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第20話 遊びに誘ってみる

 朝、俺は学校に到着すると木下の席へと向かった。


「持ってきたぞ」

「おお、さんきゅ」


 妹に貰ったどこかの洋服屋の紙袋に漫画を詰めてきたので、それを木下に手渡す。中身は『度胸星』だ。LINEで木下の好みを聞いたところ、『少年漫画が好き、でも最近はSFも興味ある』とのことだったのこれをチョイスした。SFに興味があるのは意外だったが『宇宙兄弟』にはまったからと聞いて納得した。『度胸星』は宇宙飛行士になりたい主人公の熱い漫画だ。


「へー面白そうじゃん」

「めちゃくちゃ面白いぞ。ただ打ち切りで終わるが」

「え! 打ち切りかよ!?」

「ああ、でも打ち切りだとしてもこの漫画は読んでおいた方がいいから読め」

「お、おう。分かったよ」


 俺の勢いに押された木下は、早速1巻を手に取り読み始めた。よし、楽しんでくれ。こうやって人に漫画すすめて読んでもらう瞬間ってなんかすごい性癖に刺さるわ。

 ちなみに木下が俺に漫画を貸すって話は、木下の持っている漫画は全て俺が読んでいるやつだったので流れた。

 さて、とりあえず今日の目的のひとつめは終わった。次だ。


 俺は、次に白波さんの席へと歩いていく。まだ寅野さんは学校へと来ていないようで、白波さんはひとりで席に座っていた。昨日、白波さんに話しかけようと思いつつ、結局話さずに終わってしまっていたので、なんだか白波さんとちゃんと話すのは久しぶりな気がする。

 久しぶりと気づくとなんか緊張してきたな。いや、大丈夫だ! 俺はイケメンなんだから! イケメンに話しかけられて不愉快になる人間はいないはずだ! 行け、俺!


「白波さん!」

「ん? 泉、どしたの?」


 白波さんは、いたって普通に返事をしてくれた。よかった、俺忘れられてなかった。


「あのさ、寅野さんから聞いたんだけど、白波さんって漫画好きなんだろ?」

「あ、うん! 好き好きー」

「俺も好きなんだよ。それでよかったらと思っておすすめ何冊か持ってきたんだけど」

「え、ほんと!? なにそれ! すごい嬉しい!」


 今度は母親が集めてる紙袋BOXから拝借してきた紙袋に詰めた漫画を白波さんに手渡す。ちなみに妹に『サ道』だけ渡すと作戦がバレバレだから他のも何冊か渡せと言われたので、この紙袋には『サ道』と『恋するお嬢様』と『oosaka.sora』が入っている。『恋するお嬢様』は簡単にいうとキュンキュン系ラブコメで多分女子受けがいいと思う。『oosaka.sora』は、ほのぼのゆるゆる漫画だが、あるある要素や感動要素なんかもあったりする漫画だ。これは絵が可愛いので女子受けするかもなって思って持ってきた。持ってきた漫画の全部、巻数が少ないので、読むのにも時間がかからないと思う。


 白波さんは紙袋の中を覗き込むと

「わー! 全部読んだことない! ありがとー! 読んだら感想言うね!」

 と、キラキラした笑顔で言った。妖精さんの羽についてる鱗粉舞ってる気分。


 次の日の朝、木下が「これ、面白かったわ」と言いながら漫画の入った紙袋を返しに俺の席まで来た。

 俺はほこらしい気持ちで「だろ?」と答える。そうなんだよ、面白いんだよ、『度胸星』は。


「なんで、これ打ち切りになったんだろうな? むしろ、これからって感じなのに」

「だよな、それだけは永遠の謎だわ」

「ていうか、俺これ読んだあと『超ひも理論』について気になりすぎて、昨日の夜ずっとネットで調べてたわ」

「分かる。俺もおんなじことした」


 こんなイケメンがネットで『超ひも理論』について調べてるとか、想像するとなんか少し可愛い。俺も11次元ってなんなんだよって思ってすごい調べたわ。

 そして木下はまだ気づいていないかもしれないが、そうやってSF漫画で読んだ単語を調べたりしていくうちにもっとSFについて知りたくなり、もっとSF漫画が読みたいという欲求が次から次へと湧いてくるんだ。


 大丈夫だぞ、木下。俺がもっとSF漫画中毒にしてやるからな。

 俺と木下はそのまま『度胸星』の内容について議論を酌み交わす。すると、紙袋を持った白波さんが俺の方へと向かってくるのが視界に入った。うお、白波さんが俺の席へくる! なんか分からんが嬉しいしドキドキする。いや、大丈夫だ、俺はイケメンなんだから。落ち着け。


「泉ー! これ、読んだよー! すごい、面白かった! ありがとね」

「あ、白波も泉に漫画借りてたの?」

「え、木下も?」

「おう。何貸してもらったんだ?」


 白波さんと木下は、普通に会話している。やっぱり木下は、別に白波さんのことを悪く思ってるわけじゃないんだな。


「あたしはね、これー。木下は?」

「俺か? 俺は……」


 二人は俺の目の前で紙袋の中身を見せあっている。あ、もしかしてこれチャンスか?


「白波さんには、何種類か貸したんだよな。ちなみに、どれが一番面白かった?」


 ここでサ道って答えてくれれば、めちゃくちゃ誘いやすいんだけど。


「全部面白かったけど、一番って言われたら『oosaka.sora』かな? なんかほっこりするけど、ドキッとするセリフとかあったりして。何より絵が可愛い!」


 くそ、そこまでうまく行かなかったか。でも『oosaka.sora』もめちゃくちゃ良い漫画だから、さすが白波さん……分かってるわ。


「この『サ道』ってやつは、茶道の漫画なわけ?」


 おおー! き、木下! 思いがけないところからのナイストス! 俺はすかさず、そのトスを受け取る。


「いや、サウナの漫画なんだけど、今結構サウナブームで色んな漫画で取り上げられてたりするんだよ。おそらく、この漫画が火付け役だな」

「へー、そうなんだ?」

「あ、それ! それ読んだら、めちゃくちゃサウナ行きたくなったー! 絵も可愛いし!」


 あれ? これ、来たんじゃないか? このタイミングなんじゃないか? ほんとなら、木下が『サ道』を読んだあと、木下→白波さん→寅野さんの順に誘おうと思ってたんだが。1対1で誘うより、味方がいた方が心強いって理由でこの順番にした。しかし、なんとなくこの会話の流れで誘った方が自然な気がする。


 ただ、突然、男子が1対1で女子を風呂に誘うってどうなの? いや、まあいい! とりあえず今は勢いを優先させよう。大丈夫だ! 俺はイケメンなんだから! なんとかなる!


「俺もそれ読んでめちゃくちゃサウナ行きたくなったわ。良かったら白波さん、一緒にサウナ行かね?」


 勇気を振り絞って、声を出す。実はこの誘い文句だけは、妹と一緒に何回か家で練習していた。妹曰く、この誘うときの緊張が相手に伝わると、断られる可能性が高いとのこと。なので、なるべくスムーズに言えるように練習したというわけだ。

 練習の甲斐あって、スムーズに言えたと思う。だが――。

 なんだろう、この空気は。なんか白波さんも木下も目を丸くて黙っている。やばい、失敗したか?


「あたしと泉が? 一緒にサウナに?」

「お、おう」


 ああ、やっぱり妹の言う通り、まずは木下を誘ってから白波さんを誘うべきだったかもしれん。だが、もう遅い。

 しかし、ここで妹の言葉を思い出す。もし断られたとしても、落ち込んだ姿を相手に見せないこと。がっくりした姿を見せれば見せるほど、相手は重荷に感じるし、次回誘いづらくなる。

 俺はその言葉を守って、この緊張した空気のなかできる限り平静を保とうとしていた。


「えー! 泉に遊びに誘われるなんて意外なんだけど! うん、行こ行こ!」

「え!? マジか!?」


 平静を保つって決めてたのに、驚いてしまった。


「マジマジ! すごい楽しみ」


 意外にも白波さんはノリ気だった……。こ、これが『サ道』の力か……さすがだ。あ、でも、まだほっとはできないぞ。むしろ、まだ目標の半分以下しか達成していない。本当は木下も漫画を読んでから誘った方が絶対良いんだが、この流れを断ち切りたくない。よし、行け!


「き、木下も一緒に行かね? その漫画読んだら絶対行きたくなるからさ」


 う……ちょっとどもってしまった。連続して作戦変更してるから、やっぱりちょっと動揺してるな、俺。


「おう、行く行く。意外なメンバーすぎて逆に楽しそうだわ」


 うお! まじか!? なんか、トントン拍子すぎて怖いんだが。 


「そうだよな! 大勢の方が楽しいし、白波さん、寅野さんも誘おうと思うんだけど」

「あ、おっけー! じゃあ、あたしの方で誘っとくよ」

「え、いいのか? ありがとう」


 というわけで、妹の課題は思ったよりも簡単にクリアできた。ちなみに、白波さんと木下は俺の貸した漫画を紙袋ごとトレードして持っていった。



 恒例の妹への課題達成報告会にて。


「お兄ちゃん、すごすぎ!」

「へへ」


 相変わらず、めちゃくちゃほめてくれる妹。でも、今日の俺は確かに思った以上の成果を上げられた気がする。

 ただ、少し疑問が残る。


「あのさ、今日は俺結構、予定外のことしちゃったというかさ。その場の思いつきで行動しちゃったんだよな。それなのに、なんでこんなトントン拍子でうまくいったんだと思う?」


 そう、今日はスーパー銭湯に漫画が大量にあるから読みに行こうという誘い文句を使わずとも3人を誘うことができた。これは少々できすぎな気もする。


「今日のお兄ちゃんの行動、あたしは大正解だったと思うよ」

「え、マジか?」

「うん。コミュニケーションって、その場の空気を読むことが重要だからね。たとえば、今日白波さんが『サウナ行きたくなった』って言ったタイミングで誘ったでしょ? それって、すごい自然な流れだし、相手も『行く』って言いやすいタイミングだと思うよ。お兄ちゃんは無意識で、そういう空気が読めるようになって来たんじゃないかな?」

「なるほど、つまり俺のコミュニケーションレベルが赤ちゃんから幼稚園児ぐらいにはレベルアップしたってことか」

「まあ、そういうこと!」


 ここで俺はひとつのことに気付く。俺のコミュニケーションレベルが上がった理由、これはやっぱりこうやって妹の課題を日々こなし、人と関わることを実行していたから。つまり、コミュニケーションも絵と同じでコツコツ努力していけばレベルアップするこってことだ。

 そう考えると、コミュニケーションってやつもそう難しく考えなくてもいいのかもしれない。


「木下さんを誘ったときも、その場にいる人をついでに誘うって感じ自然だし、相手も気負いすぎないしすごい良かったと思うよ。あと、お兄ちゃん、実は結構二人から好かれてるのかもね?」

「そ、そうなのかな? さ、さんきゅ」


 妹の誉め言葉に真剣に照れる兄。


「そういえば、みんなのLINEは聞けた?」

「あ、聞いた聞いた。正確には木下が作ってくれたLINEグループに俺と白波さんと寅野さんが入ったって形だが」


 俺は木下とだけLINEの交換をしていたが、グループさえ作ってしまえば自動的に二人を連絡先に登録することも可能となる。


「そっか! じゃあ、あとはLINEで日程調整と行先の提案……その辺は出来るよね?」

「で、できるはずだ!」


 日程調整は、まあみんなが空いてる日聞けばいいだけだし、行先の提案はこの前妹から教えてもらったスーパー銭湯のURL送ればいいだけだしな! そんなに難しくないはずだ。


「おっけー。じゃあ、もう次の課題出しちゃうね? いけるよね?」

「お、おう! いけるぞ!」


 相変わらず課題を出すテンポが早い。褒めて伸ばして、課題をどんどん出す。飴と鞭を使いこなしてる感じ。妹、完全に編集向きの性格してるよなあ。


「次の課題は『木下さんと腹を割って話すこと。できれば高石さんについて聞き出す』だよ!」

「……」


 なんか難しそうなの来た。それ、コミュニケーション幼稚園児には、ちょっとハードルが高いのでは? そもそも腹を割って話すっていうのが分からん。俺はいつも腹のうちを見せてるし。


「ヒントくれ」


 こんな感じで。


「もー、ちゃんと考えた?」

「考えたけど、分からん」

「えー。そうだな、じゃあ一個だけヒントね。相手の秘密を知りたいときは、まずは自分の秘密から話す。これがコツだよ」


 自分の秘密を話す……俺の秘密って、脳のバグのことしかないんだが?

 え、それを話すのか? めちゃくちゃハードル高くない?

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