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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十二日目~十三日目:悪党、隠れ家へ赴く
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十三日目(4):悪党、隠れ家に着く

 休憩を終えて、登り始めてしばらくして。

 ようやく俺たちは、その場所にたどり着いた。

 高い塀を備えた、巨大な鋼鉄の山門。

 明らかに人間サイズじゃないそれは、とてもじゃないけど開けられそうにない。ドッソでも無理そうだ。

「……来たな」

「うん。……すごいね」

 後は、ふたりとも言葉もない。

 ただただ、神話の存在のデタラメさに辟易しながら、それを眺めている。

 まあ、ともあれ。

「どうやって入るんだ、これ」

「……さあ?」

 ノッカーとかもないし。開けられる大きさとは思えない。

「声かけてみようか」

「それでなんとかなるのか?」

「やらない理由はないでしょ」

 言ってリッサは、

「すいませーん! 神殿の者です、門を開けてくださーい!」

 大声を張り上げた。

 が、答えは返ってこない。

「聞いてくれないみたいだな」

「そうだね。……どうしよう」

「やっぱ、忍び込むしかないか」

「え、でも……」

「ま、見てろって」

 とりあえずあたりを見回す。

 ――うん。あの岩場なんかよさそうだ。

「よっと」

 ひょいひょいひょい、と登り、バランスを取りながら助走をつけてジャンプ。

 手が、かろうじて塀の上に引っかかった。

 よじ登り、塀の上で平衡を取る。

 ――うわ、塀の向こう、槍ぶすまだ。

 塀の上にとどまらずに一気に飛び降りていたらジ・エンド。陰湿な罠だ。

 まあ、この程度ならどうとでもなる。要は降りなければいい。

 槍ぶすまを飛び越えることも考えたが、その奥に落とし穴があるという可能性も捨てられない。ここはひとつ慎重に――

 思った瞬間、

「ライ、危ない!」

「うわ!?」

 ぢぃんっ!

 光の剣が、刀をかろうじて受け止める。

 いきなり塀の上に現れた、着流しを着た剣客然とした男が、俺に斬りかかってきていた。

「受けたか。ちっ」

「テメエ、ここの住人か!」

「いかにも。

 そういう貴様は何者だ。下界の者どもが突然現れて門を開けろという要求も笑止であったが、今度は浅ましくも盗っ人の真似事か」

「なんだよ。聞こえてたのに開けなかったのかテメエ」

「当然であろう。

 ふむ……見れば、神話の加護を受けているようだな。貴様のような小物にそれはふさわしくない。どこで盗んだ?」

 むかっ。

「ち、違うんです! ライはそれを盗んだんじゃなくて――」

「リッサ。悪いが余計な口出さないでくれないか」

「え、ちょっとライ?」

「いいかよく聞け。こいつは、バルメイスって暴れモンの人格を引き継いだ、超爆弾な呪いの神剣の力だ」

「ば、バルメイスだと!?」

 剣客風の男はものすごくうろたえた。

 ふふふ、予想通りのリアクション。

「さーて、いいのかなー? テメエが好き放題し続けるのはいいけどよ。あんまこっち怒らせると神剣の力超発動しちゃうよ? あたり一面荒野になるよ?」

「え、ちょっとライ、そんなことでき――」

「リッサは黙ってろ」

 というか、口からでまかせにいま突っ込まれたら困る。

「ば、馬鹿な。そんなことをしたら貴様も巻き込まれて死ぬぞ」

「このまま帰っても待っているのはのたれ死にだしな。俺にとってはどっちでもおなじだろ?」

「――――」

「なに。単にちょっと入れて話を聞いてくれればいいんだ。悪いようにはしねえよ」

「なるほど。野盗かと思ったが押し売りの類か。なんとも浅ましいな」

「ははは。やっぱテメエ殺してえ」

 青筋を立てて言う。

 相手は尊大な態度を崩そうとせず(ただしちょっと腰が引けた感じで)、

「ふん。こけおどしに乗るのも馬鹿馬鹿しいが、やけになった馬鹿はなにをしでかすかわからんからな。いいだろう。門を開けてやるから入れ」

「最初から素直になりゃいいんだよ。けっ」

「……い、いいのかなあ。こんなやり方で」

 とまあ、こういうわけで。

 俺たちは、この山門の奥に入ることを許されたのだった。



「で、ここでいちばん偉いヤツに会わせてほしいんだが」

「たわけ。誰が許すかそんなこと」

「中で暴れたら外よりさらに被害が広がるぞー、うりうり」

「……ぐっ。まったく、どうしてこのような奴に――」

 剣客っぽい男は悔しそうに言う。

 ああ、なんかセンエイとかの気持ちが超わかってきた。すげー楽しい。

 ふと見ると、リッサはげっそりした顔でこっちについてきている。

「なんだよ。結果がよければべつにいいだろ」

「ああそう。あんたはいいでしょうね。

 ……神域の方々にこの仕打ちかあ。ああ、神殿クビかなあ。これ」

「はっはっは。そんなの、後で言わなきゃバレないって。大丈夫大丈夫、わざわざここまで俺たちの行動を確認に来ようなんていう酔狂なヤツはいねえよ」

「ああ、心配するな。その辺はぬかりなく言いふらしておく」

「うわ陰湿だなテメエ。リッサ、残念だったな」

「ひとごとみたいに言わないでよ!」

 馬鹿なことをしゃべりながら、どんどんと案内されていく。

「そういやアンタ、なんて名前なんだ?」

「貴様に名乗る謂われはないが。そんなに聞きたいのなら教えてやろう」

「いやべつにそこまで聞きたくはないが」

「我が名は! 亜神、スライデン・アムルタートであるぞ! 畏れ、敬え!」

 ……そんなに名乗りたかったのか。

「で、有名なのか? リッサ」

「え、ええと……そのぅ」

「なんだ知らないのか。まあそうだよなー。亜神なんて神の中じゃザコだし、いちいち覚えてらんないよなー」

「ははは褒めてやるぞ人間。俺が特定の対象物にここまで殺意を覚えたのは貴様が初めてだ」

「なんだ。案外世間知らずなんだなアンタ」

「あははははは……もうボク死にそう」

 気がつくとまわりは一面の花畑。

 その中を、超ギスギスした空気で歩く俺たち。

 と、リッサがあたりを見回して不思議そうに言った。

「これ……世界庭園(エデン)ですか?」

「その贋作だ。擬園の聖域(スードエデン)と呼ぶ」

 見ると、花畑の中央には一振りの剣が、まるで墓標のように刺さっている。

「こんなところまで真似せずともよかろうにな。業の深い話だ」

「おや、私に対する悪口ですか?」

「とんでもございません。プロム様」

 突然現れた女のひとに、うやうやしく一礼するスライデン。

 ……えーと。

「へえ、スライデンが知己以外を通すとは珍しい。お客様ですよね?」

「いいえ。この連中は敵です、プロム様」

「そうですか。あ、私はプロムと申します。よろしくお願いしますね」

 きれいにスルーして、プロムとかいう女が言った。

 上品な物腰と気さくな笑み。なんとなく偉いひとなんだろうなーと、見ただけで思わせるカリスマがある。

 スライデンとは大違いだった。

「プロム様って――あの、過去を司る……」

「ええ、そうです。

 なるほど、私の名前は失伝しておられないのですね。神殿は」

「も、もちろんですっ。あなたほど偉大な大巨人の名を忘れるなんて、ありえませんっ」

「べつに私が偉大なのではなく、単に神話がそう決めただけだと思いますけどね」

 リッサはプロムと歓談ムード。

 その後ろですっかりいじけているスライデンは、まあ無視するとして。

「そっか。有名人なのか。あんた」

「ええ、そうみたいですねー。

 あの、おふたりともお名前をお聞かせ願えますか?」

「ライナー・クラックフィールド。ライで通ってる」

「あ、リクサンデラ・メザロバーシーズ=キルキル・ポエニデッタですっ」

「ライナーに、リクサンデラですね。うん、よかった。これでつながりました」

 プロムはよくわからないことを言って。


「では本題に入りましょう。用件は、いま動いている魔王のことですよね?」

 とんでもなく一足飛びに、そんなことを切り出したのだった。


「本当、困ったものね。あんなことしても無駄だし、創造主の立場って案外気楽じゃないと思うのだけど。

 ああ、それとバルメイスのこともあるのよね。こっちも困ったものね。神話システムもすっかり破綻して、いろいろ危なっかしいわ」

 ついていけずに絶句する俺たちをよそに、プロムは勝手に論評する。

「あー……なんで知ってるんだ?」

「? あなただってやったことがあるでしょう。神話の流れから逆算しただけです」

 ……つまりそれは、俺がちょくちょくやっていた未来予知のような技を、過去に向けてやったということか。

「便利なんですけど、案外みんなうまく使えないんですよねー。私の特技のひとつです」

「そっか。じゃああんた、事情はだいたいわかってるんだ」

「それはもう。ライナーのここしばらくの行動はばっちりぜんぶさかのぼって観察済みですから」

「……ど、どのくらい?」

「そうですね。ライナーが隊商からお宝を失敬して逃走しようと試み、魔女サリ・ペスティに見つかってしまったあたりからでしょうか」

「って、本気で最初っからじゃねえか!」

「やれやれ。やはりこそ泥の類であったか」

「ふふふ違いますよスライデン。彼はこう見えて大悪党さんなんですよー。ねー、ライナー」

 にっこにこ笑いながらプロムが言う。……うわー、すげえ居心地悪い。

 ふと横を見ると、リッサがたいへん不穏当な顔でこちらを見ている。

「――ライ。後で、ゆーっくり話しようね。ゆーっくり」

「あ、あははははははは……」

 つーか、なにげにバレてはいけないことをバラしませんでしたかプロムさん。

「っと、それがわかってるなら聞きたいんだけどさ。

 なあ、あの剣って結局なんだったんだ? 俺だけが抜けて、いつのまにか俺のものって感じになってたんだけど」

「んー、まあ、予測はつきますけど、完全に読めたわけじゃないので推測でいいですか?」

「ああ、それでいいよ」

「まず、たぶんあの『抜けない剣』は、抜こうとしていろいろされたんじゃないでしょうか」

「いろいろ、って?」

「呪いを解除するってことです。それができればバルメイスの力、使い放題ですし。

 けれどあの剣の複合呪詛はやっかいですからねー。最後の一個がどうしても解けなくて、それでどうにかする方法を考えた結果、呪いを解かないまま生贄に捧げて魔王を呼ぼうとしたんでしょうね」

「……あー。じゃあやっぱり、クランって敵のスパイなのか」

「ええええええー!? そうなの!?」

 リッサが驚いた声を出す。……あ、そういやこいつには言ってなかったっけ、これ。

「で、その最後の一個の呪いを偶然、ライナーが解いてしまったわけです」

「その呪いって、俺、なんで解けたんだ?」

「簡単ですよ。ライナー、あなたは最初に剣を抜いたとき、サリさんに宝の馬車に忍び込んだのを言い訳するために必死で、それ以外のことはなにも考えてなかったでしょう?」

「あー、うん、まあ」

「で、最後の呪いというのは『抜こうとすると抜けなくなる』呪いだったんですよ」

「……あー」

 なるほど、俺は「抜こう」なんて気持ちをカケラも持ってなかったから、逆に抜けちゃったのか。

「本来、あの剣はバルメイスが『抜けろ』と命じることで抜ける、そういう剣なのです。だから、通常の手順ではどうやっても抜けないんですね。

 ところが、アクシデントで抜けてしまった。それで神話システムはしばらく、あなたをバルメイスと誤認していた。それが誤認だと発覚したのは――あなたが自身の真名として、ライナー・クラックフィールドと名乗ったときです」

「ああ、センエイもそんなことを言ってたな」

「はい。世界滅亡の危機でしたね」

 さらりとプロムは言った。

「……え、マジで?」

「マジです」

「俺が名前名乗っただけで世界滅亡だったの?」

「神話システム自体が崩壊してしまう一歩手前でしたねー。

 まあ、私が介入してなんとかしたんですが」

「って、あんたが介入したんかい!」

「ええ。いえ、厳密には介入したのはいま(・・)なんですが」

「……?」

 どういう意味か、わかりかねて首をかしげる。

「私の司る属性は『過去』――だから、ライナーと出会っているいまの状況から、過去に手を伸ばして、神話が安定するように小細工を施しました」

「えっと、よくわからないんだけど」

「わからなくていいですよ。どうせ時間を司る者の視点なんて、普通のひとには理解できないでしょうから。

 まあ、その小細工もたったいま(・・・・・)完了しました。あと残っているのは、これからの話だけですね」

「これからの話?」

「ライナーたちがこの地にやってきたのは、いま大ハッスルしている魔王に対抗するために、ライナーが超パワーアップできる方法はないかという話ですよね?」

 プロムは言った。……さすが、説明要らず。こういうところは便利だ。

「うん。そうなんだ。なんとかならないかな」

「ええ、可能ですよ」

「本当か!?」「本当ですか?」

「……なんでテメエまで言うんだ、スライデン」

「信じがたいからに決まっておろう。――プロム様、そのような方法があるのですか?」

 スライデンの言葉にプロムはあっさりうなずき、庭園の中央に刺さった剣を指さした。

「ええ。だってあの剣抜くだけですよ?」

「な――い、いけません! プロム様!」

「スライデン。もう決めたことです」

「いくらプロム様とはいえそのような狼藉は許されません! このようなチンピラゴロツキの類を世界剣に触れさせるなど、世の破滅です!」

「大丈夫ですよ。チンピラゴロツキじゃなくて大悪党ですし」

「なおさらまずいです、プロム様!」

「えーいいじゃないですかべつに。世界剣が減るわけじゃなし」

「駄目と言ったら駄目なのです!」

「むむむ、いつになくスライデンが手強い。仕方がありませんね、ここは――

 えいっ」

「うわ!?」

 がばっ! とプロムがスライデンに抱きつく。

「いまです! 私がこの悪魔を止めている間に早く剣を!」

「ぷ、プロム様! なんで私が悪魔――」

「早く! もうあまり時間がありません!」

 ……ノリノリだな、おい。

「よし、いまのうちに行くぞリッサ!」

「あ、う、うん……ごめんなさい、スライデン様」

「待て貴様、それは――」

「ふふふふふ、離しませんよスライデン。おとなしくあの剣が大根のように引っこ抜かれるのを眺めるがよいのだわ」

「プロム様、それは悪役の台詞です!」

 楽しそうにじゃれあうふたりをよそに、俺たちは花畑の中央にある剣にたどり着いた。

「さ、じゃあ引っこ抜い……て?」

「――う、うわ、うわ」

「っっっ!?」

 ばっと飛び退く。

 ――剣を抜こう、という意思を向けた瞬間、得体の知れない強い感覚が流れ込んできたのだ。

 それは、なんて言うか。

(罪悪感というか、後ろめたさというか、――いや、違うな)

「ははは、無様だな下郎。そう、その剣は貴様ごときが抜いてよいものではないのだ」

「……自分だって抜けなかったくせに」

 高笑いするスライデンの横で、プロムがぼそっとつぶやいた。

 まあ、馬鹿の戯れ言は放っておくとして。

「ど、どうしようライ。この剣、抜こうとしたらすごい……その、恐いっていうか」

「…………」

「むぅ……勢いづけてノリで抜かせればいけると思ったんですけどねー。やっぱり無理でしたか」

「諦めろ。はは、そうだ諦めればよい。最初から貴様ごときが神剣を扱うなど無体な話というもの。諦めて白紙に戻せば――」

「えい」

 ずぼ。剣が抜けた。

「あー!?」

「!?」

「!!!」

 とたん。

 ――世界が、真っ白になって。


 そして、俺は理解した。

 この剣を抜くということが意味する、その内容を。

 世界のすべてが、俺を非難している。

 身勝手な、恥知らずな行為だと、糾弾している。

 俺は首をかしげ、そして言い放った。

「なに言ってやがる。俺は大悪党だぞ?」

 そして、視界が再び、真っ白に染まって――

【今回プロムがしたこと】

ライが自分の真名を名乗ってバルメイスの神威(カムイ)を発動させた瞬間、世界が崩壊するほどの衝撃が神話世界全体に走ったわけですが。

その衝撃を察知したプロムは、そこから先の可能性の中に「ライと対面する可能性」があることを見抜き、その可能性が実現したタイミングから逆算してつじつま合わせすることを世界に約束することで、破滅を逃れました。このタイミングで、ライは「将来プロムと出会わなければならない」「それまで神格を失ってはならない」という制約を世界から課せられています。これが、キスイとライが根本的に違う状態だった理由です。

で、今回ライとプロムが会ったので、そこを起点に「全部プロムの加護だった」という「後付け理論」を叩き込んで矛盾を強引に解消しました。「過去」を司る大巨人の面目躍如ですね。

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