IFの未来軸 「モレッドの大人になった時のお話」
辺境他種族包括守護国家キャメロット、国家設立からわずか3年で他の大国からも一目置かれる軍事力と他の追随を許さないほどの高度な医療技術、生産力を見せている国である。
そのキャメロットの首星にあるひときわ大きな施設で、二人の女性は大量のデータ資料とにらめっこを続けていた。そして、一人の女性が口を開く。
「お姉さま、父上は?」
『相変わらずですよ、今日も隣国の宙域で海賊狩りにいそしんでおられます。』
「またか…いい加減政務にも気を回してほしい物なのだがな。」
『ふふふっ、相変わらず厄介ごとを押し付けられますね殿下?』
「変われるものなら変わってもいいのだよ、お姉さま。」
『それはご遠慮させていただきます、私もまだまだ幼い弟と妹、息子や娘の面倒を見なくてはなりませんので。』
「それは私はもうそこに含まれていないという事かい?」
『そんなことはありませんよ、どれだけ時がたったとしても私達にとって殿下は可愛い可愛い私達5姉妹の最初の妹であるモレッドちゃんですからね。』
「いい加減プライベートの時くらいはちゃんを外してくれてもいいのだが…」
『それはご遠慮願います、妹に定められた宿命とでも思ってください。』
「はぁ…わかったよグィネヴィアお姉さま。」
国際宇宙星歴3784年ここは無限と言えるほどの宇宙でも最も辺境と呼ばれる地、伝説級の活躍を示した傭兵「ソラ・カケル」が一から開拓し建国した場所。国名を先進技術国家約束された理想郷と呼ばれている。
この国のトップに立つのは建国者ソラ・カケルの6女にして傭兵としても名高いソラ・モレッドである。なぜ建国者が国のトップに立っていないのか、それは考えずともわかることであろう。
「今日の報告は何ですか?お姉さま。」
『そうですね、今月に入ってからの技術盗用未遂についてと密入国。あとは技術提供を強要してくる国々のリスト一覧ですね。』
「相変わらずどこもかしこもウチの技術が欲しいか、密入国者はどうなっていますか?」
『密入国者はお父さまの保護規則上規則にのっとりスキャン済みです、規則対象者についてはわが国で保護、対象者以外については法的に元の国に送り返しております。』
「人数は?」
『対象者は全体の2割、184名です。他についてはこちらに密入国元の国名と人名のリスト、対処にかかった費用の概算があります。』
「毎月のこととはいえ本当に多いな、この辺境にまでわざわざ密入国してまで来たいという連中は。そんなに今の情勢は安定していないのかい?お姉さま。」
『そうですねぇ、全宇宙の覇権をかけた戦争とは言え実際は利益を求めた蛮族のいざこざですから。それに巻き込まれる一般民はたまったものではないでしょう。辺境でありどちらにも属さない、いえどの派閥にも属さず完全な中立を保つこの国は大層過ごしやすそうに見えるのでしょうね。』
「その結果、自分の今までの人生を捨て完全に新しい人生を歩みなおすことになったとしても?」
『そのようですね、モレッドちゃんも同じでしょう?」
「何も言えない…」
アヴァロンの首星「キャメロット」の執務室で二人は日々毎日のごとく発生する問題や周辺国からの要望に対応し続けていた。
周辺国…いや、全宇宙中でアヴァロンが最も技術や医療、教育などに優れている。唯一劣っている部分があるとするならばそれは保有している軍がごく少数という事だろう。
もちろん、保有軍が少ないのであれば当然周辺国や遠方からであろうともその技術欲しさに戦争を仕掛けてくるのは容易に想像できる。
しかし、この国の建国者は伝説の傭兵ソラ・カケルであり現トップはその娘ソラ・モレッドである。
建国してからここまで国政が安定するまで幾度となく戦争を仕掛けられ、そのたびにたったの2機ですべての軍を退けてきたのだ。いつしか他の国ではアヴァロンはこう呼ばれるようになっていた「あの国に戦争を仕掛けるのは止めておけ、目先の利益に目がくらんだ他の国が今後100年はむしり取られるぞ。」と。
事実として敗戦国は多額の賠償金を背負わされるほか、不足した軍の補填としてアヴァロン側から自立型AMRSが支給される。しかもメンテナンスなどは全て不要であり、対軍であろうが海賊であろうが関係なく圧倒的な性能を持って全て制圧してくれる優れものだ。
しかしこんな高性能機をただで支給するはずもなく、年額にして500億メルしかもそれが1分隊につきである。当然そんな額を多額の賠償金を背負わされた国が払っていけるはずもなく、滅亡していくか周辺国の属国に落ちていくのだ。
しかし、なんとか踏みとどまり息をしている国ではその機体は大層お気に召したようでぜひとも購入させてもらいたい。または技術提供を、という声がかかるのだ。当然これもアヴァロン側の思うつぼであり、そもそも完全自立型AMRSなどアヴァロン以外で運用などできるわけがない。そしてそれを支給しているということはいずれ返却しなければならないという事だ。国政が安定すれば自然と自国で軍は再編できる、そうなってくると他国の兵器は運用のノウハウもなく邪魔になる。しかし、生身の人間が使うAMRSよりも可動限界の無い自立型AMRSのほうが圧倒的にコストパフォーマンスはいいのではないか?そしてこの性能だ、これをそのまま自国で開発生産できれば自国はもっと発展できると。そう考えればやることは一つしかないわけで、開発国に提供を頼むか技術盗用するかしかないわけだ。
アヴァロンは当然提供を断る、そうすると盗用しかない。しかし盗用しようにも自立型AMRSにはブラックボックスが多すぎてそもそも情報が読めない。しかも破損することも無いからオーバーホールなどで技術を吸収することも出来ない。というよりそもそも帰還しないからその機会がないという問題が起きるのだ。
そうしてジレンマが永遠に続きながら自国の軍隊は再編せざるを得ず、かといって支給された自立型AMRSを返却することも出来ず、支給とは名ばかりの超高額レンタル料を支払い続けるのだ。
「お父さまも良くこのようなあくどい方法を思いついたものだ。」
『お父さまの悪知恵も捨てたものではないでしょう?』
「こういう時ばかりはね、おかげでアヴァロンの国政は常に黒字だよ。国内で誇れるものと言えば、あらゆる病気、ケガ、欠損を治療できる国立病院があるくらいしかないのにね。」
『それだけでも十分国政は潤いますがお父さまとしてはもう一つのダメ押しをしておきたかったのでしょうね、全ては自分の娘と息子が不自由なく過ごせる未来の為にという事でね?』
「相変わらず過保護が過ぎるよ、お父さまは。」
そんな愚痴をつぶやきながらモレッドは執務を済ませていく、幼少期から母モルガンに詰め込まれた知識は彼女を国のトップに立たせたとしても定時で終わらせられるほどの実力を与えていた。
執務室を出て二人は家に帰宅する、アヴァロンの中枢は日本の国会議事堂に形は酷似している。しかしやはりカケルの日本人だったころの記憶として「仕事とプライベート空間は分けるべきだ!!」の一言により、わざわざ職場から徒歩で30分ほどの距離にある家に帰らなければならないのだ。
しかし、モレッドはこの帰宅の時間を案外気に入っていたりする。モレッドが国を預かってからすでに4年が経った、その間カケルは頻繁に海賊狩りに出たり周辺の星の開拓に出たりとほとんど家にいない事が多かったがこの時間には必ず連絡をしてくれていたのだ。
「ようモレッド、今日の仕事は終わったか?」
「終わりましたよお父さま、お父さまこそお仕事中ではないですか?」
『そのようですね、爆音のようなノイズが混じっていますよ?』
「うぉ!?その声はグィネヴィアか、なんだ今日は二人で帰ってたのか。」
『何だとは失礼ですね、私もお父さまの娘の一人であり妻の一人ですよ?』
「すまんって、というかやっぱり外道感が増すからその言い方やめてくれよ…」
『いやです♪』
カケルからの連絡を心から喜ぶ二人、既に日は傾き家屋の部屋には光がともっている。父と連絡を取りながら自宅への道を歩く二人はずっと笑顔であった。
「ところでお父さま、次はいつ帰宅される予定ですか?」
「そうだなぁ、早くて一週間後になるかな?」
「そうですか、お父さまに限ってそんなことはないとは思いますがくれぐれも撃墜されないでくださいね?」
「任せとけ、お前以外に落とされる俺じゃないからな!!」
「まだ私に落とされたことはないじゃないですか…」
「そんなことはないぞ、ディンギルでやられたあれは間違いなく俺の撃墜判定だからな。」
「むぅ…私としてはあれを落としたとは言いたくないのです!!」
「はっはっは!!ならいつでも挑んでくると良いさ!!俺はいつでも大歓迎だからな!!」
そう言ってカケルは通信を切った、モレッドも声は怒り気味だったが顔はしっかり笑っていた。それを横で見つめていたグィネヴィアもまた笑顔であった。
そして到着した自宅、まさに屋敷と呼ぶにふさわしい門をくぐり玄関から家の中に入る。現在この屋敷に日ごろから住んでいるのはモレッドを含めた14人、全員がカケルの子でありその中にはモレッドの甥や姪もいる。つまりはモレッドにとっての腹違いの弟妹である、ややこしくなるしカケルのクズっぷりが良く見えてしまうのでこの話はまた今度に。
「モレッドお姉ちゃんお帰り~!!」
「「「「「「「「「「おかえりなさい!!」」」」」」」」」」
「ただいま、みんな。」
『あらあら、私にはないのですか?』
「「お母さんおかえり!!」」
「「「「「「「「「お姉ちゃんお帰り!!」」」」」」」」」
『ふふふっ、ただいまみんな。』
モレッドの弟妹の中で一番年が近い子でも現在6歳である、モレッドとの年齢差はなんと18歳。最早娘だったとしても何らおかしくはないのだ。
ちなみに一番下の妹で1歳である、モレッドにとっても妹というよりもはや娘のレベルであり下手をすればカケルにとっても孫レベルではあるのだがそれでもそうなのだ。
「今日もみんないい子にしてたかな?キスハにいたずらしたりしてないよね?エルピダとか他の皆にもだぞ~?」
「「「してなーい!!」」」
「にゃふぅ…そんなことないにゃ…」
「キスハはこう言ってるぞ~?だれだ~?」
「「「「「キャー!!」」」」」
「待てっ、この悪ガキたちめ!!」
こうしてソラ家の日常は過ぎていく、今も昔もこの家の子たちの顔に笑顔が絶えることはないのだ。
「でも、ここまで弟妹が増えるといろいろと大変だなぁ…」
『おや、モレッドちゃんらしくありませんね?どうしました?』
「いやぁ、一人一人にしっかり愛情というか好意を向けられているのか心配になっちゃうよね。」
『安心してください、ちゃんと届いていますから。みんなはモレッドお姉ちゃんが大好きだものね?』
「「「「「「「「「「「大好き!!」」」」」」」」」」」
『ほらね?大丈夫ですよ。』
「そっかそっか!みんな私が大好きか!!」
玄関先でみんなと戯れた後はリビングに向かい、グィネヴィアはキッチンで夕食の支度である。モレッドとその弟妹たちはそのまま遊ぶ時間だ、今日も今日とてAMRSシミュレーションゲームで遊ぶのだ。
「さてみんな、一人一回までだぞ?私に勝てたらちょっといいお菓子をあげようか。」
「「「「「負けない!!」」」」」
流石に3歳未満児にシミュレーションは出来ないので4歳以上の弟妹に勝負を挑むモレッド、と言っても弟妹達が勝てることはないのだが。プレイしているシミュレーションゲームはACゲームの戦〇の〇的なものである。コックピットを模したコフィンの中で操縦するタイプのもので、実はモレッドはこのタイプが苦手であった。なぜなら、体に染みついたAMRS操縦時の揺れが再現されない為モニター上では揺れていても実際は揺れていない為、視覚と感覚がリンクせず酔ってしまうのだ。
それを置いていたとしても弟妹達には勝てるのだが、これも慣れるしかないのかなと思っていたりする。しかし、これに慣れるといざAMRSを操縦した時にまた酔ってしまうのではないかというジレンマもあるので難しいものだ。
「さて、最初に来るのは誰だ?」
「私!!」
「よし!!どれだけうまくなったか見せてもらおうかグウェン!!」
7女グウェン、モレッドの初の妹である。AMRS操縦技能はソラ家においてモレッドに続く3位、しかし戦場に出たことはなく機体も与えられてはいない為シミュレーション上でしか機体を操縦したことはない。
モレッドはシミュレーション上でもヴァレットを使っている、カケルに新たな機体を与えられていても長年使った愛機は使い勝手がいいのだ。それに、新しく与えられた機体はシミュレーションで使うにはいささかオーバースペックなのである。
「ほらほらグウェン!!またすぐ落とされちゃうぞ!!」
「うぅ~!!お姉ちゃんのイジワル!!」
開始早々、モレッドはグウェンに急接近しすぐさま勝利を決めにきた。その動きは初めて父と演習した時に受けた動きに似て、とても洗練された動きであった。
「ほれ!!おしまい。」
「ぶー…!!」
「あっはっは!!まだまだ負けるわけないじゃないか!!お姉ちゃんがどれだけパパと一緒に戦ってきたと思ってるんだい?」
「少しくらい手加減してくれてもいいと思うんだ!!」
「ん~?手加減されて勝ってもうれしくないって言ったのは誰だったかな~?」
「ぶー!!もー!!」
ぶー垂れるグウェンが席を離れ対戦相手が変わる、次の相手は誰であろうか。
「姉上、よろしくお願いします!!」
「お?ガレドじゃないか、珍しいな。」
「姉上に勝てるビジョンが見えないから断ってきたんです!!今回は行けそうな気がしたから来たまでです。」
「ほほぅ?では見せてもらおうか、そのビジョンとやらを!!」
ソラ家長男ガレド、AMRS操縦技能は6位。本人的にはAMRS操縦よりも整備のほうが肌に合っていると言っているが並みのパイロットよりはセンスがいい部類である。
「グウェン姉さまの様にはやられません!!」
「言うじゃないか、なら少し趣向を変えてみよう!!」
「なっ!!ずるい!!」
「はっはっは!!戦場ではずるくても勝てば正義だぞ?」
サーマルステルス、これもモレッドがやられた戦術の一つである。見事に引っかかり接近まで全く気が付かずあっという間に撃墜判定を受けてしまったガレドは涙目である。
「じー…」
「まだまだだなガレド!!だが、これは私もお父さまにやられた戦術だ!!なにも恥じることはない!!」
「どうやったら勝てるんですか!!もぉ!!」
仏頂面になってシミュレーションから出ていくガレド、次は誰かな?と思案していたら外から『みんな~食事にしましょう』とグィネヴィアの声が響いた。
シミュレーションはこれにて終了とするしかなさそうだ、今回対戦できなかった弟妹達にはまた後日対戦を挑まれるかもしれないなと、モレッドはクスっと笑うのだった。
「グィネヴィアお姉さま、今日もありがとう。」
『良いんですよ、これが私の仕事ですから。』
大きなテーブルに13人が着席し「いただきます。」の掛け声で全員が食べ始める。
「モルゴースお姉さまはどうしたんです?」
『お父さまに新しい兵装のプログラムを頼まれたそうなのでそれにかかりきりになっているようです。』
「食事の時くらい中断すればいいのに。」
『私達の悪いところですねぇ。』
「違いないね。」
食卓には笑顔があふれ、家の中はどこにいても元気な子どもたちの声が聞こえてくる。
そんなソラ家の日常、相変わらず自由気ままに傭兵家業を続け娘に面倒ごとを押し付けながらもしっかりと見守り続けるカケルの日々はまだまだ続くのだった。