第52話 ただいまとおかえりと
「あーもぅ! 最っっっっ悪‼」
そうおじさんが声を荒げて《模擬体験室》から出て来た。
すぐ後ろから、翡翠さんとミザリア教官と小田切教官も一緒だ。
「あぁ。愉しかったぁねぇ、リュージ君♪」
「ちっともだよ! 大体! 大体あんたのせいでオレは――……あ! った、たくま? たくま?? くまちゃんっっっっ?!」
ようやくおじさんは俺の名前を呼んだ。
よりかかっていた壁から、背中を離して、
「うん。いるよ」
「!? っくまっちゃ――……っつ」
少し、上擦った声でおじさんに返事をした。
「! お前ッッッッッ‼」
にへらと笑ったのに、すぐに眉間にしわが寄るおじさんの表情。
やっぱり、また殴られるんだな。
俺は身体を強張らせて、ぎゅっと唇を噛み締めて目を瞑って。
訪れる痛みを待ったのに、
「もぉーもぉうぅうう~~馬鹿野郎ぅう゛う゛ー!」
俺の首に腕を回しておじさんが抱き着いて来た。
「……ぇっと。あの、心配した?」
「心配してたよぉ。そりゃあ、弟はたくま君が大好きだからねぇ」
ほくそくんだ表情の翡翠さんが肩を竦めながら言うけど、
「……弟の胃を痛める真似をすんじゃねぇよ。手前さぁ゛」
あの素が出てますよ。とっても怖いんですけど、翡翠さん。
「ぁ゛……ごめんなさい」
「あのさぁ? 謝るのは弟だよぉ、たくま君?」
がっこん! と翡翠さんが俺の頭を殴った。
力は込められていないけど、とても痛い。
「ひゃん! ひゃん!」
「ん? 何の声だ?」
ミザリア教官が俺へと視線を向けた。
もちろん、小田切教官もだ。
冷や汗が顔をつたって落ちていくのが分かる。
「「パグ」」
◇
『先手って。逆に何をしたらいいんですか?』
俺は鬼灯さんに聞いたんだ。
すると、それはとても簡単なことだった。
まずは《三ツ星の霹靂》で衣類や、身体の汚れを失くす。
それはいわれてしたんだけど。
次に鬼灯さんが言ったことの意味が分からなかった。
『あと、横の異人はそいつと居たいのよね? で、合ってる?』
『ああ! そうじゃ!』
大きく頷く彼の様子に萩月さんが苦言を漏らした。
『あのねぇ? 異人は地球じゃ暮らせないんだよ? ズッキーナ君』
『《帰化》しりゃあいいじゃん。ま。その覚悟が、この馬鹿にありゃあだけどな』
さらに、激しく首を振るトトナが、とても気持ち悪く思えてきた。
喜々として淡々と、鬼灯さんも言う。
『その準備期間内――《変態化》して。大好きな彼と住めばいい。あと、自分が目を瞑ればいいだけのことよ』
それにも萩月さんが苦言を漏らした。
『お宅。自分を脅してる? マサルの奴に泣きついてやる』
『! 地球にスパイに来る異人が多いのは承知だろう? だからさぁ? こいつに二重スパイさせりゃあいいんじゃね? って思った訳よ! 私って頭よくない??』
俺は宙を仰ぐことしか出来なかった。
話しが俺を追い抜いて、遥か彼方に向かっているのは明らかだったからだ。
◆
「? その犬ちゃんはどったのーくまちゃん」
「あ゛ぅ゛~~っつ、通路にいたんです……箱があって、捨てられてたみたい」
俺も必死に、しどろもどろと応えていく。
「商品じゃなくてぇ?」
翡翠さんがトトナを抱きかかえて、高い高いとする。
「……まぁ。生き物の商品なんてぇ。ないけどなァ゛」
低い口調の翡翠さんに、俺はタジタジになってしまう。
「っひゃ……ん」
トトナも同じなのか、声を漏らした。
「っか、飼っていい??」
「「ダメッッッッッ‼」」




