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1/7

プロローグ 500年後の世界へ



 ――残り、一分。


 夕暮れに染まる空を。


 リリス・ルクスヴィアは、白亜の神殿から静かに眺めていた。


 ここは《始まりの白神殿》。


 世界最大級のフルダイブ型VRMMORPG。


 《リリンズ・ゲート・オンライン》。


 通称――LGO。


 運営期間、十年。


 世界累計プレイヤー数――一千二百万人。


 世界中の多くのプレイヤーに愛され続けてきたこのゲームも。


 今日。


 ついにサービス終了の日を迎える。


━━━━━━━━━━


《サービス終了まで》


00:00:58


━━━━━━━━━━


「……本当に終わっちゃうんだ」


 リリスは。


 誰に言うでもなく、小さく呟いた。


 《リリス・ルクスヴィア》。


 それは。


 彼女がLGOで十年間使い続けてきた名前。


 現実での名前は。


 黒瀬莉央。


 二十一歳。


 ごく普通の女子大学生だった。


 莉央がLGOを始めたのは十年前。


 初めてフルダイブした日のことは。


 今でも鮮明に覚えている。


 頬を撫でる風。


 草木の匂い。


 川の水へ触れた時の冷たさ。


 自分の足で大地を踏みしめる感触。


 剣。


 魔法。


 魔物。


 どこまでも続く世界。


 初めて降り立った時には。


 本当に異世界へ迷い込んだのではないかと。


 そう思ったほどだった。


 それから十年。


 莉央は。


 数え切れないほどの場所を旅した。


 深い森。


 広大な草原。


 灼熱の砂漠。


 雪に覆われた山脈。


 空に浮かぶ島々。


 海底へ沈んだ古代都市。


 地下深くまで続く巨大迷宮。


 強大な魔物とも戦った。


 仲間たちと攻略した場所もあれば。


 一人で。


 何日も素材を探し回ったこともある。


 そして。


 莉央が何よりも好きだったもの。


 それは。


 素材を集め。


 新しい物を作ることだった。


「最初の頃なんて、初級ポーション一個作るのにも失敗してたなぁ」


 思い出して。


 小さく笑う。


 薬草。


 鉱石。


 魔物素材。


 宝石。


 魔力結晶。


 珍しい素材を見つければ。


 とりあえず持ち帰る。


 使い道が分からなくても。


 まずは保管。


 そして。


 何に使えるのか試す。


 薬。


 武器。


 防具。


 装飾品。


 魔導具。


 失敗すれば。


 素材を集め直す。


 配合を変える。


 加工法を変える。


 何度でも挑戦した。


 そんなことを。


 十年間。


 ひたすら続けた結果。


 リリスは。


 LGOでも最高峰に位置する錬金術師へ到達していた。


 その称号は。


 《神級錬金術師》。


「……十年かぁ」


 長かったような。


 短かったような。


 視界の端。


 カウントダウンが。


 静かに減っていく。


━━━━━━━━━━


《サービス終了まで》


00:00:10


━━━━━━━━━━


 とうとう。


 残り十秒。


「十」


 最後くらい。


 自分で数えることにした。


「九」


「八」


「七」


 夕暮れの風が。


 肩にも届かないほどの短い黒髪を揺らす。


「六」


「五」


「四」


 リリスは。


 眼下に広がる景色を目に焼き付ける。


 白亜の王都。


 連なる山々。


 夕陽を反射する大きな湖。


 空を舞う飛竜。


 雲の向こうに浮かぶ巨大な浮遊島。


 何度も見た。


 大好きな世界。


「三」


「二」


「一」


━━━━━━━━━━


00:00:00


━━━━━━━━━━


「……ありがとう、LGO」


 その瞬間だった。


「……?」


 何も。


 起こらない。


「え?」


 本来なら。


 強制的にログアウトされているはずだった。


 けれど。


 リリスは。


 まだ《始まりの白神殿》に立っている。


「ログアウトされない……?」


 周囲を見る。


 そして。


 すぐに異変へ気づいた。


「鳥……?」


 空を飛んでいた鳥が。


 止まっている。


 翼を広げたまま。


 完全に静止していた。


 神殿に掲げられた旗も。


 風に揺れていた木々も。


 雲も。


 何もかも。


 止まっている。


「なに……これ」


 メニューを開く。


 ログアウト。


 選択。


 ――反応なし。


「え?」


 もう一度。


「……できない」


 その時。


 ――ピシッ。


「……?」


 頭上から。


 何かが割れるような音。


 見上げる。


 夕焼け空に。


 一本の亀裂が走っていた。


「え……」


 まるで。


 巨大なガラスに。


 ひびが入ったように。


 ――ピシッ。


 ――パキッ。


 亀裂が。


 どんどん広がっていく。


「ちょっと待って……」


 空だけではない。


 山。


 街。


 神殿。


 足元の大地。


 世界そのものへ。


 無数の亀裂が走っていく。


「何が――」


 次の瞬間。


 ――パァァァァン!


 世界が。


 砕け散った。


「――っ!」


 白亜の神殿。


 王都。


 山々。


 空。


 大地。


 すべてが。


 無数の光の欠片となって。


 暗闇へ消えていく。


 そして。


 リリスの意識も。


 その光へ飲み込まれた。


◇◇◇


「……ん」


 ゆっくり。


 目を開く。


「ここ……どこ?」


 暗い。


 何もない。


 上も。


 下も。


 前も。


 後ろも。


 ただ。


 果てしない暗闇だけが広がっている。


「ログアウト……じゃないよね」


 自分の身体を見る。


 姿は。


 まだリリスのまま。


 短い黒髪。


 黒い瞳。


 十年間。


 使い続けてきたアバター。


「どうなってるの……?」


 その時。


 暗闇の中へ。


 一つ。


 小さな光が灯った。


「?」


 もう一つ。


 さらに一つ。


 次々と。


 光が増えていく。


「星……?」


 気づけば。


 周囲には。


 無数の星々が広がっていた。


 真っ暗だった空間が。


 果てのない星空へ変わっていく。


「……綺麗」


 その中央。


 リリスの足元から。


 白銀色の階段が。


 ゆっくりと姿を現した。


「階段?」


 星々の間を縫うように。


 上へ。


 上へと続いている。


 その先。


 星海に浮かぶ。


 小さな白い神殿。


「……行ってみろってことかな」


 他に。


 進めそうな場所はない。


 リリスは。


 白銀の階段へ足を踏み出した。


◇◇◇


 階段を上り切る。


 目の前には。


 純白の神殿。


 扉は。


 すでに開かれている。


 リリスは。


 少しだけ警戒しながら。


 中へ足を踏み入れた。


「ようこそ」


「……!」


 柔らかな声。


 神殿の中央に。


 一人の女性が立っていた。


 長い銀白色の髪。


 神秘的な瞳。


 純白の衣。


 身体の周囲には。


 淡い光が漂っている。


 人間とは思えないほど。


 美しい女性。


「あなたは……?」


「私はエルシア」


 女性は。


 穏やかに微笑んだ。


「この世界を創造した者です」


「この世界?」


「はい」


 エルシアは。


 静かに答える。


「あなたたちが」


「《リリンズ・ゲート・オンライン》と呼んでいた世界を」


「……え?」


 リリスは。


 数秒。


 言葉を失った。


「LGOを……?」


「ええ」


「ゲーム会社の人……じゃないですよね」


「違います」


 エルシアが。


 少し楽しそうに笑う。


「私は」


「あなたたちの言葉で表すなら」


「創造神と呼ばれる存在です」


「創造神……」


 あまりにも。


 現実離れした話。


 けれど。


 世界が目の前で砕け。


 星の海に浮かぶ神殿へ来ている時点で。


 普通ではない。


「でも」


 リリスが尋ねる。


「LGOを創ったって……どういう意味なんですか?」


「正確には」


 エルシアが。


 リリスを見る。


「あの世界は」


「あなたたちのために作られたゲーム世界ではありません」


「……え?」


「《リリンズ・ワールド》」


「それが」


「あの世界の本当の名前です」


「リリンズ・ワールド……」


「はい」


 リリスが。


 ゆっくり尋ねる。


「じゃあ」


「LGOの世界って」


「本当に存在するんですか?」


「存在します」


「……」


「あなたたちの世界からは」


「特殊な仕組みを通じて」


「ゲームという形で接続されていたのです」


「それじゃあ……」


「街も?」


「存在します」


「森も?」


「存在します」


「魔物も?」


「もちろん」


「……NPCは?」


 その問いに。


 エルシアは。


 少しだけ。


 優しい表情になる。


「あなたたちがNPCと呼んでいた者たちも」


「《リリンズ・ワールド》では」


「一人一人が命を持って生きています」


「……」


 十年間。


 ゲームだと思っていた世界。


 そこで出会った人々も。


 本当に。


 生きていた。


「じゃあ……」


 リリスは。


 少し間を置いて。


 尋ねる。


「今も」


「あの世界はあるんですか?」


「あります」


「今も?」


「ええ」


「ただし」


 エルシアの声が。


 少しだけ真剣になる。


「あなたが知っている時代とは」


「大きく異なります」


「どういうことですか?」


「あなたがLGOとして知る時代から」


 一拍。


「《リリンズ・ワールド》では」


「すでに五百年が経過しています」


「…………」


 リリスは。


 固まった。


「五百……?」


「はい」


「五百年?」


「五百年です」


「……五百年!?」


 声が。


 白い神殿へ響いた。


「そんなに経ってるんですか!?」


「ええ」


「じゃあ」


 頭の中へ。


 次々と疑問が浮かぶ。


「私が知ってる国は?」


「残っている国もあります」


「なくなった国も?」


「あります」


「街は?」


「新しく生まれた都市も」


「歴史の中で消えた都市も存在します」


「……」


 五百年。


 それだけの時間が経てば。


 世界は変わる。


 国。


 文化。


 技術。


 人々の暮らし。


 そして。


「魔物も?」


「新たに確認された種が数多く存在します」


「素材は?」


「あなたの知らないものも」


「たくさんありますよ」


「錬金術は?」


「五百年分」


 エルシアが微笑む。


「発展しています」


「…………」


 リリスの黒い瞳が。


 明らかに輝いた。


「……見たい」


「ふふっ」


「え?」


「いえ」


 エルシアが。


 楽しそうに笑う。


「五百年経った世界と聞いて」


「最初に興味を持つのが素材と錬金術なのですね」


「だって」


 リリスは。


 少しだけ視線を逸らす。


「知らない素材がいっぱいあるんですよね?」


「ええ」


「LGOにはなかったものも?」


「たくさん」


「知らない錬金術も?」


「もちろん」


「……」


 行ってみたい。


 その気持ちが。


 急速に大きくなっていく。


「黒瀬莉央さん」


「はい」


 エルシアが。


 静かに手を差し出した。


「あなたに」


「一つ、提案があります」


「提案?」


「五百年後の」


「《リリンズ・ワールド》へ」


 一拍。


「行ってみませんか?」


「……え?」


 リリスが。


 目を見開く。


「私が?」


「はい」


「本当に?」


「もちろんです」


「この姿は……?」


「そのままで構いません」


 エルシアが。


 穏やかに答える。


「黒瀬莉央としてではなく」


「あなたが十年間使い続けてきた」


「《リリス・ルクスヴィア》として」


「……」


 十年間。


 冒険を共にしてきた。


 もう一人の自分。


 考える時間は。


 ほとんど必要なかった。


「行きたいです」


「五百年後の世界」


「見てみたいです」


「ふふっ」


 エルシアが。


 嬉しそうに微笑んだ。


「そう言うと思っていました」


◇◇◇


「それでは」


 エルシアの掌に。


 白銀の光が集まり始める。


「あなたが」


「これから先」


「長い時間を自由に旅できるように」


「私から」


「いくつか贈り物をしましょう」


「贈り物?」


「まずは」


 白銀の光が。


 リリスの胸へ飛び込んだ。


「――っ」


 身体中へ。


 温かな感覚が広がる。


━━━━━━━━━━


《創造神エルシアの加護》


を獲得しました。


━━━━━━━━━━


 続けて。


 新たな表示。


━━━━━━━━━━


《創造神エルシアの加護》


《全状態異常完全無効》


《全属性ダメージ半減》


《物理ダメージ半減》


《魔法ダメージ半減》


《精神干渉完全無効》


《呪詛完全無効》


《即死完全無効》


《能力低下完全無効》


《体力自然回復超強化》


《魔力自然回復超強化》


━━━━━━━━━━


「…………」


 リリスは。


 一覧を。


 上から下まで見る。


 そして。


 もう一度見る。


「……すごくないですか?」


「そうでしょうか?」


「すごいと思います」


「ふふっ」


 エルシアは。


 楽しそうに微笑んでいる。


「そして」


 もう一つ。


 白銀の光が。


 リリスを包んだ。


━━━━━━━━━━


《不老不死の加護》


を獲得しました。


━━━━━━━━━━


「……不老不死?」


「はい」


「私が?」


「あなたが」


「本当に?」


「本当に」


「年も取らないんですか?」


「取りません」


「寿命も?」


「ありません」


「死なない?」


「死にません」


「……」


 リリスは。


 自分の胸へ手を当てた。


「とんでもないもの貰っちゃった……」


「あなたには」


 エルシアが。


 優しく微笑む。


「《リリンズ・ワールド》を」


「心ゆくまで見てほしいのです」


「……」


「十年ではなく」


「百年」


「千年」


「その先も」


「あなたが望む限り」


「自由に旅をしてください」


「百年……千年……」


 普通の人間なら。


 決して届かない時間。


 けれど。


 今の自分なら。


「全部の大陸を回っても」


「まだ時間が余りそう」


「何周しても構いませんよ」


「それも楽しそう」


 自然と。


 笑みがこぼれた。


「それと」


「まだあるんですか?」


「もちろん」


 エルシアが。


 指先を上げる。


 星々の光が。


 次々と集まってくる。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 やがて。


 十個。


 白銀色の光が。


 リリスの周囲へ浮かんだ。


「これは?」


「あなたの旅を助ける」


「十のスキルです」


 十個の光が。


 一斉に。


 リリスへ吸い込まれた。


「わっ」


━━━━━━━━━━


創造神エルシアより


《初期スキル》を授与されました。


取得数:10


全スキルLv10


━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━


《初期スキル》


《獲得経験値上昇》Lv10


《必要経験値減少》Lv10


《獲得AP上昇》Lv10


《獲得SP上昇》Lv10


《ポイント消費軽減》Lv10


《素材獲得量上昇》Lv10


《自動収集》Lv10


《鑑定》Lv10


《インベントリ》Lv10


《錬金術》Lv10


━━━━━━━━━━


「……錬金術」


 リリスの視線が。


 最後の項目で止まる。


「ちゃんとあります」


「あなたには」


「何より必要でしょう?」


「はい」


 即答だった。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 さらに。


 エルシアが。


 リリスへ手を向ける。


「最後に」


「あなたの身体そのものも」


「この世界で十分に力を扱える器へ整えておきます」


「器?」


 瞬間。


 リリスの身体へ。


 今までとは比べものにならないほど。


 濃密な力が流れ込んできた。


「――っ!?」


 熱い。


 けれど。


 苦しくない。


 身体の奥。


 今まで意識したことのなかった場所へ。


 巨大な何かが。


 満ちていく。


「これ……」


「魔力です」


「魔力……」


「確認してみてください」


「どうやって?」


「念じるだけで」


 言われた通り。


 意識する。


 すると。


 目の前に。


 小さな表示が現れた。


━━━━━━━━━━


《魔力》


MP:100,000


━━━━━━━━━━


「……十万?」


「はい」


「MPが?」


「十万です」


「…………」


 数字を。


 もう一度見る。


「多いですよね?」


「かなり」


「やっぱり」


 どうやら。


 気のせいではなかった。


 身体の中に。


 とても使い切れる気がしないほど。


 膨大な魔力が満ちている。


「これなら」


 リリスが。


 少しだけ笑う。


「錬金術もいっぱい使えそう」


「やはり最初にそこなのですね」


「大事なので」


「あなたらしいです」


 エルシアが。


 嬉しそうに笑った。


◇◇◇


「さて」


 しばらくして。


 エルシアが。


 静かに周囲を見る。


「そろそろ時間です」


「時間?」


「あなたが」


「《リリンズ・ワールド》へ向かう時間ですよ」


 その瞬間。


 神殿の床に。


 巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「……魔法陣」


 見覚えのない。


 複雑な術式。


 白銀の光が。


 ゆっくりと広がっていく。


「現在」


 エルシアが説明する。


「《リリンズ・ワールド》に存在する一つの大国」


「《聖ルミナス王国》で」


「異世界から人々を招くための」


「《勇者召喚》が行われようとしています」


「勇者召喚……」


「はい」


「そこへ」


 エルシアが。


 ほんの少し。


 いたずらっぽく笑った。


「あなたも一緒に送ります」


「……勝手に混ざって大丈夫なんですか?」


「大丈夫です」


「本当に?」


「神様ですから」


「便利ですね、その言葉」


「便利ですよ」


「……」


 二人とも。


 少しだけ笑う。


「でも」


 リリスは。


 足元の魔法陣を見る。


「王国に召喚されるなら」


「最初から人のいる場所なんですね」


「ええ」


「五百年後の世界について知るにも」


「都合がいいでしょう」


「確かに」


 知らない世界。


 知らない時代。


 その最初が。


 人の暮らす大国なら。


 情報を集めることもできる。


「ただし」


「はい?」


 エルシアの表情が。


 少しだけ真面目になる。


「これから先」


「あなたがどこへ行くか」


「誰と出会うか」


「何をするか」


「それは」


「あなた自身が決めることです」


「……」


「誰かに」


「あなたの人生を決めさせる必要はありません」


「自由に?」


「はい」


「好きな場所へ行って」


「好きなものを見て」


「好きなことをしてください」


 その言葉に。


 リリスは。


 小さく笑った。


「それなら」


「世界中を旅します」


「ええ」


「知らない街へ行って」


「はい」


「知らない素材を集めて」


「はい」


「錬金術もいっぱいやって」


「ふふっ」


「五百年で変わった世界を」


 黒い瞳が。


 楽しそうに輝く。


「全部」


「自分の目で見てみたいです」


「それでいいのです」


 エルシアが。


 優しく微笑んだ。


 足元の魔法陣が。


 徐々に。


 強い光を放ち始める。


「……もう行くんですね」


「ええ」


「エルシア様」


「はい?」


 リリスは。


 少し考えてから。


 頭を下げた。


「ありがとうございます」


「この世界へ行かせてくれることも」


「加護も」


「スキルも」


「魔力も」


「全部」


 顔を上げる。


「私」


「いっぱい旅してきます」


「ええ」


「百年でも」


「千年でも」


「好きなだけ」


「そうしてください」


 エルシアの声は。


 どこまでも。


 優しかった。


「……また」


 リリスが尋ねる。


「会えますか?」


 エルシアは。


 少しだけ。


 目を細めた。


「縁があれば」


「きっと」


「またいつか」


「……分かりました」


 白銀の光が。


 リリスの足元から。


 ゆっくりと身体を包んでいく。


「それでは」


 エルシアが。


 最後に。


 優しく微笑んだ。


「行ってらっしゃい」


「リリス・ルクスヴィア」


 その言葉に。


 リリスも。


 笑って答える。


「はい」


「行ってきます」


 白銀の光が。


 一気に強くなる。


 星の神殿。


 無数の星々。


 そして。


 創造神エルシアの姿が。


 白い光の向こうへ。


 少しずつ消えていく。


「良い旅を」


 それが。


 最後に聞こえた。


 エルシアの声だった。


 そして。


 リリスの視界は。


 完全な白に包まれた。

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