第55話 犯罪と窃盗の群青翡翠
「でね、早苗ちゃん。オレ、またねー《従業員》になちゃったんだ」
竜二が和室の畳の上に胡坐を掻きながら、手にした携帯の写メに言う。
映っているのはブレている画像だ。
「君が死んじゃってーもういいやーって自暴自棄にもなっちゃってたんだけどー君のことを思い出さない様に……君の顔を忘れたことはないけどよう。顔を、きちんと見たのは……20年ぶりだ」
愛しそうに竜二が携帯の画像をなぞる。
「泣き言を嫌う君だから……今のオレを見たら」
半笑いで、肩を竦める竜二の言葉も詰まってしまう。
「がっかりしちゃうかもー」
画像を見ながら、竜二の脳内には色鮮やかな彼女の顔が。
出会ってからの、今までの彼女が竜二に話しかけている。
「がっかりされてもいいさ。オレぁ……君との為なら、どうとなれだからな♪」
キメ顔で、鼻の下の伸ばしている竜二に、
『でもぉ。ちょっと、物足りなかったなぁ、模擬体験ってのぉ』
リビングから聞こえた翡翠の言葉に、
「っふざけんな‼ それは兄さんだけだかんね?!」
苛立ち言い返し、大きく鼻息を吐くと。
「じゃあ、また。報告するねーオレの可愛い女」
携帯を切り、立ち上がった。
◆
「おじさん。なんで笑ってんの? 急に、怖いんだけど」
俺は横にいるおじさんが、ほくそくんだことにびっくりしたのと。
思いのほか満面の笑顔にびっくりしたから、思わず強張った口調に言ってしまった。
「ん? あーうん。ごめんねーなんか久しぶりに出歩いたからからよーちっとばっかし、思い出しちまったのよねー」
「誰との? 奥さん、とか?」
「ぅんー奥さんと、って訳じゃないよ?」
苦笑交じりに言い返すおじさんに、俺ももっとツッコミたかったけど。
「いいじゃないのぉ。そんな、過去なんざさぁ? たくま君?」
翡翠さんが、言わせないとばかりに壁を立てた。
「はい……ですね」
だから、俺も一歩、下がって頷くしかない。
まだ、会って一日も経ってないから、私生活に首をツッコんじゃダメだよな。
順序があって、まずは信頼と信用を勝ち得ないと、だ。
軽いステップ踏みながら、年甲斐もなく弾んで歩く翡翠さん。
どこか、なんか吹っ切れ具合が、出会ったときと比べて性格すらも。
書き換えられたのようだ。
「翡翠さんは奥さん……蓮さんところには帰らないんですか?」
ビタ。
「……っか、帰らないよぉ? 帰れないもンん゛ン゛っっ‼」
宙を仰いで、腕を広げて吠えた翡翠さんに、周りの視線が集まってしまう。
流石に、俺もそれはヤバいと思った。
「ぁ、おァぅう゛う゛~~」
でも、俺は狼狽えるばかりで、気さくに何かを言えることも出来なかった。
そんな地雷を踏み込んでしまった俺の肩を、
「! ぉ、おじさん」
おじさんが親指を立ててくれたときの安心感は半端ない。
「いいからよぉ。とっとと行けってんだよっ! 兄さん‼」
低い口調で、おじさんが翡翠さんの背中を蹴飛ばした。
それによろけてしまう翡翠さんが、顔を横に振った。
「たくま君? オイラの奥さんの名前を二度と言うんじゃねぇぞぉ?!」
目を見開いて歯を剥き出しの翡翠さんに、
「しゅみません……」
謝る以外にあるだろうか。
◆
「確かに……ここには、ヘソクリはあるとは。知っているけど……だけど、だよ? 兄さん」
俺達は、翡翠さんが言うようにかなり歩いて、高級住宅街のような場所に着いた。
この時点で、お腹も大分減ってはきていた。
「え。親の金をくすめるのが子供じゃねぇのかよ?」
「ぃ、いやいやいや! っちょ、ちょっと?? 翡翠さん?!」
「姉さんも、しょっちゅうくすねてたしぃ」
顎に手をやって、首を傾げる翡翠さん。
ここは高級住宅街のような――《レインボー地区》
《ワールドルーツ》王国のピラミットのさらに上の階級者。
王国への貢献者や生産者、経営者といったやんごとなき従業員が住む地域らしい。
そんな俺とは縁遠い場所に来たのは古い一軒家。
中はリフォーム済みで、バーバーバロンよか快適空間が広がっている。
ここは。
群青竜之助の隠れ家らしかった。
「盗人って……いや、完全に犯罪なんですが。翡翠さん」
引きつった表情を向けた俺に翡翠さんが満面の笑顔で言う。
「背に腹は代えられないよぉ? ね? たくま君♪」
その言葉に、
(翡翠さんの家で食べさせてもらえばいいんじゃあ)
って言葉を、俺も飲み込んだ。
(これって……共犯になるのかな? やっぱし)




