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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二日目:悪党、宝探しをする
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二日目(9):悪党、がいこつと戦う

「なんであたしのつくった橋を渡ってくれないのよっ。魔法の使い損じゃないっ」

「やかましい。あんな心臓に悪そうな橋、誰が渡るかっ」

「まったくだ。だいたい、ちょっと精神が不安定だとすぐ落ちるような橋が、実用に使えるはずがなかろう」

「うー、せっかく苦労しておぼえた術なのに――」

「しっ、静かに」

 なんか、音が聞こえたような気がした。

 から……

(骨――か? 風で飛ばされた音、とか?)

 ともかく、ちょっとの音だけでは状況を判別しようもない。俺は耳を澄まして、

「ちょっとライ、なに勝手にひとりの世界に浸ってんのよっ。だいたいなんであたしが――」

「だーっ、いいからちょっと静かにしてろっ!」

「おい! なにか来るぞ!」

 からからからころからころ――

 音を立てながら、それらは俺たちの前に姿を現した。

「げ!?」

 それは、骨だった。

 人間のもあれば、そうでないのもある。ともかく、なんらかの生物の骨であることはまちがいない。

 それらが、からころと音を立てながら、こちらに向かって動いて来ていた。

「な、なんだありゃ!? さっきの広間の骸骨なのか!?」

「ゼンマイドクロ! 魔物だよっ」

「おお、神よ! 我々を守りたまえ!」

「っておいこらおっさん、いきなり神頼みに逃げてるんじゃねー!」

「やかましい! 私はただの神官補だ! 神官補に神頼み以外のなにができる!?」

「威張って言うことかよ!?」

「く、来るよ! あー、も、もうだめだぁっ」

「こらマイマイ、てめーもさっさとあきらめてんじゃねーよ! 魔人だろ!?」

「だ、だって、あたし戦闘はからっきしだし……」

 泣きそうな顔で、マイマイ。

 ……要するに。

(この場にいる人間で戦力として数えられるのは――俺だけ?)

 考える間にも、なんとかドクロとやらはどんどん間合いを詰めてきつつある。

 迷っている時間はなさそうだった。

「ええい、わかったよ! 俺が戦えばいいんだろーが!?」

 叫びながら、俺は剣を抜き放った。

 剣から、ばしゅうううっ、とすごい光が吹き出す。

 それを見て取った(目はないけど)ドクロたちは、近づいてくる足を止め、威嚇するように歯をかちかちかちと鳴らし始めた。

「へっ……見かけ倒しの骸骨野郎どもがっ」

 一歩、じゃりっ、と踏み出す。

 ドクロたちが気圧されたように一歩、退いた。

 俺は、剣をシンに教えてもらった型に構えると、

「かかって来い、この化け物ども! 強きをくじき弱きを助ける世紀の大悪党、ライナー・クラックフィールド様が相手――」

 ぐきょめりぃっ!

 致命的な痛みが、全身に走った。

(あ、あれ?)

 すっかり忘れていたが、昼間は思いっきりハードトレーニングだったわけで。

 つまり、筋肉痛で全身激痛なわけで。

 というか、剣を振るのも一苦労って感じなわけで。

(や、やばっ……)

 後悔するが、すでに遅かった。

『かちかちかちかちかちかちかちかちかち』

 おたけびだかなんだかわからない音を立てながら、ドクロたちが襲い掛かってくる。

「え、ええい、こうなりゃヤケだ! やってやるぜ、こんちくしょおおおおおおおぉぉぉぉっ!」

 全身を走る激痛に歯を食いしばって耐えながら、俺は骸骨の群れに突進していった。



-------------------------



「てぃりゃああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

『かちかちちかちちちかちかちかかち』

 ちゃかちゃか、ちゃんちゃん。

 競り合いは続く。

 どことなく動きのぎこちない小僧の攻撃を、骸骨たちが、これまた不気味な動きでよけたり、受けたり、飛んだり、跳ねたり。

 緊迫した戦闘――のはずなのだが、どことなく安物の喜劇をほうふつとさせる。

(ふん、大根役者だな)

「あわっ、ちょ、まっ、まてってばっ」

 足をすべらせて転んだ小僧が、骸骨たちの袋だたきの輪からかろうじて転がり出てくる。

 思わず手を叩こうとして、サフィートはかろうじて思いとどまった。ここは劇場ではない。

(これで私が当事者でなければ、よい娯楽だと達観していられるのだがな――ふん、面白くもない)

 騒ぎの元凶の娘を見る。

 彼女はサフィートの様子など気にとめることもなく、戦いの様子に見入っていた。

「あの小僧、見た目はヘタレだが意外とまともに戦えるものだな」

 とりあえず、軽く話を振ってみる。

「……カッコイイ……」

 うっとりした表情で、娘は言った。

(……………………。

 聞かなかったことにしよう)

 最近の若い娘の感性にはついていけん、などと、ベタな感想を思いつく。

 とりあえず、この状況ならばこいつらを見捨てて逃げる必要はなさそうだ。そう判断し、サフィートは地面に座って観戦モードに入った。



-------------------------



「も、燃えた……燃え尽きたぜ……へへっ」

 ばったり。

 すべてのガイコツを壊し尽くし、俺はその場に倒れこんだ。

「ライ兄ちゃんっ」

 ぱたぱたぱたっ。

「と、とどめをさしにきたのか~?」

「そ、そんなわけないでしょっ。だいじょーぶ?」

「だ、だめだって言ったら埋める気か~?」

「だ、だからそんなことするわけないってばぁ!」

「うう、ちくしょう……もう、反撃するだけの力が残ってない……す、好きにしやがれ、このやろうっ」

「んもう、ひとぎきのわるいことばかり言わないでよっ。

 それより、ホントにだいじょーぶなの? ケガとかしなかった?」

「…………」

 ええっと……

「こいつ、マイマイの偽者か?」

「だからなんでそうなるのよっ。もう、ライ兄ちゃんなんて知らないっ」

「いや、だってそもそも、おまえ『ライ兄ちゃん』なんて呼び方しなかったはずだろ」

「この呼びかた、きらい?」

「……まあ、べつにいいけど」

 態度がいきなり変わったのは気持ち悪いが、なにか企んでるわけではなさそうだ。

「それで、ほんとにだいじょーぶ?」

「あ、ああ――まあ、なんとかな」

 ぎしぎしときしむ異様な感覚をむりやり無視して、俺は立ち上がった。

(ぐああっ、やっぱり痛いっ)

 さすがに、もういちどあれと戦えと言われたら、つつしんで辞退させて頂きたい感じだった。

「よかったぁ……」

「小僧、ちょっと見せてみろ」

 サフィートはそう言って、いきなり俺の手をつかんでぶんぶんと振り回した。

「~~~~~!」

「やはりな。どうりで、動きがぎこちなく見えたわけだ。筋肉痛の類か?」

 こくこくと、涙目でうなずく。

(な、なんて乱暴な奴だ……)

「ちょっとあんた! ライ兄ちゃんになにするのよ!」

「少し黙っていろ」

 言うと、彼は手のひらを俺の方に向け、

「身体を司る神ライアス・ツォイアノイの御力にて、汝が苦痛を取り除かん。――そら!」

 ぱしゅっ、という音とともに、俺の身体に不思議な光が吸い込まれていった。

秘儀(ミラクル)、か?」

「うむ。大治癒(メジャー・ヒーリング)だ。多少は動きやすくなったろう」

 言われてみれば、あいかわらず全身がちょっと痛いものの、さっきほどはひどくない。

「あんた、こーゆーことやらせるとまるで本物の神官補みたいだな」

「みたいもなにも、私は正真正銘の神官補だっ!」

 こほん、とサフィートは咳ばらいをひとつ。

「しかし……どこから湧いてきたのだ、こやつらは?」

「んとね、たぶん、さっきとおった部屋だと思うの」

「なに?」

「ゼンマイドクロって、どーくつのいりぐち近くにある特定の場所をとおったひとにおそいかかるって習性があるから。

 ほら、わたしたち、いりぐちのほうからは来なかったじゃない? だから、最初にはいったときにはうごかなかったんだよ。

 で、崖のほうにいく途中にその『特定の場所』があって、そこをとおったあたしたちにおそいかかってきたんだよ、きっと」

「待て。てことはやっぱり、入り口は崖の向こうにあるってことか?」

「たぶんね」

 マイマイはうなずく。

 つまり、あの崖を通らないと、出口にはたどり着けない、ということだった。

「やっぱり、あそこ通るしかないのか……」

「まあ、待て。ひょっとしたら、奥にもうひとつくらい出口があるかもしれん。

 それに、財宝があるとしたら、奥のほうだ。まずは奥を探索してから考えようではないか」

「財宝って……さっき、自分で『ない』って言っていたじゃん」

「夢のない若造だな。そんなことでは出世できんぞ?」

「年寄りの万年神官補に言われたくないせりふだな、おい」

「言ってくれるな、クソガキ」

「へっへっへっへっへ――」

「ふっふっふっふっふ――」

「ま、まあまあ、ふたりとも。けんかはしないで、なかよく進もうよ。ね?」

「そうです。けんかはいけないのです。平和が一番です」

「そうそう。へーわがいちばん――え?」

 声は、足元から聞こえてきていた。

「平和になれば、おいらもやられなくて済むのです。平和ばんざいっ、最高!」

「ど、どわあああああああっ!? な、なんだこいつ!?」

「こ、ご、ぐ、くるし、ど、どさくさにまぎれて首を絞めるな小僧っ!?」

 聞こえてきた雑音はとりあえず無視し、俺はそいつに向き直った。

「ええと――あの、その、なんでしょう?」

 おどおどしながら、その声の主は言った。

「おまえ、だれだ?」

「やだなあバルメイスさま、グリート777に決まってるじゃございませんか」

 グリート777、と名乗るへんなのは、そう言って深々とおじぎをした。

「え、ええと、ばるめいす? って……」

「狂える戦神、だっけ? 神さまだよね、たしか」

「そ、そうなのか? おっさん――あ」

 ぶくぶくぶくぶく。

 口から泡を吹きながら、サフィートは失神していた。

魔物解説:

『ゼンマイドクロ』

脅威度:D- レア度:E

洞窟の特定の場所を通り過ぎると起動し、攻撃を仕掛けてくる骨の怪物。

見かけはグロくて気持ち悪いが、実際にはあまり強くない。筋肉ではなく呪力でのみ動いているから、根本的に燃費が悪いのである。

召喚魔法の亜種で作ることも可能だが、多くの場合、洞窟的な場所に自然発生する。トラップのように作動するが、あくまでただの魔物である。魔人たちの間では、見習いの手頃な討伐練習の相手という扱い。

マイマイがこの魔物を倒せないのは、無機物に近い魔物のために、彼女の専門である幻術が効きにくいからである。

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