表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/31

第九話 異例の昇格と錬金術師ギルド



 王城を出たリリスとリーナは、そのまま王都の冒険者ギルドへ向かった。


 昨日まで着ていた茶褐色の革鎧とは違い、今日のリリスは完全に新装備だ。


 黒い《黒鎧革装ブラックアーマー・レザー》の上から、白い《白魔繊衣ホワイト・マナジャケット》を前開きのまま羽織っている。腰には《黒鎧戦剣ブラックアーマー・ブレード》、背には《黒鎧魔弓ブラックアーマー・ボウ》。


 艶を抑えた黒い硬皮装備と白いジャケットの対比はかなり目立つ。


「……見られてる」


「当然でしょうね」


「そんなに?」


昨日F級ランクで登録した新人が、翌日に装備を全部変えているんですよ?」


「自分で作っただけだけど」


「そこが一番おかしいんです」


「そうかな」


「そうです」


 リーナは即答した。


 王都の通りを歩く間も、冒険者らしき人々の視線が何度かリリスへ向けられる。


 もっとも、本人はそこまで気にしていなかった。


「それよりランク」


「気になります?」


「うん。Fのままでも別にいいけど」


「昨日の実績を考えると、少なくともそのままということはないでしょう」


 通常なら、冒険者は依頼を何度も達成し、実績と信用を積み上げながら一段階ずつ昇格していく。


 けれど昨日のリリスは、登録直後に緊急依頼へ参加し、五十体を超えるゴブリン集団との戦闘を経験した。


 さらにホブゴブリン・リーダー。


 そして帰還途中には、《徘徊強敵ワンダリング・モンスター》である《黒鎧大猪ブラックアーマー・ボア》まで討伐している。


「普通なら、何か月もかけて積むような戦闘実績を一日で作っていますからね」


「そんなに?」


「そんなにです」


◇◇◇


 冒険者ギルドの扉を開ける。


「……あ」


「昨日の新人だ」


「装備変わってないか?」


「後ろのあれ魔弓か?」


「白いジャケット、結構格好いいな」


 昨日よりも明らかに視線が集まった。


「やっぱり目立つ」


「諦めてください」


 受付を見ると、ミレアがこちらに気づいた。


「あっ、リリスさん! お待ちしていました!」


「封書届いたよ」


「はい。審査結果が出ましたので、こちらへお願いします」


 二人は受付へ向かう。


 ミレアは一度リリスの装備を見て、それから首を傾げた。


「……昨日と装備が違いますね?」


「作った」


「作った?」


「ブラックアーマーボアの素材で」


「……昨日倒した個体の?」


「うん」


「昨日の夜に?」


「うん」


「……」


 ミレアがリーナを見る。


「聞かない方がいいです」


「分かりました」


 対応が早くなっていた。


◇◇◇


「それでは本題です」


 ミレアが一枚の書類と、リリスの冒険者証を取り出した。


「昨日の緊急依頼について、商隊、生存した護衛冒険者、王国騎士団、そしてリーナ様から提出された証言を照合しました」


「結構ちゃんと調べるんだ」


「当然です。冒険者ランクは依頼の受注制限だけでなく、その人物の信用にも関わりますから」


 虚偽の討伐報告や。


 他人の功績を自分のものとして申告する者もいる。


 だからこそ。


 特殊な昇格を行う場合は、通常以上に厳しい確認が必要になるらしい。


「結果として、リリスさんがゴブリン多数の討伐、負傷者の治療、ホブゴブリン・リーダーとの戦闘、そして《黒鎧大猪ブラックアーマー・ボア》討伐に大きく貢献したことが正式に確認されました」


「うん」


「そこで王都本部の審査官による協議の結果――」


 ミレアが。


 新しい冒険者証を差し出す。


━━━━━━━━━━


《冒険者証》


名前:リリス・ルクスヴィア


種族:人族


年齢:21


冒険者ランク:


F級ランク



D級ランク


━━━━━━━━━━


「……D?」


「はい」


「二つ飛んだ」


「異例です」


 F。


 E。


 D。


 本来なら一段ずつ上がる。


「通常は飛び級など、まず認められません。ただ今回は戦闘能力を実際に確認した者が多く、さらに王国騎士団副隊長であるリーナ様の証言もあります」


「私も」


 リーナが続ける。


「少なくともD級相当の魔物を相手にしても、リリスなら単独で生存できる可能性が高いと報告しました」


「可能性?」


「冒険者ギルドに『たぶんもっと強いです』とは書けませんから」


「そっか」


「それと」


 ミレアが少し真剣な表情になる。


C級ランクへの昇格案も出ました」


「え?」


「ですが見送られました」


「どうして?」


「戦闘能力だけなら問題ない可能性があります。しかし冒険者は戦闘だけが仕事ではありません」


 依頼主とのやり取り。


 護衛。


 判断力。


 野営。


 未知の土地での行動。


 パーティー連携。


 そして、状況によっては撤退を選ぶ冷静さ。


「リリスさんには戦闘力があります。ただ、冒険者としての活動日数はまだ一日です」


「なるほど」


 リリスは素直に頷いた。


「じゃあDから」


「不満ではありませんか?」


「全然」


 むしろ。


 最初から上へ行きすぎるより。


 少しずつ依頼を受ける方が楽しそうだ。


「いろんな依頼やってみたいし」


「……よかったです」


 ミレアが安堵する。


「たまにいるんですよ。実力だけで高ランクを要求する方が」


「面倒そう」


「とても」


◇◇◇


 新しい冒険者証を受け取る。


━━━━━━━━━━


《リリス・ルクスヴィア》


冒険者ランク:D級ランク


━━━━━━━━━━


「これでD級までの依頼を自由に受注できます」


「どんなの?」


「魔物討伐ならオーク、ウルフ系上位種、小規模なゴブリン集落などですね。採取では危険地帯に生育する薬草や鉱石の回収、ほかには街道護衛などもあります」


「鉱石」


「そこですか?」


「錬金術に使えるから」


「やっぱり」


 ミレアも。


 少しずつリリスの性格を理解してきているらしい。


「素材買取も利用できますよ」


「売っていい素材が溜まったら持ってくる」


「ぜひお願いします」


「でも珍しいのは残す」


「でしょうね」


◇◇◇


 登録関係が終わると、リリスは依頼掲示板を眺めた。


 D級区画。


━━━━━━━━━━


《アイアンウルフ討伐》


推奨:D級ランク


討伐目標:5体


━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━


《魔晶茸採取》


推奨:D級ランク


採取目標:20本


━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━


《廃鉱山周辺調査》


推奨:D級ランク


内容:

魔物増加原因の調査


━━━━━━━━━━


「……」


「目が輝いてますよ」


「魔晶茸」


「そこ?」


「初めて聞いた」


 鑑定したい。


 採取したい。


 できれば錬金術にも使いたい。


「受けます?」


「今日はやめとく」


「珍しいですね」


「行きたいところがあるから」


「どこです?」


「錬金術師ギルド」


 リーナが納得したように頷いた。


「そういえば、まだ正式な登録はしていませんでしたね」


「うん」


 昨日は。


 偶然見つけた錬金術店で。


 三千本もの《HP全回復ポーション》を作った。


 しかし。


 あれはあくまで一般の店舗。


 この世界の錬金術そのものについて。


 まだ何も知らない。


「五百年後の錬金術」


 小さく呟く。


 どんな素材があるのか。


 どんな製法が主流なのか。


 どんな魔導具が作られているのか。


 考えただけで。


 胸が高鳴る。


「行こう」


「はい」


 リリスは冒険者証を《インベントリ》へ収納した。


◇◇◇


 冒険者ギルドから歩くこと。


 二十分ほど。


「ここです」


「……大きい」


 目の前。


 石造りの巨大な建物。


 入口には。


 フラスコ。


 魔法陣。


 星。


 それらを組み合わせた紋章が掲げられている。


━━━━━━━━━━


《聖ルミナス王国王都》


《錬金術師ギルド》


━━━━━━━━━━


「冒険者ギルドと同じくらいある」


「王都本部ですからね」


 建物の横には。


 煙突。


 さらに別棟。


 素材倉庫らしき巨大施設まである。


「楽しそう」


「入る前からですか?」


「うん」


 扉を開ける。


 瞬間。


「……!」


 リリスの視界いっぱいに。


 素材。


 素材。


 素材。


 壁際の棚には。


 薬草。


 鉱石。


 魔石。


 魔物素材。


 液体。


 粉末。


 結晶。


 見たことのない瓶。


 さらに奥では。


 錬金術師たちが。


 巨大な釜や魔導炉を使って作業している。


「……ここ好き」


「早いですよ」


「住めそう」


「住まないでください」


◇◇◇


「いらっしゃいませ」


 受付にいた。


 眼鏡をかけた若い女性が。


 二人へ会釈する。


「本日は素材の売却でしょうか? それとも錬金依頼ですか?」


「登録したいです」


「錬金術師として?」


「はい」


「承知しました。では錬金術スキルの確認と、簡単な製作試験を行います」


「試験」


 リリスの黒曜石のような瞳が。


 少しだけ輝く。


「何作るんですか?」


「初級ポーションです」


「……」


「どうしました?」


「初級」


「はい」


 隣で。


 リーナの顔が。


 引きつった。


「リリス」


「何?」


「お願いがあります」


「?」


「普通に作ってください」


「普通に?」


「普通の初級ポーションを」


「分かった」


「HP全回復にしないでください」


「……努力する」


「努力ではなく!」


 受付嬢が。


 困惑する。


「あの……何か?」


「いえ」


 リーナは。


 非常に疲れた顔で答えた。


「こちらの事情です」


◇◇◇


 案内されたのは。


 ギルド内の試験工房。


 作業台には。


 治癒草。


 清水。


 空瓶。


 至って普通の素材。


「この素材を使い、初級HP回復ポーションを一本製作してください」


「品質は?」


「最低でも通常品質。良質以上なら十分合格です」


「なるほど」


 リリスが。


 治癒草を見る。


「《鑑定》」


━━━━━━━━━━


《治癒草》


品質:通常


━━━━━━━━━━


 昨日と。


 ほぼ同じ。


「……」


 嫌な予感がする。


 昨日。


 何も考えず。


 魔力を込めた結果。


 《HP全回復ポーション》になった。


「魔力を抑える」


 《魔力操作》Lv10。


 これがある。


 昨日より。


 さらに精密に。


 必要最低限。


「このくらい……?」


 魔力を。


 細く。


 細く。


 かなり細く。


「《上級錬金術》」


 ――キィン。


 受付嬢。


 試験官。


 リーナ。


 三人が。


 完成した瓶を見る。


━━━━━━━━━━


錬金成功!


《高級HP回復ポーション》


品質:最高


━━━━━━━━━━


「……」


「……」


「……」


 リリスが。


 瓶を見る。


「失敗した」


「成功しています!」


 試験官が叫んだ。


「初級を作るのには失敗した」


「そちらですか!?」


 リーナが。


 ゆっくり。


 額へ手を当てる。


「リリス」


「かなり抑えたよ?」


「分かっています」


「昨日よりずっと」


「分かっています!」


 試験官が。


 完成品を。


 震える手で鑑定する。


「通常品質の治癒草から……最高品質の高級ポーション?」


「何ですか、この変換効率は……」


「不合格?」


「なるわけないでしょう!」


「よかった」


「問題はそこではありません!」


 また。


 言われた。


◇◇◇


「念のため」


 試験官が。


 慎重に尋ねる。


「現在の錬金術スキルを確認しても?」


「いいですよ」


 表示。


━━━━━━━━━━


《上級錬金術》Lv6


━━━━━━━━━━


「……上級」


「Lv6……?」


 受付嬢が。


 固まった。


「おいくつですか?」


「二十一」


「錬金術歴は?」


「……」


 この世界に来てからなら。


 二日。


「最近?」


「最近?」


「はい」


 リーナが。


 静かに口を挟む。


「深く聞かない方がいいと思います」


 また。


 同じ結論になった。


◇◇◇


「少々お待ちください」


 試験官が。


 急いで部屋を出ていく。


「どこ行ったんだろ」


「おそらく上司を呼びに」


「高級ポーション作っただけなのに」


「その『だけ』をやめませんか?」


 数分後。


 ――バンッ。


 扉が開いた。


 入ってきたのは。


 白髪混じりの男性。


 年齢は。


 五十代ほど。


 深緑のローブ。


 胸元には。


 複数の錬金術師徽章。


「君か!」


「?」


「通常の治癒草から最高品質の高級ポーションを作ったというのは!」


「はい」


「上級錬金術Lv6!?」


「はい」


 男性は。


 リリス。


 ポーション。


 そして。


 再びリリス。


 忙しなく見比べる。


「私はこの王都錬金術師ギルドの支部長、グレイゼルだ」


「リリスです」


「さっそくだが」


 グレイゼルが。


 真剣な顔になる。


「もう一本」


「作ってもらえないか?」


「初級?」


「いや」


 一拍。


「今度は」


「一切加減せずに」


「……」


 リーナが。


 硬直した。


「支部長さん」


「何だ?」


「それ」


「本当に言ってます?」


「もちろんだ」


 リーナが。


 天井を見上げる。


「……知りませんよ」


「?」


「何がだ?」


 リリスは。


 治癒草を。


 一本。


 手に取った。


「じゃあ」


 少しだけ。


 楽しそうに笑う。


「普通に作ります」


 その一言を聞いたリーナだけが。


 これから起こることを知っているかのように。


 深いため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ