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エピソード:交差する姉妹の邂逅

「お母様〜」

「あら、どうしたのロザリー」


 賑わいの絶えない王都の郊外の一角で、評判の良い商店がある。

 商店の一人娘として生まれたロザリーは、母から琥珀色の瞳を受け継いだ。艶やかな直線の黒髪を伸ばし、すくすくと成長していくにつれてロザリーは子ども心に、父には別の家庭があるのだと薄々気づいていた。

 九歳を迎えてから半年経った頃だろうか。


「待たせたね。これからは一緒に暮らせるよ」


 父に連れられ、ロザリーは母と初めて公爵家に入った。そこで、出迎えてくれたのは歓迎しない雰囲気の人々だった。

 後方をエプロン姿のメイド、執事服の男性が何人か控えて、真正面にはロザリーと歳の変わらない少年と少女が立つ。


 最初の印象からもう最悪だった。

 黒に近い焦茶の髪を整えた父は、明るい灰色の瞳をロザリーに優しく向けている。

 その様子を兄が見守り、姉はしかめ面を隠さなかった。


「アルベリック、アデライード。この方が新しくお前たちの母となるエレノアだ。その隣にいるのは我が娘であり、お前たちの妹のロザリンドだ。年はアデライードと同じになる。二人とも挨拶しなさい」

「はじめまして、アルベリック・ヴァロワールです。ロザリー、よろしくね」

「はじめまして、お兄様。ロザリンドです。お兄様ができるなんて嬉しいわ、ロザリーって呼んでくれる?」

「もちろんだよ、ロザリー」


 恭しくロザリーは膝を軽く曲げ、スカートの裾を摘んで軽くお辞儀して微笑んだ。

 不意に一歩前を進んだのは、姉のアデライードだ。

 同じ黒髪の、腰にかけて緩やかにウェーブを描くラインが美しい。隣に立つ兄と同じ、人形のような美しい青灰色の瞳は憎しみが籠っている。


「私はあなたたちを認めないからね! こんなちんちくりん!」


 一瞬、勢いに驚いたロザリーは次の瞬間、小馬鹿にした様な、それでも天使と思わせるような笑みを大きく浮かべた。父が何か口を開く前に、ロザリーは有無を言わさずアデライードの黒髪を力強く掴む。


「わたしだって、こんな可愛くないのがお姉様だなんて嫌に決まってるじゃない」

「なんですって!? 調子に乗ってるのも今のうちよ!」

「痛いわ、わたしのきれいな髪を引っ張らないでくださらない? こんなのが姉だなんて」

「こっちのセリフよ!」


 一触即発ならぬ、瞬発的に髪の引っ張り合いが始まり、アルベリックが止めようにも間に入る隙すらない。

出迎えをした後方のメイドや執事はお互いに顔を見合わせた。

(ーーもしかして、この姉妹は最悪なのでは)


 予想がある程度ついていた父はため息をつき、メイドに姉妹を引き離すように命令をかけた。

 にこにこ顔で一切口を出さないエレノアが、腕に抱きついてきたロザリーの艶やかな黒髪を撫でる。


「お姉様きらぁい!」

「よしよし、かわいいロザリー。大丈夫よ、私と旦那様がついていますからね」

「そうだよ、ロザリー。これからは無理のない範囲でヴァロアール家に相応しい令嬢教育もしよう。愛らしい令嬢になれるよ」


 メイドに宥められ、抑えきれずに地団駄を踏んでいるアデライードをチラ見する。

(ーーあんな姉に、負けたくないわ)


「ありがとう、お父様もお母様もだいすき!」

はじめまして。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

交差する二人の姉妹が、これからどんな道を歩んでいくのか。

その行く末を、楽しみながら見守っていただけましたら嬉しいです。

どうぞ最後までお付き合いください。

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