第51話 家にとりあえず、帰ろうか
「ぃ、いない……おじさんが……」
ようやく、戻って来た場所にはおじさんも、翡翠さんもいなかった。
中に入ってしまったのは明らかだった。
つまりは、俺は見捨てられたということだ。
「主のいう待ち人というのは~~はてさて? どこにいるのじゃなぁ?」
茫然とする俺にトトナの奴が、傷に塩を塗る。
(っこ、ぃつぅ~~っっ‼)
俺の身体が震えてしまう。
でもだ、本当にいないということは。
(中に、行っちゃったんだ……おじさんと、翡翠さん達)
《模擬体験室》を俺は見た。
「あ! 牛男たくまかっ??」
「!?」
項垂れて、涙ぐむ俺に知らない男の人が珈琲の缶を片手に。
俺に話しかけて来た、しかも、二人もだ。
1人は健康的な肌に、額に十字傷があって。
髪は今時の左右を刈り上げて、上に髪がファッション誌のようにされている。
もう一人は、真っ白な肌にオレンジ色の髪と咥え煙草をしている。
「やっと戻ってきたんか~~っはぁ~~私は、鬼灯奈落っつぅの。自分が帰るまで、居ろってミザリヤ教官に掴まったんだわ。んじゃ、私はこれで」
「ぁ……はい、なんかすいません……」
さばさばと、鬼灯さんが手を挙げて、身体を翻す。
もう一人の人は違った。
「お宅が牛男たくま? 自分は萩月カエデってオペの者です。初めましてだね」
っす、ぅうう~~……
っふ、ふぅうう――~~
「今日はよく頑張ったな。牛男君」
「!」
「いや――《死星のたくま》」
「? ぇ??」
俺は、この人が何を言っているのか全く分からない。
「ぁ、あの……」
ただ、肩に置かれた手が、ものすごく重かった。
「入って60分。もう出て来るとは思うよ。ただね~~お宅は、直帰した方がいいかもね」
にこやかに言う萩月さんに、俺は首を捻ってしまう。
「主は血まみれなんじゃ。頭から足の付け根までじゃぞ」
「え゛??」
「傷が癒えたりはするが、衣服などの汚れはキレイになんかなんないぞ」
「っそ、そぅなの??」
俺は手を見た、確かに血まみれだった。
撲殺したときについた三人分の血液だ。
「ぅ゛、うぇえ゛え゛~~」
俺も血の気が引くように感じた。
「何なら家まで送るよ? 《バーバーバロン》っアパートに住んでいるんでしょう?」
どうして知っているんですか、と野暮なことを聞くべきだろうか。
でも、場所を知ってて送ってくれるって言うなら。
乗るべきなんだろうな。
俺は、一刻も早く、帰りたいんだ。
「でも。車、汚しちゃうし、ですが……」
「いいよ、いいよ。どうせ会社の車だからね」
「……じゃ、じゃあ。あの……お願いします」
取りあえず。
早く、おじさんの顔が見たかった。
(また。殴られちゃうのかな……俺)
「殴られるようなことをしたと思うのなら」
「!?」
「先手を打てばいいだけじゃないか」
(っこ、この人……異人??)
「んな訳ないじゃん。れっきとした日本人よ? ちょっと訳アリ物件だけどぉ?」
肩を小刻みに揺らして、鬼灯さんが嗤う。
「ズッキーナ。止しなさいって」
「んなあだ名を呼ぶなっつぅんだよ! それを呼んでいいのは、マサルだけだぜ」
「はいはい。マサルは自分ので、お宅のじゃないよ」
「はァ??」
雲行きが悪くなっていく様子に。
俺は、生暖かく見守る他ない。
「なんじゃ? なんだって揉めておるんじゃ? あいつらは」
「知りたくなーい」
俺は扉を見た。
出て来て欲しいような、出て来ないで欲しいような。
気分は五分五分だ。
「先手か」




