第1話
朝から私はうずうずしていた。
いまかいまかと学園卒業の後に始まった晩餐会の中で1人、壇上のど真ん中にドーンと構えて立って待っている。
ええ、待っています。
……
……
あの…まだでしょうか?
遅い…遅過ぎる奴らはなんの支度に手間取っているの?
わたしの足が限界に近いのですが!
今日のためにと無理をしてまで、10センチもあるヒールを履いているのよ!
まあ、いま思い返してもそこがこの物語で1つおかしい点だった。この物語の中でのわたしの身長は160センチ以上あるはずなのに何故だか150センチしか無いなんて、強いて言うなら胸もぺったんなのですが?
この体になってから約10年以上も立つのだもの…いまとなっては身長もぺったんもわたしの好きな体の一部となった。
まだかなまだかなと、バラの花がふんだんに飾られた壇上を見上げ、早く、早く来てわたしの名前を呼んで終わらせてよ。
(王子さぁーまぁぁぁ早くぅぅぅーーっ!)
しばらくすると広間の騎士達が動き始めた。広間の入り口の観音開きの扉が開き騎士が声を上げた。
「第一王子エリール様が来られました!」
わたしを含めた広場に居る卒業生は会話を辞めて一斉に扉の方に向く。
(ついに、来たわ!)
開かれた観音開きの扉からはリア充がごとく王子とヒロインがべったりくっつき広間に現れた。
その王子の後ろを宰相の息子ラート、騎士団長の息子カトラス、魔法使いの息子ローレンス、公爵の息子ニクス、ヒロインの幼なじみリンデが金魚のフンの様に付いてきた。
(あはは、面白い!)
こんなに一斉に攻略対象が最後に見れちゃうなんて、ヒロインはハーレムルートに入ったのね、私は興奮とウキウキ度がさらに上がった。
肩を並べ王子はヒロインを連れて壇上に上がった、そしてど真ん中に立つ私を見つけると鋭くにらみ声を上げる。
「ほう貴様、よくも逃げずに来れたものだな公爵令嬢マジーア・ソルシエール嬢!今日で、貴様とは最後だ!いまをもってマジーア嬢との婚約破棄をする」
おおっ、生だ、生で婚約破棄を聞けた。
(ありがとう王子!!)
これを聞くためだけにこの日まで頑張った、王子の後に周りの金魚達も何か言っているけど、もうどうでもいい!
マージアに転生してから唯一の楽しみとしていた婚約破棄の場面、この場面を見るためにならと日々ヒロインもイジメてみた。
まあ、イジメと言っても自分がされて嫌なことはしなかったよ、強いていうならば子供のイタズラ程度のかわいいもの。
ヒロインのノートちょっと隠したり(騒いだ後にすぐに返した)ヒロインの好物を横取りして食べたり(ちゃんと新しいのを差し入れた)ほれほれとスカートめくりの意地悪をしただけ。
まあ、フラグと叫びしゃべり方とかでヒロインも私と同じだなぁって分かったらか、後は全部ヒロインの名演技に任せた、あの子だってちゃっかり私を悪者にして、自分でイベンドやフラグを立てて頑張っているからほっておいた。
そして!
今日の日が来た。いま思い出しても楽しかったなぁ学園生活に王子との楽しい花嫁修業。めったにに入る事もできない王城の中にも入れ、顔だけイケメンの王子と優雅にダンスを楽しく踊り、お茶会、会話など恋人気分が楽しめたし、王城専属料理人のおいしい食事に高級な茶葉の紅茶やその料理人の手作りで高級なお菓子もたくさんいただいた。
それも今日で終わりわたしは壇上に立つ2人と金魚達にニッコリと笑い。
「承諾いたしましたわ。お2人共に末永くお幸せになってくださいませ」
壇上の2人と金魚達に丁寧にお辞儀をして、さっさと文句を言いだす前にその場を離れ馬車に乗り屋敷に帰った。
そして次の日これまた予定通り「おまえなど出ていけ!」お父様やお母様に屋敷も追い出された。
「はーい!長い間、お世話になりました」
パンパンに詰め込んだアタッシェケースを3つ持ち自分で呼んだ馬車に乗り込んだ。
窮屈な公爵令嬢でもない普通の私はこの後の人生はまったりと日々を楽しむわ。
王都を離れ馬車に揺られながら進むと、辺りの景色は緑豊かになってきた、その景色を眺めながら私は口元が緩みニマニマが止まらない、だってもう少しで目的地に着くのだもの。
◇◇◇
屋敷を追い出されこの国の端っこにある、大きな森の入り口付近に建つ一軒家の屋敷の前に着いた。
黒い屋根に蜂蜜色のレンガのかわいい屋敷。
この屋敷を手に入れたのは約一カ月前の事だ、学園最後の一カ月に突如屋敷に届いた、羊皮紙に手書きで書かれた安くて大きな庭付きの売り屋敷。
届いたチラシを見て私はひらめいた。
『この屋敷を買おう』
婚約破棄の後の生活のためにとためておいたお小遣いをはたいて、すぐにその紙に書かれた住所に出向き申し込みをして屋敷を手に入れた。
その時、余りの安さに事故物件かと聞いた所帰ってきた言葉は「この物件は築100年物の古いお屋敷」なので痛んでいるところもあるので修繕が必要との事。
移り住んだ後は所々に屋敷をリフォームをする必要があるみたい。
まあ、転生する前に住んでいた雨が降る雨漏りがして、歩くだけで床がきしむ家よりは大丈夫だろう。普通の田舎者の高校生だったから虫にも慣れていてるからクモだってへっちゃらだ。
屋敷から勝手にたくさん詰め込み持ち出して来たアタッシェケース3個分。
中は料理に使うお鍋やフライパンの道具や調味料。もう1つは日持ちする物やパンなどの食べ物と飲み物。後1つのアタッシェケースにはメイドの服と簡単に着られる服を詰め込んだ。
それらを馬車から下ろし料金を払った。持ち金はかなり減っちゃったけど、どうにかなるだろう。
わたしは目の前の我が家を満足げに見た。
お金を納金後に渡された真鍮製の赤い石の付いたアンティーク調の鍵を肩掛けカバンから取り出し、玄関の鍵穴に差し込みノッカー付きの屋敷の扉をガチャッと開け中に入た。
入った直ぐのホールで見える限り見渡した。
そんなにホコリもなく壊れたところとかもなさそうで奇麗ね
前の住人が出て行ってからあまり立っていないのかな?玄関から新しい風が入り古い空気と入れ替わって行く。
「今日は馬車に乗って疲れたから」
部屋を見回った後に寝室のお掃除とベッドのホコリとシーツを替えて寝よう
アタッシェケースは玄関の近くに置きわたしは家の中の探索を始めた。
まずホール出て左に進んだ一番先の扉は?
「応接間?」
革張りの2人掛けのソファーが向かい合って2つと真ん中にテーブルだけの部屋、ここは私には必要のない部屋ね…お次は扉を開けるとたくさんの本が所狭しと並んでいた。
「書庫だわ」
こぢんまりとしているけど、部屋のど真ん中には大きな革張りでゆったり座れそうな椅子が置いてある。本棚が二階建てで、どの本棚を見ても本がみっちりと詰まっていた。
「これは本がたくさん読めるわ!」
もう少し中を見たいけど明日の楽しみにしようと、今日は扉を閉めた。
お隣は真ん中に机だけが置いてあるだけの部屋に、その部屋の隣は何にもなく空っぽの部屋、その奥にはお風呂とトイレで後は、掃除道具かあけると中身には使えそうなホウキとちりとりが入っていた。
窓は黒枠のはめ殺しと開け閉めができる窓か、次に右側の扉は空っぽの本棚が3つも置かれた部屋に、その奥は高い吹き抜けの蜂蜜色レンガ調と木材で作られたおしゃれで大きなダイニングキッチン。
キッチンの横にもう1つトイレがあって、その奥は寝室かな?
開けると結構大きく間取りがとってあり、真ん中にセミダブルのベッド、クローゼット、ドレッサー、姿見、空っぽな本棚にテーブルに書庫でも見たゆったり座れそうな1人掛けの革張りのソファーが置いてあった。
「ベッドが大きい!」
早くここの掃除を済ませて寝よう。
玄関に置いたアタッシェケースを食べ物はキッチンに運び衣類は寝室に運んだ。
しかしこの家にはない物もある、前の屋敷にあった暖炉にあかりをともすための、シャンデリアやろうそく立てがどこにも見当たらなかった。
天井を見てもどこもかしこも元から付いていないみたいで、外した後もなく奇麗な天井。
「その点は今後考えればいいか」
と、寝室の掃除に取り掛かる準備をした。
自分が届く範囲に上から、掃除道具入れに置いてあったホウキでホコリをハタキ、ベッドの布団や周りの家具のホコリを落とす。
アタッシェケースから換えのシーツを出して古いのと替えて、後は落ちたホコリをホウキで掃き今日はおしまい。
「ふーっ、くたびれた!」
今日は持ってきたパンとぶどうジュースをキッチンに置いたアタッシェケースから出して、寝室のゆったりソファーに座り「今日の日に乾杯」と祝杯をあげたのだった。