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ぼくは職質をパリイする⑨


「お巡りさん、また聞きたいことが出来たのですが、いいですか?」

「手短にお願いしますね」


 彼はコクリと頷いた。

 不思議な作り話のつぎは孤児だった。

 だが孤児だと言われて駄目だといえば、やっぱり嫌いだからかとディスが来るのは目に見えているし。


「ぼくは黒耳シェロ、10才です。先ほどの話にでてきた「勇者」っていうのは格好の良いものですか? それとも極悪人なのですか?」


「……えっ」


 あっさりと名前と年齢を教えてくれたのはいいけど。

 勇者だよ?

 知らないのか……年齢的なものなのか。

 カッコイイ存在なのか、極悪人かを尋ねてくるとは。


「勇者というのはね、ヒーローのような存在で格好良い側の方だよ」

「でも。お巡りさんの公務を無視するひとたちがカッコイイ側なの?」

「……ッ!」


 いやいや、そこを君がツッコミで来るのですか?

「職質スルーできたら勇者ごっこ」を仕掛けて来たのではなかったのか。


 もしも本気で勇者の意味や存在を知らなかったのなら、シェロ君は言葉通りの孤児の可能性もある。いや孤児なら尚更ヒーローには憧れるのではないか。


 彼がわたしと出会い振り向いてから、ずっと真実を述べてきたのかを考えると「公園の砂場」の話がどうにも引っ掛かるわけだ。


 地震による亀裂だ?

 その中には青空が見えた?

 亀裂のフチの反対側にずり落ちた?


 いやいやいや、まだ信じ切るには値しない。


 

 勇者ってなに?

 みたいな状況になっているのよね、今……。


「シェロ君だったね。世の中にはね、法律を逆手にとってわざわざ当てつけるような人たちがいるんだ。職質かけたら答えるという義務はなくてね。もっと昔はね、それらを知らない人たちが多かったから皆んな警官に聞かれたことには、「はいはい」と素直に答えたものだそうだ」


 シェロ君がまた「へえーそうなんだ」と呟き、疑問符を投げかけて来た。


「それを知る人たちが増えたのはどうしてですか?」

「世の中に専門的な情報が溢れるようになったんだ。ネットツールの普及でね」

「ネット……ツール……? 難しくてよくわかりませんが」

「お家にインターネット環境はないのですか?」

「…………な、なんですか? それ。聞き覚えのない言葉なのでたぶんないです」


 多分ない……聞き覚えがない……?

 真実に孤児か。

 貧困でネット環境が整えられない家庭か。

 そういう家庭もまだあるが。


「ゲームはどうなの? テレビゲームは経験ないの? いやテレビはどう?」


 テレビさえあれば情報は手に入るだろう。

 どれもなくても、学校へ行けば話題に出ているだろう。


「なんのお話をされているのか見えない。全部ないと思います。なにかの家具ですか?」


 なんなのこの子。

 質問の全面否定をしている。

 なんで?

 気分屋なのか。

 ゲームやネットを知らなければここで言う所の「勇者」の説明がむずかしくなる。


 貧困を楯にして文明の利器をことごとく知らないなんて言わないよな。


「まぁとにかく、そういうことをする人たちの気持ちは思春期にある反抗期のようなもので、法で定められてないのなら強制力がないため従いたくない。あ、反抗期は分かりますか?」


「それは、何となくわかりますけど」

「だからわたしたちは「お願いと協力」を求めるしかないのです。ご協力頂けないこともあるし、しつこく付きまとうことをしなくなった警官もいますよ」

「そんなことになっていたんですね。ちびっ子も真似をし始めたわけですね。ぼくが素直に答えないから同類かもと疑われたのですね、納得できました」


 納得に変わって一応の理解を得られたのは良かった。

 単に「勇者」という言葉と意味を知らなかっただけのようだ。

 わたしたちも大人になったからと何でも知っている訳じゃないからな。


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