4 私の過去を少し~思い出しながら愛を叫ぶ~
少女の昔話を少し。
雰囲気が前話と違います。
何故、そんなに彼のことが好きなのか。
よく尋ねられるので、以前友人に語ったように怒涛の勢いで山を登るために身体を鍛え、山のことを学び、目標の山は危険だからと周りに止められ、登る山は変えられたものの見事、登頂された(先日、念願の登山をされましたの!)ことを愛と熱い想いを込めて話すと、話し終わる頃には何故か尋ねた本人と周りにいた方々までもが ぐったり としつつも理解してくれました。
でも、本当の理由は違うのです。
実は、私、異世界トリップしてしまったのです~!(どんどんぱふー!)
13歳で異世界トリップを経験してしまった私は、気づいたら街の路地裏に立っていました。
そこで出会ったのが彼でした。
周りをキョロキョロと見回し、最初は疑っていたものの、小説で読んだことのあるように、本当に異世界に来てしまったのだと怯えました。
誰に声をかけたらいいのか、どうしたら帰れるのか、不安に押しつぶされそうになって泣きそうになった私に、影がさしました。
顔を上げると、目の前には黒髪に綺麗な晴れた日の空色の瞳の少年。
見慣れぬ色に見惚れていると、目の前にハンカチを差し出されました。
「迷子?泣いていたら、共の者も見つけられないよ。」
迷子。そうかもしれない。どうやったら帰れるのかわからない迷子。
「おうち、わかんな、お、お母さん・・・」
目の淵にギリギリ留まっていた涙は迷子だと思うと溢れ出して。
「背を伸ばせ!!」
いきなり大きな声を出され、びくり と身体が硬直しました。
「この辺りでは見ない身なりだけど、両親から大切に育てられたんでしょ。
それなら、育ててもらった両親に恥じぬ行いをしなきゃ。
君の行動は、育ててくれた両親に通じるんだから。」
その時はわからなかったけど、汚れのない服装や清潔で荒れのない身体から貴族や豪商の子供と思ったみたいでした。
「背を伸ばして、顔を上げて・・・そう。見れるようになったね。」
そう言って、ふっ と笑った彼はかっこよくて・・・。
顔を染める私を街を警備する騎士団の元へ連れて行ってくれました。
ひょろり とした体躯に似合わない大きな手と手をつなぎ、街に初めて来た子供だと思った私に色々なことを教えてくれました。
幸い、誰とでも言葉が通じることや時間。
野菜なども見覚えのあるものや名前まで一緒の物もあることを知り、少しだけ安心し、少年の話を聞きました。
街の中にある駐在所に着くと、事情をその場にいた騎士に話し、そのまま彼は去っていきました。
そして、今のお父様とお母様にあたる、フォード子爵夫婦に会い
「へー、君、孤児なんだー。ふーん。うちの子になるぅ?」
と、軽ぅく誘われました。
誘ったフォード子爵・・・お父様は、お母様に拳骨をくらってました。
お母様、今思い出しましたけど、その時から平手ではなく拳骨でお父様を諌めていたんですね。アグレッシブすぎて、私は身が縮む思いです。問題起こしちゃダメ絶対。
「そんな言い方では、不安になってうちの子になってくれないかもしれないじゃありませんか!!」
「えー。ダメ?」
「ダメです!!」
「えっと、あの、いいです。」
「ほら、いいって言ったじゃないか。あ、うちの子になる君の名前は?」
「亜美です。」
「そっかぁ。じゃ、アミーは今日から、アミー・フォードね。」
「よろしくね。アミー。」
どうやら、亜美 という名前は言いづらいらしく、アミーと呼ばれることが多くなったので、初めて会う人にはアミーと名乗ることにしました。
ただ、実は大家族だった、フォード子爵家の皆だけは、練習し、アミ と呼んでくれました。
君を生んで育てた、大切な家族からもらった名前だから と。
そう言われたとき、私は本当の意味でフォード子爵家の皆と家族になれたんだと思います。
その時の少女が私だと、彼は知りません。
だって、その時私は興味に負けて、髪を金髪に染めて青いカラーコンタクトをつけていましたから。
そのせいで、親に怒られ、むしゃくしゃして街を走って、走って、たどり着いたのがこの世界でした。
時々、元の世界の、本当の家族を思って泣きます。
あの時、こう言っていたら、ちゃんと話していたら、今も家族と一緒に笑って、泣いて、友達とも別れず、過ごしていたのだろうか と。
髪を染めたのだって、ビックリさせてみたかっただけで、別に金髪に憧れていたわけでもなかったのです。
言って後悔することも沢山あるけど、言わないで後悔するのだけは、もう、絶対にしたくないと、元の世界を思い出す度、思うようになりました。
この世界に来てから、言葉は通じても文字や風習、着るものなどは違ったので、生活に慣れるようにと色々なことを体験しつつ勉強し、魔法の才能もあった私は、遅れながらも魔法学院へ編入して1年経った頃には、異世界トリップを経験してから数年が経っていました。
私は、このまま学院を卒業し、就職するのだと、未来をぼんやり考えていました。
そんな時でした。
私を拾い、家族になってくれたフォード子爵家が、いよいよ負債が返しきれなくなってきたことを聞きました。
私は、今が恩を返すべきだと、そう思いました。
声をかけてくれたのは、近くの噴水広場でよく会う、すけべで、でも言いたいことを言えるおじいちゃん。
良い身なりから、それなりの地位だと知っていましたが、嫁に来てくれるなら負債をなくしてくれると言われた時には、実は想像以上の資産家だということに気づきました。
いつものにやにやした顔ではなく、人を食った嫌な顔。
目だけはギラギラして、こちらを試す顔。
私?負けませんよ。
だって、彼のくれた言葉があったから。
背を伸ばして、顔をあげて。
呪文のように心の中で呟いて、前を向いて、私は微笑んで承諾しました。
おじいちゃんは笑って、いい性格じゃ! とかご機嫌になりつつ、数ヵ月後に嫁入りの準備やマナーを学ぶために学院を辞めることを告げました。
もう会うことは、きっと出来ないけど、私の行動に、生き方に、元の世界の家族の存在が確かにあると知ったから。
そのことを教えてもらったから。
私が異世界トリップをしても、くじけず生きてこられたこと。
優しく暖かな家族と出会わせてくれたこと。
家族を守るために弱気にならずにいられたこと。
全ては彼の言葉が私の背中を押してくれたから。
いつだって、彼の言葉が私を生かしてくれました。
それが、私が彼を好きな理由。
だから・・・
学院を辞めるまでの数ヵ月。
学院に入ってからすぐに、あの時の少年を奇跡的に見つけ、そして目標の為に努力する姿に、惚れ直したこの気持ち。
明日もっ!時間が許す限り、愛しのカウツさまに愛を叫ぶのです☆
あぁ、思い出したら、愛が!愛が溢れてきましたわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
今っ!会いに行っきまーーーす!!
フォード子爵家の皆さんは、亜美ちゃんを大切に育ててくれたので、曲がらずに育っております。
ちょっと、曲がれない性格というか、直進な性格というか、そんな感じです。
次からは前と同じノリです。多分 ←
亜美ちゃんは、”亜美” であり、 ”アミー” でもあるので、今後も ”少女”表記で書いてあります。
よろしくお願いいたします。