8話「戦闘終了」
戦闘開始から十数分がたち、エルドレットのHPゲージは残り4分の1近くまでになっていた。
半分をきったところで身体全体を覆っていた鉱石が剥がれ落ち防御力が下がったのだが、その分動きが機敏になって隙がない。
繰り出される鋭い攻撃を避けるのに前衛の2人は気をとられてしまい手数が減ってしまっていた。
後衛のカナンはそんな中でも冷静に安全距離からの魔法攻撃で援護しているのだが、多人数でのボス戦経験に劣るアストラは焦りから前に出すぎてしまっている。
「アストラ! 危険だからもう少し下がってくれ!」
「あっ、すいません!」
低HPのアストラではエルドレットの攻撃を喰らってしまえば最悪一撃で死んでしまうだろう、それだけは何としてでも阻止しなければならない。
依頼主とはいえ自分の提案で連れてきたのだから責任を持って守らなければ。
「俺が囮になるからその隙に頼むぞ、レイ」
「りょーかい、『バーサーク』」
返事の後、レイはブラムドの少し後方に立って『ツーフェイス』を握り締め、次の攻撃の為に力を溜めている。
『バーサク』はニアバーサーカーの持つ自分単体のみにかけられるパフで防御力を犠牲にして攻撃力を大きく高める。
しかし詠唱が終わるまでは完全に身動きがとれず無防備になってしまうのでブラムドは絶対に下がるわけにはいけない。
ブラムドが残っているナイフ3本のうちの2本をエルドレットに投げつけると大型のナイフは左右に対称の弧を描きながら飛んでいく。
ナイフは右手の鋏で払われてしまったが、ナイフと同時に駆け出していたブラムドはそれを潜って下から顎部分に向けて残りのナイフを突き刺し、更に柄部分をボルバトで殴りつけ奥深くへと押し込む。
「おらぁ!」
「キュイイイ!」
苦しげな声を上げた大蠍は暴れるように両手を振り回し近くの岩ごとブラムドを潰そうとするが、ブラムドは足元にあった岩を踏み台にして空中に飛び上がる。
逃げたのは良かったがそこにはエルドレットの尻尾があった。体目掛けて振るわれるそれは寸前のところで捻ってかわしたが、この崩れた体勢のままで落ちたら追撃は避けられない。
しかしブラムドはそうなることをわかっていてなお、空中に逃げたのだ。エルドレットの視線を空中に向けて仲間から視線を逸らさせるために。
「おどりゃあーーーー!」
いつの間にか力を溜め終えエルドレットに近づいていたレイはまずは力任せに右から左に『ツーフェイス』のハンマー部分を振り下ろす。
そのまま体ごと一回転して更に殴りつけ、更にもう一回、もう一回…………と計5回回った後、今度はアックス部分を上下に往復させ半ば力任せに叩き斬る。
それでもまだ終わりではない、フラフラのエルドレットの人間で言えば眉間の部分に追い討ちで『ツーフェイス』の先の槍を突き刺すと今度はレイがカナンに叫ぶ。
「カナン、あとちぃとじゃけえお願い!」
興奮して今まで隠していた方言が出てしまっていた。驚いた顔でレイを見てるアストラだが今は説明している暇などない。
ブラムドはようやく地面に降りたところなのでまだ手は出せないが、レイの一撃で倒せなかった場合のフォローをするため急いで体勢を整える。
「うん! いくよアーちゃんもお願い!」
「はっ、はい! 『ファイアボム』」
アストラの魔法の中で一番の威力を持つそれは、爆弾のような高熱の炎を敵にぶつけるものだ。爆熱がエルドレットを包み込み、辺りには肉がこげた時の嫌な臭いが漂った。
「やるね~、僕も負けないよっ!」
そう言った後、詠唱を始めたカナンの周囲の空間が徐々に歪んでいく。
歪みはある程度の大きさまで広がると肥大化するのをピタリと止めた、その代わりその歪んだ空間は二つに裂け、中から光で出来た大きな槍が一本、闇を切り裂きながら姿を現した。
「『プリンセスナイツ』」
呪文名を言い終えると槍は目にもとまらぬ速さで直進して行き、灼熱に囚われていたエルドレットの体を串刺しにした。
頭から尾の先まで一直線に貫かれたエルドレットはもはや動くことすら出来ず、残りのHP全てが消えるまで抵抗することはなかった。
「……やった! やりました!」
「うん! お疲れ様!」
「久しぶりでちぃと疲れたよ、のうブラムド」
「最近はボス戦はやってなかったからな。まあ鍛冶屋がボス戦に挑んでるのがまずおかしいんだが」
「あんたが好きでお節介やいとるんが原因じゃろ!」
「あはは、よかったのレイ。熱くなりすぎて方言隠すの忘れてるよ」
「へっ……!? ああ、しもぉた!」
レイは指摘されようやく気付いたようで、恥ずかしくて真っ赤になってしまった顔を隠すように手で覆っている。
ブラムドもカナンに指摘されるまで、何故黙っているのかわからなかったが教えてもらった後は納得した。
そういえば誘うときに、同年代くらいの女の子というところに妙にくいついていた。
「あの、そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」
「うぅぅ、だってせっかく同い年くらいの子に会えたのにこがぁな変なしゃべり方じゃ笑われるゆぅて思うて」
「そ、そんなことないですよ。話し方なんて人それぞれですし、そんなことで笑ったりしません! それに……私だってリアルの友達以外で女の子のプレイヤーさんと会ったの初めてで嬉しかったです!」
「アストラちゃーーーん! ええ子じゃあぁ!」
話し方と同時に抑えていた感情も発露されたようで、半分泣きながらアストラに抱きついている。
流石にそこまで嬉しがってたとはブラムドも気付けなかった。
「2人だけずるーい。僕もハグに入れさせ……グフッ!? 何するのレイ!?」
「レ、レイさん!?」
近づいてきたカナンを無言で殴りつけたレイは、冷ややかな目でその問いに答える。
「うるさいっ! 人が話せんからってええ気になってアストラちゃんにペタペタと触って……この性別不詳人間!」
「あーーっ! 折角、人が隠してたのに言ったなあ! もう許さないぞ!」
「こうなったら決闘じゃ! 今日という今日は許さん!」
「えっ、性別不詳!? えっ、えっ、ど、どういうことですかブラムドさん!?」
収集がつかなくなったこの状況にブラムドはただ、ため息をつくことしか出来なかった。




