ルガートゥリスコ星系国家壊滅の裏側(指揮官視点)
「…そうか、上層部がそんなことをしでかしていたとはな。」
「大佐…我々は知らずしてその片棒を担いでいたというわけですか。」
傭兵ソラ・カケルが敵生命体の繫殖炉を破壊したという報告を受けてから早1月がたったころ、私の耳に飛び込んできた情報は衝撃的なものだった。
所属する国家ルガートゥリスコが宇宙国際法に定められた『対話を可能とする人類以外の生命体の虐殺・生命権を考慮しない扱いを禁ずる』という条約を無視して、ディンギルで生活していた『皇鋼蜘蛛』と呼ばれる種族を拉致監禁・実験動物として解剖又は強制的に徴兵のような扱いを強いていたというのだ。
思えば確かに違和感はあった、繫殖炉を破壊ではなく鹵獲しろと言う指令が下されていたり(傭兵ソラ・カケルによって破壊はされたが)上層部が傭兵組合に戦線維持のため以外にも特殊な要件で依頼を出していたとも聞いている。
実際それが本当なのかは知らないが少なくともそういった活動が行われていたと報告は入っている。
そして、それが公になったということはどこかから漏れたということに他なるまい。
繫殖炉の破壊から今回の情報が耳に入るまでの期間が早すぎる、と言うことはこの情報をリークしたのは少なくともあの戦線に…いや繫殖炉突入作戦に参加していた傭兵以外にはいないだろう。
そして、そのような情報を手に入れることが出来たのは恐らく傭兵ソラ・カケル以外には存在しない。
彼は繫殖炉を破壊する際に皇鋼蜘蛛と邂逅し、皇鋼蜘蛛が置かれている状況を理解したうえで傭兵組合にリークしたのだろう。
軍属である私でさえそのような実験などが行われていたと知れば間違いなくそうするだろう、当然私の部下やその家族たちには職を失い下手をすれば住む家すらも追われることになりかねない事も承知の上ではあるが…
既にルガートゥリスコという国は国際法違反を犯したために国家解体が決定していた、その調印式に選りに選って皇鋼蜘蛛を研究という名で扱っていた研究者共が訪れていた使者を殺害したのだ。
結果ルガートゥリスコは全宇宙に宣戦布告した扱いとなってしまい、今この国は入国も出国も不可能になっている。
既に傭兵組合やそれに属する傭兵たちもこの星系から離れているために、違法すれすれではあるがその船に乗船し国を出るという方法も使う事が出来ない。
つまり運よくたまたまこの国から旅行に出ていたりでもしていない限りもはや生きる事すらできないのだこの国は、おそらく軍属…特にディンギルに従事していた私を含む者たちは特級犯罪者として裁かれることになるだろう。良くて処刑、悪くて死ぬことも出来ない実験動物になるだろうな。
「そうなる前に、私の命一つでなんとかできる事はしなければな…」
「大佐?」
そっとつぶやいた言葉は部下には届いていなかったようだ、私につかえる伝手などほぼないに等しいものだが…それでも何の罪もない部下やその家族の延命を頼むことくらいは出来るかもしれない。
デスクに備え付けられた端末からわずかばかりの連絡先を表示する、本当に私の人とのつながりという物が希薄な事が嫌になってくるレベルだな。
表示される連絡先は50件にも満たないのだから、そのわずかばかりの連絡先を目線でなぞるとふととある名前に目が止まった。
その名前は『Morgan le Fay』私自身このような名前に覚えは全くない、むしろなぜこのような名前があるのか。だが、不思議とこの名前には既視感があった。
そうだ、あの女性だ。
あの傭兵、ソラ・カケルの妻と呼ばれるものの名ではないか?それならばすべての納得がいく、だが私はいつ彼女の連絡先を知ったのだろうか。
少なくとも直接彼女と連絡を取ったことなどない、アヴァロンと呼ばれる母艦に通信を送ったことはあったにしろ彼女の連絡先など知る由もなかったはずなのだ。
だが、私は藁にも縋る思いで連絡するしかなかった。
『ご連絡が来ると予想しておりました、大佐。ご存知かもしれませんが私の名はソラ・モルガン。傭兵ソラ・カケルの妻にして宇宙最高の処理速度とストレージを持つ人工知能です。』
「ッ…!!あぁ、突然の連絡にも関わらず応答してくれたことに感謝する。」
『要件は存じ上げております、大佐を含めた部隊の助命。もしくは亡命というところでしょうか?』
人工知能…なるほど、部隊の男たちになびくわけもないはずだ。人工知能は所有者に絶対の忠誠を誓うと聞く、今の技術であそこまで人間に寄せられるというのはとんでもない技術だ。一体どこの星系で組み上げたのだろうな。
「正しくは私を除く部隊とその家族の亡命だ、私には家族もいないのでな。そしてせめて部下とその家族が最低限でもいい、生活できる場所に届けてもらいたい。」
『なるほど、夫の予想通りでしたね。』
「ソラ・カケルはそこまで予測していたか。」
『はい「指揮官殿なら、もしそういう事が起こった時自分を人柱にしてでも部下の延命を頼むだろうな。」と。』
「ふっ…その通りだな。」
私も老いたものか、ここまで自分の考えを読まれていたとはな。
『では、こちらからも条件を。』
「聞かせてもらおう。」
モルガン女史が出した条件は上層部が行っていた研究や、それに携わっていた人間のリスト。そして私の部隊に出ていた命令書の原本だった、つまりこの司令部に出された命令書を全部丸ごと寄越せという事だ。
…私が文書を保管する者であってよかったと思った瞬間だった、確かに命令書に皇鋼蜘蛛に関する情報が一切記入されていなかったのであれば私を含めた部下の少なくとも主犯ではない事が証明できる。
私はそれらをまとめモルガン女史が指定するデータサーバーに機密扱いで送信した、確認が取れ次第しかるべきところから連絡が入ると残して女史は通信を終了した。
「これで…どうにかなればいいのだが…」
そう呟いてからどれくらいの時間が経っただろうか、おそらく1時間は経過していないだろう。
端末からコール音が鳴ったのだ。
「ルガートゥリスコ、ディンギル敵生命体前線司令アイル・グラウ・ソムン様でお間違いなかったでしょうか?」
「その通りだ、そちらは?」
「失礼いたしました、私傭兵組合元デルティニウスコロニー組合長兼受付員のソラス・エイブラムと申します。傭兵ソラ・カケルより重要情報提供者であるアイル様の助命、及び部下とその家族の亡命を嘆願されましたのでそのご連絡をいたしました。」
「!!そうか…ありがたい。」
「こちらとしても情報提供者の助命は願ったりかなったりでした、アイル様の情報により特級犯罪者のリストがより精密となりましたから。しかし、機密を抜き出すとはそれほどの権限を持たれていたのですね?」
「私の趣味みたいなものでね、機密だろうと何だろうと自分の目で確認しなければ気が済まないのだよ。なに閲覧した事はばれやしない、その程度のミス私はしないからな。」
私はたたき上げではあるが戦線からではない、私は電子戦におけるたたき上げだ。そもそも軍のプロテクトの一部は私が手掛けていた、その部分に私専用のバックドアを仕掛けてあったのだ。
もちろん電子戦からのたたき上げだからと言って白兵戦やAMRS戦が出来ないというわけではない、そつなくあらゆることをこなしてきたからこそこの地位にまで到達したといえるだろう。
「では、指定したポイントに回収船を送ります。場所はデルティニウスコロニー第4宇宙港、別コロニーからデルティニウスコロニーに入港される際は今送付したコードを検閲時に提出してください。」
「感謝する、それと私は現場を預かったものの責任を取る。」
「それはつまり…」
「その通りだ、私は知らぬとはいえ知性生命を追いやった大罪人だ。部下にその罪を押し付けるわけにはいかんからな、デルティニウスコロニーにまで出頭したのちに裁かれることにする。」
「…承知しました、部下の皆様におかれましては必ずや生活は保障すると約束いたします。」
「感謝するッ!!」
私は通信を切り部下達全員を招集、ここに残った者たちは私直下の者達だけだ。つまり上層部から息のかかった者たちは含まれていない、先ほどの傭兵組合との取引を部下たちに伝え家族を連れ直ぐにデルティニウスコロニーに向かうよう指示を出した。
部下たちの家族が住むコロニーはデルティニウスコロニーから最も遠くても3日以内に到着できる距離だ、十分に間に合わせることが出来るだろう。
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「最期に言い残すことはあるか?」
部下達は全員家族とともにサンデュールズに亡命できたらしい、私は拘留され処刑が確定してはいたが重要情報提供者という事もあり比較的配慮された環境で生活できていた。
傭兵組合から扱いに対して配慮するように要請もあったのだろう、情報についても頻繁に届けられていた。
そして今私は処刑される、最も苦痛がない毒『甘き死よ来たれ」を使用してくれるそうだ。
「そうだな、傭兵ソラ・カケルに一言『貴君に感謝を』とだけ。」
「確かに受け取った。」
執行者の合図により私に『甘き死よ来たれ』が投与されていく。
「あぁ、長くとっていなかったが…ようやく……休暇………が…取れ…る…」
程よく疲れ熱いシャワーで身体を流してから横たわったベッドの上で眠るように、私は永遠の眠りに落ちていったのだ。




