世界は日本のように夜安心して出歩ける環境とは程遠く、己の身は己で守るものだ。他との円滑な関係も、周囲に溶け込む実力も、平和を思えば当然に必要だ。

 あたしたちはそれを貪欲に求めているだけだ。己にとって平和で、長く生きるために、それが必要だと知っているから。




「ふわぁぁ、眠くなってきた」

「子どもは寝る時間だね」

「お前もな。火消すぞ」


 火事はこの乾燥した土地において天敵であり、大災害を引き起こしやすい。乾いた空気は炎を消えにくくし、大地の草原を炎の絨毯に一変させる恐ろしさを孕んでいる。


 ウルの水によって音を立てて火は消え、足でぐりぐりと地面と擦り付ければ消し炭は粉々になる。

 納屋も夜の帳を下ろし、天井付近に設けられた窓から差し込む淡い月明かりのみが中を照らした。



 藁をあたしたちが寝やすいように広げ、その上に温情により頂いた一枚のシーツをかけてできた藁ベッドに二人で横たわり、これまた情け深い御心のお陰で貸していただいた一枚の毛布をかけて寝る準備は万端だ。

 まだ春先で夜から明け方にかけては冷え込むこの時期に毛布がないのは可哀想かと思い、乙女的な恥を忍んで、あたしはウルを毛布に入れてやった。


 ウルはあたしの右手側におり、あたしは左に身体を傾けて横になり、ウルとは背中合わせに寝る。



 あたしたちは柔らかな月明かりに包まれながら、空腹を抱えつつもそれを誤魔化すように微睡みへと逃げ出した。






「ウル、ウルってば、起きて」

「んー? …まだ暗いじゃん」


 予期せぬ時間に起こされたためか、半開きのウルの目は外の色を見て大層不満げである。


「お腹すいてるでしょ。狩りに行くよ」


 置いてくよ? 半ば脅しのように言えば、渋々ながら起き出し、ウルはまるで猫のように身体をしならせ大きな伸びを見せた。


 ウルの覚醒をぼんやり待っている暇などない。あたしは、ついてきて、とだけ言い納屋を出て、馬小屋から己の馬を連れ出して草原を目指した。

 あまり音を立てると皆を起こしてしまうので、家から離れるまでは馬をゆっくり歩かせた。





 もうすぐ日が果てしなく続く草原から顔を出す時間。

 あたしたちは未だ肌寒い春の早朝、納屋ではなく草原にいる。


「そういうの屁理屈って言うんだよ」

「だって本当のことでしょ」


 あたしたちは並んで馬を歩かせ、目標のない草原を進む。

 もうすぐ日の出の今、すでに約束の“一晩”は過ぎた。これは屁理屈でもなんでもない。事実(・・)である。



「で、何を狙ってんの?」

「兎とかかなー」


 薄明薄暮性とも称される動物が、日の出とともに間もなく活発化する。

 空が白み始め、世界が濃い闇から薄明かりを受けて輪郭がぼやけ始める、そんな時間。夕方の日暮れ時も同様に、濃い闇が辺りを支配し始める時間。

 つまりどちらも光源が乏しく、どちらかといえば闇よりの時間に、妙に興奮する動物たちがいるのだ。


 日本だと猫とか兎がその類にあたり、この時間頃に活動する動物を狙っているのだ。



「ふーん、でもそんなに簡単に見つかるもんなのか」

「ううん。だから探しに行くの」


 行くよっ、と馬を駆ける。そろそろ家から離れたし、そろそろ闇色の空に薄くミルクを垂らしたかの如く白み始める頃だ。

 それまでには出没するであろう近くまでは行きたい。以前父たちは狩りにいく際、西の小高い丘の方を目指していたので、今日もそこに当たりをつける。




「意外に、乗馬上手いね」

「失礼だな。こんな世界に生まれついてできないわけないだろ」

「学校では乗れないんじゃないの?」

「たまになら乗れる。でも生まれた時からやってるようなことは忘れないだろ」


 言われてみれば自転車に一度乗れるようになれば、しばらく乗らないでいても乗り方を忘れるようなことはない。

 馬が自転車と同等の移動手段という訳か。時代の技術というのは偉大である。




「このへん、かな」


 たどり着いたのは小高い丘が幾重にも折り重なったような場所で、起伏の激しい土地だ。春先ということもあり、青々とした草が一体に広がっている訳ではなく、所々には剥き出しの濃い茶が穴のように空いていた。

 土壌的にも比較的豊かな場所なのか、他と比べても幾分か背の高い草木がちらほらと目立つ。




「ウル、矢何本持ってる?」

「矢筒には今七本入ってる」

「みせて」


 一応は使える物のようだ。

 聞けば自分で手入れをしているというのだから、使わない武器に対してもその気遣いはマメである。


「自信は」

「ない」


 その言葉と同時にあたしに四本の矢が差し出された。


「自分でやってみたら」

「俺は確実に肉が食いたいんだ。自分よりもアッシュの方が可能性が高いだろ」


 そうまで言われれば受け取らない訳にはいかない。

 なんとも情けない理由による信頼だが、信じてもらえる、というのは、悪くない。


 ウルの矢もあたしの矢筒に入れ、きちんと腰につける。これであたしの手持ちは十本。入念にウルの矢を弓と合わせ、番え(つる)を引き、その感覚を確かめた。




 淡く地平線の先に光が灯る。

 光を背に受けながら、西に広がる丘を見やる。


 隠れて狙うべきなのだろうが、このだだっ広い草原においてそれは不可能。やや距離を置いて息を潜め、動き出すのを待つしかない。



「完全に夜が明けるまでには帰ろうね」

「できれば、それまでに飯も済ませたいけどな」


 足元が徐々に照らされ始めた。

 二人ともわかっているのだ。あれは完全に屁理屈で、この件も見つかればどんなお仕置きが待っているか…想像もしたくない。


 早く帰ろう。

 二人で会話せずとも頷きあい、目だけで意思疎通ができた瞬間だった。








 結果は上々だった。


「お前まじですげーな」


 混じり気のない褒め言葉は単純に嬉しい。猿もおだてれば木に登るのだ、人のあたしが軽々と獲物を捕らえられるのも納得だろう。


「だけど……これはやばいよな」

「……」


 狩りは目標通り兎を二羽仕留め、その場で血抜きだけは済ませてきた。こういう時、魔法でいつでも水が出せるのは便利だ。


 しかし見通しが甘かったのか、いや本来ならばいるはずもないので予測すらできなかったとも言えるのだが、予想外のことが起こった。



「これ、動物だって誤魔化せないかな」

「無理でしょ。仕留めたはずなのに、なんかまだ魔力出てるもん。ばばさまは一目見ただけでわかるんじゃない」

「あー、じいさまの御冠の様子が目に浮かぶ…」



 予定通り狩りを終え、帰途につくあたしたち。日に向かって馬をかけるあたしたちは、清々しい朝の景色とは裏腹に叱られる未来に気分は下がりに下がり、馬を駆けながらも比喩的な表現をすれば足取りは大層重い。





 そんなご主人のくだらない思いなど一蹴するように馬たちは命じられるままに駆けていく。


 優秀なあたしたちの馬は、狩りに付き合わせて疲れているだろうに行きよりも早く帰ってくれた。馬小屋に入れ一頻り撫でてやれば、むしろこちらを慮るような目で見られ、軽く鼻を押し付けられた。

 感極まって餌を多めに出してやれば、すぐさま食らいついたので、やはり少々無理をさせてしまったのかと思ったが、早く餌にありつきたかっただけかもしれない。


 まぁどんな理由にしても早く帰宅できたのはありがたい。食事を邪魔しないよう再度頭を撫でて馬小屋を後にした。




 あたしたちは納屋の前に集まり、とりあえず肉をどうするか話し合う。

 結局一羽はこのまま食べて、もう一羽と問題のやつは一緒に見せることになった。


 時間にして、まだ日が昇って二時間も経っていないだろうが、そろそろ我が家とタクバク家の大人たちは起き出し、遊牧や農作業を行う時間だ。

 大人たちに見つかると非常に厄介で、折角の朝食さえも食いっぱぐれる可能性がある。

 ウルは大急ぎで納屋から拝借した藁に魔法で火をつけ、あたしは血抜きを済ませた兎を手早く解体し“肉”にした。


 ウルの持ってきた串に刺し、火にくべればじわじわと良い匂いが漂ってくる。

 焼き上がりを待つ間に、二人で兎の処理を行う。毛皮や食べれない臓物に向かい手を合わせ、水魔法を応用して浄化をし、命を弔う。


 毛皮は傷も少なく、何かに使えそうだったので魔法で綺麗にしておく。臓物類はどうにもできず、かといってここに捨て置く訳にもいかないので、さらに洗浄・浄化をして徹底的に清めて桶に入れておく。さらに空魔法で結界をかけて、まさしく臭いものに蓋状態。

 ごめんなさい、朝食を美味しく食べたらちゃんと自然に返しに行きます。





「いっただっきまーす」

「おいしー」


 ようやく焼き上がり、二人美味しい肉に舌鼓を打つ。焼き加減とともにウルが家からくすねてきた調味料の味付けも抜群で、久しぶりのまともなご飯に心が満たされる。

 思えば、昨日の朝食以来木の実しか食べていない。


「あー、めちゃくちゃうめー」

「それはよかったね」


 あたしたちは大人たちに後ろを取られやすいのか、こんな場面が以前も何度かあった。


「ふぃふぃはまっ」

「口の中食べちゃいなよ」


 気配に気づけないほどの手練れがいる、ということの表れかもしれないが、こうも後ろを取られると毎度驚くとともに少し悔しい。


「じじさま、なんでここに」

「昨日、俺がお前らの朝の様子を見る役に決まったの。そんで、日の出とともに様子を見に来てみればお前らはいないし、帰ってきたかと思えば肉食いはじめるし……なんか変なのまで持って帰ってきてるしな」


 一度言葉を切ったじじさまは見たものを切り刻めそうなほど鋭い目でそれ(・・)を見た。

 ウルがすかさず動き、それを無造作に入れた袋をじじさまに渡した。

 中身を確認したじじさまは幾分か表情を和らげ、幾つか確認させて、と前置きをしてから尋ねてきた。



「ふーん、これ、二人で仕留めたの」

「ううん、仕留めたのはアッシュ」

「具体的には、どうやった」


 誤魔化しは許さないとじじさまの鋭い目が告げている。曖昧な答えではこの人はきっと納得しないだろう。


「えっと、突然現れたので、まず足の動きを止めようと矢を射ましたが、かすっただけでした。その後も想像以上に、普通の兎とは比べ物にならないほど速く動くように感じました。

 仕留められないようなら逃げようかとも思ったんですけど、そうすると追ってきて攻撃を仕掛けてきました。ここに連れてくる訳にはいかないと思って、なんとかすることにしました」


 できる限りそのときの状況を思い出して、どんな動きだったか、何をしたのかを細かく説明しようとするが、緊張のせいか支離滅裂だ。


「なんか変な奴だなって思って、周りに気をつけながら魔法で攻撃したんだけど、ほとんのど効かなかった。火まで使ったのに、毛皮もあんまり燃えなかった。

 だから俺は魔法は補助して、アッシュが弓矢で仕留め易いように動くことにした」

「うんうん、それで?」


 目は相変わらず獲物を見るような鋭さを孕んでいるが、表情は嬉々としていて、まるで物語の続きを待つ子供のようだ。



「まず俺が兎を囲む結界を大きめに作った。俺細かい魔法苦手だから、アッシュが馬で追い回して動きを限定して少しずつ結界を狭めていって、最後はアッシュが射止めた」

「一本じゃダメでした。毛皮が厚いのかなかなか決定的な傷を与えられなくて…。

 動きを止めるために足を狙いました」

「ふーん……」


 話を聞きながら、じじさまは袋から例の獲物を取り出し検分し始めた。

 兎のようなそれは、やはり兎とは言い難い。一般的な兎よりもふた回りほど大きく、毛皮は死後のせいかより硬い。牙は肉食獣の如く鋭い犬歯が生えており、爪も鋭く、瞳は生き絶えてもなお禍々しいほどの魔力を帯びている。

 あたしはこんな生き物、初めて見た。


 じじさまは足元の矢傷を見て、首元の刀傷を確かめ首を傾げる。



「これ、どうやって仕留めたの」

「えっ」


 やはりじじさまは誤魔化されてくれなかったようだ。ウルが声を上げてしまったことで、あたしたちのそれはバレてしまったに等しい。

 じじさまはそれを見て、追及の手を強めた。


「この足の矢傷はアッシュの言った通り、動きを止める為のものだね。いいね、これ。両足とも一本で上手く足を仕留めてるね。

 でも、これだけじゃ致命傷にはならないね。この首の傷は仕留めてから血抜きの為のものだから違う」


 ねぇ、どうして?

 そう尋ねるじじさまの目にはウルしか写っていない。じじさまにはもう答えがわかっているのではないか、そう思わせるほどの力強い問い方だった。


 その視線に狼狽えたウルは困ったようにあたしを見た。

 どうせやったのはウルなのだ。あたしは首を振って、大人しく話すよう言葉なく促した。


 それを見たウルは観念したようにじじさまをまっすぐ見つめ、内緒にしてほしい、と前置きをしてから話し始めた。





「へー…空間の空気を風魔法で操る、ねぇ。難しい話は俺にはよくわかんないけど、まぁ、一般に知られた知識じゃないな。

 それ、どうやって知ったのか知らないし聞かないけど、そんな知識をベラベラと話したり、迂闊に使ったりするなよ」


 まあわかってると思うけど、と最後に茶化すように表情を緩めたじじさまだったが、どうならあたしたちを見る目は大分変わってしまったようだ。

 幸いなのは危険で未知の恐ろしいものを見る目ではなく、なんというか…実力を認められたような、あたしたちという存在を対等と見るかのような、そんな目のように見えた。



「とにかくまずはツェツェグたちに報告かな。もう一度怒られるのは覚悟しといた方がいいよ」


 じじさまはいたずらの成功した子供のように生き生きとした笑顔でそう言った。



お読みくださり、ありがとうございます。

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