#2 依存
「先輩、聞いてくださいよ!」
「今日は何だ? またツイッターの話か?」
深夜のリビングには、スマホと新聞の話し声だけが響いていた。家主は眠りに就いている。
「違いますって。実は私、ちょっと疑問に思ってることがあるんです!」
「...お前のことだから、どうせしょうもないことだろ」
「いえいえ! 今回は違いますよ〜」
「じゃあ、どんなやつなんだ?」
スマホは少し拗ねたような声で、話し始めた。
「先輩は、『依存』ってどっち派ですか?」
「...何の話をしている?」
「ですから、どっち派かなぁと」
「...言ってる意味が分からんが」
「え、知らないんですか!?」
「知らねえよ。ちゃんと説明を頼む」
「特別ですからね?」
「...そうか」
「『依存』って、2つ読み方があるんですよ」
「え、『いぞん』だけじゃないのか?」
「私もそう思ってたんですけど、どうももう一派閥あるらしくて」
「どういう派閥なんだ?」
「...『いそん』です」
「...なるほどな」
新聞は考え込む。確かに、そうやって読むこともできるかもしれない。しかし、たかが濁点が1個取れただけでも、その違和感は隠し切れなかった。
「方言かなんかですかね?」
「さあな。まあ地域差はあると思うが」
「だとしても、ですよ? できればどっちかに統一したいのが人情じゃないですか」
「...まあ、そうか(?)」
「だから、私は思ったんです」
「まさか、強引に統一するつもりか?」
「いえいえ。国民投票を実施すべきです!」
「は?」
新聞は言葉が出なかった。たかが1個の言葉で国民投票を行うなど、どう考えても時間の無駄だろ。
「良いアイデアだと思いません?」
「...史上最もしょうもない国民投票になりそうだな」
「これで白黒はっきりすれば、国民の間での対立も緩和しますよ!」
「...はあ」
新聞の反応が微妙なのを見て、スマホはXの画面を見せた。
「と言う訳で、ツイッターで投票を作ってみました」
「...おい実行に移すのが速いな」
「選択肢は3つです。『いそん』、『いぞん』、『どうでも良いだろ』の三択!」
「明らかに増えそうな選択肢が1個あるが」
「さあ、何の話ですかねえ?」
とぼけるスマホを見て、新聞は画面を凝視する。
(...気付いてねえのか?)
(...まあ、経過観察すっか)
*
数日後。
「先輩、データが集まりました!」
「結局、どれが多かったんだ?」
「えっと、言いにくいんですけど」
「ああ」
「...『いそん』と『いぞん』、同数でした」
「そういうこともあるんだな」
「はい。でも、どっちも18票だったんで...」
「まあ、それはどうとも言えないな。母数が少なすぎる」
「で、ちなみになんですけど」
「ああ」
「『どうでも良いだろ』が125票で、一番多かったんですよ」
「...だろうな」
「先輩、知ってたんですか?」
「まあ、薄々そうなるだろうなとは思ってたよ」
「知ってたんなら、教えてくださいよ〜」
「別に良いだろ。夢を壊さなくても」
「先輩」
「何だ」
「やっぱり先輩、優しいですね!」
「...そうか」
新聞は少しだけ照れながら、スマホの言葉を聞いていた。




