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7話「エルドレット」

 

 洞窟の中は肌が焦げてしまいそうなほど暑く、HPは減らないがプレイヤーの精神力はガリガリと削られていく。


 数回の戦闘を挟みながら奥までたどり着いたブラムド達はNPCのクエストを受け、今はボス部屋の扉の前で作戦会議をしていた。


「あのNPCのおじさん久しぶりにみたな~。僕も武器の素材を集めに何度もこのクエまわしてたからね」

「そういえばそんな事もあったな……あの時は鍛冶仕事しかしてなかったから素材集めには協力してなかったけどな」

「てことはこのボスとの戦闘経験があるのは僕だけかな? レイは?」

「ないわ」

「じゃあ僕が戦闘中の指示を出した方がいいかな。勿論、事前に情報も伝えるけどね」

「そうですね、カナンさんはヒーラーで後ろに下がってますから状況もよく把握できると思いますし」

「ああ、頼むぞカナン!」

「任せて!」


 それじゃあ作戦を説明するね、とカナンは自分の持っている情報を残りのメンバーに教え始める。


「中にいるのは『エルドレット』っていう大型の蠍だよ。普通のサイズの蠍型モンスターと違って動きはとろいんだけど硬い甲殻で覆われているから斬撃系の攻撃が通りにくいんだ」

「打撃か魔法か…… 攻撃の要はやっぱりレイになりそうだな」

「………に任せ…………」


 相変わらず声を小さくしていて聞き取れないがやる気はあるようで、自信満々に大きな胸を強調するように胸を張っている。

 ブラムドより小さい少女が、身の丈より大きいハンマーアックスを担いでいる姿はゲーム内でも結構珍しい光景だ。

 大抵の女子プレイヤーはアストラのように魔法使いやヒーラーなどの後衛職につくし、前衛職だとしても片手剣や短剣のような軽い武器を選ぶ者ばかりだ。

 そういうわけで、レイはプレイヤーの間でも少し有名で、掲示板でも稀に話題として上がっていることがある。


「そういえばカナンさんとレイさんの職業って何なんですか?」

「僕は『プリンセス』だよ。味方へのエンチャントと回復が主な役割かな。一応、簡単な光魔法と召喚魔法も使えるけどそっちにはあんまり期待しないで」

「『プリンセス』って確か補助系の最高職の1つですよね」

「うん! 結構条件厳しくて大変だったよお~」

「何でそう言いながら俺の腕に擦り寄って来るんだよ」

「お世話になりました!」


 確かにカナンが『プリンセス』になるのに、ブラムドは半ば強制的に手伝わされた。

 ブラムドが生産系の最高職『グランドスミス』になるのにもカナンの力を借りたのでお互い様なのだが。


「……『ニアバーサーカー』…………」

「『ニアバーサーカー』……ですか? ええっと……」

「アストラが知らないでも無理ないさ。『ニアバーサーカー』は最近追加された職業でまだ習得条件も不明だからな。能力は……一言で言えば火力馬鹿だな」

「魔法は専用のエンハンスが1つあるだけで他は使えないもんね。ステータスも攻撃と素早さが飛びぬけて高くて、防御はすっごい低いっていうピーキーな能力値だよ」

「ぜ、前衛なのに防御が低いって危なくないですか!?」

「よければ平気」


 実際、レイは『ニアバーサーカ』のパッシブスキルのおかげで、武器の重さを無視して動ける。

 大型武器を持ちながら華麗に敵の攻撃をかわせるのは『ニアバーサーカー』ならではの特徴だ。


 その後も作戦会議は続き、攻撃のモーションや耐性、弱点を頭に叩き込んでいった。


「……とまあこんな感じかな。僕からは以上だよ」

「よし、じゃあ忘れないうちにさっさといくか。準備はいいか?」


 言葉は違えど三人全員が肯定の返事を返す。


「行くぞっ!」


 ボスへの扉を開きブラムドたちは中へと入っていった。



 ------------------------------------------------------------



 ボスエリアは直径50メートルほどの円形の部屋で、頼りない蝋燭の明かりだけが部屋の中を照らしている。

 4人が部屋の中を進み中央近くまで行くと、突如として火のついていなかった燭台に火が灯り部屋の全体をはっきりと映し出される。


「来るよッ!」


 カナンの声と丁度同時に、入り口とは逆方向から巨大な蠍が出現する。

 表示される数本のHPバーの上に書かれた『エルドレット』という名前、間違いなくボスモンスターだ。


 鋏を開閉して威嚇しているエルドレットの甲殻には一面びっしりと鉱石が張り付いていて、生半可な武器では甲殻に届く前に弾かれてしまいそうだ。


「【バトルシフト】」


 カナンのエンハンスによってステータスに補正がかかる、その呪文が戦闘開始の合図だった。


 ブラムドとレイが二手に分かれてエルドレットに突っ込んでいき、カナンはその場を動かず次々とエンハンスをかけていく。

 アストラはカナンの更に後ろ、魔法が届くギリギリの距離で凍り魔法の詠唱を始める。


 素早いレイがエルドレットの鋏攻撃を難なくかわして、身の丈より大きなハンマーアックス『ツーフェイス』を振るう。

 少女の細い腕からは考えられないような速さのその攻撃は、身体に張り付いた鉱石をいくつか砕きながら下の身体にも貫通してダメージを与える。


 エルドレットもその隙をついて尾の先にある毒針をレイ目掛けて突き出すが、身軽なレイはすり抜けるように避け背後に周り尻尾の根元にラッシュを叩き込む。


 ブラムドも負けじとボルバドを当てて少しづつ鉱石を削っていく。


 エルドレットはブラムドとレイの攻撃に翻弄され、反撃こそしてくるがその攻撃が当たることはない。

 やがてエンハンスをかけ終えたカナンとアストラの魔法攻撃も加わって、戦闘開始数分ですぐにHPゲージを4分の1削ることが出来た。


「………余裕……」

「油断しちゃ駄目だめ! モーションが変わるよ!」


 カナンの言葉通り、突然エルドレットの動き方が変わり、左の鋏で薙ぎ払った後に左の鋏を突き出してきた。

 正面で攻撃していた二人はいきなりの変化に回避が遅れてしまう、冷静に横に飛び込んだブラムドには当たることはなかったが、思わずバックステップをしてしまったレイは鋏の先が掠ってしまった。


「【ヒール】!!」

「ありがとう」


 すぐにカナンの回復魔法がレイの傷を癒す。


「戦闘前の注意を忘れないでね! 4分の1ごとにモーションが大きく変わるよ!」

「「了解!!」」


 初めての相手との戦闘、擬似的な命を掛けたその緊張感を味わいながらブラムドは攻撃を再開した。





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