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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十二日目~十三日目:悪党、隠れ家へ赴く
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十二日目(2):悪党、金をせびる

「は? 魔王?」

 ハルカに尋ねる。

 あの戦いの翌日。場所はいつも会議に使っている岩巨人族の広間。いつもの魔人連中を始め、リッサやキスイやジロロなど、主要な人間たちはだいたい集まっている。

 ただし傷を負ったセンエイとドッソ、それから大活躍なサリには休んでもらっている。二人はかなりひどい傷だったし、サリはまだ新しい環境に慣れていないせいで、すごく疲れたみたいだった。

 あとはカシル。彼女はいま戦後処理で奔走中。

 ……まあ、それはともかく。俺は意識をハルカに向ける。

「その通りです、ライナー・クラックフィールド少年。

 神話の力の乱れから、強大な外領域――通称、魔王の発生を感知しました。北東から南へ。おそらくはトマニオに向けて南下中です」

「おいおいおい。それって例のバルメイスの奴――」

「ではないようです」

「……というと?」

「占術の類で、神格を追跡してみたところ、バルメイスの姿はありませんでした。

 その代わりにあれを指揮していたのは、グラーネル・ミルツァイリンボ。我らの宿敵です」

 ハルカが言うと、コゴネルがため息をついた。

「あのじいさん、生きていたってわけだ。バルメイスに魔王奪われた以上、死んだと思っていたんだがな。

 ――ち、厄介なことになってきたな」

「なあ……要するに、なにが起こったって?」

「ああ、つまりな。魔王――この前の狼の親玉みたいなのだがな。そいつが、どういうわけか聖地トマニオを目指して侵攻を開始した、ということらしい」

「へえ。なんで?」

「知らん。

 が、グラーネルのじいさんが絡んでいるなら、間違いなくヤバいことだろう。下手すると世界の存亡に関わるレベルの」

「スケールでかいなー」

「まあ、そんだけやばい相手なんだよ、あのじいさん。

 それで具体的には、奴はなにをやる気だと思う? ハルカ」

「トマニオに向かっているなら、それは聖典攻略(ジャッジメント)しかないのでは?」

「……最悪だな」

「おいちょっと待て。それって要するに――」

「ほほ。確かに世界の存亡に関わりますな」

 にわかに魔人勢が騒がしくなる。

 ……が、ちっともついていけない。

「なあ。どういう話だ?」

 リッサに尋ねてみる。

 が、首を振られた。

「ごめん、ボクもわかんない。ア・キスイは?」

「わ、わたしも……」

「うん。やっぱり魔人さんたちにしかわからないみたいね。

 ええと、そういうわけでテンさん。解説お願いできますか?」

「ほほ。よろしいでしょう。

 ではまず、聖典世界の解説から始めたほうがよろしいですかな」

 ぱん、と手を叩いて、テンは言った。

「聖典世界の概要についてはご存じでしたかな?」

「あの、壁画に描かれていた世界だな。あれってどこにあるんだ?」

「どこにある……とはなかなかいいがたいですな。なにぶん、この世界の表面には出てこない部分ですから。

 そうですな……まずは、この道具を見てもらいましょう」

 言ってテンが取り出したのは、えらく無愛想な鉄の棒だった。

「これが、なんなんだ?」

「スイッチを入れますとな――ほら」

「うお、透けた!?」

「すごーい!」

 歓声を上げる俺とリッサ。

 一方でマイマイが真剣な表情で、

「わあ、すごい。あれ、リアルタイムで対面の光景を幻視させる装置だよ、ライ兄ちゃん」

「へえ、そうなのか」

「まあ……あの程度の大きさでないとムラがでかすぎて透けて見えないっていう失敗作なんだがな。あと振ったりすると、すぐボロが出る」

「これペイ、そのへんの裏話は隠しておきなさい。

 さて、と――」

 テンはスイッチを切って、装置をただの棒に戻した。

 そして、ぱか、と棒の表面のふたを取って、中身を見せる。

 見て、俺たちはうめいた。

「うわ、なんだこれ……」

「小さい歯車と、配線の山ですね。こんなものが――」

「一見きらびやかなこの装置ですがな、中はほれ、ごらんの通りという次第です。

 わかりますかな。いま我々がいる世界が、いわば装置の外観。それに比して聖典世界とは、装置の中身なのですよ」

 ……あー、なるほど。

「つまり、世界の裏方か」

「その通りです。

 ――この現実の世界と比べて、聖典世界は限りなく生の世界に近い。こんな綺麗に整った外観などしておらず、我々からすれば荒野に等しい。

 その聖典世界ですが、とある儀式を通じることで、原理的には我々の世界のどこからでも入り込めるということになっております」

「原理的には?」

「さよう。実際は無理ですな。条件を整えた『旅立ちの門』と呼ばれる施設があれば話は別ですが、そうでなければ」

「そうでなければ?」

「塩の粒程度の単位で、移動した聖典世界での出現位置がばらばらになります。当然人体は元の形を保てず、塵となるでしょうな」

 うわあ。それはグロい。

「その『旅立ちの門』も、今や世界に現存しているかどうかも疑わしいものです。結局、安全に聖典世界に行くためには、管理者を訪ねるしかないでしょうな」

「その、管理者ってのが――」

「トマニオにおわします、神託の巫女。当代はパルメルエ様と仰られましたかな」

 テンの言葉を受けて、コゴネルがうなずいた。

「ま、そういうわけだ。

 で、トマニオを攻めるってことは、当然その聖典世界を狙っているとしか思えないわけだ。普通に考えると」

「そこで問題になるのが、2000年ほど前に聖典世界を強襲した、愚者(ザ・フール)ことフィーエン・ガスティートの話となるわけです」

 話を継いだのは、ハルカだった。

「フィーエン・ガスティートは自身が創造神になるために聖典世界に乗り込んだと言われています。

 数多の守護者を打ち破り、道無き道を踏破していくその行程は、想像を絶する凄まじさだったと聞き及びます。そして、それまで現存していた神や大巨人の過半数を、行軍の過程で殺害したとも。

 その死の行軍の果てに――彼は、世界の中心にして最果て、世界庭園(エデン)を目前にして、神話に記されぬ大巨人スールトと遭遇します。

 激しい戦いは七昼夜に及び、その余波を受けて炎獄回路ムスペルヘイム・サーキットの炎が溢れ出し、山という山が大噴火を起こして世界を焼き尽くしました。

 ついにはフィーエン・ガスティートも敗れ去り――世界はその戦いのせいで、滅亡の一歩手前まで追い込まれたのです。これが我々魔人たちの間で聖典攻略(ジャッジメント)と呼ばれる、大惨事の顛末ですな」

「つまり、今回もそんなことが起こる可能性があるってことか」

「そうです。

 再創世――世界を思うがままに作り替え、創造神として君臨する。そのような野望を抱く者は過去にも少なくない。

 グラーネル・ミルツァイリンボも同様の野心を持って、魔王を動かしているのでしょう」

 世界を思うがままに。すごく悪役らしい野心ではある。

 コゴネルが吐息して、

「しっかし、あのジジイどうやって魔王なんて手に入れたんだか。わっかんねえのは、そのあたりの事情だよな」

「それよりどうやって止めるかだろ、コゴネルちゃんよ。

 俺たちの仕事復活ってわけだなぁ。えらく規模はでかくなったが」

 バグルルの言葉に、コゴネルはうなずいた。

「まあ、そうだな。依頼を受けて動いてるんだし、俺たちが動くのは義務だろう。

 ただでさえ、相手が動く前に息の根を止められなかったのは失態なんだ。どうにか挽回しなきゃならん。

 すると問題は、トマニオまでの交通手段、ということになるわけだけどよ――」

 コゴネルはジロロのほうを見て、

「このあたり、転移門とかないのか? 栄光の時代(ブランクス)のころにはかなり整備されていたんだろ?」

「ないことはないのですが――トマニオまでは、無理ですね。

 百日戦役の頃、トマニオは敵部隊の奇襲を嫌がってメギド砦付近の転移装置を根こそぎ破壊したんです。だから、あのあたりには転移門はひとつも残っていません」

「……そっか。それがあったか。くそ」

「前に使った靴は? あれならだいぶ早く着くだろ」

 提案したのだが、テンは首を横に振った。

「二足しかありません。

 もちろん、主戦力だけをトマニオに先に送り込むというのも手ではありますが――」

「けど、たとえばサリを送るだけでも、だいぶ変わったりするんじゃないか?」

「やめたほうがいい。サリがいない状況で、おまえやア・キスイがバルメイスにまた狙われたら大事だ」

「あ、そうか」

 言われてみれば、コゴネルの言う通りである。というか、その可能性を失念していた。

 ……つーか、敵、多すぎ。

 コゴネルは考え込んで、

「そうなると、ア・キスイには安全のために俺たちに着いてきてもらう必要があるわけだが……」

「あ、ええと、それは問題ありません。世界の危機なんで、協力は是非ともさせていただきます」

「そうかい。それは助かる。

 しかし困ったな。陸路でトマニオを目指すとだいぶ遠いぞ。途中まで転移門を使うとしても、2週間はかかるか」

「おいコゴネル、途中で海路使おうぜ海路。もう4日は短縮できるだろ、ほれ、前みたいによ」

「……船をどうやって調達するんだよ、ばかバグルル。もう昔とは状況が違うんだぞ?」

「あ、そっか。……くそ」

 そこで、しん、と静寂が降りる。

 万策出揃った――という感じだったのだ、が。

 ぱん、とジロロが手をたたく。

「で、ですね。皆さん、この際ですから切り札使っちゃいましょう」

「切り札? そんなものがあるのか?」

「ふふふ――ええ。前は不発でしたが今度こそ。てゆーか戦争にさえ狩り出されなければあのひとは頼りになるはず」

「あー、うん。それで誰の話かはわかったけど。頼りになるか? ナーガ」

「ばっちり問題なしです。竜体に変化した彼女に乗ったことのある私が断言します」

「うへー、そりゃ豪華な体験だな」

「てことは、あたしたちも竜に乗れるのっ?」

「ええ。優雅な空の旅をお楽しみくださいな」

「やったーっ。すごい楽しみーっ」

「まるまるー♪」

「風情がありますね」

 盛り上がるみんな。

 ……まあ、おおむねこれで交通手段は確保できたとしても。

「それで、いったい何人くらいまでは乗れるんだ」

「そうですねえ。たぶん50人程度なら、十分乗れるんじゃないですか」

「……それはとてつもなくでかいんじゃないか」

「竜母ですから」

 えっへんと胸を張るジロロ。

 コゴネルは吐息して、

「じゃあそういう方向で決まりだな。

 ……いざとなったらカシルの部隊をピストン輸送してもらうって手もあるな、それだと」

「呼んだか?」

 みんなが一斉に扉のほうを見る。

 やってきたカシルは、明らかに不機嫌そうな顔で椅子のひとつにどかっと着席して、

「で、用件はなんだ。言っておくが、あまり大きなことはできんぞ」

「なんだ。兵士に三行半でも突きつけられたか」

「そんなようなものだ。

 被害も大きかったが、それ以上に士気が低下していてな。命令しても満足に動かん」

「……まあ、そうだろうな。奴らからすれば、主人が自分たちを見殺しにしようとしたわけだし」

「それだけじゃないさ。カミルヘイムの私兵だけじゃなく、傭兵のほうもダメだ。いい加減報酬のアテがなくなったことにしびれを切らしつつある。

 食料もいつまで保つかわからんし、兵たちの中ではもう国へ帰ろうという動きが主流だ。正直、抑えられる時間はそう長くないぞ」

 カシルは投げやりに言う。

 コゴネルは少し思案して、

「食い物と金か。そのふたつがどうにかなればいいか?」

「ん? ああ、そりゃ問題はなかろうが。はっきり言うが、高いぞ?」

「80000でどうだ」

「――もう一声。ていうか桁上げろ」

「無茶な奴だな。じゃ90000。これ以上はちときつい」

「乗った。何日で調達できる」

「とりあえず夜まで待て。それで話が付いたら連絡する」

「おい、ちょっと待てやコゴネル――」

「ダメだ。もう決めた。フリーナスタルの家から出す」

「ええええ!? それって――」

「あー、悪いけど話が飛びすぎ」

 さっきからついて行けてない。いまリッサがえらく驚いていたが、そういやフリーナスタルってどっかで聞いたことあるような……

「つーか、さっき言ってた80000とか90000ってなに?」

「金貨の枚数だよ。それでカシル達を雇うって話」

「……あ、そう」

「――問題は糧食だな。すぐ調達するのも難しいからまずはトマニオの備蓄を貸してもらわにゃならんが、相手が応じるかどうか……」

 ぶつぶつ言いながら、コゴネルは考え込む。

 ……さっぱりわからなかったが、ともかく。

「まあ、戦力だけは整った――てことか?」

 と、つぶやいた、直後。

「いやいや、それだけじゃ足りないな。諸君」

 聞こえた声は、ここにいないはずの相手のものだった。

「せ、センエイ!?」

「よお。起きてきたぞみんな。ついでにデカブツもいる」

「ドッソ・ガルヴォーン、ここに――」

 うわ、ホントだ。

 コゴネルがあきれた顔で、

「なんだよなんだよ。怪我して寝込んでたんじゃないのか?」

「正直しんどいさ。だが――」

「事態は深刻です。寝ていられる状況ではないでしょう。

 魔女殿も同様の心胆のご様子で」

「ま、そういうことさね。

 時間が惜しいから本題に入るぞ。正直、我々は後手に回っていて、切り札が足りない」

 センエイは空いてる席に座って、話し始めた。

「相手が魔王を動かし始めたのにはふたつの意味がある。ひとつめは戦力が整ったこと。ふたつめはこちらの戦力が見切れたこと。

 このままぶち当たって、よしんば魔王に対処できたとしよう。だがグラーネルのジジイの目的がべつにあったとしたら? 実はべつの魔王を隠し持っていて、こっちが魔王1と戯れている相手に魔王2が別ルートで聖典世界を目指していたとしたら?」

「――そんなことが、あり得るのですか、センエイ」

「なんだよハルカ。あり得ないと思うほうがおかしいさ。

 老グラーネルをなめるな。アレは狡猾で、頭の切れる魔人だ。勝算なしに軽々と駒を動かすという考えは、しないほうがいい」

「……じゃあ、どうしろってんだよ?」

 コゴネルの言葉に、なぜかセンエイはちらっとこちらを見て、

「そこで、ライくんにがんばってもらう」

「――は?」

「は? じゃないだろ。現在いちばんの不確定要因は君だろ、ライくん。君が超強化とかされれば相手の目論見をひっくり返すのは、十分可能だ」

「いや、いやいやいや。しかしだな――」

「短期間の訓練ってのはな、未熟な奴ほど伸びしろがあるんだよ。サリがいまから訓練して倍の強さになるのは難しい。だがライくんなら別だ。

 というわけで、切り札の養成を行うのが――」

「私は反対です」

 きっぱり。

 ハルカが、えらく強い語気で言った。

 センエイは眉をひそめて、

「なんで」

「なんでもなにもありません。センエイ、あなたのやり方には賛同できない。無関係の一般人を流れで戦力に引き入れるなど、魔人のやるべきことではない」

「? え、どういうことだ?」

「もう少し考えて下さい、少年。センエイはあなたを言いくるめて、本来関係のないはずの戦いに無理やり巻き込もうとしているのですよ」

「おいおい。そりゃちょっと言い過ぎ――」

「あなたは黙っていなさい、センエイ。

 少年、あなたはここで身を引くべきだ。剣の力などすべて忘れて、戦線から離れなさい。

 でないと――覚悟もない者が戦場にいて、よいことなどひとつもない。不用意なタイミングで、不必要に命を落とすことになるでしょう」

 脅しではない。本気の目で、ハルカが言う。

 センエイはふてくされたように、口を閉ざしてしまった。

 ……覚悟。覚悟ね。困ったな。

(――正直に言えば。ずっと前から俺は、テキトーな理由でテキトーに戦ってきた)

 そう思う。

 最初に街を飛び出したときも。竜の財宝を狙ったときも。キスイを守って動いたときも。罠にかかったときも。サリを助けたときも。

 ぜんぶ、きっかけは単純で適当。かっこつけたいからとか、ノリでとか、トモダチを守りたいからとか、ちょっとした恩返し気分とか。

 それでも。戦うと決めたら手は抜かなかったし、後悔も……まあ、あまり、していない、と思う。

 だが、ここから先はべつだ。

 ここから先は死地。たぶん全員が真剣にかかって、それでも勝てないかもしれない。

 そして、たしかに戦う理由はない。なし崩しで戦おうとしていたけれど、俺の立場はただの隊商の護衛。この状況は変わっていない。

 ハルカの言うとおり。俺はセンエイのいいなりになって、そのまま戦おうとしている。

 それは――

「ああ、そうだな。ありがとうハルカ。俺は誤解していた」

「では……」

「うん。センエイに言われた通りに戦うのは、やっぱやめた。俺らしくないし、疲れるし」

 はぁ、とあたりからため息が漏れた。

「まあ、しょうがねえな。正直戦力的に不安は増すが、こっちもプロだしな。意地でもやってみせるさ」

「あん? なに言ってんだ、コゴネル。話はここからだろ?」

「はい?」

「金貨1000枚。カシルも金で雇ったんだ。俺だって、そのくらいもらってもいいだろ?」

「……あ?」

 しばしの沈黙。

 それを破ったのは、案の定センエイの馬鹿だった。

「あっはっはっはっはっはっは! やっぱ君は馬鹿だな、ライくん!」

「……おまえに笑われるとやたらムカつくんだが。センエイ」

「――呆れました。少年、あなたはそれでいいのですか」

「ああ。俺の戦う理由なんてそんなもんで十分だろ。

 大義のために戦うとか、理由がないから戦わないとか、大悪党らしくもない。金のため――なら、まあカッコもつくだろ。悪い条件じゃねえよ」

 あえて言えば、1000枚は吹っかけすぎかなーと思ったのだが。

「まあその程度なら楽勝で出せるが……本当にいいのか、それ?」

「そ、そうだよ。本当にいいの? ライ、キミ、今度こそ死んじゃうかもよ?」

「大丈夫だって、リッサ。大悪党が死ぬのは、いつだってえらい人に捕まって火あぶりって相場が決まってるんだ。魔術師や邪神に殺される悪党なんて、聞いたこともねえ」

「そ、そういう問題かなあ……」

「ああ、そうだリッサくん。君も手伝ってくれんかね?」

「え?」

「センエイ! いい加減に――」

「ハルカは黙ってろって。

 な、いいだろ? どうせライのことが心配なんだろうが、それなら一緒に戦えばいいだけの話だ」

「あ、ええ、はい。それじゃあ参加させていただきますけど……」

「よおし戦力ゲット。これで戦力大幅アップだな」

「……心底呆れました。もう知りません」

 ぷい、とハルカは向こうを向いてしまった。

 悪い事したかな、と思ったが、黙っておく。誰がなにを言おうと、俺の行動を決めるのは俺だ。

「それで、戦力アップって言ったか。具体的にはなにをするんだ?」

「――ふむ。

 では、私が岩巨人の戦士に伝わる奥義を伝授するというのはいかがでしょうか」

 ドッソが言った。

「……それ、使えるようになるのか? 短期間で?」

「お任せあれ。

 我が岩巨人族に伝わる、秘伝の訓練術です。3日もあれば大幅に強くなれるでしょう」

「へえ。具体的にはどんなことをやるんだ?」

「そうですな。やや邪道ですが時間も差し迫っておりますし、まずは半日ほどで素振りから爆裂衝撃波を発生させる小技などを――」

「待て待て待て待てちょっと待て」

「なにか?」

「大事なことを聞き忘れてた。それ、人間にできる鍛錬か?」

「……ふむ。盲点でしたな。

 考えてみれば、岩巨人ならともかく人間の耐久力では、ちときついかもしれません」

「ないから。岩巨人でも。普通に」

 カシルがぼそっとつぶやいた。

「じゃあどうするんだ。いっそ魔術でも覚えるか? 俺が教えてもいいが」

「魔術……ねえ。コゴネル、それってどれくらいかかる?」

「……読み書きがある程度できれば、教科書渡してやればすぐなんとかなるんだが」

「俺、自分の名前しか読めないし書けないぞ」

「だなあ。そうするとドクトル・テンあたりの武装でも使えるように訓練するしか――」

「それじゃあダメだね。ろくな戦力アップにならん」

 センエイが言う。

 コゴネルはじろりと彼女をにらんで、

「なんだよ。ていうかセンエイ、最初におまえが言い出したんだから、なんか案があるんだろ。さっさと言えよ」

「他にいい案があればそっちでもいいかと思ったんだがねえ。

 ――ま、いいさ。バグルル、桃源領域(ザナドゥ・エリア)にこいつを案内してくれないか?」

「あ゛!?」

「……なんだよ。変な声を出して」

「い、いや。なんでその名前を知ってるんだよ、センエイ!?」

「あー、悪いね。ちょっとあのスタージンとかいう神官が気になったんで調べてみたら、おまえとその桃源領域(ザナドゥ・エリア)の名前に行き当たった。20年くらい前だって?」

「う……まあ、その、ああ、そのくらいだっけなぁ」

「過去を暴いちまって悪いが、この際出し惜しみはなしだ。あんたたち神官戦士団が出会ったという神属の領域、あそこにライくんを連れて行けば、なにか得られるものがあるはずだ」

「けどよう。前回は門前払いだったぜ。今回はどうにかなるのかよ?」

「なる。――と、確定で言えないのが癪だがね。

 私の占いでは、少なくとも前回と違うことが起こると出ている。それに賭けてみるしかない。成功すればバルメイス級の神が味方に一体つくことになる。この戦力アップは途方もなく大きい」

「おい、なんの話をしている?」

「行けばわかるさ、ライくん。さしあたり道すがらバグルルに聞いてくれ」

「あー、でもちょっといいか、センエイ」

「なんだいバグルル。まだ問題でも?」

「俺とそこのちびすけじゃ戦力が足りん。もうちょっと余分に人数を割いて欲しいんだが」

「ふむ。そうなると誰かな。サリは確定でこっちに残さなきゃいけないとして、あとハルカとミーチャは残しておきたいが――」

「あ、はいはい! ボク行きます!」

 リッサが手を挙げる。

 センエイはうなずいて、

「決まりか。あともう少しってことになると――」

「ほほ、そこで我らが出番ですよ。――弟子よ!」

『おうともさ!』

「うお、なんだ!?」

 がしゃがしゃがしゃ……じゃきーん!

 得体の知れないその金属でできた甲冑みたいなのは、広間に現れてかっこいいポーズ(?)を取った。

「えーと……大巨人の残した決戦人型兵器?」

『違うわっ! 俺だ俺、ペイ!』

「ほほほ、これが我々の新兵器、パワードスーツくん一号ですよ。まあ実働テストはまったくしていませんが、計算通りなら、かなりの戦力になるはずです」

『そういうことだ。任せてくれよな!』

 しゃきーん、とポーズを取りながら、ペイ。

 ……いや、これすっげえ対応に困るわ。

 センエイはしかし、動じた様子もなく平然と、

「よし、戦力はこのくらいでいいだろう。

 残りの人員はさっき言ったように竜母でトマニオへ移動。それを確認してから、ライくんのチームも桃源領域(ザナドゥ・エリア)に移動だ。

 各人、明日の朝まで休みだ。十分に体調を整えておくように。以上!」

 と言って、強引に場を打ち切った。

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