表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十一日目:悪党、戦争に巻き込まれる
62/103

十一日目(1):悪党、相談を蹴る

 寝苦しくて目が覚めた。

(サリの心の中で暴れてから、一日くらい寝込んでたみたいだしな……寝過ぎなんだよな)

 もそもそと起きあがり、窓の外を見る。

 この、窓から外が見える部屋は、客間としては最上級のものらしい。

(それを、なんで今も俺にあてがっているのかはよくわからないけどな)

 剣なんてもうなくなったんだから、普通にべつのヤツに当てればいいのに。

 たとえば――

(サリとかな。亜神だって言うんだから、待遇は良くてしかるべきだろうに)

 ぽりぽり頭をかいて、立ち上がる。

 寝付けない以上、ここにいても退屈なだけだが……さて、どこにいこう?



 ふらふらとあてもなくさまよっていたら、広いところに出た。

 ――最初にキスイと出会った、あの広間。

 正面には巨大な穴があって、外を一望できる環境にある。

 月の光に照らされて、幽玄な雰囲気の漂うそこに、

「……なにやってんだ、ペイ」

「おう」

 俺の言葉に、ペイは片手だけ上げて応えた。

 つーか、その雰囲気ダイナシに放置された鉄の筒はなんですか。

「そんな顔で見るなよ。だいぶ前の戦闘で設置した砲台だろ」

「いや、片づけろよ。使ったのだいぶ前だろ」

「だから今片づけてるところだろうが。

 ここまで重いと簡単には持ち運びができなくてな。一度分解しないと話にならん」

 工具を片手に作業をしながら、ぶつぶつとこぼす。

(そういえば、こいつはテンの弟子なんだっけか)

 まあ、扱いは弟子というより、態度のでかい使用人って感じなのだが。

 踏み込まないようにしてはいるが、なんでこいつが魔人になろうと思ったか、ちょっと気になるところではある。

「で、おまえさんはどうしたんだよ」

「あん? ああ、ヒマでな」

「……仕事がないと気楽でいいな」

「不満なら仕事なんてサボればいいじゃん」

「バカたれ。そんなかっこわるいことができるかっ」

 口論しながらも、手は休まることを知らない。

 ……あ、案外こいつ器用かも。手つきが素人離れしてる。

 これなら邪魔しても問題ないと踏んで、俺は話しかけた。

「サリ、どうするつもりなんだろうな?」

「知らねーよ。サリが決めることだろ」

「まあそうだけど。魔人連中はどう思ってるんだ? ファトキア行きって」

「バグルルは猛反対。ハルカは放任。センエイはなに考えてるかわからん。

 他は……聞いてないが、おおむね賛成なんじゃないかな」

「へえ、そうなのか」

「マイマイやミーチャはなにも考えてないだろうがな。コゴネルやうちのジジイは――ちと、企んでそうだな」

「なにを?」

「サリをダシにしてどうにかしようって話さ」

 不愉快そうに言う。

「ダシ?」

「ああ。ほれ、魔人って連中は、世間的に肩身が狭いだろ」

「まあ、そうだけど」

「だからよ。魔人のなかに亜神がいるってことになれば、ちっとは風当たりもよくなるんじゃないかって思うだろが」

「あー、そういうことか」

 ……待てよ。

「でもさ、サリがこの後、魔女を続けるとは限らないんじゃないか?」

「なんだよ。神殿が圧力かけるってことか?」

「まあ、それもあるけど……」

「問題ないだろ。亜神に神殿が指図できる言い訳もないし、本気になったサリ・ペスティなんか、誰も止められやしない」

 ペイはこちらを見もせずに言う。

 ……そういうことじゃないんだがなあ。

 まあ、いいけどさ。

「スタージン、亜神が魔人出身だったことについてはなにも言わなかったな」

「そうだな。あれも腹に一物ありそうなクチだ。

 まあ、バグルルの友人じゃ一癖あって当然か」

「そういやバグルルって聖騎士団出身だって言ってたっけ。あれ、みんな知ってたのか?」

「まさか。俺らもおまえと同じだ。仲間だと言っても、必要以上に過去に踏み込むのは失礼だ。

 けどバグルルはファトキア出身だったからな。そうだったとしても俺は驚かねえし――センエイはもうちょっと具体的な情報、つかんでたっぽいな」

「そうだな」

「なんだかなぁ。俺はヤな予感がするよ。あのスタージンって奴、うちのジジイなんかより一枚も二枚も上手な気がする。

 ナメてると、思わぬところで足をすくわれる気がするんだがな。まあ、サリを出し抜けるかどうかは知らんけど。

 ……っと。さて、じゃあそろそろ運んで行くかな」

「おー。がんばってな」

「お前も、あんまり夜更かしするんじゃねえぞ」

「はいよー」

 言って、俺たちは別れた。



「……ふう」

 どっこいしょとベッドに腰掛けて、一息。

 ――結局。散歩に行ったからって、眠れるようにはならなかった。

(まあ、最初からわかってたけど)

 たぶんこの体調は、身体的なものじゃない。

 要するに、俺は。

(気になってるわけだ。結局)

「あー、どうするのかなー、サリ」

「なにが?」

「うどわわわわわわ!?」

「ライ。夜は静かに」

 しー、と言うサリ。

 ……というかですね、サリさん。夜の自室で後ろに回り込まれたら誰だって叫びますよ。

「い、いつから?」

「ライの後ろにずっといたけど」

「だからいつから」

「集落を目的もなくうろうろしているみたいだったから、どうしたのかなって」

「…………」

 それだと、俺はうろうろして戻ってきてベッドに腰掛けるまで、まったくサリに気づかなかったことになるんだけど。

(まあ、おかしくはないか)

 頭を振る。サリだし、そんなこともあるだろう。

 それよりも、今は聞きたいことがあった。

「で、どうするんだよ」

「……明日まで待つ」

「待ってなにが変わる?」

「グラーネルの様子を見る。ひょっとしたら目くらましかもしれないし、ハルカが再探知に成功するかもしれない。だとすれば、仕事を放っては行けない」

「それでなにも起こらなければ?」

「…………」

 サリは、珍しく深く悩んでいる。

 まあ、理由はなんとなくわかる。

「どうすればいいかわからない?」

 こくん。サリはうなずいた。

(……やっぱりか)

「いままでは、心の中の魔物に対処するためだけに生きてきたから。

 だから、それがなくなったいま、どうすればいいのかわからない」

 ぽつ、ぽつ、という調子で言う。

(故郷に帰るったって……ほぼ全滅してるしなあ)

 要するに、そういうことだ。

 いままでやらなければいけなかったことが一気に消えたせいで、逆になにをすればいいかわからなくなってしまった。

「ライ。あなたはどうしたらいいと思う? わたしは、どうやって生きていけばいい?」

「俺に聞かれても困る。

 ていうか、自分がどうやって生きるかなんて、自分以外に決めようがないだろ」

「……でも」

「でもじゃねえよ。お前、俺がこうしろって言ったらそうするつもりか」

「……ライが言うなら」

 参った。重傷だ。

「おまえな、あんまり甘えてるとぐーで殴るぞ」

「でも、ライは助けてくれるって言った」

「悪党の言うことなんて真に受けてんじゃねえよ。約束なんて破ってなんぼだぜ」

「だけどライは悪党じゃなくて、悪ぶってるだけのしょうもないひとだし」

「前より評価下がってますよねえ!?」

 不条理すぎる。俺がいったいなにをした。

「ああもう、ともかく明日のことは明日考えろ。残ってもいいし、ファトキアに行ってもいい。

 行くにしたって、途中で気が変わったら戻ってきてもいい。逆にファトキアが居心地いいんなら、定住して魔女なんてやめちまってもいい。

 ぜんぶおまえの自由だ。自由だから途方に暮れてるんだろうが、だからって他人に頼るな。お前の道はお前が決めるんだ。俺には決められねえよ」

「……うん」

「わかったら明日に備えて寝ろ。いいな」

「うん」

 うなずいて。

 サリは、元気なさそうに立ち上がり、ふらふらと外に出て行った。

「ライ、おやすみ」

 ばたん。

 ……はあ。

(迷子の子供みたいな顔しやがって――けど、まあ)

 似たようなものかもしれない。

 たぶんサリは、あの廃墟になった街にいたころから、なにひとつ成長していないのだ。



 結局。サリは、行くことにしたらしい。

「ファトキアには行ったことないから、ちょっと見てくる」

 という、端から見ればえらく安易な決め方だった。

 ……それでも、たぶん。

 サリが一生懸命悩んで、自分でそう決めたのだから、それでいいと思う。


 気が変わらないうちに、ということなのか、スタージンはえらく迅速に馬車を用意してきた。

「バグルルはどうしたんだ?」

「いじけてる。まあ気にするな」

「あ、そう」

 で、俺はその見送りの場所でコゴネルと雑談していたりする。

「サリ姉ちゃん、ばいばーいっ」

「……またえらく気が早いな、マイマイ」

 まだサリ、馬車にも乗ってねえぞ。

 と、そのサリがてくてくこっちに歩いてきた。

「どうした?」

「忘れてた。ライ、手を出して」

「ん?」

 ぽん、と重い感触。

 見ると、サリのおなじみの短剣が俺の手に置いてあった。

「なんだよ、これ」

「後で取りに来るから、預かっておいて」

「……ああ、そういうことか。べつにいいけど」

 なんとなく照れくさい。

 あと、後ろからバカの殺意をひしひしと感じるのですが。

「らーいーくんー……」

「うわ、しなだれかかってくるなバカっ」

「しくしく。サリぃぃ、私にはなにもないの?」

「センエイには放っておいても会うから。要らないでしょう」

 ぴた。センエイの挙動が止まった。

 そしてその身体が小刻みに震えはじめる。

「ふ、ふふ、ふふふふふ……」

「どうした? 酒でも切れたか?」

「勝った! 勝ったぞライくん!」

「ええい、うるせえから耳元で叫ぶなっ」

「わはははは! そうとも! 順当に行けばサリは用事を済ました後真っ先にこちらと合流し、そのときには邪魔なライくんはべつの場所にいる!

 ふはは、いける、いけるぞ! 今度こそサリの心は私のものだぁーっ!」

「煩い」

 ずしゃあっ!

「あごふっ!? い、いま、鋭角とも鈍角ともつかぬ未知の幾何学的角度から来た足払いがっ……!」

「……とりあえず、しばらくセンエイのお守りもお願い。ライ」

「責任重大だな」

「サリ様、そろそろよろしいですか」

「かまわない。――ライ、それじゃ」

「土産を期待してるぞー」

「してるぞーっ」

「してますーっ」

「まるまる~♪」

 ……こうして。

 サリは、行ってしまった。



「行っちゃったねー、サリさん」

「……つーかなぜテメエが残ってる、リッサ」

「む。なによーそれ。まるでボクが残ってたらおかしいみたいじゃない」

「おかしいわけじゃないが……残りふたりはサリと一緒に行ったんだろ? なんでおまえだけ残ってるの?」

「あのふたりはあのふたりだよ。ボクは任地に行く途中だからね。そっちを優先したの」

「任地って?」

「ヴァントフォルンの北の開拓村」

「……それは、最果てとか言いませんか」

「まさかぁ。東にはもっとすごいところ、いっぱいあるよ。半日歩かないと人が住んでいるところにたどり着かない神殿とか」

「いや、そんなのと比較されても……」

 まあ、左遷なんてそんなもんか。

 と、ふらふらしながらセンエイがやってきた。

「いいなー。その剣、いいなー」

「うるさいヤツだな。なにが言いたいんだよ」

「サリに『私だと思って持っていて(はあと)』とか言われるなんて……むきー! 憎い、憎いぞライくん!」

「だああ、暴れるなばかたれっ」

「ていうか、そんなこと言ってましたっけ……?」

「言っていた。ああ言っていたともさキスイくん。まわりには聞こえていなかったようだが私は聞きもらさんぞ!」

「幻聴だろ」

「うるさい。私が聞こえたって言ったら聞こえた! 聞こえたんだもん!」

「おー! きこえたんだもんっ」

「きこえたんですっ」

「まるまる~♪」

 あたりの連中が盛り上がる。盛り上がり過ぎて俺はついていけねぇ。

「ったくしょうがねえヤツだな。……ほれ」

 ぽい、と剣をセンエイに渡す。

 センエイは目を細めて、

「……おい。どういうつもりだ?」

「どうせヴァントフォルンあたりまでは一緒に行くんだろ。それまで預かってろ」

「む。まあいいだろう。もともとサリの錬成術には興味があったし、調べるにはいい機会だ」

「断っておくが、ちゃんと返せよ? 幻覚とすり替えたりしたら、後でサリが激怒するからな」

「ばばばばばかなことを言うなよライくん。わわ、私がそんなことを考えるとお、思うのかい?」

「……ホントに考えてたのかよ、おい」

「ちょっとな」

「ちょっとな、じゃねえよ……」

 他愛もない話をしながら、上を仰ぐ。

 天気は快晴。旅立ちの日としては上出来だ。

(ま、あいつなら大丈夫だろ。そのうち普通に生きていけるようになるさ)

 だから、いまはお別れを。

 次に会う日には、お互い胸を張って会えますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ