22、川崎の渡し・捜索者
残念ながらエンジン音はだんだん大きくなってきた。
明らかにこっちに向かってくる。
武器を取る気は無い。相手が誰だろうと現代人を傷つけたら大変な事になるからだ。
アシの小道を1台のオフロードバイクがやってきた。
俺達の前で停まる。
ヘルメットを脱いだ。斎藤さんだ。
「あなたたち、大変な事をしたわね」
彼女は静かに言った。
俺達は黙っていた。この隙に船頭2人が逃げ出したが、もう仕方が無い。
「あなたたちがした事は、何千億円もかけたプロジェクトをメチャメチャにしてしまうだけでなく、日本の将来にも関わる事なのよ」
俺は聞いた。
「どうしてここがわかったんです?」
「舟を使ってないで陸路を東に進んでいるらしいから、多摩川を渡る時は川崎の渡しを使うと思ったのよ。手分けしてこのあたりに網を張っていたら、たまたま私が銃声を聞きつけたのよ。そんな事より!」
話しているうちに、押さえていた怒りが持ち上がって来たようだ。
「柴崎さん、あなた、何でみんなを止めなかったの?このことでお兄さんはクビになる所じゃ済まなくなるのよ。どうお兄さんに弁解するつもり?」
俺が答えた。
「いえ、みんなに責任はありません。僕1人が悪いんです。僕が責任を取ります」
斎藤さんの怒りは爆発した。金切り声を上げて
「あなたが責任取るってどうするつもり?あなた1人が責任取ってすむような問題じゃないのよ!第一どうやって責任取るつもりなの!自分勝手もいい加減にしなさいっ!!」
確かにそうだ。
俺には何の財産もないし、責任なんて取りようが無いのかもしれない。
「待ってください。それではこの件の発端になった大臣の責任と、リゾート側の強制売春の責任はどうなるんですか?これは人身売買にも等しいような行為ですよ。立場的に絶対反対できない少女を、権力によってモノにしようなんて許される事じゃないですよ」
吉岡がクールに反論した。
見事に理路整然としている。俺達は声にこそ出さなかったが、吉岡に歓声を上げた。
一瞬ぐっと斎藤さんは言葉に詰まった。しかしすかさず立ち直って
「それならば、リゾート内で私達に言えばいいじゃない。何もあれだけ禁止されているリゾートの外に出ていくことは無いでしょう。しかも警備員の武器まで奪って!」
あくまで吉岡は冷静に
「あの状況の中でそれを訴えたとしても、みんな聞いてくれましたか?それは今になって言える事でしょう。警備員の武器だって成り行き上、そうなってしまっただけです。それにこの平安時代と言う特殊な環境を考えれば、武器の携行も仕方が無い事だと思います。現に今もこうして武器があればこそ助かったのですから」
斎藤さんももう怒りは収まっているらしい。どう反論しようか考えているようだ。
俺が口を開いた。
「もちろん僕等もこの選択が正しかったとは思いません。でもあの時は他の方法がなかったんです。それに彼女の命がかかっているんです。そのままにはしておけません」
斎藤さんはこれ以上話しても無駄と思ったらしく
「ともかく即刻みんなをリゾートに連れ戻し、本部で対策を取ります。今、ヘリを呼びますから」
と言って無線機を取り出した。




