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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二十二日目~二十三日目:悪党と悪神の聖典
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二十二日目(2):悪神、庭園に至る

 しばらくして。

「迷ったな」

「迷ったか」

「ああ」

 雪の降る雪原にガキ2人。

 女王(クイーン)は、ぽすん、と俺の肩から降りた。

「ふいい……ずっと黙ってて疲れてしまったわい。キスイのまねごとは疲れるのぅ」

「あれで真似してたつもりだったのかおまえ。すごく不自然だったが」

「結果おーらいじゃ。なぜかは知らんが神託の術は解けたようじゃしのう。これもわらわの偉功ゆえじゃな」

「まあ、突っ込むのも馬鹿らしいから放っておくが……しかし」

 ものすごい雪だった。

「どっちにいけばいいんだ?」

「貴様、その程度もわからんのか?」

「わからん。おまえはわかるのか?」

「おお。あのジジイが追っていた神力の流れ程度なら、普通に感知できるぞ。

 よかろう。ここからはわらわが先導してやる。黙ってついてこいっ」

「案外、元気だな。おまえ……」

「無論じゃ。子供は風の子と言うじゃろ」

 胸を張って女王(クイーン)は言って、それから歩き出した。



「どの程度行けばいいのかはわかるか?」

「む、それほどでもないじゃろ。疲れる前には着けると思うぞい」

 ざっ、ざっ、ざっ、と、雪を踏む音が響く。

 うんざりするような雪原だが、幸い、少し降雪の勢いが衰えてきたような気がする。

 と。

 前方から、ざっ、ざっ、ざっ、という、足音。

「やあ。また会ったね」

「レイクル、か」

 ――まずい。

 こいつは、まずい。

 プチラやミスフィト、あるいはフレイアでも、べつに会ったところでどうということはない。だがこいつは違う。

 集まった七人の中で、唯一気をつけなければならない相手が、こいつだ。

 そう、俺は考えている。

「……バルメイス?」

 俺は女王(クイーン)を身体でかばい、レイクルと対峙した。

「おやおや。どうしたんだい? そんなに警戒して」

「いや。どうやってお前を殺そうかと思ってな」

 さらりと言うと、相手もにやりと笑って、

「そりゃ奇遇だ。僕も、君たちをどう殺そうか考えていたところさ」

「……術式が解けた以上、俺たちは用済みだろうからな。

 誰か消しに来るだろうと思ったし、その相手はたぶんおまえだと思っていたさ」

「賢いねえ。だが、果たして僕に勝てるかな?」

「やってみればわかるだろう」

 牽制のように言葉を交わしながら、じりじりと距離を詰める。

女王(クイーン)、おまえは俺の後ろに隠れていろ」

「たわけ。わらわを誰だと心得る。自分の身くらい自分で守れるわ。

 だから、背後は任せておけ。貴様は正面の敵だけ気にすればいい」

 それを聞いて、少し気が楽になった。

 俺は手元に剣を召喚して構え、

「行くぞ!」

「さあ、来たまえ!」

 次の瞬間。

 がりざしゅがすがすげしゅっ!

 大量の石槍が、地面から永久凍土と、そこに隠れていたレイクルの人形たちを滅多刺しにして出現した。

「なんだって!?」

「おおおおおお!」

「! くそ、ならこれで……!」

 突っ込んだ俺の視界が、ぐらりと一瞬揺れ、相手の身体が見えなくなる。

 だが。

「ふん!」

 ざしゅっ。

 レイクルの身体が真っ二つになって、地面に転がった。

 ……奪われた視界とはまったく関係なく発動した、斬撃召喚の神威(カムイ)によって。

「まあ、これでいいだろう。

 こいつが本体かどうかは知らんが、俺たちの近くにいる人形はすべて破壊した。しばらくは手を出せないはずだ」

「なんじゃ。一瞬で終わったではないか。つまらん」

「簡単に言うなよ。けっこう駆け引きがあったんだぞ?」

 たとえば、地面からの奇襲に気づかなかったら。

 あるいは、最強の神威(カムイ)を出し惜しみして、相手の術中にはまっていたら。

 それぞれ、どんな結末を迎えていたか、わからない。

 なんとなくだが。ライナー・クラックフィールドたちと戦争をしていた頃の俺なら、無駄に力を出し惜しみして、結果として無残に負けていたのではないだろうか。

 そうならなかったのは、俺が自分の『弱さ』を自覚したから。

 ……『弱さ』を逆手に取る戦法を、看破し得たから。

 だから勝てた。これは、そういう話だ。

「まあ、ともかく先を急ごう。またいつ妨害に遭うかわからん」

「よかろう。では案内してやろう」

「……なんだか偉そうだな、おまえ」

「当然じゃ。わらわは偉い」

 無意味に胸を張って、女王(クイーン)は言った。



 すぐに、その場所に着いた。

 見た目はただの洞窟。だが、氷雪の嵐の中で、土の洞窟がむき出しになっている光景は、それだけで異様だ。

「ここが……」

「正典第五領域、炎獄回路ムスペルヘイム・サーキット。転生の輪の道への入り口じゃな。

 ほれ、なにをぼーっとしとる。中に入るぞ」

「ああ」

 言われるままに、洞窟の中に入る。

 身体についた雪を払い落とすと、それだけで冷気が身体から逃げていった。

「名前ほど熱くないな、この場所」

「そうじゃな。わらわのイメージ的には、こう、溶岩とかがごうごう流れている感じだったのじゃが」

「奥に行けばそうなのかもな。……というわけで、とりあえず進むか」

 言って、先に進む。

 しばらく進むと、川の流れたような跡がある場所にやってきた。

「変な場所じゃな……川があるのに、水がない」

「これは上流に行くのか? それとも下流に行くのか?」

「そりゃ下流じゃろ。逆流するなんていうひねくれた考え、わらわには思いもつかんわ」

「……単純な奴だな」

 とはいえ、特に反対する根拠もないので、俺は素直に降っているほうに向かうことにした。

 特に魔物が出る気配もなく、俺たちは順調に川を下っていく。

「退屈な洞窟じゃな」

 早くも女王(クイーン)は飽き始めたらしい。

 それは放っておいて、しかし変わり映えのしない光景であることは確かだった。

「そろそろ景色ががらっと変わったりしないかな」

「じゃな。――お、あれはなんじゃ?」

「ん?」

 言われた方を見ると、道の脇に小さな扉のようなものがある。

 明らかに人工物。明らかに怪しい。

「行ってみるか」

 足を運び、見る。

「バベル・タワー入り口と書いてあるな」

「名前なんぞどうでもよいわ。入ろう」

「おいこら、勝手に行くなっ」

 止めるのも聞かず、女王(クイーン)は勝手にドアを開け放ち、先に行ってしまった。

「まったく……」

 ぶつくさ言いながら、几帳面に扉を閉めて後を追う。

 中は名前の通り塔の内部のようで、螺旋状の階段が、ずっと上まで続いていた。

「これを登るのか……面倒だな」

「なんじゃ。もう疲れたのか? 貴様、ガキのくせにもう老いぼれたか?」

「ガキって言うなガキ」

 いつものような口論をしながら、階段を上り始める。

「この先に、本当に世界庭園(エデン)があるのか?」

「さあな。だが行ってみないと始まるまい。わらわたちの計画は、世界庭園(エデン)に着かんと始まらんのじゃからな」

「まあ、そうだな」

「それに、あのジジイが世界を滅ぼそうとしているのは、止めねばなるまい。なんとしても」

「あいつの術――女王(クイーン)の外典の法は、もう破れただろ?」

「術だけが方法とも限るまい。世界庭園(エデン)にたどり着きさえすれば世界を滅ぼせる方法くらい持っててもおかしくない。

 わらわはあんな根性の歪んだジジイが創造神の世界なぞごめんじゃからな。見つけ次第、蹴り出すとしようぞ」

「はいはい。わかったよ」

 適当にいなしながら、階段を上っていく。

 途中、女王(クイーン)が転落しそうになるアクシデントなどがありながらも、順調に上がっていき、そして。

「出口じゃな」

「ああ。行こう」

 歩を進め、扉を開ける。

 そこには。



 花に溢れた、塔の頂点。

 世界の果てが、そこにあった。

「な……なぜじゃ!」

 グラーネルの声。

 振り向くと、花園の中心で、なにかをやっているグラーネルが見えた。

「先に行かれてたみたいだな」

「ああ。……じゃが、様子が変じゃの」

「声をかけてみるか。

 おーい、じいさん。どうした?」

 声をかけると、グラーネルはぎょっとした様子でこちらを振り向いた。

「な、なぜ貴様らがここに……

 ――っ、ええい、この際どうでもいいわい。儂はいま忙しいんじゃ、邪魔をするでないっ」

「邪魔をするなと言われても、なにをやってるかわからなければ無理だろう。

 ……と、これは?」

 そこに。

 折れた、一振りの剣があった。

 正確には、折れた刃先だけが、地面に突き立っていた。

「世界剣さえ抜ければ、創世の力が手に入るというに……!

 なぜ折れておるのじゃ! これではなんの力もないではないか!」

「あー……」

「手間いらずじゃな。どうやら、相手の野望は勝手に潰えたようじゃぞ」

「まあ、そうみたいだな」

 なぜか勝ち誇る女王(クイーン)の言葉に、適当にうなずき返す。

 と。急に、あたりに声が響いた。

『庭園への侵入者を検知。スールト機構(システム・スールト)、作動開始します。

 管理員はただちに、回路の外まで退避してください。繰り返します。庭園への……』

 続いて、ういーんういーんという嫌な音。

「おいじいさん、なんかやばそうだぞ」

「うるさい。黙っておれ。このまま引き下がれるものか」

 ぶつぶつと言いながら、剣の破片を調べて回るグラーネル。

 どうやら、諦める気はないらしい。

(まあ、いいか。放っておいて)

「おーいバルメイス。ちょっと来い。すごい景色じゃぞー」

「ん、どうかしたか?」

 言われるままに、女王(クイーン)のほうへ行く。

 彼女は、塔の外周から外を見て、はしゃいでいた。

「ほれ、ここからじゃと聖典世界が一望できるぞ」

「おー、本当だ。……なかなか、いい景色だな」

 外から見たときにはこんな塔見えなかったんだがなあ、とか思う。まあ、近づいたときには大吹雪だったのもあるが。

 あるいは。外から見えないのもまた、聖典世界ゆえの奇跡か。

「さて。……ここらへんでよいのではないかな?」

「ああ、そうだな」

 ふたりでうなずいて。

「見ておるな。キスイ。我が本体よ。

 見ての通り、おまえの大切な大切な『生贄』のペンダントはここにある。返して欲しくば、ライナー・クラックフィールドとやらいう小僧を連れて、ここまで来るがいい。

 以上だ。せいぜい早く来いよ」

 女王(クイーン)はそう言ってにやりと笑い――

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