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14 新ルール

探索は、変わらず続いていた。


昨日と比べると、動きには確かな余裕が生まれている。

魔物の強さは大きく変わらず、数こそ多いものの、連携を取って対処すれば致命的な場面は少ない。


鈴木が前で攻撃を受け止め、藤原が全体を見渡して指示を出し、俺は後ろからヒールを回す。

役割分担は、ほとんど言葉を交わさなくても成立するようになっていた。


ただし――人数が多いが故の問題も、はっきりと表に出始めている。


移動は遅く、廊下では隊列が伸びきって後方の様子が見えなくなる。

誰かが遅れれば、誰かが戻ってフォローに入らなければならず、その分、全体の進行は確実に鈍る。


全員を守るという方針は、

人数が多いほど、難しくなる。


それでも今のところは、何とか回っていた。


「……案外、いけるかもな」


そんな声が漏れたとき、誰も強く否定しなかった。

恐怖が消えたわけじゃない。ただ、慣れが追いつき始めていた。


そのときだった。


――拍手。


乾いた音が、やけに澄んだ響きで廊下に広がる。


全員が足を止める。


廊下の中央に、いつの間にか“支配人”が立っていた。

顔のないスーツ姿は相変わらずで、そこにいるだけで空気が一段冷える。


「順調ですね」


感情の起伏を一切感じさせない声。


「探索も、戦闘も。

 皆さんは、この環境にとてもよく適応しています」


誰も答えない。


支配人は気にする様子もなく続けた。


「結晶も、集まり始めていますね」


その言葉に、全員が理解している“意味”が、重く胸に落ちる。

結晶は、人が死んだときにしか現れない。

その事実は、もう共有されていた。


「そこで」


支配人は、一拍だけ間を置いた。


「皆さんに、

 新しいルールを追加します」


空気が、張り詰める。


「同じクラス内で、結晶を100個集めることができれば――」


誰かが、息を飲んだ。


「そのクラスから、

 1人を、この領域から解放します」


ざわめき。


「……1人?」

「100個で……?」


希望と、嫌な予感が、同時に広がる。


「方法は問いません」


支配人は、淡々と言った。


「結果のみを評価します」


それだけ告げると、

次の瞬間には、最初から存在していなかったかのように姿を消した。

廊下に残ったのは、

理解してしまった人間たちだけだった。


探索を再開する。


だが、空気は明らかに変わっていた。


結晶を見る目が変わる。

他クラスの話題が増える。

「誰を出すか」という言葉は、まだ出ないが、誰もが考え始めている。


その矢先だった。


廊下の向こうから、引きずるような足音が聞こえてきた。

姿を現したのは、他クラスの生徒だった。

全身が血で汚れ、片腕はだらりと垂れ下がっている。


「……たす、け……」


慌てて支え、壁際に座らせる。


「どこでやられた?」


問いかけると、男はかすれた声で答えた。


「……体育館……」

「……でかい、猿……」


さらに続ける。


「一階の広間には……石の……ゴーレム……」

「……全然、歯が立たなかった……」


ボス級。

しかも、複数。

正攻法での攻略が、ほぼ不可能だという事実が、改めて突きつけられる。


俺は、すぐにヒールをかけた。


「……ヒール」


一度。二度。三度。


暖かい感覚は広がるが、傷は塞がらない。

血は止まらず、呼吸も浅いままだ。


「……っ」


何度繰り返しても、改善しない。

その瞬間、俺は理解した。

ヒールには、限界がある。

“死にかけ”の領域に入った人間は、治せない。


そのときだった。


男のそばにいた、同じクラスの生徒が、俺に掴みかかる勢いで叫んだ。


「……ふざけんなよ!」


顔は、恐怖と怒りで歪んでいる。


「さっきのルール、聞いただろ!?」

「結晶、100個で1人だぞ!」


周囲が、凍りつく。


「お前……わざと治してないんじゃないのか!?

  こいつが死ねば、結晶が出るから!」


言葉が、鋭く突き刺さる。


意味が分からない理屈だと、頭では分かっている。

だが、感情は、そんな整理を待ってくれない。


「やめろ!」


鈴木が前に出る。


藤原も、低い声で制した。


「……今は、責める場面じゃない」


男は、はっとしたように手を離し、しばらくしてから力なく頭を下げた。


「……ごめん、怖くて、頭おかしくなってた…」


謝罪はあった。

だが、空気は戻らなかった。

やがて、その生徒は息を引き取った。


床に、黒紫色の結晶が現れる。

誰も、すぐには拾えなかった。



探索を再開する。

だが、誰もが同じことを考えていた。


ボスは強すぎる。

ヒールは万能じゃない。

全員を救うことは、できない。


なら――どうする?


藤原が、静かに言った。


「……正面から、この場所を攻略するのは無理だ」


鈴木も、苦い表情で頷く。


「結局……数字でどうにかするしかねぇのか」


結晶100個。


それは、希望であると同時に、

人を疑わせ、追い詰め、選ばせるルールだった。

廊下の奥で、また争う声が響く。


誰も、助けに行こうとはしなかった。

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