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第12話 清楚な高石さん

 次の日から、白波さんの言う通り次々と女子たちから絵を描いて欲しいと頼まれた。俺はもちろんそのたび快く了承し、寅野さんの時と同じように誠心誠意謝罪した。

 そして、基本的にはみんな、中にはしぶしぶって感じの女子もいたものの、俺の謝罪を許し受け入れてくれた。


 白波さん曰く、LINEのアイコンを俺の似顔絵にするのは、今、女子たちの間でちょっとしたブームになっているらしく、半数以上の女子が俺の絵を使ってくれているらしい。

 なので、俺のことを許せないって気持ちがあったとしても、流行に乗り遅れたくない女子たちは俺に絵の依頼にくるという寸法だ。


 そしてその流れで謝られては許すしかない……っていう作戦らしい。

 作戦の効果は抜群で、今、教室で俺の陰口を言っている女子は誰もいない。

 陰口がなくなっただけじゃなく、ブームが起きてるって……純粋にめちゃくちゃ嬉しい。

 ブームを起こしてくれたの、完全に白波さんなわけだけど、白波さんは俺の絵が魅力的だからって言い張ってくれている。良いやつすぎだろ。


 そんなわけで、陰口問題はなんとあっさり解決。だが、それは俺の力ではなく全て白波さんのおかげであり、白波さんには感謝してもしきれない気持ちである。


 もちろん、まだちゃんと謝れていない女子もいるので、これは何か話すきっかけがあればその時に謝れと白波さんから言われている。話すタイミングがあるかどうかは分からないが、時間がかかってもいいので、ちゃんと全員に謝りたい。男子にいたっては、まだ一人として謝れていないわけだし。


 まあ、そんなこんなで俺の高校生活はかなり平和なものとなった。

 毎日、誰かしら女子から絵の依頼があり、コツコツ絵を描く日々。平穏で充実した日々だ。


「泉くん!」


 そんな中、いつも通り俺が休み時間に絵を描いていると、聴き慣れぬ声が聞こえた。甘ったるい鼻にかかったような可愛らしい声。

 顔を見上げると、そこにいたのは……えーっと、そうそう高石沙織さんだ。

 さらさらの黒髪を肩ぐらいまで伸ばした、清楚なイメージの可愛い女子。


「あ、高石さん。どしたの?」

「えへ、あのねえ、今なんか泉くんに似顔絵描いてもらうの流行ってるでしょ? あたしにも描いてくれないかな?」


 ちょこんと俺の前に座り、うるうるとした瞳で上目遣い。仕草とかが、うさぎっぽくて可愛い。


「あ、おっけー! むしろ描かせてください!」

「ほんと? うれしい!」

「うん、じゃあ次の休み時間に持ってくわ!」

「いいの? ありがとお」


 高石さんはぎゅっと俺の手を握って、嬉しそうに笑った。手、めちゃくちゃ柔らかい。初めて女子の手触ったけど、男と全然違う。ふわふわであったかくて、ちょっとひんやりしてる。

 うさぎがぴょんぴょん跳ねるようにして、高石さんは自分の席へと戻って行った。

 なんだろ、なんか不思議な感じだ。俺はなんとなく経室に白波さんの姿を探す。いないようだった。


 そうだ、違和感を抱いた理由。いつも絵の依頼をうける時は、必ず白波さんがそばにいたんだよな。寅野さんの時もそうだったけど、女子たちは白波さんが間に入る形で俺に話しかけてくる。そりゃあ、そうだよな。嫌いな相手に直接って話しかけにくいだろうし、陰口言ってたならなおさら。だから、女子たちは白波さんを通していたとしてもちょっと話しにくい感じのオーラを出してた。


 それが高石さんは白波さんなしで話しかけてきたうえに、めちゃくちゃ愛想良い感じ。まあ、これが寅野さんみたいに、俺の陰口を言っていなかったとかならまだ分かるんだが、高石さんはバリバリ陰口言ってたんだよな。……いや、よく思い出すと言ってはなかったか。陰口を言っている女子に『もう、やめなよー』って止める感じで笑ってた。それはもう楽しそうに。

 もちろんそれは陰口を言われるようなことをしてた俺が悪いわけだけども。


「……まあいいか」


 別にちょっとした違和感なだけだし、深く考える必要はない。

 俺は今までと同じようにスケッチブックに高石さんの絵を描くことにした。



 次の休み時間で、高石さんの絵が完成したので、いつも通り絵を渡す時に高石さんに今までのことを謝罪した。


「というわけで、俺は本当に最悪なことをしていました。傷つけて、悪かった」


 深々と頭を下げる。すると、高石さんはポンポンと俺の頭を優しく撫でた。


「全然怒ってないから、泉くん、顔あげて?」

「じゃ、じゃあ許してくれるのか?」

「許すもなにも、悪いのは陰口言ってる子たちだと思うよ? あたし、泉くんの陰口聞いてる時、心痛かったもん」


 そ、そうなのか? 笑ってた気がしたけど。もしかしたら、あれは俺の勘違いだったのかも。


「いや、俺が陰口言われて当然のことしてたから」

「えへ、泉くんのそういうとこ好き」


 人懐っこい感じで笑う高石さん。


「ていうかさ、泉くん最近すごいかっこよくなったよね?」

「あ、美容師さんにイケメンにしてもらったんだ」

「なにそれー! 泉くんおもしろーい!」


 俺に陰口を言ってる時と同じような感じで楽しそうに笑う高石さん。多分、その記憶さえなければ、めちゃくちゃ可愛く笑ってるだけなんだけど。


「どこの美容室行ってるの?」

「表参道にあるonearmyってとこ」

「あれ? そこって澪ちゃんが行ってる美容室と同じじゃない?」

「ああ、白波さんに連れていってもらったんだ」


 俺がそういうと、一瞬、高石さんの目が鋭く光った気がした。だが、すぐうさぎのおめめに戻る。


「そうなんだね! 泉くんって最近澪ちゃんと仲良いけど、もしかして付き合ってるの?」

「――えッ!? 付き合って……? いや、ないない!」


 付き合うってあれだよな、男女交際のことだよな? まさか! なんで、急にそうなる?


「でも、急に仲良くなったしさー。怪しいよー?」

「いや、ほんとに付き合ってないって!」

「ほんとに?」

「ほんとほんと!」


 付き合うどころか、まだ友達にもなってない段階だと思う。知り合い、ただのクラスメイト。いや、忠誠は誓ってるから下僕が一番近いか。ていうかあんな妖精さんのように可愛くて、まっすぐで優しい人が俺と釣り合うわけない。たとえ俺がイケメンだったとしても、心は醜いし。


 俺が焦って否定すると高石さんは、嬉しそうに笑うと、スッと俺に近づいてきた。顔がめっちゃ近いし、なんか二の腕を触られている。


 そして誰にも聞こえないような声で「だとしたら、澪ちゃん泉くんのかっこよさに気づいてないのかもね? 泉くん、こんなにかっこいいのに」と囁いた。


 それはめちゃくちゃ甘くて色っぽい声色で。俺は、人生で初めて異性というものを意識して、顔が赤くなっていくのを感じた。

 これ、どう考えても高石さん俺のこと好きだよな?

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