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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十二日目~十三日目:悪党、隠れ家へ赴く
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十二日目(3):悪党、おどかされる

「で、おまえらはとりあえず明日の朝を待って、ナーガの背に乗って出発ってことになった」

 夜。

 ようやく起きたサリに俺が状況を説明すると、サリは不思議な顔をした。

「ライは行くの? その、桃源領域(ザナドゥ・エリア)に行って、戦いに参加するの?」

「一応な」

「……なんで?」

 質問というよりは、俺の決定に不満があるような声。

 それに、

「サリが行きそうだったから」

「……それは、すごく卑怯」

「悪党なんて卑怯でなんぼだろ」

 しれっと言う。

「で、サリのほうこそ。行く気か?」

「うん」

「なんで」

「ライが行きそうだったから」

「……なるほど。卑怯だな」

「でしょう?」

 参った。今日のサリは手強い。

 サリは俺を見て、ふと口を尖らせた。

「どうした?」

「ライ。なんであの短剣、センエイに渡したの」

 ……あー。やっぱ聞かれたか。

「いや、センエイがなんかウザかったからさ。黙らせようと思って」

「あれで黙るセンエイじゃないでしょう。

 というか、ごまかさないで。センエイごときへの対処でなにか妥協するライじゃないでしょ」

「いや、そこまで俺、頑固じゃないぞ?」

 さすがにそれは訂正したい。

「ほら、それに結果オーライじゃん。あの短剣をセンエイから渡されたからこそ、サリはバルメイスに有効に対処できたわけだし」

「見くびらないで、ライ。今回の騒動で戦った敵くらい、全裸でも勝てるわ」

「年頃の乙女が全裸とか言うなよ!?」

 真顔でなに言いやがりますかね、こいつは。

 サリは、なにか抗議するような表情を浮かべて、じーっ、と俺を見ている。

 ……うう。やりにくい。

「正直に答えて、ライ。――わたしともう、二度と会わない気だった?」

 言われて俺は、素直に答えた。

「いや、そこまでは考えてなかった。もっとシンプルだ」

「というと?」

「サリ、魔女やめるんじゃないかと思ってたんだよ。だったらいらないかなって」

「…………」

 サリはその答えに、しばらく沈黙して、

「わたしは――魔女を、やめるべきだと?」

「そこまでは言わない。

 でもやめる可能性は高いと思ってた。魔人たち見てても、その稼業がすごくきついってのはわかるし、そしてサリには、続ける理由がないように見えた。理由なく厳しい仕事する奴なんて、いないだろ」

 そう。こいつは『同じ空っぽなら』とバルメイスに言った。

 だとすれば、こいつ自身が、自分のことを『空っぽ』だと思っているわけで。

 そういう状態できつい魔人稼業に戻る理由が、俺にはあまり、思い浮かばなかった。

「だからもうサリは戻ってこないと思ってたし、だったら俺が持ってても意味がない。そう思ったから、あの短剣を手放したんだよ」

「じゃあ……」

「けどサリ、そういう意味ならおまえは誤解してる。

 おまえ自身が誤解してたから、俺も誤解したんだけどな。おまえは『空っぽ』じゃないだろ」

「ライ、でもそれは――」

「いま言った通りだ。『空っぽ』なら、わざわざ助けに戻ってくる理由がないんだよ。

 それでもおまえは戻ってきた。みんなを助けるために。だったとすれば、おまえの心の中には、そうさせた『なにか』があるってことだろ。空っぽじゃないんだよ」

 サリは、なにかを言おうとして口を開け、それから閉じて、ため息をついた。

 そしてふてくされたように、言う。

「……どのみち、ライはわたしの支えにはなってくれないのね」

「支えが必要に見えないからな」

「支えが必要だったら助けてくれるの?」

「時と場合によるな」

「――絶対に助けてやる、って言ったくせに」

「悪党の言うことを真に受けるな、って前に言わなかったか?」

「ライは悪党じゃなくて悪ぶってるだけ、って前に言わなかったかしら」

「おまえ今日は本当にやりにくいよな……」

 苦笑する。

「……死体が見える」

 突如として、サリはそう言った。

「なんの?」

「それは時と場合による。

 でも、わたしの神威(カムイ)――偽典繰り(カッサンドラ)が告げている。わたしがひとつ下手を打てば、その時点で多くの知り合いが死ぬ。その中にはライも、含まれてる」

「…………」

「一方で、わたしの行動次第では、なにも見えない(・・・・・・・)こともある。

 だけど、この前の戦いでわかったでしょう。なにも見えないということは、予測できてない(・・・・・・・)ということ。なにがどううまく絡まってうまく行くのか、それどころか、うまく行くっていうのはどういう状態なのか、それすらわからない」

「誰も死なないってことじゃないのか?」

「そうじゃないかもしれない。

 ――白状するとね、ライ。わたしはずっと『見えない』未来を選択してきたけれど……それは、すごく怖いの」

 サリは、唇を震わせて、言った。

「だって『見えない』んだから。わたし自身が『望ましい』と心の奥底で思っている状態を実現できるなら、誰が死んだって見えないままなのかもしれない。

 いまわたしが選ぼうとしている未来の先に、ライが死ぬ結果があったとしても。それ以上に都合がいい結果が出るのなら、見えないかもしれないの。わたしは……それが、たまらなく怖い」

「……難儀な奴だな」

 苦笑して、言う。

「言っておくけどな、それ、贅沢な悩みだぞ?

 普通の奴は未来なんて見えない中で、自分にとってせめてマシになるように動くもんだ。おまえはいくつか未来が見えてるんだから、まだマシだよ――それに」

「それに?」

「見えない結果が複数あったとして、ある程度予想がつくようになったら、その段階で選び直せばいい。これは、その程度の話だろ」

「…………」

 サリは、暗い表情で首を振った。

「レイクル・サバーリッチ」

「え?」

「ライも名前、知ってるでしょう。あの人形遣いの名前」

「あ、ああ……あの不愉快なザコか」

 たしか、敵の偽アジトで、リッサの偽物を使って俺たちを爆殺しようとした奴だ。

「わたしが彼と戦ったとき、彼にひどい目に遭わされたけど、その未来は見えなかった(・・・・・・)

 他の見えなかった案件とは違う。たぶんわたしは――『人形になって、命令のままに生きれば楽だろうな』と、無意識に、思ってる」

「…………」

「次の戦いでレイクルが出てきたときに、その誘惑にあらがえなかったとしたら……わたしは、あいつに屈服することになるわ」

「そりゃあ……不愉快だな」

 なんぼなんでも、あんなクズにサリがいいようにされるのは、不快だ。

「だったらサリ、とびきりのいい薬を教えてやるよ」

「え?」

「見えない未来の果てにレイクルと対峙したとき、どうしても屈服してしまいそうだったら、この手を使いな」

 そして俺は、あることをサリにささやいた。

 サリは、びっくりしたように目をぱちぱちさせて、

「それ……効果、あるかな」

「あるさ。絶対にある」

 俺はうなずいた。

「いまのおまえが『空っぽ』かどうかはともかく――そこ『だけ』は絶対に、空っぽじゃないだろ。

 だからおまえは、そこで絶対に踏ん張れる」

 サリはしばらく、考え込んでいたが。

 やがて顔を上げて――

「ライ。ありがとう」

「――――」

「わたしは強くない。空っぽの弱虫のままかもしれないけど……そんなわたしを、ライはやっぱり、支えてくれたのね」

 俺はそれに、答えなかった。

 ――答えられるはずがない。

 サリが見せた、初めてのとびきりの笑顔(・・)

 それに、俺は柄にもなく、見とれてしまって――

「よし告白だライくん! そしていますぐ玉砕してしまえ!」

「うどわああああ!?」

 いきなり聞こえてきた声に悲鳴を上げて振り向いて――あれ。

「いない」

「幻術を仕掛けられたようね。……特定の状況で発生するようになってたようだけれど」

「幻術?」

「うん。だってわたしにはなにも聞こえなかったし。……センエイ?」

「そうみたいだな。あーびっくりした……」

 あいつ、明日絶対シメる。

「なにかあったの?」

「不愉快だから思い出したくもねえよ。

 それよりサリ、そろそろ俺は寝る。明日は早いからな」

「うん」

 サリはいつもの、むっつりした顔でうなずいた。

 ……あー、いかんいかん。

 思わず飲まれるところだった。ちょっと頭を冷やそう。



-------------------------



「……で、いまさら僕になんの用だい、妖術師」

 不機嫌な声で問う。

 相手はかっかっかと笑って、

「そう言うでない、弟子よ。ちと、計画が狂ってな。人数が足りないので手伝ってもらおうと思ったのだよ」

「計画が狂った、ねえ」

 思い出す。フレイアは、この老人が死ぬと考えていたようだった。

(やはり彼は生き汚さでは君の予想を超えていたようだよ、フレイア)

「手伝えって、僕がその要求を素直に聞くと思うのかい」

「ほう。聞かないと言うか」

「当然だろう。元より、おまえと僕は一度絶縁した仲だ。ことさらに敵対する理由もないが、言われるままに手伝う理由もない」

「奥義、欲しくはないのかね?」

「――……」

 沈黙する。

 相手は嫌らしい笑みを浮かべて、

「貴様の弱点はそれだ。迂闊にカイ・ホルサなどという巨大な力を手に入れたがために、二重性という弱点をも背負ってしまった。

 そう――貴様の人格やあらゆる判断は、カイ・ホルサの呪縛に制限される。カイ・ホルサが奥義を集めることを優先している以上、貴様はそれに逆らえない」

「言われなくてもわかっているさ。そんなこと」

 だからこそ。

 シン・ツァイは、親しい仲間を裏切らざるを得なかった。

「それにしても奥義を複数用意できるとはな。

 ――なにを企んでいる?」

「創世と言ったはずだが」

「それは知っている。だが魔王で直接攻めるのはやめたのだろう? 考えついたべつの手口とやら、()に開示したまえ」

「ああ、それはな――アレだ。賢人会議(エルダーズ・コン)が隠している、秘口伝の類を手に入れてな」

賢人会議(エルダーズ・コン)が?」

 思わず聞き返す。

 メサイたちの最高権威、賢人会議(エルダーズ・コン)

 それが隠している口伝となると、入手ルートも内容もかなり限られることになるが――

「――女王(クイーン)、か?」

「ほう、知っておったか」

「あの外典を再現する気か。

 たしかに、スールトと直接対決するよりは成算があるだろうが――」

「鍵は7人の賢者だ。

 すでに人足に当たりはつけておる。あとは貴様が入れば完成、というわけだ」

「……なるほどな」

 相手の企んでいることはわかった。

「まあ、よくわかった。で、報酬の確認は?」

「焦るでないわ。

 どうせ、トマニオで一騒動ある。それが終わった後で問題あるまい?」

「まあ、……いいけどね」

「商談成立じゃな。

 さて、では儂は行くぞ。必要なときにすぐ動けるようにしておけ」

 言い残して、妖術師は消えた。

 ……なるほど。なるほど。

(妙な誤解があるようだが――まあ、親切に教えてやることもないか)

「とはいえ、これで彼がクロであることは確定かな」

 独白して、彼は移動を開始した。

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