第22話 兄と賭けと
「ぅ、おぉう……」
もう、俺はそんな情けない言葉と言うか。
ため息しか漏らせなかった。
厚みのある扉が閉まった瞬間。
まず、灯りが点いて。
驚いた俺はおじさんを見下ろすと。
「あ。戻ってる!」
少年の姿だったおじさんが、元のもさいおじさん戻っていた。
アバ化はしていなかった。
「おじさんはアバらなくてもいいの?」
「ぅんー~~まぁーまぁー焦らないで。くまちゃん」
「そうなの? おじさんがそう言うなら……」
そして、俺は他の従業員を見た。
「『あぁ。本当に帰りたい』」
翡翠さんは鎧武者というか――落ち武者のようなアバだった。
身長は高いままで。
ゆらゆらりと揺れている。
(結構カッコいいな! 俺もあんなのがいいかも!)
ただ、カッコいいと思った。
俺が今日見た従業員は動物形状が多かったからだ。
次いで。
後方さんを見当たらなかった。
「?! ぁ、っれ?? 後方さん??」
思わず顔を左右に振った。
すると。
「『ここ。あンたの周りに浮いてる煙が俺の《変態》なのよ。びっくりした? ごめんな』」
灯り照らされた煙が、後方さんになった。
流石にびっくりしたけど。
なんからしくて、思わず納得のアバだった。
あと一人の律さん。
「?? また、いない。煙的なアバなのかな??」
《57:21:45》
ちなみにもう時間は動いていて。
ちっくたっくと進んでいる。
「『恵比寿君ってさぁー蜘蛛、嫌いじゃない?』」
俺に翡翠さんが腕を組んでそう言った。
それにザワりと嫌な予感がしてしまう。
思わず、足元を伺い見た。
赤ちゃんの手のサイズ程の蜘蛛が。
俺のシューズの上に乗っかっていた。
ざわ。
ざわざわざわ――……
声にもならない。
いや。
声が出せない。
「 ――~~っつ!?」
顔面蒼白になっているに違いない。
「『おっもしっろい反応でごっざるなぁ~~‼ 愉快、愉快‼』」
そんな俺を喜々として律さんが嗤う。
何を思ったのか、足元から俺の身体を這って来た。
俺の膝がガクガクと揺れてしまう。
「『これから何故にして。このような異様な格好になるのかを。拙者た――ボク達が一から叩きこんであげるから。立派な従業員になってよね』」
俺は何度も、何度も強い頷いた。
それに律さんも飛び降りてくれる。
「ぉ、ねがぃします……はぁ~~」
「『さてぇー和みタイムはお終いよぉー』」
がっしゃん、と鎧を鳴らしながら翡翠さんが言う。
台詞はアレだが、真剣で重い口調の言葉だった。
「『くまちゃーん。時間はぁ』」
「!? ぇっと」
《56:48:21》
「56分でっす!」
「『よっし。一丁行こうかぁー』」
両こぶしを当てて言う翡翠さん。
何で、隊長じゃないんだろう。
この中で一番の年長者は翡翠さんだし。
恐らく、功労者であってこの職一筋だと思うのに。
「『あ。竜二君、兄ちゃんと賭けしないかい?』」
「しないよ?」
おじさんはにこやかに断った。
そりゃあ、そんな賭けに乗らない方がいいってもんだよね。
「『今回の商品確保をどちらが早いかを。負けたらさぁー兄ちゃんの分の《P通貨》もあげちゃう』」
あ。
何かヤバい空気だぞ。
おじさんが、おじさんが。
「……《Δ硬貨》は?」
はい、乗った。おじさん乗りました。
そんなに欲しいものなんだな。
ポイントも、デルタも。
「『いいよぉー兄ちゃんには必要ないものだしねぇ』」
がっしゃん、と。
おじさんに腕が伸ばされた。
拳になっている手に。
「乗った。今回、そちらの助っ人はなし、でいいのかなー」
「『ああ。コイツらは休憩時間に捕まえたから。給料も発生しないかんなぁ』」
「「『……ひどい……』」」
翡翠さんの言葉に律さんと後方さんの言葉が。
ため息交じりに重なった。
「ああ。でも、二人共安心しなさいなぁー今度、父ちゃんが直々に何かくれるってぇーよろしくな! て言えって言われたの忘れてたぁー」
「「『マジっスかっっっっ‼』」」
律さんと後方さんの声が。
今までにないくらいに弾んでいる。
これは翡翠さんの計算なのか。
それとも本当に忘れていたのか。
どちらも分からないけど。
何かやり手というか。
手慣れたような感じだ。
この感じは――おっさんのように不気味で、怖い。
それでいて恐ろしい存在感だ。
これが群青なのか。
そして、長男なのか。
「兄さん。置いてってもいいでかなー?」
おじさんが俺を抱きかかえると。
身体が光った。
「え゛!」
びっくりする俺や、翡翠さんが返事する間もなく。
おじさんは翡翠さん達から奔り去った。
「ぇ゛え゛ええ゛え゛っっっ‼」




