表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第一章 3話

「売れたか?」

その男は、店に入ってくるなり尋ねました。

「うん。計画通りだよん。」

お店のおじさんは振り向き、男の顔を見ると、口角をつり上げてにやつきました。

「今ごろ、村正は大暴れしているはずだよん。」

「よく考えたな、サィト。恐れ入ったよ。呪いの武器をばらまいて、人々を混乱に陥れる。そして世界を滅ぼす。そんな算段だったとは。」

村正を売ってくれたお店のおじさんは、自分の顔の皮をはがすと、一瞬で擬態が解け、化物の姿になりました。目玉の化物でした。目の中に目があり、体も丸く、目玉に手足が生えて歩いているような生物です。

サィトと呼ばれたその化物は、からから笑って言いました。

「ただ滅ぼすだけならいつでもできるよん。楽しまなきゃ。イァン、きみのほうは?」

イァンと呼ばれた、お店に入ってきたほうの男は、ぐにゅにゅとゼリーがうごめくような音を立て、同じく丸い化物に変わりました。しかしサィトと違い、耳が長く大きく、目もありません。

「まだ考え中さ。」

彼らは、宇宙人でした。地球人よりもはるかに優れた知能と肉体を持っています。宇宙旅行をしている途中で地球を見つけ、気に入ったため、支配しようと降り立ったのです。

「どちらのほうが面白く人類を滅ぼせるか、勝負はボクの勝ちみたいだよん。」

サィトは得意気に微笑み、アゴを上げました。

イァンはムッとして言い返しました。

「そいつはどうかな。まあ待ってろ。お前より面白い方法を思いついてやる。」

イァンは人間の姿に戻り、店を出ていきました。

それを見送ったあと、サィトも人間に化けて、店の奥へ引っ込みました。

「さぁて、計画を第二段階に移すよん。」


「まずい!」

村正の声が辺りに響きわたりました。

「しーっ! うるさいって! あんまり目立つなよ。」

ここは、町外れの公園でした。

とうふはベンチに腰かけ、村正にトマトジュースを飲ませていました。

村正はそれを四方八方に吹き出しながら、

「ぶー! やめろ! これは、血じゃねえ!」

「血みたいなもんだよ。ほら、赤いし。」

「あー! まずいまずい!」

せっかく自腹でジュースを買ってきてあげたのに、村正は文句ばかりです。とうふはうんざりして尋ねました。

「なんでそんなに血が欲しいの? 喉がかわいてるの?」

村正はいきり立ち、揺れながらわめき続けました。

「呪いの力がなくなっちまうんだ! 血を補充しないと!」

「呪いの力がなくなるとどうなるの?」

「俺が普通の刀になる!」

「それで良くない?」

村正は飛び上がりました。

「いいわけあるか! お前だって、死ねと言われて、死にたかねえだろ!」

「まあ、うん。」

「なんとかしろ!」

そう言われてもなあ、ととうふは首をひねります。

「しばらく、トマトジュースで我慢してよ。」

「だったらせめて、イチゴジュースにしろ!」

村正は刀身を反り返して抗議を続けます。

「ぜいたくな奴だなあ。」

とうふは呆れましたが、刀としては強そうなので、村正を手放す気はありませんでした。

じゃあイチゴジュースを買ってくるか、と思ったそのときでした。

今まで快晴だった明るい空が、突然深夜のように真っ暗になりました。そして、すべての音がなくなりました。車の音、風の音、人のしゃべり声、すべての音が、一瞬で無くなったのです。まるで、時間が止まったかのようでした。

静寂。

人々は息をのみました。とうふも目をぱちくりさせました。

「地球人よ、よく聞け。」

数秒後、重い暗闇と沈黙のなか、世界中に響くくらい大きな声が、漆黒の空から降ってきました。

「私はイァン。世界を滅ぼす者。滅ぼし方はまだ決めていないが、覚悟しておけ。とりあえず、地球を化物で満たしてやる。」

言い終わるが早いか、あたりの草木が地面から抜けて集まり、ぎちゃぎちゃと合体して、巨大なゴリラのような物体になりました。近くを確認すると、それが一瞬で数十匹以上周りに発生していました。木のゴリラたちは、本物の動物のように動き始め、建物を壊したり、ものを投げたり、やりたい放題です。

「な、なんだこれ?」

とうふは、事態についていけず、ただ呆然としていました。周りの人間たちも同じでした。しかし、木のゴリラが人々を襲い始めると、町は悲鳴と混沌の渦と化しました。大混乱です。

「た、助けないと!」

とうふは村正を持って立ち上がりました。よくわかりませんが、人々が危機にさらされています。この場で戦えるのは、武器を持ったとうふだけなのです。

「暴れていいのか?」

村正は飢えた様子でとうふに尋ねました。

「OK! あれはたぶん動物じゃない! 木だし!」

「よっしゃ!」

村正ととうふは駆け出しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ