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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
21/68

21、川崎の渡し・人攫い

俺達は台地から長い坂道を下ると、川崎の渡しに出た。

ちょっとした集落になっている。

川岸には渡し舟があった。しかし舟は1捜しかないし、渡し舟を操る人も2人しかいなかった。

海月が交渉に当たる。

米3袋で話がついた。現金を持っていない俺達にとって物々交換ですむのはありがたいが、荷物が嵩むのが難点だ。

しかし通貨らしい通貨はあまりない。

日本史では奈良時代から「和銅開宝」があるはずだが、通貨が流通するのはかなり後世になってからの話なのだろう。

海月と荷物だけ先に舟に乗せてもらう。

俺はその時の、舟渡しの男の目つきが気になった。

柴崎に言う。

「海月達だけ先に渡らせて大丈夫かな?」

柴崎も何かを感じたのか、黙って舟を見つめていた。

宇田川がそばに来て言う。

「俺達も馬で一緒に渡った方がいいな」

俺が聞いた。

「渡れるか?」

柴崎は「合戦の時は馬に乗ったまま渡河したんだ。深みを避ければ渡れるハズだ」

「よし、俺と柴崎は馬で後を追ってみる。吉岡と宇田川は待っててくれ」

舟はもう岸を離れている。船頭はあいかわらずこっちを睨んでいる。

「ヤッ!」

俺達は一斉に馬を走らせた。河に飛び込む。

この調子なら渡りきれそうだ。

その様子を見ていた船頭は、舟先を少し下流に変えた。

やはり何か企んでいる。

俺達も馬の進路を下流に向けた。

あの舟に追い付かなければ。

舟が大分近くなった時、突然馬の体が水中に沈んだ。

深みにはまったのだ。

一気に馬も俺達も、頭がかろうじて水面から出るだけになる。

思うように動きが取れない。

すぐ近くにいる舟から、船頭の下品な笑いが聞えた。

「オメエラが追ってくるのは先刻お見通しよ。だからわざと河の深みに誘いこんだのさ。この河はワシがガキの頃から遊び場にしてたから、どこがどういう風になっているのか、手に取るようにわかるのさ。じゃあな。女も荷物も貰っといてやるぜ」

海月が恐怖の表情で俺の方を見た。

俺は怒りと焦りで目の前が真っ赤になった。腰のベレッタを引き抜く。

「くそっ」

柴崎もベレッタを抜いていた。

だがジタバタ泳いでいる不安定な馬の上で、船頭に狙いが付けられない。

これではどこに当るかわからない。

必死で馬の手綱を舟に向ける。ともかく追いかけるしかない。

だが夏は雨が多いせいで水量が多かった。

ヤツラはどこが深みになっているのか熟知していて、馬が絶対に背が立たない所に誘導している。

距離はあっという間に開いていった。海月の俺を呼ぶ声が聞える。

なんとか岸だけにでも上がって舟を追いかけたいが、いつの間にか両岸はアシが密生していて、川底もぬかるんで馬の足を取られるようで岸にも上がれない。

かなり舟は離れてしまった。

もう海月も船頭も小さくしか見えない。

やがて河がカーブしている所で、アシの茂みが舟を隠してしまった。

口惜しさで涙が浮かんできた。もうダメなのか?

その時、ズドンという散弾銃の音がした。

俺達は出来る限り急いで、舟が消えた方向に向かった。

カーブを曲りアシの茂みを越えると、アシがきれた川岸に海月や船頭たちと一緒に宇田川と吉岡がいた。

宇田川がショットガンを構えている。吉岡は剣だ。

舟渡しの男達は座りこんでいた。

ずぶ濡れの俺達が上がって行くと宇田川が

「おまえらが舟を追っかけて行ったから、これは危険だと思って少し上流の方から俺達も河を渡ったんだ。それで河を下流に向かって馬を走らせていると、こいつらの声と海月ちゃんの声が聞えたんだ。ちょうどこいつらが岸に上がろうとしていた所だった。そこを舟めがけてショットガンを打ち込んで、2人を捕まえたんだよ」

俺は宇田川に返事もしないで船頭2人に近づいた。

2人が脅えた目で俺を見上げたのも束の間、俺は2人を無言で殴り倒していた。

みんなはあっけに取られていたが、俺がベレッタを引き抜くと柴崎が飛び付いて止めた。

「馬鹿野郎!殺す気か?!」

「放せ!!」

俺は少しの間もがいたが、やがておとなしくした。

だが目だけはヤツラを睨みつけている。

俺達が命を賭けて助けようとしている海月を、欲望だけのためにこうも簡単に連れ去ろうとした低俗な野郎を許しておけなかった。殺してやりたい。

吉岡が「気持ちはわかるが・・・」と言いかけた時だった。

宇田川が「何か音がしないか?」と聞いた。

みんなで耳を澄ます。

何だろう。

最初は気のせいかと思ったが、確かにエンジン音のような音が聞えてくる。

俺達は周囲に隠れられるような所を探した。しかしアシの藪に潜り込むくらいで、特別に身を隠せる所はない。

下手に音を立てるより、ここにじっとしている方が見つからないかもしれない。

それに俺達の位置を、相手が把握しているなら隠れても無駄だ。

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